26話 この国の真実
ーー冷めた目で強烈キャラのこの子は 阿知波沙汰子
私とコンちゃんはあだ名でチワワと呼んでいる感情がラビリンスな無機質系中二病患者
確か…… 小学校までは三人一緒だったけどチワワは中学で 私立の進学校に入学したはず
「そうだコンニャク娘は?」
「こんにゃく?」
そのまま変化しない表情で首を傾げるチワワ 代わりに後ろにいた男が答えてくれた
「コニャック様はお城に向かわれたぜ」
「あの……」
「自己紹介がまだだったな…… 俺はジェームズだ
〝ジェームズ・ウォード・マッドハウス〟
後ろで寝てる奴は〝ゲンマイ〟 お前さんが食べている料理を作ったのが〝アタランテ〟だ
そして今 RSTを視察している〝エイリーク・ロジャー・カーソン〟
〝コボルト団長〟と〝サンダーライガー〟を合わせて俺達は近衛騎士団として活動している」
「すんません サンダーライガーが慣れません」
「ツバメも中二病ならすぐに馴染めるわよ」
「……うん 頑張る」
外はすっかり夜だった
制服を着直すツバメはベッドから起き上がり 部屋を出ようとすると
「行かせないわよツバメ 安静にしてて」
「大丈夫よ…… あいつを迎えに行くだけ」
「少し運動するだけでぶり返すわよ いいから大人しくしてて」
「チワワってそんな過保護だったっけ?」
「…………」
「心配してくれてありがと でも…… ほっとけないのよ
コンちゃんから頼まれたことでもあるしね」
部屋を出ようとするツバメをチワワは必死に追いかけていく
街頭の灯りがツバメを照らす路上を背に 彼女は無言で盛大にその場に横転する
「だっ…… 大丈夫チワワ?!」
「心配ないわ!」
形状記憶合金の如く元の体勢に戻るチワワは
素なのか またはツバメに心配させない為か 常に気丈に振る舞ってみせる
それとは別にチワワがコケた原因となる物体を二人が注目した
「酔っ払いかな?」
「なんかスナフキンみたいな格好…… 旅人さんかな?」
ヨレヨレでボロボロの緑色のマントに蹲る いびきから察して中年の男性
背中には何故かゴルフクラブを装備している謎のおっさんが寝ていた
「こいつは俺達に任せてツバメ様は王宮へ チワワも付いて行くんだろ?」
「〝チワワ〟って呼んで良いのはツバメとコンだけ…… 次言ったら殺すから」
杖の先端を 無表情でジェームズに向けるチワワは殺気を放っている
切り返しは早く ツバメの後を追って階段を駆け上がって行った
「クガッ!! ンクククククククぅぅ…… zzz……」
「どうするよこの中年?」
「とりあえず家に寄せよう ……うぅわ酒臭っ!!」
ドワッフル王家が住むトスカアナ丘に聳える宮殿【シャトー・ティンカージェル】の門前
「ん? コ…… コニャック様?!!」
「親父はいるでゲルか?」
「はっ…… はい!!」
大きな柵門は開かれ 堂々と敷地を歩いて行くコニャック
巨大な建物の玄関からは 情報を耳にした国王トコロが慌てて出て来ていた
「コニャック……」
「……久しぶりでゲルな」
「ご飯は食べたのでジェルか? 風呂は入ってたジェル?
まぁまぁ そんな事はどうでもよいでジェルよ まずは中に入りなさい」
「話があって来ただけでゲル 少年法の改正についてでゲル」
「……そうか 学業に復帰して何か思ったことがあったでジェルか?」
家の中に招こうとするトコロだが コニャックはその場から動かなかった
「今すぐショージ含むRSTの連中を捕まえて欲しいでゲルよ」
「……そうか イジメられたのか?」
「それもあったでゲル 友達が傷つけられた
だがそれ以前に奴等は過激さを増しているでゲル
構成員は予想の遙かを上回り このままでは内乱までに発展するかもしれないでゲル」
「……」
「子供だけであそこまで成長できる組織ではない
大人のテロリストが潜んでいるのではないでゲルか?」
「妄言混じりにも聞こえるがはっきり言おう お前の言う通りだ」
「ゲル!!?」
「RSTの事はもちろん承知しているでジェル
だがお前も言うように彼等は子供だ
一度その組織のリーダーに問い詰めても良い
きっと納得のいく答えは返ってこないジェルからの」
「……ならそいつらを操る大人達を早く掴まえて欲しいでゲルよ!!」
「それこそ本格的な内乱が起きるのでジェル
ジェルドワーフの王政に不満を抱く者が国民全体で何割いると思っておるでジェルか?」
「そんなの…… 一握りくらいでゲルよ」
トコロは首を横に振る 彼の口から放たれるは
コニャックが夕方に見た商店街での国民達から感じたイメージを 一蹴させるものだった
「4割…… いや半分と言ってもよい もしかしたら過半数かもでジェルな」
「そ…… そんな筈は……」
「ドワッフル王家とピグミス王家の因縁は今も色濃く残っておるのでジェル
当時はいざこざの末に和解へと辿り着けはした……
だが不平不満は完全に取り除かれてはいないでジェル
ここはお前も解っておるな?
その問題の数々は世代交代で襲ってくる 当事者では無いからといって無効にはならない
そんなことを言って反感を食らえば火炎瓶などが降りかかるデモが
対策を打たなければ最後には戦争が起きる」
「……!!」
「わかってくれたか娘よ
共生の国を創って保って行くことは簡単な事ではないジェル
理想を掲げる口だけの者には けして成し得ないことを我輩達は代々受け継ぎ
寿命十年という僅かな命を王という立場に捧げて来たのでジェル」
父から子へ 重大な国の全貌を聞かされた
手が震え 足もすくむ 何も出来ない自分を理解してしまったら立ち直れない
重圧が降りかかるコニャックはヤケになって
「私が…… 私がなんとかするでゲル……」
「何故そこまで……」
「学園祭が奴等にメチャクチャにされるかもしれないでゲル
商店街の人達にも危害が及ぶ可能性だって…… それにツバメにも危険が……
私の知らないところでそんなことが起こるなんて考えたくもない!!
私は国の王女として……」
「??」
コニャックはトコロの目を見るなり悟ってしまった
ーー私は…… 私は……
うつむくことに対しても 自分を許せないコニャックはトコロに背を向ける
「今日は帰るでゲル」
「待ちなさい!!」
「私が何をしようとクソ親父に止める権利はないでゲルよ!!」
足を止めないコニャックとトコロに またしても親子との距離が離れてしまう
しかしトコロはそんなことを気にも留めずに一声を投げた
「腹は減ってないのか?!!」
「……いらないでゲルよ!!!」
門兵に挨拶も無しに柵門から出て来るコニャックは立ち止まって ひたすら泣いた
自分の思い通りに出来ないことがあると知った時 ただ泣くしかないことを知った




