お姉さまもねえちゃんもズルい
コルネリアの死を回避すること。
ひいては、それがアンジェリカを平民嫌いにさせない方法であり、アンジェリカ処刑ルートに行かせない為の最善の策である。
「よく考えれば、分かりやすくていいわね。私が死ななければ、あんたも死なない」
「うん、いや、わかりやすいけど、でも、どうするの?」
「確か、あの反乱は……」
公式サイトでは、『明かされる真実!』とか言って定期的にキャラクターのサイドストーリーが掲載されていて、前半まで読めて、『続きは現在販売中のノベルのおまけで掲載!』とか書かれていて、うがーっと琴音はなった記憶がある。
なので、前半部分しか分からないが、アンジェリカのサイドストーリーで『赤と青のアンジェリカ』という物語があった。
冒頭は、血塗れの青いドレスアーマーのアンジェリカが慟哭するシーンからだった。
アンジェリカが二年生になる直前のこと、休みということでコルネリアが両親と一緒に、アンジェリカに会うためにやってきていた。
家族水入らずで楽しんでいる中、突如として爆音が響き渡る。
現在の暮らしに不満を持つ平民たちが大挙して貴族たちを襲い始めたのだ。
騒動を収めようと正義感溢れるアンジェリカはコルネリア達の制止の声も振り払い、反乱軍に立ち向かっていく。
残されたコルネリア達は偶然にもエシャロット家に恨みを持つ平民と出会ってしまい襲撃される。幼いコルネリアはあっという間に捕まってしまい……
というところで、前半が終わっていた。恐らくこのあとコルネリアは殺され、怒り狂ったアンジェリカによって平民たちも殺されてしまうのだろう。そして、アンジェリカは平民に強い恨みを持つ。
「そっか、でも、どうしよう。逃げちゃう?」
「多分、あの事件はアンジェリカが解決することになるんでしょ。反乱が成功したら多分大変なことになるわ」
「じゃあ、反乱も止めなきゃいけない。でも、コルネリアも守らなきゃいけない。え? もしかして、詰んでない?」
「詰んでない」
「ええ~、どうするの?」
「まずは、あたしが強くなる」
「え? コルネリアが……無理だよ! まだこんなちっちゃいのに!」
「ちっちゃいゆーな」
アンジェリカに頭をぽんとされて、コルネリアはとにかく顔を真っ赤にした。
そして、手を振り払い咳ばらいをして続けた。
「考えはあるの。確か、サイドストーリーでは何も出来ずに終わったコルネリアだったけど、今の私は魔法が使える」
「あれ? そういえば……なんで?」
「多分、前世の記憶が、取り戻す前から影響を与えていたんじゃないかと思うの。ほら、コルネリアって幼い頃から本を読みまくっていたでしょ? 多分、あれは私だったからじゃないかと思うの」
コルネリアの前世、琴音は市立図書館の幽霊女と呼ばれていた。幸薄そうな顔、お金がかかるから美容室には行かないし自分で切るのも面倒だと出来るだけ伸ばしていた黒髪、そして、お金がかからない娯楽だからと、毎日本を借りに行ってあらゆるジャンルのところに現れたためついた名前だった。その影響かコルネリアは、今よりもさらに幼い頃から本に興味を持ち、とても早い段階で自分から分厚い本を読み始め、両親から天才だと賞賛された。
それは、姉であるアンジェリカにとっては当時面白くない出来事ではあったが、その分剣や魔法の修行に励むことが出来たのではと思っている。
「本を読みまくって読み漁って、魔導書まで読んで、魔法を使えるようになった。なら、これを活かしてもっともっと魔法を実戦レベルまで磨いたらきっと私も反乱軍と戦えるはず」
「そっか、そうだね! それに! あの乙女ゲームの時よりもあたしも強くなれば、助けられる確率あがるよね!」
「あとは、事前に火種を消しておくのも手ね」
「火種?」
アンジェリカは意味が分からず、首を傾げる。
コルネリアは相変わらず、凛々しい姉の素朴なしぐさにたじろぐが話を続ける。
「エシャロット家に不満を持つものが私たちを襲うのなら、出来るだけ、その不満を無くす。あのお父様とお母様だから、悪いようにはしてないんだろうけど、最善を尽くしているようには思えないのよね」
コルネリアは頭を掻きながら、紙にペンを走らせた。
アンジェリカとコルネリアの両親は、前世の両親と同じく人の良い、そして、仲の良い夫婦だった。政略結婚ではあったが、互いに互いを尊重できる関係を作り上げ支えあって家を守っていた。しかし、なにぶん人が良い上に、かなり大らかな性格を二人ともしていて、恐らく、他人に任せすぎている部分もあるように思える。どんなに性格が良くても間に人が入れば、話はどんどん変わってしまう。
「だから、エシャロット家をもっと良い家にする。この世界はまだまだ発展途上な部分が大きいから、私の前世の知識を活かせる部分もあると思う。家を良くすれば不満も減るだろうし、選択肢が増える。そうすればきっと運命を変えられる……! ね?」
コルネリアは一通り自分の計画を紙に書き写し、アンジェリカに同意を求める為、横を向いた。すると、アンジェリカはぼーっとこちらをただ見ていた。
「ちょっと、聞いてるの?」
「あ、うん……見てた。じゃなかった! 聞いてた! 聞いてたよ!」
アンジェリカは慌てて言いなおしながら、首を大きく縦に振り、そのままゆっくりとさりげなく俯いた。
(えー何々? 仕事モードのおねえちゃんってあんなにかっこいいの? 何、あの真剣な顔、コルネリアがあんな……あんな表情で……おねえちゃん、ズルい!)
俯くアンジェリカに一抹の不安を覚えたコルネリアが、溜息を吐き聞いてくる。
「いい? これは、あんたの死を回避するための重要な作戦なんだからね。それに、ついでに私の命もかかってるんだからね。しっかりしてよ」
その言葉にぴくりと肩を揺らしたアンジェリカは、顔を上げ真っ直ぐコルネリアを見つめる。
「……大丈夫。絶対にコルネリアを、守るから」
今度はコルネリアがゆっくりと俯く。
「あー、のー……うん、じゃあ、そういうことで、残された時間でお互い、がんばりましょう」
「うん! ちょっとあたし、剣を振ってくるね!」
アンジェリカは、夜中にも関わらず、素振りをするつもりらしく、元気に外へ飛び出し、外で待っていたアンジェリカお付きの侍女を驚かせた。
一方、コルネリアのお付きの侍女は部屋に入り、コルネリアの様子を見るなり慌てて、薬の準備をさせ、飲んだら早く寝るよう促した。
されるがままのコルネリアは、ベッドに潜りじたばたしていた。
(なあんなのよ! あの真っ直ぐな瞳! サファイアブルーの! え? かっこよくない? 「守るから」ってナニソレ! かっこよくない!? もう逆に、かっこよくない!? ああー! アンジェリカお姉さまは、ズルい!)
外で響くアンジェリカの気合の声が聞こえる度コルネリアは悶え、途切れるまで眠りにつくことが出来ず、アンジェリカが快眠する一方で、コルネリアは二夜連続の寝不足となるのだった。
そして、ここから逆転姉妹による逆転の日々が始まる。
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