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3 ねこ

3 ねこ




 「相変わらず精がでるのう。最近働きすぎじゃないかのう。」

 「はははっ、清狐様、僕は一度やり始めちゃうと気になる性分みたいです。」

 僕こと小鳥遊流清は草刈り機を手に正宗が眠っているお墓のある神社の中腹の笹薮を刈り取っていた。ある程度は藪を残す予定のため、ひもで区画を決め刈り取り始めている。笹薮というのは通常の藪とは違って固い茎のため、ちゃんと手入れをしないと人が入ることができない。刈り取った笹薮を回収するのも一苦労だ。1メートル四方を刈り取って、家庭用ごみ袋8袋もごみがでてしまっている。清狐様はその辺に捨てておけというが、そのまま捨てておくと虫が大量に沸いてしまう。虫は僕も嫌いだが妹はもっと虫が嫌いなので、僕のせいで虫がわいたとなってはご飯を作ってもらえなくなりそうだ。朝晩とご飯を作ってもらっていて胃袋を掴まれている僕としては妹には逆らいたくないというか逆らえない。

 「清狐様は何かしてもらいたいことありますか?」 

 「われはなあ・・・、ないの。」

 「ふふふっ、結構欲がない神様ですよね、清狐様は。」

 「う~む、狩られた鷹を安らかに常夜に送るために祀られたわれゆえに、穏やかな性格なのじゃろうなあ。それにあれよ、冷蔵庫がもうすぐに届くではないか、それが楽しみでのう。」

 「清狐様に喜んでいただいてよかったですよ。神様の力を蓄えるためには神様の好きなものを奉納するのがいいみたいですからね。大きな買い物をしてしまいました。ふぅ」

 「勝利がためておいた金は数千万もあったではないか、少しくらいわれのわがままにつかってもばちなど当たらぬわい。」

 「清狐様を責めてはいませんよ。ただ神社の屋根を修理するとなると最低100万かかるみたいですし、お金かかりますね~」

 「まさかお前屋根も自分で直す気か。」

 「ちょっと考えたんですけど、いやさすがに無理ですから前回やってもらった工務店に見積もり取ってもらっています。ドローン飛ばして屋根を見てみたらあんなにボロボロになっているとは思っていませんでしたよ。」

 「雨、風は防げておるからのう。」

 「清狐様防げてませんでしたよ。この前の台風で屋根が一部欠けて、穴が開いている場所から天井に雨水がしみてきていて、カビが生えていましたから。」

 「まあしょうがないさ、信者がほとんどいない神社なんて朽ちるだけじゃからのう。われも神社と共に消えてなくなる運命なのじゃ。」

 「いやいや、神社は直しますし、清狐様には末永く神様として奉らせてもらいますよ。」

 「敬ってもらえるのなら、シャキシャキ君をもう一本くれんかの。ソーダ味がいいぞ。」

 「シャキシャキ君は1回1本って決めたじゃないですか。神様が約束をたがえてどうするんですか?」

 「いやこう暑いと涼をとりたいと思うじゃろ。暑い時はシャキシャキ君が一番なのじゃよ。」

 「とりあえずこれを食べてください。」

 僕はクーラーボックスからチューチューを取り出して清狐様に渡した。

 「なんじゃこれは?」

 清狐様は物珍しそうに30センチほどの棒状の氷菓子を見つめていた。真ん中で折って2つに割れたら、切り口からこれを食べてください。

 「おおなんじゃ、2つになってお得だのう。いいのか2つとも食べてよいのか?」

 「どうぞ食べてください。」

 「これはこれでうまいのう、シャキシャキ君には劣るがこれはこれでいい感じじゃぞ。」

 「清狐様、一回当たりシャキシャキ君1本とこのチューチュー1本でどうでしょうか?」

 「うむこれならわれも幸せな気持ちになれるぞ。」

 おじいちゃんから神社の費用としてお金を残してもらったが、さすがにシャキシャキ君を食べるために使うのにはためらわれたため、僕の小遣いからシャキシャキ君を買っているんだけど、1日3本食べるとバカにならない。清狐様1本10円のチューチューで満足してもらってありがとうございます。僕がお金稼げるようになりましたらいっぱいシャキシャキ君食べさせてあげますからね。

 僕は少し休んだあと笹薮を刈り込み始めた。少し狩り進むと小さな本当に小さな石を積み上げた30センチほどの石山があった。

 「おおーっ、久しぶりじゃ、本当に久しぶりじゃ。」

 「何か知っているのですか清狐様。」

 「ほれここを見てみろ、小さな穴が開いておるじゃろう。ここから出入りしているものとは旧知の中でのう。ちょっと話しかけてみるかのう。」

 そういうと清狐様は穴の近くに寝転がり、

 「おーい、いるかいのぅ。」

と声を掛けた。しばらく待ってみたが何も起こらなかった。ふんふんと穴の周りの臭いをかいでいた。

 「ふむ、今はこの穴に住んではいないみたいじゃな。あいつらの臭いはせんみたいだ。ネズミが住んでいるみたいだな。」

 「埋めておいた方がいいですかね?」

 「巣穴の入り口を埋めても他の入り口を作るだけじゃぞ。やるなら殺鼠剤を撒くのじゃな。正宗の墓があるのにネズミに出入りされていたら面白くないじゃろからな。」

 「清狐様も色々考えているのですね。」

 「いつも思いつきで行っているわけではないぞ。ちゃんと考えて行動することもあるのじゃ。」

 「ところでここに住んでいた方はどのような方だったんですか?」

 「ふむっ、内緒じゃ。くっくっくっ。」

 そういった清狐様はちょっといたずらをするときの顔をしていた。ちょっと気にはなったけど、まあいいや。

 「ところでのう1つおぬしに頼みがあるのじゃがのう。」

 「シャキシャキ君は1本までですよ。」

 「シャキシャキ君の話ではないわ、馬鹿者が。正宗を探すときに野良猫たちと話しをしたであろう。その猫たちの憩いの場を提供してもらえぬか?」

 「神社で休みたいということですか?」

 「そうじゃな。雨が降れば軒下で、普段はその辺で日向ぼっこじゃな。」

 「それって他の神社にもよくいますよね。今までなんでいなかったんですかね。」

 「それはあれじゃ、われがこの神社には来るなっていうオーラを出しておったのじゃ。」

 「そうだったんですか?意外です、清狐様は何でもウエルカムな気がしてました。」

「うむ勝利のやつはあまり猫が好きじゃなかったからのう。まあわれも猫でもおればおぬしが学校に行っている間も退屈しないですむしのう。」

 「全然オッケーですよ。」

 「お前も軽いやつじゃのう。そんなに勝手に決めていいのかのう。ほれ柚葉のやつはどうなのじゃ?」

 「柚葉は猫大好きっ子ですよ。よく友達の家で触らしてもらっているみたいですよ。」

 「あいわかった、ではよろしく頼むぞ。」

 「猫ってトイレどこでもしちゃいますよね。掃除が面倒ですね。」

 「うむ、われが場所を教えればそこでしかしなくなると思うぞ。」

 「そんなこともできるんですか?」

 「家で飼われている猫じゃってどこでもするわけでもなかろう。われがそこはしっかり教えておこうぞ。あと猫が神社に来るのであれば、ネズミの巣穴も殺鼠剤撒くこともないからのう。土地が弱ってしまうのじゃ、薬剤を使うとのう。われも鼻が効くからのう、苦手なのじゃ。」

 「なんか神社を守っている神様って感じがでてきていますね。」

 「当り前じゃ、我はこの神社に奉られている天狐の清狐じゃからのう。」

 ふふん、と清狐様は腰に手を当て背をそり威厳ある姿を見せてきた。身長が低いのであまり偉そうに見えない。

 「猫は砂利敷き詰めるといいですかね。」

 「うむそうしてもらうとあやつらもとても喜ぶと思うぞ。後いいことあるかもしれぬぞ。」

 「ネズミとかせみをプレゼントされるのは嫌ですよ。」

 「もっといいことじゃ。まあ楽しみにしておれ。」




 猫用のトイレを作って数日後から猫たちが神社の境内で寛ぐようになった。清狐様曰くえさは各自調達しているそうなので心配ないようだ。

 「まああやつらもそれぞれパトロンを持っておるそうじゃ。だから心配するな、神社は猫たちの集会所といったところじゃの。」

 パトロンの意味が分からなかったが猫は神社で寛ぎ始めてから、近所の人たちが猫の様子を見に来るようになった。その人たちと猫が一緒に帰ることもあってほほえましく思っていた

 「猫たちはそれぞれ餌を貰える家があるってことじゃよ。気が向いたらその家に泊まったりしての。」

 「なるほど口コミでこの神社に猫がいるって分かって迎えに来たりしているんですね。」

 「そうじゃ猫に会いに来たついでに神社に参拝してくれるようになったじゃろ。」

 「そういわれてみれば神社にある鈴を鳴らされることも増えたような。」

 「ああ、実際増えておるのじゃよ。おかげで見よ。」

 清狐様はしっぽを僕に見せてきた。以前より艶やかな気がした。

 「しっぽが神々しくなってませんか?」

 僕は少しほめたたえるいい方をした。

 「そうじゃろ、少し力が戻ってきたようじゃな。」

 「力が戻るとどんなことができるようになるんですか?」

 「それは秘密じゃ。力が戻ったらおぬしに一番に見せるから待っておれじゃ。」

 そう言ってころころ笑う清狐様はとても愛らしかった。


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