29話 悪ガキを捕獲せよ
次の朝
洗面台で顔を洗おうとするコンはコボルトと鉢合わせた
「おはよう!! コボルトさん!!」
「朝から元気ですねコンさん 私も元気が出ますよ」
「あり? 元気なかったんですか?」
「弱音を吐いてしまいますが……
コニャック様が国の為に動くということは 我々近衛騎士団も動くということです
勿論 活動する事は褒められることなのですが はっきり言えば生死が関わる作業ですのでね
仕事モードに入れば 滲み出る緊迫感はあなた方にも伝わってしまうかもしれない」
「そういうものじゃないんですか? 戦うことって?」
「えぇ……
人も獣も殺めて来た私が本来 この賑やかな空間に居てはいけないと分かるんです
楽しく過ごされているあなた方に水を差すようでね……」
「そんなこと無いですよ!! 国の為に悪い奴等から守っているコボルトさんはかっこいいです!!」
「ハハハ…… 遠い昔 あなたの様な志を抱いた感じがします 元気が出ました」
「……」
コボルトはタオルで顔を拭い 洗面所を後にしようとすると 背後から勢いよく手を握られた
「あの…… コボルトさん!!」
「どうされましたコンさん?」
「その…… あ!! そういえば借りてた腕章を返してなかったな~~って」
必死に話題を作ったコン
聞きたかったのは違う事だったが 手を握った感触で何か確信を抱く
「そういえば貸したままでしたね 任務から外れていると忘れがちで」
「あのコボルトさん……
〝土反場竜爪馬〟をご存じですか?」
「……申し訳ありませんがそのような名前は存じ上げませんね
名前からすると あちらの世界のお人ですか?」
「……いえ 何でもありません」
コンは顔も洗わずにその場から出て行った
廊下を歩く赤面のコンは コボルトの手を握った手を見つめる
ーー何聞いてんだろう…… 私
コボルトさんがツバメのお兄さんだなんて何を根拠に
歩を進める程 自分が取った言動の不条理を許せなくなり
「あぁ~~!!!! 私ともあろう人格者がこんな論外な行動に出るなんて~~!!!!」
コンの雄叫びは毎度寝坊するコニャックをも叩き起こし
稀に見ぬ朝食を全員で済ます 清々しい朝となった
出発の時間
制服を着ないツバメはコン達を見送る側に付いた
その隣には同じく制服を着ない幼女もいる
「ほら!! さっさと着替えなさいコンニャク娘!!」
「ツバメがいない学園なんてやっぱり嫌でゲル~~!!」
ーー昨晩に見せた風格は何だったのやら…… まぁ普段の私生活くらいはいいか
ここぞという時に頑張って貰うよう 願掛けしながら制服を着させるツバメ
それでも暴れるコニャックに説得を試みるのはチワワだった
「お気持ちは重々ご理解できます!! コニャック様!!」
「ゲル?!!!」
「私も大事な人がある日クラスから消えたら悲しいです
ですが今 私達は密接になっている場合ではありません
救う対象が果てしなく広大である中…… 苦渋の決断をお願いします」
「……わかったでゲル」
コニャックの両手を握りしめるチワワの顔つきがその場凌ぎではないことに
ツバメとコンはどこか思い詰めていた
コンはツバメ達に〝そっちは任せたよ〟と言い残して馬車へと乗り込む
「皆様を学園へお送り次第 私も合流します」
コボルトはそう言って馬を走らせた
「じゃぁ行こうかチワワ!!」
「そうね ……コニャック様の為にもツバメを守り抜くわ」
「えらくコニャックに従順になっちゃったね チワワは」
「これでも近衛騎士団の二番手(自称)ですから」
目的が見えてこない無表情の友人に深く介入せず
ツバメはいつものように振り回されることを望む
故にただただ相手を信じて笑った
ツバメとチワワの行動は次のようになる
・RSTの性格なアジトを見つける
・殴り込みして出来ればショージを捕獲
・情報を聞き出す
・説得し 叶うことなら解散させる
・もしもの場合は城の牢屋にブチ込む
弾圧は不可能でも
学祭を成功させる上でのベストを尽くすのが最優先と考える二人は
さっそくウィアレス地区の裏町へと出向く
日の当たらない場所はいつにも増して薄暗く
暗闇の向こうには 必ず誰かがいますよと言わんばかりの殺気に満ちていた
それはツバメとチワワが足を踏み入れてから漂うものなのか
それとも普段からなのかはもちろん 二人には知る由もない
「じゃぁツバメ よろしく頼むわ」
「実際にやるのは初めてだから 成功するかはわからないけどね」
ツバメがやろうとしている事は お馴染みチートスキル〝万物の声〟
全ての物と共生する力は言うまでもなく 大自然からの協力を得ると言ってもいい
つまり特定の場所をお願いすれば 内状を検索できるのではないかとツバメは考えていた
「ヘイ皆!! ショージ達のアジトを教えて!!」
「スマホみたいね」
ツバメの手と地面が呼応して光り出し
彼女の脳内には まるで空を飛んでいるかのような王国の地形が映し出された
徐々に拡大されて その中のウィアレス地区に刺される赤い点滅が特定場所なのだろう
「成功!! 行きましょ」
「この世界ならキッカケ次第で通信システム第五世代も余裕で実現するわね」
「それ知ってる!! 10年後20年後にはスマホいらなくなるってことでしょ?!
この世界に来てから一切使ってないから日本の未来も今みたいな感じになるのかな~?」
「意思を持つ大自然の知能と便利な人工知能には差があるから
ここで人類の科学による大きな努力と進歩が実感させられるわね」
移動中の少しの時間も会話で潰せる二人
久しぶりに出会った筈なのにと ツバメは内心驚いていた
「ここかぁ…… 案外さぁ…… この国の闇は深そうだね」
「えぇ…… とても見つかりやすい場所
なのにこの場所を発見したという報告は全く無かったわ」
そこはライブトゥギャザー王国を囲う壁の一枚が
窓あり ドアあり 人工的に立派な塒が構えていた
周りの建物によって日差しが遮られ 隠れ家として打ってつけの場所
「こ~~れをどう見ますかチワワさん?」
「簡単なことよ ショージなどの子供達を裏で操る大人は
庶民の間に留まらず 王族や貴族の中に存在してもおかしくないってこと
城内にスパイも潜伏しているという 信じたくない予想も現実になるかもね」
「つまり…… この場所は〝隠蔽〟によって発見されなかった場所と証明できるわけね」
「この国の兵も当たり前だけど壁外を巡回する
壁の中を満遍なくマイホームと造り替えているのなら当然 騒がしい声が聞こえる筈だから」
物陰に隠れる二人は 目に見える範囲で人の出入りを張っていたが
まるで無人のように外出する者はいない
痺れを切らすチワワは堂々と前に出る事にした
「下がっててツバメ」
「??」
チワワは杖を取り出し ウォールハウスへと杖先を向けた
ーーまさか……




