37話 中二病の衝突とドラゴンロック
薄暗い会場に雰囲気の出るBGM
その音楽が鳴り止むタイミングで ステージの上にはドリアードが現れた
『この度ドヴェルグ学園の学園祭にお越し頂きありがとうございます
これから見せるは楽しい曲の演目 各小国の王子達と学園代表の歌姫
皆さまを思う存分楽しませるショーの開演です!!』
観客の温かい拍手と歓声の中 第一陣を飾るのは
『ではさっそくこの方から!! 南の小国サウスラルよりお越し頂きました
イカロス族の王子!! スザク様でぇす!!!!』
照明に誘導されるように現れる鳥頭のスザク
先程からクチバシをパクパクさせてる彼の表情で 裏で見守る全員が思った
ーー大丈夫か?
マイクが立ってる真ん中で正面を向くスザクの表情は勇ましい
だが近くで見てて分かる 汗だくやんと
『……』
沈黙の空気に客は敏感だ
ざわつき始める場の雰囲気に早くもピンチを迎える
ドリアードは敵わずツバメに相談する
「どうします?」
「まず王子達が参加するってこと事態に驚いているのにさ……
こんなときコンちゃんなら……」
腕を組んで必死に考えるツバメだったが頭が真っ白だった
そんなとき ツバメを横切って段に立とうとする勇者がいた
『国の代表??
それまるで意表を突かれて固まるハトの如くか♪ どうすんのこの空気セイ♪』
『っ……』
チワワだった
『豆でも食ったか小鳥ちゃんYO♪
儀式だマナーだ否定しといて♪ いざとなったらこの様か?!
イキり散らしてお高いことで♪ 言うことねぇなら巣にでも帰りな♪』
『……しゃしゃり出てきて良い気なもんだな♪
英傑の腕章? それがなんだ私と対等? 身の程知らずかそれ上等♪』
スザクもマイクを手に取りラップバトルが繰り広げられた
ーー上手いかどうか知らないけど とりあえずチワワナイス!!
『下手にノッても恥掻くだけだぞ♪ それよか澄まして黙ろか中二♪
箔が付くか? 誤解されるか?? イケメン万歳ポーカーフェイス♪』
『それブーメラン? まさか自分語り?
イケメンノー!! 元よりトリ面♪ 誇り高き戦士の代表♪
フェイスに差別だ♪ 論点そこじゃねヒャウィゴ!!』
『それはソーリーまさかのコンプレックス??
克服♪ 征服♪ 学校は制服で統一? 大事なのはソウル!!』
『『 ………… 』』
最後は二人で握手 何故か会場は盛り上がった
ツバメとドリアードはあんぐり口を開けて二人が帰ってくる姿をただただ唖然
「チワワってラップバトルに興味あったの?」
「動画は見てた…… けどやったのは初めて 上手だった?」
「うーん…… 上手さの基準がわからないかな~ でも大成功!! ナイスアシスト!!」
ツバメの親指に対してチワワも親指を立てる
ハッと気付いたドリアードは慌てて段の上に登った
『ありがとうございましたぁ!! では次に東の小国イストラルよりお越し頂いた
ドラゴン族の王子!! セイザン様でぇす!!!』
次もいろんな意味で目が離せないツバメ
それを横切るセイザンの姿に 目を離すどころか三度見してしまう
「あの格好は何だ?」
「セイザン様…… とてもお綺麗です」
観客のざわつきの答えはセイザンの着物姿だった
『えぇ…… 俺はとある国の〝ロック〟というものを歌いたいと思う
曲名は…… えーと…… 〝ジャンクロード〟 ……俺が作ってきた 聴いてくれ』
ーーまさか…… J-POP?!!
『汗臭さに染みつく噴煙♪ 偉大な山は鱗を穢し♪
子供だった私を早々に嫌っていた~♪』
ーー少なくとも今風じゃ無い…… コンちゃんが関わってるのかな……
『幼気な私に優しかったのは母だけさ♪
共に暮らすなんざ無理さ♪ 相手は構いなし~♪
話せば解り合える♪ そんな暇があるならダチは死んでねぇ♪
だけど流れた血を量ってたら~♪ アイツとの日々は故郷と共に無くなっちまうのさ~♪
帰りの肉屋に立ち寄るのが好きで♪ それが思い出だから♪
俺は口もきけねぇ火山を許したのさ~♪
ガラクタさ~♪ 何年経ってもガラクタさ~♪ 愛する故郷のガラクタさ~♪
それでも私は~♪ お前から見たガラクタでゴミクズは~♪ 勇ましく生きてやる~♪』
漢らしい歌声は熱狂的 しかし どこか悲しげなリリック
ツバメの心は既に何かに掴まれていた
「思ったより良い曲ね…… スマホに入れて聴きたい」
「そうね……」
「「「「「 せいやぁ!! そいやぁ!! セイザン!!!! 」」」」」
王子の配下達の愛の手は過激で せっかくの感動が引っ込んでしまう
盛り上がってるからいいやと 温かく見守るツバメ達であった
「そういえばチワワ コンちゃんから頼まれていたことは?」
「問題ないわ 強力な助っ人を何名か見つけて送り込んだから
ここは大丈夫そうだから厨房を覗いて来てみたら? きっと驚くわよ」
「??」
お言葉に甘えて持ち場を離れ ツバメはこっそり厨房を覗いてみた
コンが一人二人三人四人五人六人
「多くない!!?」
「おぉツバメ!! 私に会いに来てくれたんでゲルか?!」
「コンちゃん?」
「あぁ私はこっちだよ?」
全く見分けが付かないコンが十人以上
「コンちゃんのチートスキルってもしかして〝影分身の術〟?」
「さっきツバメも説明聞いてたでしょ?
ジェルドワーフ族の何名かが応援に来てくれたんだよ」
「あぁ…… チワワが言ってたのこれか……
コンちゃんはドッペルゲンガーが何人もいるみたいで気持ち悪くならないの?」
「そんな暇ないよ さぁツバメも手伝って!!」
しぶしぶツバメも野菜切りに戻る
さりげなく背中を触って来たコンはツバメを見つめて口説いてきた
「疲れてたらいつでも休むでゲルよ ……というよりもこれが
夫婦共同で料理をする〝おうちデート〟ってやつでゲルか?」
「……コンちゃんはゲルとか言わない さっさと手を動かしてコンニャク娘」




