1話 部屋ごと転移
センター試験に向けて机の上に置いてあるノートと睨めっこする私は
喉が猛烈に渇いたのと糖分を欲しがり 台所へと向かおうとすると
「私が転生するのかよ!!」
扉を開けたらそこは ファンタジーな内観をした廊下だった
ーーいや部屋からそのまま来たから転移か…… ん?
部屋に戻り 鏡の前に立ってみると
「な… ナンジャコリャ~~!!!!」
ーー耳が尖ってる! 髪色が桜みたいに綺麗!! あとは…… そのままだ!!
いや…… 胸が少しだけ!! ……気のせいか
異世界ではなく とりあえず自分の部屋を確認しようとする彼女は第一に窓を見た
「景色はそのままだ…… だけど開かない 密室……って言ってる場合か!」
次に転生したのか転移なのかを考える
ーー階段で転んで死んだか? 痛みを感じる前に?
まさか不審者が待機してて 私が扉を開けた瞬間にドシュッと?! やだ怖っ!!
「そうだ!!」
隣は兄の部屋なので
「兄貴~? 兄貴~~ おにぃちゃ~~ん♡」
ーー反応無し 寝てんのか……?
「おーい竜爪馬!! いつまで寝てるつもり?!
まったくこんな暑い真っ昼間までよく寝られるわね?!」
ーー私の母ですら言ったのことのないセリフを吐いても駄目か
段々と怖くなってきたな…… よーし!
「お兄ちゃん! 朝だよ!! 私…… えーと キュアデスタムーア! いつも応援ありがとね!」
反応は無し
「いつもは日曜の朝に会うけど今は緊急事態なの! お願いだから返事してくれない?」
まるで壁に向かって劇の練習をしているかのよう
「兄貴? ねぇ兄貴?! もしかして似てなかった? 分かった怒らないで!!
包む黒雲 走る雷光 勇気を食らい絶望を届ける血色の光!! キュアデスタムーア!!」
部屋の扉を開いては壁を叩き 普通は大声で叫んだら恥ずかしくなるセリフを繰り返す
その彼女の目からは既に大量の涙が
「宿敵ダークドレアムよ! 今こそ悲願のリベンジだ!
そして私こそが真の支配者へと返り咲き 新世界を創り直すのだぁぁぁぁぁん……
駄目なのぉ?! ねぇ答えて馬鹿兄貴~~!!」
もはやヤケクソだ
「ボスキュアの邪悪なる魂が!! 勇者の心を打ち砕く!!
ムーララムラララ ラムラムオルゴールデミーロ!!!
狭間の世界から夢の世界をお届けデリバリー!!!!
キュアミラクルワールドマダダンテぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
汗と涙と達成感を醸し出す私の前に
「何やってんでゲル?」
おそらく数分前から覗いてたであろう 容姿が異質の幼女に引いた目で見られていた
「あぁ…… ぁぁぁぁぁぁあああああああああ」
「ノックしたんだけど~~ 聞こえてなかったでゲルゥ~ン?」
不適な笑みでドアを二度ノックする幼女に 私はその場でうつ伏せに倒れた
ーーもう殺せよ……