22話 このクラスでライブハウスをします
翌日のホームルーム直前
クラスの教壇に鼻息を荒げながら登る二人の女子生徒が現れた
「えぇ~皆さん着席して話を聞いて下さい」
委員長の掛け声と共に生徒達は席へと着く
「礼儀正しいクラスだこと……」
「一応それなりの英才教育の道を通って来た人達ですからね
団結や協調という言葉くらいは肌に染みていると思う」
ドリアードが黒板をありったけを使って何かを書き出した
その間にコンが机に両手を置いて皆に説明する
「我がAカップ組は〝ライブハウス〟をしようと思う」
クラス内がざわつく
「そんなことよりも……
あなたが今そこで指揮を取れる立場である資格となるものを提示して欲しいですね
得体の知れない転校生が周囲の信頼を確保出来るとでもお思いかしら?」
案の定つっかかってきたのは王子の一人 セイザン
スタイルは良いがその鍛え抜かれたバルクと飛び散りそうな鱗
声質から高貴な女性を醸す竜驤虎視な圧が コンに冷や汗を掻かかせる
しかしコンは戸惑うこと無く この時の為の秘密兵器を取り出した
「……?! それはコボルト氏が所属する〝英傑の腕章〟
ライブトゥギャザー王国の兵士の中でも 実力随一の少数精鋭にしか渡されない
近衛騎士団の証を何故お前が……」
「私もコニャック様をお守りした功績として(来たばかりだから嘘だけど)
王様直々に授かりましたのよ~~ これで納得して頂けました?
あなた方王子とは対等とまでは言えなくとも 壇上で話す権限くらいは……
受諾されてもよろしくてん?」
「……問題ない 後日手合わせを願いたいものだな」
「話を戻します
ライブハウスというのは飲食店をメインとしてステージで歌や踊り ショーを披露する場です
皆さんが案として出してくれたものを極力取り込めるだけ取り込みました」
会場の見取り図・準備する配役・予算・スケジュール
アバウトにも黒板に分かりやすく書いたドリアードは コンと交代して大元の自分の気持ちを伝える
「私達は今回…… 人生であと二度と来ることのない学祭を作ります
庶民の上に立つ者として 周りと同じレベルでは駄目だという王子方のプライドも重々承知しておりますが
今の私達は唯一で最後の学生時代を終えようとしているのです
気品や意地で利益を生み出せたとしても 思い出が生まれることはあるのでしょうか?
私は学校を楽しい場所 絆を深める場を掛け替えのない場所として
勉強だけじゃないことを三年間で学びました
見え透いたプライドを捨てて同じ制服を着ることで たくさんの同い年と出会えることを知りました」
「ドリアードちゃん……」
彼女の演説に胸を打たれたコンは最後に一言だけ
「私は異世界から来ました
私達の世界には当たり前のようにある学校ですが
……あまり褒められたイメージはありません
いじめで休校する生徒や教師の体罰によって自殺する生徒が後を絶ちません
学校にすら来れない人もいます 貧乏だったり虐待だったり
クラスに入れば楽しい生活を迎えられる生徒は年を重ねるごとに減っているんです
ですがどれだけ少数の力が頑張ろうと 変えられない見えない何かに押し潰されて
誰も悪くない空気という化け物が 場所そのものを否定したくなる悪魔がいつの日か住み着いてしまいました」
「「「「「 ………… 」」」」」
「学校が楽しいんだなんて今では綺麗事だと諦める人達がいます
確かに勉学優先 学校という教育機関は大人になる為に必ず通らなければならない貴重な道筋
だけどその貴重な経験は人によっては無に変わってしまう!! 学べてないからです!!
頭と心に何も入らずに終わってしまうからです 楽しくないんです!!
じゃぁどうすればいいかって? どうしようもないんです!!
私達の学校は最高で9年の義務教育が受けられますが それでも少ない
卒業してしまったら終わりなんですよ 学生生活というものは!!
あなた方は9年で何が出来ますか?
たった10年しか生きられない種族はあっという間に寿命が訪れるんですよ?
何かしろと言われて 咄嗟に何か出来るわけもないですよね?!
だから用意するんです!! 私達が!! この瞬間から!!
今を私達が楽しんで それを記し 後輩達にこういうことも楽しいんだよと伝えて行かなければならない
これこそ後世に残す我々現代人の役目であり それこそ人の上に立つあなた方が誇りを持ってすべきことだと思いませんか?」
沈黙
その後に待っている拍手はコンを認め そして褒め称える
やりきった二人は互いに握手を交わして ドリアードの目にはダラダラと涙が流れていた
「コンさん…… あなたはいつか世界を背負う本物の英雄なのかもしれませんね」
「目指してるけどなれるかはわかんないな~ 現実は厳しいし」
ホームルームの鐘は既に鳴り終えていた
廊下で控えていたカザドは笑みを浮かべて待っていた
「それではホームルームを始めま……」
と同時に最初の授業を知らせる鐘が鳴る
「ホームルーム終わります 出し物の準備を急ぐように」
休憩が終わると
学園祭の準備の為に作られた時間で さっそく行動に移る
「随分と良い演説でしたわ コンさん
クラスも一丸となって大した説得力をお持ちでしたこと」
「ありがとうございます ゲンブラーさん」
お客様用のテーブルの配置と数量を段取りしていたコンに話しかけてきたのは北の王子ゲンブラーだ
「出し物が成功すれば良いですね……
結果が他のクラスと似たようであれば貴族の生徒達はとんだ赤っ恥
素直に格を見せつけるお披露目会でも開いて
準備を下僕達に任せていれば良かったと嘆く日が来ないことを祈っていますよ」
「共生の国に喧嘩売る言い草ですね~ 王子候補として印象ガタ落ちですよ??」
「ホホホ…… 元よりこの国…… いや世界の王となる暁には
そのような矛盾だらけの能書きなど撤廃するつもりよ」
「階級社会バンザーイってことですか? 市民革命待った無しですな」
「えぇコンさん…… あなたは立派な異端児
創立32年程度の中途半端に創られた
軟弱者が育つ未来が見え見えのこの制度を容易く支配出来ると思いましたが
とんだ誤算が生じたものです ただで引き下がる私ではないことを覚えておいて下さいね」
「発展途上だからこそ
未来のドヴェルグ学園は明るくなってるって信じて変革起こすことがそんなに可笑しいですかねぇ?
あぁそっか!! 支配したいだけで自由を求める左翼側の意見なんて
あなたの耳なら右から左ですよね」
「えぇ…… そのサヨクという存在は是非とも排除したいものですね」
睨みつける互いの目から迸る放電が繋がり
教室から出て行くゲンブラーは しなやかな尾を器用にうねらせて出て行った




