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34話 励まして励まされ


「皆はどうしたの?」


「ウホマンドは怯えるハーフルを慰めているわ

団長とマミーにあなた達の様子を見に行けと言われて

そしてコニャック様もまた 部屋で怯えています」


「アハハハ…… 全員にトラウマ植え付けちゃったねコンちゃんは!!」


イビキに本腰入れるコンを見つめる二人とは別に

日本の夜空に感銘を抱くドリアードの目は輝いていた


「こちらの世界も負けてはいないですが ツバメ様達の世界の空も美しいですね」


「日本は世界で一番美しい空を持っているって言われているからね

朝晩があって春夏秋冬があって 山ひとつ隔てた複雑な地形があって

その中でいろんな空を見せてくれるのが日本らしいよ

冬の都会に青空が広がっていても 新幹線を一時間走らせたら雪景色が広がってるなんて

日本でしか味わえないからね」


「日本の空ほど面白い空はなーい!! ムニャムニャ……」


コンが寝言を言う度 三人は大爆笑


「そろそろリビングに戻ろっか

せっかくコボルトさんやマミーさんが料理作ってくれたのに勿体ないし」


「そうね」


三人が部屋から出ようとしたとき

コンの奇妙な寝言がツバメの脳裏で理解されるように変換された


〝 ほんの少しずつでも皆で助け合えば困った人を救ってあげることができるよ 〟


「え?」


「学祭準備のときに言った〝ロシア語〟ね」


全然ピンと来ない言語が一瞬で翻訳される不思議な体験にツバメは呆気にとられている


「意味を理解できたのツバメ?」


「……うん」


「そう…… ちなみに私からも

Дальше с глаз - ближе к сердцу」


「えっ?」


「意味は〝離ればなれになってしまった相手は一層慕わしく感じる〟よ」


チワワは口角だけを緩やかに上げて

そのままリビングへと帰って行った


ーー……これが世界樹の奇跡ってやつ?


なんとも言えなくて 異世界のご都合で誤魔化すツバメは心が楽だった

二人のセリフに思うところが無いわけではなかったから

それが分かった上で勇気づけられたからだ


リビングではガクブルのハーフルを始め

全員が席についてご飯を食べていた


「ねぇチワワ……」


「禁酒はしないわよ ……少なくともこの世界にいるまでは」


「いやして欲しいけど そんなことじゃなくて…… ありがとね」


「…………お礼を言われるようなことはまだしてない」


「してるよ」


「してない」


「我が強い所だけはコンちゃんに似てるよね」


「それはツバメも同じ だから私達は引かれ合ったと思ってる」


優先的に鶏肉の唐揚げを頬張るチワワは 照れ隠しにも似た暴食でツバメと目を合わせない


「そういえばハーフルちゃんは歌の方どうなの?」


「うぅっ!!!!」


咳き込みするハーフルはさらに姿勢が縮こまる


「今はそのことに触れてやらないでくれ

本番が明日と言うことで既にアガりまくってるんだ

しっかりと一通り歌えるようには仕上がっているから あとは配慮を頼む」


「わかった…… 転ぶとか落ちるとか受験生に言っちゃいけないあの感じね!!」



「一応私達もその受験生だけどね」



皿洗いの当番はコボルトとコニャックの筈だったが

代わりにチワワとドリアードがやってくれた

ハーフルは一足先に就寝に入る為 ウホマンドを連れて部屋に戻った

リビングで明日の段取りをまとめたスケジュールを見ているツバメに

対面に座るマミーが笑みを見せてくる


「マミーさんもお休みになられたら?」


「いえ…… 少しツバメ様とお話をしてもよろしいですか?」


「はいはい何でしょう?」


マミーの頼まれごとにすっかり断る事の概念を失ったツバメは

スケジュールを畳んで対話の姿勢に戻す


「最近は好き嫌いとか無いですか?」


「無い……ですね 来たばっかりはそりゃぁ偏食の嵐でしたけど

コボルトさんやマミーさんのお料理は食べてて飽きないですよホント」


「そう…… 良かった」


「あとは…… なんだか懐かしい味がします」


「っ……」


「変ですよね…… 昔に一度 この世界に来たみたいな口振りになるんですけど

そんなことは記憶にも無いんですよ

なのに…… 何なんでしょうね この寮に長居し過ぎたのかな?」


鷹揚として根拠のない返答

どこから出てくる自分の感想に 混乱しながらマミーとの視点をズラしていくツバメ

それとは反対に大粒の涙すら流すマミーの顔に彼女は慌てて慰めに入る


「ちょっ!! 何でマミーさんはそう泣くんですか?」


「何ででしょうね…… ホント何ででしょうね……」


「……ご飯美味しいですよ 本音なんですから」


「うんうん…… ありがとう」


その後次々と就寝に入る中

ツバメは風呂から上がって髪を乾かしていると

窓の外の厩舎に コボルトが馬の世話をしている姿を目にした


「お疲れ様です コボルトさん」


「おや? ツバメ様は夜更かしですか?

風邪を引きますし 美容と健康にも良くないですよ」


「ちょっとだけ覗いてみただけ すぐに寮へ戻りますよ」


「いよいよ明日ですね…… 私も騎士団団長としてもありますが

一人の客として楽しませて頂きたいと思います」


「メインはハーフルちゃんの歌かぁ~~ 大舞台で友人が輝く姿は楽しみだな~~」


「……今言うのもなんですが

あなた方をこちらの世界に招いたことに負い目を感じてました」


「アハハハ!! ホントいい迷惑だよ んでその負い目の理由は?」


「勿論 あなた方の人生を左右するかもしれないという点ですね

コニャック様との時間を共に過ごして頂く為とはいえ

ツバメ様自身が嫌になったら すぐにでも元の生活に戻す考えでした」


「こっちに来て秒で拒否反応を出してたと思いますけどね」


「だけどこの国の事情まで足を踏み込ませてしまった これが一番の負い目です」


「……別に

私にとっては一度は逃すであろう 高校の学祭の代わりになるからお礼を言いますよ」


「そう言って頂けるならこのコボルト もはや死んでもいいです」


「やめてよ! そういう騎士道みたいなの 寒いわ~~」


「お身体を冷やされましたか!!? さぁ早く寮の中へ!!」


「そういう意味じゃないですぅ!!」


明日はいよいよドヴェルグ学園第13回目の学祭が行われる

激動と波乱を呼ぶ普通じゃない〝祭り〟がツバメ達を襲うことなど彼女らはまだ知らない

今はまだ安息のワイフガーデン

危惧すべき事を片隅に置きつつも 楽しむことを全面的に

ワクワクドキドキの夜明けは駆け足だった



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