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31話 ショージ・ピグミスの正体


尋問は続けられた

ツバメの声も虚しく むしろツバメ自身に皮肉が被さるような

これまで無かったチワワを豹変とまで言ってもいい そんな すれ違いの体験


「さてと…… では再開しましょうか」


「……〝ミルグラム実験〟の結果は真実だったな」


「…………」


チワワは思考を停止した

自分達の世界でも知ってる人がいるかどうかのワードが出てきたのだから


「あなた…… 誰?」


「聞きたいことがまだあるんじゃねぇのか?」


「今聞きたいことは〝あなたは誰?〟 さぁ答えて」


「次は300ボルトか? それとも400ボルトまで引き上げるか?

どちらにせよ俺はもう口を開く気は無い 殺せよ」


先ほどとは明らかに態度が一変した

恐怖を煽って得られていた支配環境の実感を チワワ側が取り乱されたのだ


ーー休憩の時間を設けさせてしまったのが徒となってしまったわね

ただ何も考えずに 世の中を退屈に過ごしている普通のチンピラとは何か違う

死ぬという選択に躊躇いの無い人間は〝虚無〟か〝覚悟〟の大きく二択

彼は…… おそらく〝虚無〟 故に揺さぶりようのない〝覚悟〟の壁

だがこんなタイプの人間が 何十人の先頭に立つリーダーになり得る器ではない筈だ

理由は簡単

カリスマ性をいつ失うか危ういリーダーに付いていく人間は必ず不安に逆らえない

しかし彼は皆を率いていた しかし今は 全てを投げやりに死のうとしている

これは無視していい矛盾ではない


閉鎖空間で主導権を握られる失態だけは避けるべく

チワワはとりあえず質問を続けようとする


「とりあえずゲンブラーの事だけど……

まさかこの国で戦争を引き起こすなんて考えはしてなかってでしょうね?」


「あいつの事なら いくらでも話してやるよ

……と言いたいところだが 会ったのはたったの一回 それも一方的に依頼されただけ

俺達のようなゴミクズと親睦深めようなんざ これっぽっちも思ってなかっただろうな」


「じゃぁ……」


「無理すんな魔法使い

そろそろ俺を牢にぶち込む兵士がやってくるんだろ?

所詮はトカゲの尻尾だ 納得のいく情報が手に入らねぇと思ったのは予想の範囲だろ?」


「くっ……」


扉のノック音と共にツバメが入って来る


「チワワ…… 地上にコボルトさんが待ってるよ

ショージを引き取りに来たみたい」


「……団長がお出ましじゃぁ 私はもう好き勝手出来ないわね」


チワワがショージの両手以外の拘束を解いて 立ち上がらせようとしたその時

室内に響き渡る汚い笑い声が辺りに響いた


「フヘヘハハハハハハハハハァ~~ あぁ~……結構楽しかったんだけどな~~」


「更生出来れば また太陽の下で生活できるわよ」


「いいや…… 無理だね!!」


後悔を吐き散らしながら連れ出されるショージは 扉の前にいたツバメと目が合う


「どうだったぁ? 俺の〝演技〟はよ?」


「……どういうこと?」


笑い疲れた囚われの身は 冷静になったかと思えば澄んだ目で二人を真っ直ぐ見る


「〝あっちの世界〟からやってきた奴がお前らだけだと思うなよ」


「「 !!!? 」」


「前世で日の目を浴びねぇ役者業をしていた俺だから分かるんだ

……ここは楽園だった 賢い奴もいねぇから下手な劣等感を味わわずに済むし

倫理も法律もまとまってなければ 自己満足の正義で好き勝手できる

そんな自分ファーストな人間が この世界を見つければどうすると思う?」


「どうって……」


「自分の国を作る 悪い奴は殺す 他人を思い通りに出来る

もしかしたら俺達RSTの親玉は案外……

世の中に不満を抱いていた引きこもりのニートだったりしてな」


「……何も知らないなら口を閉じなさい」


異世界人ジンロウは既に潜伏している お前達に見つけられるかな?」


「黙って……」


気絶するほどの電気を浴びせたチワワは ショージを担いで地上へと登った


外ではコボルトが複数の兵を引き連れだって

ノームと共にショージを連行する準備を整えていた


「彼が例のRSTのリーダー ショージ・ピグミスです」


「お疲れ様サンダーライガー 遅れてしまいまして申し訳ありませんツバメ様」



「いえ…… チワワがいたから大丈夫でした」



身柄を受け取った兵達はすぐに王宮へと帰還する

コボルトも挨拶を終えるなり すぐにその場から馬を走らせた


一件落着に安堵する二人の前に 診療所から鞄を持ったノームが


「ノームさんもどこかへ?」


「あ…… あぁ 王宮への用事を思い出しだもんでな

ついでだから彼等に付いて行くんじゃぜ」


薄く濁ったノームの悲しげな眼はチワワに向いている


「魔法使いさんや…… あまり過激にならんようにな まだ若いんじゃから」


「…………参考までに」


診療所の鍵は閉められ

辺りに二人だけの 静かで殺風景な裏町にツバメは寂しさを感じていた

とてもやりっきったとは思えそうにない一日だと心に寒気が走る


「まだ夕方だし 放課後の学祭の準備でも手伝いに行かない?」


「ツバメが行くなら私も行くわ」


商店街へと抜けて階段を目指すツバメとチワワ

何故か話しかけるのに息が詰まるツバメは会話を切り出せない


「ねぇツバメ…… 怖かった?」


「え?」


隣を歩いて初めてチワワの顔を見れた

相変わらずの無表情だったが何処か彼女の感情を読み取れる

そんな気がした


「あんなことするの…… 本当は初めてだったの」


「……」


「もちろん学校の授業でなんか教わらない ネットや動画を見て覚えたことだから

それでも彼を拷問しているとき これが正しいことだと思い込んでた」


「チワワ……」


顔には出ない性格

しかし チワワは泣いていた


「ショージ・ピグミスも感じ取ってた 自己満足の正義を振りまく人間って私だったのかな?

……間違ってたら人を殺そうとしてたんだよね? 私も悪い人間だよね」


戸惑いの無い正義執行は ツバメから見えてたチワワに当て嵌まる

人は平気で人を殺す 交流が無ければ家畜との価値観は大して変わらないのかもしれない

非情になることの意味を知る者と 気にしない者の間でも

区別が付けられるものなのだろうか そんなことはツバメに分かる筈もない


そんなツバメが取った行動はただただ

目の前で自らの行いを悔いる友を 抱きしめるのが精一杯だった



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