19話 複雑な問題について考えてみよう
放課後
ツバメたちは案の定職員室へと呼び出される
「お怪我はありませんかコニャック様!? うちの問題児共が本当に申し訳ありません!!」
「良かったじゃんコンニャク娘 こんな大勢に心配してもらって」
「…………」
土下座で謝る教師達だが コニャックはずっとツバメを横目で見ている
「私からもお詫び申し上げます」
職員室に入って来たのは理事長のエレフだった
「ショージ・ピグミスという生徒はコニャック様もご存じかと思いますが
王宮より南地区の裏町には 王政に不満を抱く輩がのさばっています
ショージ率いる自称反政府組織〝RST〟は暴動を主に
独自の思想で種族平等を図っているのです」
「アーレスティー? リーディング・スキル・テスト??」
「Rememberリメンバー Shaftシャフト Travelerトラベラー
想起の女神を掲げた彼等の行動にためらいはありません
人民への私怨による制裁 王族への嫌がらせメール
挙げ句の果てにはピグミス王国だった土地で採取される食物は自分達の物だと主張し
見境なく店の商品を強奪する始末です」
「子供か!! 言い訳つけて万引きとか やること小さ過ぎない?!」
「えぇ…… しかしまだスケールが小さいで済まされています
事が大きくなれば必ず死者が出るでしょう
彼等もそう遠くない未来には大人になるのですから」
「……」
けして軽く見てはいけない国内の諸問題にツバメは口を閉じてしまった
玄関先ではコボルトが馬車に乗って待機している
ウキウキの朝とは別のどんよりした空気 馬と車輪の音だけの道中
「どこの世界でも同じなんだね~~ 戦争が終わったら次はテロの時代ですか」
「え?」
「そしてまた戦争してテロして戦争してテロして
平和は退屈 混乱は刺激がある 繰り返される歴史ですな」
「コンちゃんはまた難しいことを言うね」
やれやれと両手を上げて首を振るコンは 周りからの注目を活かして
「さてツバメに質問です 争いはどうしたら停まると思う?」
「うぇ~~まさかの授業!? …………相手をジェノサイドするとか?」
「……正解の一つだけど怖いよツバメ
ポツダム宣言って名前くらいは聞いたことあるでしょ?
強い国から降伏しろって言われて日本は無条件でそれを受諾したの
これにて第二次世界大戦は終了
私達が楽しい女子高生生活を送れる為の重要な出来事だったんだよね」
「日本は負けたって歴史は覚えてる」
「一概に敗北したって言い方は反感くらうわね
日本兵一人一人がやがて来る平和を願って…… 天皇だって断食してたって話だし
争いの終止符を打つ鍵は双方の妥協だったね
下手すら日本も植民地…… いや…… 国民揃って奴隷人生?
最悪ジェノサイドだったのかな……」
「どうして?」
「そうなるくらい日本は小さい小島だってこと
戦争の原因はいつだって経済 日本はドイツとかの自給自足経済に興味を持ち
貿易関係だったアメリカを怒らせて経済制裁を誘発させ 戦争へと突入
アメリカが勝ったところで資源に乏しい面積の日本から搾取する物は何も無い
つまり私達はアメリカにとって経済面から いてもいなくてもどっちでもいい存在なのよ」
「うわっ…… なんかムカつく」
「でしょう? だけど戦争なんて知らなくていいやって若者が急増だってんだからさ
アニメ制作会社が放火されたり 芸能事務所や政界の不祥事なんかだったり
結局引き起こされてから考えさせられたしょ?
平和ボケして豆鉄砲食らう私達はそれじゃ遅いって話なの要は」
「え? 私達の世界って危ないの?」
「どうだろう…… 楽園だった時代なんて本当にあったのかな……
まぁ少なくとも過疎化した地域で真面目に仕事してれば安泰なんじゃない?
戦時中だって田舎に逃げてくる人もいたし」
乗り物に揺られながら息を呑むツバメ
集中してる彼女は 隣に座っていたハーフルから優しく肩を叩かれた
「あの……」
「うわっ!! 驚かさないでよハーフルちゃん」
「何か難しい話をしておられますが神話か何かですか?」
「えと…… 一応私達の世界の話…… だよね?」
「小説の話はしてないよ~~」
ほくそ笑むコンは今の話題を自発的に切り上げる
「もしものときが来た場合さ 死者何万人の内の一人にならないでよ~ってことだよ
人間は独自の行動が許されるように進化したんだからさ」
「普通に暮らしてちゃ痛い目に遭うのか~~」
「遭わないで平穏無事に生涯終えることが出来る人だっているんだから警告も虚しいのさ
ましてや平成の世は今までで一番平和な時代だったんだからね」
長話に歯止めが利く頃にはワイフガーデン
マミーが出迎え コボルトは一人厩舎へと向かう
下駄箱に靴を入れるツバメの目の前には コンとコニャックが待ってくれていた
「ドワッフル王家とピグミス王家の同盟は問題なかった
だけど反対するテロリストが現れて国ごと壊滅…… だったわよね?」
「過激派鎮圧後は何も起きなかったのでゲル
ツバメ達の話を聞く限り 我々は奇跡の下でこの地を治められたのでゲルな
なのに時代を知らないガキ共が過去の古傷を掘り出して…… 何を考えてるでゲルか……」
「いるのよね~~!! 混乱に便乗して暴力や暴言が吐きたいだけの奴ら
汗掻いたから一番風呂いただくねぇん」
部屋から着替えとタオル持参のコンはバスルームへと向かった
後から生徒四人も入ってくる
「学生運動だっけ?」
「そうそう!! ツバメも勉強してんじゃん!!
つっぱることが漢の~~♪ たった一つのホニャホニャ~だって~~♪」
天井に昇る湯気が心地良い音色でポタポタと落ちてくる
場も盛り上がれば お風呂で水掛け合戦が勃発する賑わいを見せていた
「お風呂で遊んではいけません!!」
マミーのお叱りを受け すぐに終戦を迎えるツバメ達であった




