表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひきこもり勇者の英雄談  作者: 御影友矢
3/61

1回目02


「ブータンおはよぉ」


 待ちかまえたかのようにそいつはいた。小さくて、可愛らしい『悪魔』のような存在。


 年齢は六歳。最初の頃はつぎはぎだらけの服を着ていたが今は白のワンピースを着ていて、がりがりだった体重も年相応に戻っている。


 子供ならでわのぷっくりもちもちとした頬に、ひまわりのような笑顔を浮かべている。


 将来は村一番の美人さんになること間違いなしだ。


 俺と話してくれる二人のうちの一人で、積極的に話しかけてくれ、笑顔を向けてくれる唯一の存在。


 しかし俺は彼女の事を、『リトル・デビル・ガール』と心の中で思っている。


「おっおはようサラちゃん。いっいつも言ってるだが、おっおらの名前は」


「ブータン、サーヤにちょーだい」


 小さな手をいっぱいに広げ、アピールする。


「きょ今日は」


 俺は分かっていても抵抗する。今日こそは守るんだ、俺の大事な『お金』を。


 サヤちゃんはむすっとした表情になる。


「え~、サーヤにくれないのブータン。サーヤ、ブータンの事嫌いになっちゃうよ。もう口も聞かないよ。それでもいーの?」


 俺からそっぽを向き、こしゃまくれた顔でちらちらとこちらを見ている。


 俺も悪かった。来た当初あまりにもかわいそうな姿に、ついついお金を渡してしまった。


 当時は初回ボーナスで懐が暖まっており余裕があり、サヤを捨てられた子犬みたいだと思ってしまったからだ。


 それが間違いだったと気付いたのは何時だったか。親が蒸発してひとりぼっちのサヤは逞しかった。俺なんかよりもずっと。


 帰ろうとするサヤを引き留める。


 振り返ったサヤの表情は、無邪気な笑顔だった。


 結局貰った銀貨三枚のうち、二枚をサヤに渡した。


 この世界はお札はなく硬貨で、日本円に換算すると鉄貨が一円、銅貨が百円、銀貨が一万円、金貨が百万円。その上もあるらしいが滅多にお目にかかれない。


「ブータンありがとう。だからサーヤはブータンのこと好きぃ」


 そう言って、サヤは俺の大きな腹に顔を埋めるように抱きつく。


 それが彼女の処世術だが、悪くないと思ってしまう俺は相当な間抜けだ。


 それからサヤと、今日はおままごとをして二時間ほど過ごし、わかれる。


 うん、サヤといると楽しい。


 そう思ってしまう俺は、相当な重症だ。


 夕飯まで、まだ時間がある。


 今日も宿には泊まれないか。


 定宿は一泊二食付きでカード割引で銀貨二枚、手持ちは銀貨一枚なので、今日も馬小屋での寝泊まり決定である。


 これが、穀潰しくされニートの一日だ。面白くもなともないだろ。


 人生なんてそんなものだ。あきらめてしまったものに幸運なんてものは舞い込まない。最初の戦闘で折れてしまった俺には、ゲームや漫画みたいな展開は訪れない。


 キョドっていてデブでニートな俺にヒロインなんてどこからくる。


 このまま底辺から脱却できずに、死のうと思っても死ぬ事はできず、病気か、モンスターの襲来か老衰で死ぬだろう。


 酒飲んで寝るか。


 酒は安い。温くてまずいぶどう酒が銅貨二枚だ。


 そうしてかわりばえしない、一日が終わる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ