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24話 無冠の王女


診療所は相も変わらずだった

ノックしても返事がないので玄関前で座って待つことに


「ツバメ…… 結婚式の式場はどこがいいでゲルか?」


「あのね…… 私はあなたと結婚するなんて一度も言ってないんですけど?」


突然のコニャックの過剰な勘違いにも ツバメは息を吸うように否定するのは慣れていた


「私は国民にも愛されてるでゲル 人徳も積み重ねてるでゲルよ!!」


「ふーん……

じゃぁその愛されてるコンニャク娘さん自身は この国に何をもたらしたの?」


「え? それはぁ…… その…… ゲル……」


「そうだよね? 今まで家出してたんだもんね?」


「……」


「学校もサボって寮でゴロゴロ暇してただけでしょ?」


「うっ うるさいでゲル!! それをいうならツバメだって!!」


「っ……」


「……何でもないでゲル」


何かを言おうとしたコニャックは寸前で止めた

何も言われてない側なのにも関わらず 会話を強制的に中断してしまうツバメ

その些細な違和感を自分は どこか後ろめたさを擁護交じりに問い詰めている


「ねぇコンニャク娘…… 私を〝どこまで〟知ってるの?」


「っ……!!」


無音の状況が二人を気まずくさせた ツバメの問いには何故かコニャックもソッポを向く

そんな最中 沈黙の空気を掻き消したのは遠くより現れる多くの影達だ


「なんだよ…… 自覚あんじゃねぇか無冠の王女様」


ウニ頭のショージ・ピグミス率いるRSTの面々が二人の周りを囲う


「よう逆玉のメス猫 この前は随分とやってくれたじゃねぇか」


「お礼参りってやつですかいな?」


「てめぇのチートみてぇな力もこの人数相手に通じるかなぁ?」


お互い目を離さないツバメとショージ

しかしその視線を割って入ってくるコニャックはショージを睨み付けた


「私の嫁に指一本でも触れたら許さないでゲルよ?」


「おうおう威勢だけは箔があるじゃねぇかよぉ 血筋だけの無能が」


「お前なんか私一人で十分…… 掃除できるでゲルよ?」


その瞬間 ツバメの視界にいるコニャックが右に吹き飛んだ

握り拳から圧を放っているショージは 血走った目で嘲笑っている


「コニャック!!」


ツバメは近づいてコニャックを抱きかかえる


「教えてやるよメス猫…… ジェルドワーフってのはな

歴史だけで偉く成り上がっただけの劣等種なんだよ!!

力もねぇ…… 変身するしか能力もねぇ…… 

そんなゴミみてぇな連中の下に なんで俺達ピグミスの民がひれ伏さなきゃなんねぇんだよ!!!?」


「……」


「終いにはこんな出来損ないが生まれてくる始末だ

別種族が王子になるなんて話が届いてるが 俺達の恨みが消えることはねぇだろうなぁ

お前達ドワッフル王家が生み出した惨劇を忘れることなんか出来ねぇんだよ!!

ヘヘヘ…… 今ここで死んでくれや」


「……コニャックは関係ないでしょ」


ツバメの小声にショージは片耳を寄せる

コニャックを抱きかかえたツバメはゆっくり立ち上がり


「この幼女は確かにバカで世間知らずよ ……おまけに重度の変態を患ってるし

だけどねぇ…… こんなバカだって一人の人間なの!!」


「人間だと?」


「そうよ!! 食って遊んで寝て

そして物事を考えて行動を起こし 間違いを反省して明日を生きる資格を得る

それが〝人間〟でしょ ここにいる全員を私は血の通った人間だと言い切ってやる

私から見たら人間が同じ人間を殺してるようにしか見えない

なんで死ねとかそんなことが言えるの?」


「女神気取りかてめぇは…… 話す余地なんかねぇな

そいつは俺達の居場所を奪った奴等の穢れた血を受け継いでいる

ジェルドワーフが生まれてくるシステムは忌々しいものだ 血の根絶は不可能

だが歴史をクリアにして新たな王政が誕生するこのタイミングは都合が良い

……理由は十分だろ?」


「なるほどね…… ただただ復讐か

ドワッフル王家の歩んできた記憶をこの先の未来で末梢されることを実現できれば満足

対話の余地もない 元々誰かに自分達の思いを理解されて欲しいわけでもない

〝一方的な押しつけ〟〝返事は不要〟 ……ですか」


「あん?」


体内から放出される微量の光子はツバメの力の表れ

放電し 周りの物理に影響を及ぼし始める彼女の顔は怒りで満ちていた

建物は歪み 煉瓦の道は凹凸に地鳴りを上げる それ以上に空に浮かぶ雲でさえ形を変えた


「あんたらはただの誹謗的な加害者アンチ この国の害悪だ」


「これが本気の入った力…… 始祖ドヴェルグが有していた〝万物の声〟……」


「敵意は特定しました 全員まとめて城に突き出してやる」


呼応した建物が縮小し 屋根の先から伸びてショージ達を襲う だが

屋根は伸びきる前に停止 身構えてたショージ達は額に汗を流しながらツバメの方を見た


「なんだ…… ハハ… 力を使いこなせてねぇんじゃねぇか!!」


コニャックを抱えながら地面に倒れるツバメ 洗い息が徐々に容態の悪化を知らせている

しかしそんなことは気にも留めないショージはツバメの桜色の髪を掴み上げる


「このクソ女が…… ビビらせやがって 目に物を見せてやるよ」


拳を振り上げて ツバメの顔面目掛けて飛びかかってきた

その勢い溜まった暴挙を受け止めたのはコニャックだ


「ゲルゥ……!!」


「お前から殺してもいいんだぞ? 穢れた血め……」


「私を殺してもいいが…… ツバメは…… 私の愛した人は殺させないでゲルゥ!!!! 」


「綺麗事抜かししてんじゃねぇぇぇ!!!!」


掴んでいた髪を離し コニャックの首を掴み上げたショージは

懐からギラつく長物のナイフを取り出した


「死ねぇぇぇぇ!!」


「ゲル……」


ーー約束守れなくてごめんでゲル…… 兄貴殿…… 


辺りが真っ白に包まれる

まだ意識のあるコニャックはこの光景を死と悟った

だがそれは違い 二人にとって救済という希望の光だった


「コニャック様!! ツバメ様!! ご無事ですか!!?」


土埃の影にコニャック達の周りを守護する六人の兵達


「やべぇぞショージ…… コボルトだ!!」


「それに他の五人が腕に付けている〝英傑の腕章〟

国随一の戦力を誇る僅か五人の少数精鋭〝近衛騎士団〟だぁ!!」


怖じ気づいて先程まで優位な状況だったRSTは次々と戦意を失う

ただ一人ショージは歯を噛み締め 殺意の牙を折らない



「グゥゥゥゥ…… クソがぁぁぁぁ!!」



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