幼なじみ百合が嫌いな私が幼なじみに告白されました
「絶対姉妹百合の方がいいよ!」
「いいやっ!幼なじみ百合の方がいいに決まってんじゃん!」
放課後の教室。私こと白井あゆは友人である影西はると言い合いをしていた。
「なんで!?幼なじみなんて勝手に部屋に入ってくるし、大事に残してあったケーキは食うわでもう最悪なんだから!親しき仲にも礼儀ありって言葉知らないんだよ!」
「それが良いんじゃん!小さい頃からずっと一緒にいて家族同然に育ったからこそ甘えちゃう。そんな微笑ましいところが可愛いんでしょ!姉妹百合なんて幼なじみ百合に比べたらごみよごみ」
最後の言葉にカチンときてしまった。
「姉妹で百合が成立するなんて思わないでよね」
「なんでそんなこと言うの!姉妹百合だって微笑ましいじゃん!」
「はぁ?どこがよ」
「姉妹百合は幼なじみ百合みたいに疑似家族じゃなくて本当に血が繋がってる家族なんだよ!?血が繋がっていて同性同士っていうのに悩まされる姿が応援したくなるんじゃん!」
「そんなの現実ではあり得ないの!」
「それだったら幼なじみ百合だってあり得ないもん!」
お互い荒い息づかいで睨みあう。負けられない。私は私の信念を貫く。
数分そのままの状態でいると教室のドアが開いた。
「おーい、お前ら。下校時刻とっくにすぎてるぞ。早く帰りなさい」
「「……」」
私は百合が好きだ。百合と言うのは女の子同士の恋愛のことをいう。それ以外にも精神的なものを含むが、説明が難しいので省かせてもらう。
女の子同士が手を繋いでいたり、抱き合っていたりするととても幸せな気分になる。もちろん二次元での話だが。特に姉妹百合は最高だ。血の繋がりがあるからこその苦悩と同性だという苦悩。そんな繊細な心の動きを楽しめるのが姉妹百合なのだ。だが、結構な百合本を読んできた百合乙の私でも唯一苦手な百合と言うものがあった。
それは幼なじみとの百合だ。
私には幼稚園の頃からの一歳年上の幼なじみがいる。名前は渡辺いおり。いおりは、とにかくうざい。気分屋で、勝手に部屋に上がり込むは、かと思えばすぐに帰る。私の部屋を散々荒らしたあとに。
「絶対姉妹百合の方が良いと思うんだけどなぁ」
「私は絶対幼なじみ百合の方が良いと思う」
帰り道。まだ姉妹百合と幼なじみ百合のどっちが尊いか議論していた。はるは断然幼なじみ百合派で私は姉妹百合派だ。
「やっぱり同じ百合好きでも好みが全然違うよね、私たち」
「折角同士に会えたと思ったのにね」
「うん」
「ま、人の好みなんてそれぞれだし、仕方ないんじゃない」
「それは分かってるんだけど……」
「なに?私に姉妹百合を理解しろと?それは例えあゆのお願いだとしても聞けないからね」
「分かってるって。私だって幼なじみ百合を理解しろって言われても無理だからそんなことしないよ」
「ならいいけど」
「でも、どうしてはるはそんなに姉妹百合が嫌いなの?」
「あれ?話してなかったっけ?私いっこ上の姉がいるんだけどさ、その姉がもう大っ嫌いなの」
「どうして?」
「だって私に持ってないもの全部もってるんだもん。勉強はできるしスポーツも万能。おまけに顔も良いし、スタイル良いし、努力してこの体型を保ってる私が馬鹿みたいじゃん!」
「お姉さんも影で努力してるんじゃない?」
「それでも!遺伝子が同じなのにどうしてここまで違うの!神様はどうして私にこんなに手厳しいのよ!」
「まあまあ、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるかぁー!私は生まれてきてからずーっと悩まされてきたんだからね!出来る姉と比較される気持ち、あゆには分かんないでしょ!」
「んー、まぁ分かんないね。私、お姉ちゃんいないもん」
姉というものに多少憧れを抱いてはいるが、姉嫌いなはるの前でそんなことを言うのは野暮だろう。その後は、はるの愚痴を聞いたり、また百合について議論したりした。家についたのは八時を回ってからだった。
「ただいまぁー」
「お帰り。いおりちゃん来てるわよ」
「げっ、まじ?」
「何そんな嫌そうな顔してるのよ。ほら、あんたの部屋にいるから早くいってあげなさい」
「……はーい」
くそぉ。私がいないときにいおりを部屋に入れないでって言ってるのに。どうして分かってくれないのか。私は脱力感マックスで部屋に向かう。ドアノブにてをかけ、部屋にはいった。
一番に目に入ってきたのはスマホをいじりながらベットに寝そべっているいおりの姿だった。
「あ、お帰りー」
「……ただいま」
「遅かったね」
「友達と話してたから」
「へぇ、そうなんだ……」
「……なに?」
「いや、てっきり彼氏とでもデートしてるのかな~って思って」
「あいにく私は生まれてこのかた付き合ったことも告白されたこともコクったこともありませんよ。いおりはその事知ってるでしょ?」
「まあねぇ」
「なら一々いらんことを考えるな」
「やーん、こわぁい。あゆちゃんたらいつの間にそんなに乱暴な言葉遣いになったの?昔はあんなにかわいかったのに……」
およよよよ、と泣き真似をするいおり。イラッとする。いおりのこうゆうふざけた態度が気に入らない。それは、私がまだ子供だからかもしれないが。
「さっさと出てってよ。私勉強するから」
「えー、勉強なら私教えられるよ?一人でするより私とした方がはかどると思うけどなぁ」
「はかどらない。逆に成績落ちる」
「ひどっ!私結構点良いんだからね!あゆと違って赤点なんてとったことないし!」
そうなのだ。いおりは赤点をとったことがない。対して私は1教科だけ赤点をとってしまう。その教科は英語だ。私はどうしても英語が理解できない。だって日本人だもの。英語なんて必要ないし、将来英語を扱う仕事につかなかったら良いんでしょ。ぐらいにしか考えていないものだから、どうしてもやる気が出てこない。でも、このままじゃ折角の夏休みも学校に行って授業を受けないといけない。それだけは何としても回避したい。
(今年の夏は、はると遊ぶ約束してるんだよね。どっかに行く訳じゃないけど、百合好きのはると話すのは何だかんだ楽しいし、頑張らないと)
そう考えるといおりに教えてもらった方が良いのかもしれない。
「……じゃあ、英語教えてよ」
「え……?」
「英語。私英語しか赤点とったことないから。教えて」
「う、うん」
「なに?急になんでかしこまってるの?」
「いや、あゆのことだから怒って追い出されると思ってた」
「追い出そうか?」
「いやいやいや!大丈夫!早く勉強しよ!なんでも教えちゃうよ、私!」
異様にテンションが高い。やはりいおりは気分屋だ。その時、誰からかラインが届いた。それは同じ百合好きの同士であるはるからだった。はるのラインを開けてみると、私は驚きで目を見開いた。
(こ、これ!私が好きな百合アニメのクリアファイル!?)
即刻返信を打つ。
『なんではるが持ってるの!』
『欲しい?』
『欲しいに決まってるじゃん!』
『私のお願い一つ叶えてくれるならあげる』
『ホンとに!?』
『うん』
神か。神なのか。私は今日死んでしまうのか……。
(いや、どうせ死ぬならクリアファイルを貰ってからにしないと)
『で、お願いって?』
『実は今週の土曜日に好きな作家さんのサイン会があるんだけど、それに付いてきてほしいの』
『オッケー。おやすいごよう』
『ありがと。じゃあ、今週の土曜はあけといてね』
『ラジャー』
やばい。顔がにやけてしまう。はるが友達で本当によかったぁ。
「ねぇ、勉強しないの?」
「あ、ごめん。するよ」
「誰からライン来たの?」
「ちょっとね……」
もう一度はるから送られてきたクリアファイルの写真を見る。あーっ、かわいい!早く手にいれたい!ほしいよぉ!
「もぉ、スマホばっか見ないで勉強しようよっ」
「あ、何するの!」
「没収ー。勉強が終わるまでスマホは触っちゃダメだからね」
「うー、分かったよ……」
「よろしい。あ、そうだ。今週の土曜日、何時に行くか決めた?」
「え、なに?」
「忘れちゃったの? 二人で期間限定のタルト食べに行く約束したじゃん」
「あ……」
そうだった。それも私が誘ったんだっけ。
(どうしよう……。いおりと先に約束したからいおりの方を優先しないといけないよね。私から誘ったんだし。でもクリアファイルがぁ……)
悩んだ末に結論を出す。
「ごめん、いおり。タルトまた今度にして良い?」
「え、なんで?」
「友達と遊ぶ約束出来ちゃったから。タルトは来週も食べれるよね?」
「そう、だけど……」
「お願い。どうしても外せない用事なの」
どうしてもクリアファイルを手にいれたい。その為にいおりには悪いけどタルトを我慢してほしい。私も結構自分勝手だけど、いいよね。いつもはいおりの方が自分勝手なんだし。時々は、私のわがままも聞いてほしい。
「あゆは私との約束より友達を優先するんだね……」
「え」
「もういい!あゆなんて知らない!赤点でもとって夏休み潰れちゃえば良いんだ!」
そう言って、いおりは部屋から勢いよく出ていった。残された私は間抜けな顔で立ち尽くしていた。
「なに考えてるのか全然分からないんだよねぇ」
「……」
昨日あった出来事をはるに話した。
「一回ぐらい私のわがまま聞いてくれたって良いじゃん。こっちは、日頃から振り回されてるんだからさぁ」
「……はぁ」
「なんでため息なの!」
本気で腹立ってるのに、そんな反応されたら余計イライラするじゃないか。
「あゆはなんにもわかってないね。そんなの嫉妬に決まってんじゃん」
「嫉妬ぉ?いおりが?」
「うん。あゆが私を優先したから嫉妬したんでしょ」
「えー、ないない。いおりは自分勝手でわがままだけど、そんなことで嫉妬なんてしないよ。はるの勘違いじゃない?」
「じゃあ、本人に聞いてみたら?そのほうが手っ取り早いでしょ」
「んー」
いおりが嫉妬。嫉妬ねぇ……。
(わっかんないなぁ)
「やっぱり違うよ。はるは現実と二次元をごっちゃにしすぎ。現実でそんなことあり得ないよ」
「どうだろうね。私は当たってると思うけどなぁ」
「なんで?」
「いおりさん、時々廊下ですれ違うんだけど、私のこと物凄い目でにらんでくるの知ってた?」
「え、全然知らない」
「私いおりさんと交流ないし、嫌われるようなことはしてないと思うわけよ。それでもいおりさん私のこと目の敵にしてるっぽいから、私何かしたのかなぁって考えてたんだけど、あゆの話聞いて分かったわ」
「?」
「多分いおりさん、あゆのこと好きだよ」
「え……」
「多分ラブの方だと思うよ。幼なじみの友達に対してヤキモチをやいてる可能性もあるけど、あの目はライバルを見る目だったもん」
「はるがライバル……」
「そ。大方あゆを取られるとでも思ったんじゃない?」
いやいや。そんな急に言われても。いおりが私のことを好きとか、考えたことないんだけど。まぁ、なにかと私の部屋に入ってきてるし、嫌われてはいないだろうけど好かれてるのか?ラブの方で?
「ま、推測だからわかんないけど気になるなら本人に聞いてみなよ」
「んー」
「私はあゆが女の恋人作っても友達でいてやるからさ。むしろ友達でいさせてもらう」
「……その心は?」
「身近に百合っプルがいる環境なんて私得でしかないし、それが幼なじみ同士なんて勢い余って昇天しちゃいそう」
「勝手にどうぞ」
「ってのは冗談で、ちょっとは責任感じてんの。私が誘わなきゃ喧嘩なんてしなかったわけだし」
「んー」
「ま、頑張んなよ。私の推測では、今日色々アクシデントが起きそうな気がするから」
「え、アクシデントってなに?」
「ふっふっふぅ、それはお楽しみということで」
「なんだよー、言えよー」
「無理。いおりさんに会えばわかるよ。私の推測が当たってればの話だけど」
ニヤニヤと気持ちの悪い笑顔を浮かべるはる。私は何がなんだか分からなくて首をかしげた。
放課後。はるといつものように一緒に帰った。分かれ道のとき、はるはまたニヤニヤして「明日報告よろしく」と言った。
いおりの事だとすぐに分かった。他人事だからって調子にのって……。後で痛い目見るぞ。と思いつつ「了解」と答えてしまった。
もし、万が一にもはるの推測が正しかったとしよう。いおりが私のことを好きだとして、私はその気持ちになんて応える?
(いおりは自分勝手だし、あんまり好きじゃないけど嫌いでもない)
ずっと一緒にいたんだ。好きとか嫌いとか、そう言った単純な言葉ではいおりに対する感情は言い表せない。嫌いじゃないのは確かだ。好きでもないのは確かだ。だから、わからない。そもそもまともな恋愛経験もない私にこんなことを考えろっていうのが無理なんだ。無理無理。
ボーッと考えているとラインの着信音がした。スマホを開いて見てみると、いおりからのラインだった。
『私の家に来て』
すぐさまラインを返す。
『なんで?』
『いいから、来て』
その一文にムッとしたが、ここは耐えておく。昨日のことは私が悪いんだし、今日の身勝手さを我慢すれば昨日のことを許してくれるだろう。……多分。私は『了解』と返信をうち、いおりの家に向かった。いおりの家は私の家のそばで、幼稚園や小学校低学年の頃はよく私も行っていた。
(いつからだっけ。いおりの家行かなくなったの)
小さい頃は純粋にいおりのことが好きだった。私は「いおりお姉ちゃん、いおりお姉ちゃん」って言っていおりに懐いていた。一人っ子の私にとって、お姉ちゃんみたいな存在だった。でも次第に呼び捨てにするようになり、家に遊びにもいかなくなった。何かあった訳じゃなくて、自然とそうなった。年を重ねるごとに同い年の子と遊ぶようになって、気づいたらいおりと遊ぶ回数なんて片手で数える程度になっていた。
色々考えていると、いおりの家に着いた。チャイムをならしていおりが出てくるのを待つ。両親はいおりが小学生のときに離婚していて、いおりは母親に育てられている。一人の子供を育てるのにもたくさんのお金がいるらしく、いおりのお母さんは夜遅くまで仕事をしているそうだ。
ドアが開いた。
「入って」
いおりは低い声でそう促す。私は少し気負いしながら中に入った。いおりの後をついていく。そして私はいおりの部屋の中に入った。
「あ、あのさ、いおり……」
「……」
「昨日はごめん……。約束破って」
「……」
(怒ってる。怒ってるよ、これは……)
どうしよう。謝ってみたけど土曜は絶対はるとサイン会行かないとだし……。クリアファイルが貰えないのは嫌だから何とかご機嫌をとらねば。
「だ、だから、今日は私なんでもするよ!」
「……」
「勉強とかは教えられないし、あんまり役に立たないと思うけどご飯とか作って帰るからさ。それでいい……?」
いおりが怒っているときは、私がご飯やお菓子を作って仲直りをしていた。だから、今回もこれで大丈夫だと踏んでいたのだが。
「……なんでもしてくれるの?」
「え? う、うん」
「じゃあ……」
やっと見えたいおりの瞳には光が入ってなくて、ホラー映画に出てくる化け物より怖かった。
『多分いおりさん、あゆのこと好きだよ』
はるの言葉を思い出して、思わず身構える。急に襲ってきたりとか、しないよね……?
いやいや、さすがに漫画の見過ぎか。あるわけないじゃないか、そんなありきたりなシチュエーション。
とは言ったものの、一度考えてしまうと頭から離れないのが人間の性というもの。内心びくつきながらいおりの言葉を待った。
「……今日は泊まっていってよ」
「え、泊まる?」
「うん。お母さんは夜勤で帰ってこないから、寂しいの」
良い年して寂しいなんて、甘えたがりも良いところだ。しかし、このお願いを聞き入れれば機嫌もよくなるに違いない。幸い、明日は土曜日。はるとの待ち合わせ時間は十二時半。待ち合わせ場所はここからあまり遠くないし、十分な時間がある。
「わかった。お母さんに今日はいおりの家に泊まるって送っとく」
「ありがと」
「でも、大丈夫なの……?」
「なにが?」
「おばさんいないんでしょ?私なんか泊まらせて良いの?」
「あゆは、ほぼうちの子みたいなもんだから大丈夫。男とかだったらダメだけどね」
「当たり前じゃん!男なんて簡単にいれたらためだよ!?」
「分かってるよそんなこと」
いおりは少し笑った。その笑顔にホッとしつつ、同時に不安になった。
(まだ、元気がないな……)
ここまで元気がないいおりを見たのは、両親が離婚したとき以来だ。いおりのことはあまり好きではないが、こんな表情をしてほしくて約束を破った訳じゃない。
「それじゃあ、私ご飯作るからさ。いおりはお風呂にでも入ってれば?まだ入ってないんでしょ?」
「一緒に入ろう」
私は笑顔で固まる。いおりの発言に脳が追い付かなかったからだ。
やがて理解すると、みるみる心音が早くなった。
「い、いやだよ!高校生にもなって一緒にお風呂とか!恥ずかしいじゃん!」
「なんでも聞いてくれるって言った」
「うっ。で、でもこれは……」
「言った」
「……はい」
「着替えは私の使って」
いおりはタンスを開けて、服を取り出した。
まさか、はるが言っていた面白いこととはこの事か?あいつめ、分かってたのなら、教えてくれてもよかったのに。……いや、幼なじみ百合が大好きなはるのことだ。百合が展開されるかもしれない状況をわざわざ自分の手で無くすわけがない。私だって百合が起こりそうな状況をなくすことはしたくない。
でも……
(友達が百合百合している姿を見て楽しいのかね、はるは)
「じゃあ、行こっか」
「あ、うん」
いおりと一緒に脱衣所に向かう。もうどうにでもなれ、といった考えだった。脱衣所に着くと一気に服を脱いで、お風呂場にさっさっと入る。いおりは、私の後にお風呂場に入った。ぱぱっと髪を洗って泡を流し、次に体を洗おうとすると、いおりから声がかかった。
「私が洗ってあげる」
「えぇ!?いいよ!」
「ダメ。私が洗いたいの。なんでも聞いてくれるんでしょ?」
「……わかったよ」
なんでもやるなんて言わなきゃよかった。心のなかでごねる。そんなことして意味がないのは分かっているから、黙っていおりに体を預けた。
「いくよ」
「うん」
いおりは私の背中から腕、肩を洗い始めた。最初は恥ずかしすぎて耳が熱かったが、慣れてしまえば心地良いくらいだ。
(誰かに洗われるのって結構気持ちいいなぁ)
気持ちよさに目を細めていると、いおりがぽつりと呟いた。
「……あゆは変わらないね」
「んぅ?それは胸のサイズのこといってるのー?」
だとしたら怒るぞ、私。結構気にしてるんだからな。
「違うよ。性格的なこといってるの」
「わりと変わったと思うけどー?」
「まぁ、変わってるところの方が多いけど、私のわがままは小さい頃から聞いてくれてたでしょ?」
「あぁ、そうだったねー。いおりのわがままに振り回されてばっかりで大変だったなー」
「そんなこと言って、結構楽しんでたでしょ?」
「どうだったけなー。忘れちゃった」
嘘だ。覚えている。あの頃は、とにかくいおりと同じことがしたくて言われることはなんだってしたっけ。そのせいでお母さんに怒られたこともあるけど、案外楽しかったのを覚えている。
私はシャワーを浴びて、泡を流した。
「それじゃ、私先に出るね」
「え、お風呂は?」
「私、浸からない派なの。先出てご飯作ってるよ」
「……分かった」
言った通りお風呂場から出たあと、ご飯を作りにかかった。
(はるが言ってたこと、外れたね)
いおりが私のことを好きとか、やっぱりあり得ないよ。現実でそう簡単に百合っプルができると思ってたら大間違いだ。空想の中の世界でも同性を好きになってしまったことにあんなに悩んで苦しんでるんだから、現実で百合っプルを拝める訳がないのだ。手拍子のように百合っプルなんて出来るわけがない。
「ふぅ、気持ちよかったぁ」
「あ、いおり、食器用意してくれない?」
「分かったぁ」
調味料や道具は中学生のときにいおりの家に来たときと同じ場所にあって助かった。
(それにしても……)
私は生活感のないキッチンを見る。道具や食器などに埃が積もっていたのは使っていないからだろう。いおりは、いつも何を食べているのだろうか。菓子パンか?それともカップラーメン?インスタントとか?どれにしても毎日食べてちゃ体に悪い。でも、そのことに注意なんてできない。いおりにはいおりの毎日があって、私にも私の生活がある。毎日私がいおりの家に食べ物を届けるのは無理なのだ。お金もかかるし、何より時間がない。だから私は何も言えない。
「ん~~!やっぱりあゆの作るご飯は絶品だね!」
「そりゃどうも」
「このお肉とか口の中でほどけてく感じがしてすごく美味しいよ!」
「はいはい。わかったから、食事中は静かにねー」
苦笑いを浮かべたが、内心では結構喜んでいた。やはり自分が作った料理を誰かに食べてもらって評価されるのは嬉しい。それが嘘偽りのない言葉ならなおさらに。
いおりの機嫌はいつの間にか良くなっていて、私たちは最近人気のドラマの話をして盛り上がった。食器の片付けをした後、時計を見てみるとまだ寝るには早い時間だったから、ありあわせで朝御飯を作っておいた。明日の朝食べても良いし、明後日食べても良い。
(私にはこれくらいしかできないから)
「何してるのー?」
「ん、何でもない」
「なら早く来てー。ドラマ始まっちゃうよー」
「わかった」
その後は本当に楽しかった。ドラマを見て、いおりとバカな話をして、目一杯笑った。いおりと一緒にいてこんなに笑ったのは久しぶりだった。
「じゃあ、そろそろ寝る?」
「そうだねー」
いおりは眠たそうに目を擦った。私はあくびをした。二人とも眠くなってきているのだ。
私たちはいおりの部屋に向かった。
「ねぇ、毛布とかない?私それだけでいいから」
「ない」
おー、ではどうやって寝ろと。
「……一緒に寝れば良いじゃん」
「……さすがに狭すぎない?」
「大丈夫大丈夫。あゆはあんまり変わらないから」
「おい、それやっぱり体のこと言ってるだろ。そうなんだろ」
「ふぁ~、早く寝ようよー」
こいつ、無視しやがった。いおりは先にベッドのなかに入り、隣をポンポンと叩いた。
「ほらほら、昔はよく一緒に寝てたんだからそんなに恥ずかしがらないのー」
「別に恥ずかしがってる訳じゃ……」
「なら早く入りなよぉ」
「うっ、わかった……」
しぶしぶベッドのなかに入る。いおりはそんな私を見てにこりと微笑んだ。
「……やっぱり狭くない?」
「狭くない狭くない」
「ちょっと、抱きつかないでよ」
「よしよし」
「私は子供かい」
「私からしたらあゆはいつまでも子供だよぉ」
「一歳しか離れてないんだけど」
「よしよし」
「それで誤魔化せると思うなよ」
とは言っても、眠気が襲ってきている今。体に力が入るはずもなく、いおりに抱きつかれたまま目を閉じた。
『そんなに気になるならさ、いおりさんに直接聞けば?』
……このタイミングで思い出すか、私。
まぁ、気になったままにしておくのは何だかいやだ。モヤモヤするし、いおりに対して変な態度をとってしまうかもしれない。なら今聞いておくべきなのかもしれない。
「……あのさ、いおり」
「んぅ?なにぃ?」
「いおりって、私のこと好きなの?」
私は少し声を固くした。緊張というか、こんな事を本人に聞いてしまった恥ずかしさというか。色んな感情が今頭のなかで渦巻いている。さっきまでの眠けはどこかへ吹き飛んでしまった。
これで、もしいおりが肯定の言葉を発したら私はどうしたら良い?
この状態のまま朝を迎えるのか?
(やっぱりタイミング悪いって……)
「や、やっぱなしっ。聞かなかったことに「好きだよ」……え?」
「何その顔。自分から聞いといて」
「あ、いや。ごめん」
「あはは、謝らなくて良いよ。ほら、もう寝よ?」
「うん」
いおりは背を向けて毛布を深く被った。私は最後にひとつだけ聞いておきたくて口を開ける。
「ちなみに、その好きはどういう好き、なの?」
「……」
「と、友達がさ、いおりは私のこと……なんていうか、特別視してるって言ってきたんだよね」
「……」
「そんなことないと思うんだけど、いおりとはずっと一緒にいたから、私がそう思っているだけで友達からしたらちょっと異質だったのかなぁって思って」
「……」
返事が返ってこない。何をしてるんだ、私は。必死に言い訳みたいなこと言って、これじゃあ本当にいおりが私のことを好きみたいじゃないか。
「いおり、寝ちゃった?」
「……っ」
何か聞こえてきた気がしたけど声が小さすぎてはっきりとはわからなかった。
「いおり……?」
「……友達友達ってっ」
「なに?」
「……なんであゆは友達なんて作ったの?」
「え、それは学校で一人でいるの嫌だし、友達がいた方が楽しいじゃん」
「私だけじゃダメなの?」
「え?」
「あゆの友達は私だけじゃダメなの?私の方がずっとあゆと一緒にいたのにどうして私じゃなくてその友達を優先するの?私の方が絶対……っ」
そこでいおりは言い止まる。私はいおりの変貌ぶりに呆然としていた。これが世にいう独占欲というやつなのだろうか。いおりは自分より友達を優先した私が気にくわなかったのか。でも、それじゃあ私は一生友達と遊ぶことができなくなる。私にだって感情があるんだ。いおりの言葉にいちいち耳を傾けることはできない。
「……あゆは、私の本音が知りたいんだよね?」
「あ、うん……」
「じゃあ、教えてあげる」
「え?」
いおりの動きは速かった。私の両手首をおさえて、押し倒すような形で……というか押し倒された。いおりはじっと私を見てくる。あまりの速さに声をあげることも抵抗することもできなかった。
「何されるか、分かるよね?」
「……」
「私ね、小学校ぐらいからあゆのこと好きだったんだよ。あの頃両親が離婚して、不安で一杯だったのをあゆが支えてくれた。傍にいてくれた」
「……」
「好きだってわかって、本当に幸せだった。あゆと一緒にいると満たされる感じがしたの」
「……」
「でも恋愛ってそれだけじゃないんだよね。今は嫉妬もするようになったし、独り占めしたいって思うようになってて、上手く自分をコントロールできないの」
「……」
私は何も言わない。ただじっといおりの顔を見つめていた。
「……ねぇ、何か言ってよ」
「……」
「私のこと気持ち悪いって思った?こんな目でみられてるなんて思いもよらなかった?」
「……気持ち悪いなんて思ってないよ。確かにビックリしたけど気持ち悪いとは絶対に思わない」
だって私百合好きだもん。百合好きが百合を気持ち悪がってどうすんだって話だ。なかには現実は無理っていう人もいるけど、私は別に両方いける。見る分には、だけど。
「はは、何それ。これから気持ち悪いことされるのを知っててもそんなこと言えるんだ」
「……大丈夫。いおりは絶対そんなことしないから」
「はぁ?そんなわけないじゃん」
「いおりは私が本気で嫌がっていることをするとは思えないから」
いおりとは小さい頃からの仲なんだ。それくらいわかる。いおりが本気じゃないってことくらい。私の立場ならもっと取り乱してもよかったのかもしれない。でも、今冷静でいられるのは――
「そんな辛そうな顔してるのに私に何かできるわけないじゃん」
「っ」
「辛いんでしょ?こんなこといおりは望んでなんかいないんだよね?」
「ち、ちがうっ!私は本気で……っ」
「ならなんで手震えてるの」
先ほどから私の手首をつかんでいるいおりの両手は震えていた。これが動かぬ証拠だ。いおりは息をつまらせた後、目を瞑って手を離した。
「……あゆにはかなわないね」
いおりは悲しげに微笑む。
「ちょっと怖がらしてやろうと思ったのに」
「私がいおりを怖がるわけないじゃん」
「はは……私がどんな人間かも知らないでよく言えるね」
冷たい声だ。こんな声を私は聞いたことがある。あれは確か、いおりの両親が離婚したときのこと。一人で塞ぎ混んでいたいおりはこんな声だった。冷たくて、辛そうな声。
無理してるのがバレバレだ。私はいおりの腕をつかんで体勢を崩させた。
「な、なに……っ」
「いいから」
いおりを強く抱き締める。安心させるために頭を撫でた。出来るだけ優しい声で問いかける。
「……いおり何かあったでしょ?」
「な、なんのこと……?」
「今日のいおりはおかしいもん。色々と。こういうときは大体何かあったときでしょ?」
「……」
「言ってみてよ。言わずに溜め込むなんていおりらしくないよ?」
いおりは、言いたいことがあるならはっきりというし、溜め込むことが苦手だ。そんないおりが私に言うのを躊躇っている。余程言いたくないことなのだろう。でもそこで引き下がるほど、私はいおりの事をどうでも良いと思えない。
私はしっかりといおりの目をみた。
「大丈夫だから。言ってみて。……ね?」
「っ」
いおりは今我にかえったように目を大きく開いて、泣きそうな顔になった。
「……何があったの?」
「わ、私、私は……っ!」
「ゆっくりで良いよ。落ち着いて」
私はいおりの頬に触れ、落ち着かせる。いおりは深呼吸をした。
「……わ、私ね、お母さんと喧嘩しちゃったの」
「おばさんと?なんで?」
「……」
「あ、言いたくないなら言わなくて良いよ」
「ち、ちがっ。言いたくない訳じゃなくて……どう言ったら良いのか分からなくて……」
「ならゆっくりで良いよ。待つから」
「うん……」
いおりは目を閉じて何度か深呼吸をする。決意が決まったのか、目を開き私をじっと見てきた。
「……お母さん、ね」
「うん」
「今、付き合っている人がいるらしくてその人と結婚考えてるんだって」
「結婚?」
「うん。それで私反対しちゃったの……」
「……どうして?」
「だって、もしお母さんがその人と結婚して子供が生まれたら私邪魔になるから……」
「おばさんがいおりを邪魔なんて思う訳ないじゃん」
おばさんはいおりの事を何より大事に思っているはずだ。おばさんのいおりへの溺愛ぶりは小さい頃から知っている。それはおじさんと離婚しても変わっていない。
「でも……」
「そんなに不安ならその事をおばさんに言ってみなよ。絶対大丈夫だから」
多分、いおりが今不安がっているようにおばさんも不安だと思う。一度失敗してしまったことをもう一度やり直すという行為は勇気が必要だ。そしておばさんの場合いおりの許可だって必要だ。親のなかには子供の気持ちなんて考えない自分勝手な人もいるがおばさんはそんな人ではない。
瞳を揺らして不安がっているいおりの手を握る。
「大丈夫。おばさんとまた何かあったら私が話聞くから」
「うん……」
よし、これでひとまず大丈夫だ。ホッと安堵していると横から寝息が聞こえてきた。見るといおりが安らいだ顔で眠っていた。私の手を離さずに。
(人騒がせなやつ)
昔からいおりは自分勝手ですぐ怒るし、拗ねる。めんどくさいこときわまりない。でもそんないおりのことを姉として慕っていたのも事実。
いつもは強気なくせに些細なことで不安になっているいおりを何度目にしてきたことか。いおりの危うさを理解してくれる誰かが傍にいてあげないといけない。それが今は私だっただけ。さっきの告白は不安から来たものだと思う。だからあれはノーカンだ。この先いおりにだっていい人が見つかるだろうし、その時今日のことをいじってやろう。うん、そうしよう。
寝る前にいおりが私以外の隣で幸せそうにしている姿を想像した。そんないおりを目にしたら、私はきっと心からの祝福の言葉を口にするだろう。……少し寂しいな、と思ったのはここだけの秘密だ。
<いおり>
朝、目を覚ますとあゆの顔が目に映った。気持ち良さそうに眠っている。
可愛いなぁ。
あゆは可愛い。すごく可愛い。あゆは真面目でしっかりしている子だ。私より一歳年下のはずなのに話していると私の方が子供みたいに駄々をこねてしまう。
それはあゆが優しすぎるからだと思う。私のわがままをめんどくさそうな顔をしても聞いてくれる。どこまで懐が広いのか。普通キレるでしょ、ここまでしたらって私が思ってもあゆは怒らなかった。多分あゆは怒鳴ったり、言い合うことが苦手なんだ。自分がその場の雰囲気を悪くするのを嫌っているんだと思う。いつからそんな風になったのかわからない。そんなあゆに甘えきっている私はダメなやつだ。昨日もあゆを困らせてしまったし、甘えてしまっていた。
(そういえば私、昨日あゆに好きっていったんだっけ……)
じわじわと頬に熱が集まっていった。熱い。猛烈に熱い。毛布なんて被ってられない。だけど動いてしまったらあゆが起きてしまうかもしれない。そうしたら握っている手を離さなければならない。
(もう少しだけこのままでいたい)
昨夜の告白は私の本音だ。私はあゆが好きで最近では嫉妬という感情を覚えて苦労している。好きだと口にできたのは嬉しいことだが、あゆが起きたらどんな反応をしたら良いのかわからない。
(ま、まずはおはよう?それとも告白の返事を聞くべき?それとも……)
「ん……んぁぁ………」
「っ」
oh、バッドタイミング。あゆが起きてしまった。
「……おはよぉ」
「お、おはよ」
「?」
あゆが首をかしげた。可愛い。……じゃなくて!私は名残惜しいがあゆの手を離してベッドの上に正座する。
「あ、あのさ、あゆ……」
「んぅ?なに?」
「き、昨日、私こ、ここここっ!」
「……鳥のまね?」
「ちがう!」
「ははは、わかってるよ。昨日の告白のことでしょ?」
「へ?」
「あれ、違った?」
「ち、ちがわない!そのぉ……こ、告白のこと」
あゆから告白のことを切り出してくれるなんて……。もしかして良い返事を聞けるのではないだろうか。期待に胸を弾ませているとあゆは全く検討違いな事を話し出した。
「大丈夫だよ。いおりが昨日不安定だったのは理解してるからさ、無かったことにしよっか。お互い昨日のことは忘れちゃおうよ」
「……」
曇りのない笑顔。
あー、そうだったね。あゆはそういう子だったよねぇ……。今まで好意を口には出さなかったけど、わかりやすく態度で好意を示してきたつもりだ。それでもあゆは気付かなかった。
「どうかした?」
「……」
これまで好意を口に出さなかったのが悪いんだし、あゆに怒るのは筋違いだ。……筋違いだって分かってるのに…………。
(いや、分かってたよ?あゆが恋愛ごとに鈍いのはずっと一緒にいた私が一番よくわかってますとも。でも、でもさ、ちょっとは意識したって良いんじゃないかな。ていうか何でここまで無防備なの?私昨日押し倒したんだよ?そんな可愛い顔で見てきてさ。また押し倒しても良いってこと?いや、しませんけども)
「いおり?」
純真な瞳。向けられる謎の信頼感。
好きな人に信頼されてるのはうれしいんだけど、信頼されすぎるのも問題だ。
「………昨日のこと無かったことにしないで」
「え、なんで?」
聞く!?そこ聞く!?言わないとわからないの!?……あ、分からないんだった。
「……だ、から………」
「え?」
「っ。……き、昨日の告白っ!本気だから!」
何とか羞恥心をこらえて長年ためてきた想いを吐き出すことに成功した。
どうだ!これでわかっただろう!私の気持ちが!
これでもとぼけるつもりなら押し倒してやる!
閉じていた目を少し開けてあゆの様子を見てみる。これは怖いもの見たさというやつだ。
あゆはピクリとも動いていなかった。
(え、なに?何考えてるのか全然わからないんだけど)
不安がっていたのもつかの間。あゆの頬が火がついたように真っ赤になっていった。
「え、えぇぇぇぇええ!?」
「ちょ、うるさいってば」
「な、いおりのせいでしょ!」
「まぁ、そうなんだけど……」
「なんでそんなに冷静なの!?」
「いやぁ、予想以上にあゆが驚いてるから緊張が解けちゃって」
「性格悪!」
あたふたとしているあゆに追い打ちをかけるため、詰め寄る。
「……あゆは、私のことどう思ってるの?」
「ど、どう思ってるったって……」
「好き? 嫌い?」
「え、っと……普通………?」
どうして疑問系なのだ。そこははっきり好きだといってほしかった。でも、それでも嫌われていないことに嬉しさが込み上げてくるのは惚れてしまった弱味か。
「じゃあ、私とキスとかできる?」
「キ……っ!? で、できるわけないじゃん!」
「ふむ。あゆは私を友達としか見てないんだね」
「あ、当たり前でしょ!」
「それより先のこともできない?」
「なんでハードル上がってるの!?」
昨日の様子でなんとなくわかったが、あゆは同性同士だということに何の拒否反応がない。告白に対して気持ち悪いともいってこない。それどころか顔を真っ赤にして照れている。
(これはもしかしたらチャンスあるのでは?)
「よしっ。決めた!」
「っ、な、何を……?」
先程からびくびくしているあゆに向かって嬉々とした笑顔を浮かべ、告げる。
「あゆには私のこと絶対に好きになってもらう!」
今まで想いを伝えることを躊躇ってきたのがアホらしく思えるほど良い笑顔で私はあゆに想いをぶつけた。
あゆは口を半分開いておかしな顔になっていた。そんなあゆもかわいいけど!
<おまけ>
サイン会にて。
「どうしよ、どうしよ、どうしょぉ……っ!!」
「そんな考えなくても良いんじゃない?付き合っちゃいなよ」
「う~、他人事だと思ってぇ……」
「だって同性に告白されるなんて滅多にないてしょ。一回付き合ってみるのも良いと思うよ」
「……楽しんでるでしょ、はる」
「うん」
「そこは嘘でも違うっていえー!!」
「はっはっはっ」
「このぉ……。私のこと笑っていられるのも今だけだからね!もしかしたらはるだってお姉さんに告白されるかもしれないんだからね!」
「いや、それはありえないでしょ」
「わからないよ?もしかしたらはるのお姉さんははるのこと好きかもしれないじゃん」
「……それはライクの方だよね?」
「ラブの意味で」
「……いや、ありえない。ていうかそれか本当なら普通にキモい」
「ま、そのときは相談してよ。話聞くから」
「……からかいたいだけでしょ」
「あたり」
「このやろぉ」
「おあいこだから」
「……もしそんなときが来たら本当に相談するからね」
「ん、了解。存分に頼っていいよっ」
「はいはい。頼らせていただきます」
二人は気付かなかった。
「はるちゃん……」
二人が言い合っている姿を見て親の敵でも見るかのようにあゆを睨んでいる女性がいたことに。
百合好きがガチ百合に好かれたらどうなるのかなぁ、とずっと考えていた結果こんなことになりましたw付き合うまではいっていませんが、これからどうなるんですかねぇ((遠い目