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2 猫がいて神様がいて

2 猫がいて、神様がいて




 「おぬし何かいい案はうかんだかいの~」

 清狐様が僕に訪ねてくる。

 「いやあ特に思いつかないですね~」

 「やる気があるのか!この由緒正しい鷹取神社の存続がかかっておるのじゃぞ。真剣に考えないか馬鹿者が。」

 馬鹿者がというのが口癖の口の悪い狐の神様、清狐様と神社に参拝客を増やす計画を話し合っていた。ちなみに清狐様の姿は140センチのかわいらしい巫女の姿なので馬鹿者がといわれても怖くはなく、姿とのギャップでほほえましくさえ感じてしまう。

 ちなみに僕こと小鳥遊清流は170センチ62キロとやや筋肉質な平均的な体格をしている。髪は前髪が3センチ程でつんつんとたてていて、横と後ろは3ミリに刈り込んでいる。家に帰るまでの階段で汗がとどまることを知らないほど出てくるので短くしておかないと汗くさいと妹に怒られてしまう。顔はまあ普通より少しだけかっこいいかもしれない。小学生の時と中学生の時の2回告白されたことがあるから。

 「行くぞ、流清。いつもお参りに来てくれていた和子が来ておらん。毎日来てくれる熱心な信者は和子しかおらんからの。由々しき事態じゃ。」

 「清狐様、こんなに暑くちゃ階段上ってくるのも大変だし涼しくなったら来てくれますよ。」 

 「いいや、和子はの~、去年も一昨年もそのまた前の年も暑くても寒くてもずっと来てくれたのじゃ。お前は気にならんのか?うちの熱心な信者は和子と和則(かずのり


)だけじゃぞ。」

 「和則というのはだんなさんですか?」

 「馬鹿者が。和子が連れてきている秋田犬の名じゃ。たまに境内におしっこする悪さもするがまあ愛嬌があってかわいいいぬころであるな。わしのことが見える珍しいいぬころじゃな。」

 和子さんて熱心な信者というより犬の散歩に来ているだけじゃないのか?と思ったけど馬鹿者がって言われるのが分かっているので話すのはやめておくことにした。

 「さあシャキシャキ君食べ終わったら和子のところに行くぞ。」

 シャリシャリシャリ、今日は清狐様の分のシャキシャキ君も持ってきて二人で涼しい気持ちに浸っていた。

 「和子さんの場所って分かるんですか?」

 「いや分からん。」

 「ええ~、さすがに和子さんの家探すのは無理じゃないですか?最近表札がない家も多いことですし、やめませんか?」

 「馬鹿者が、わしを誰だと思っている。時の執政者が鷹狩りを行った際に仕留めた獲物を供養するために祀られたわれの神の御業みわざをとくとみることじゃな。」

 「どんなことができるのですか。」

 僕はワクワクしながら聞いてみた。

 「においをたどればよいのじゃよ。」

 どや顔をして腰に手をあててどうじゃ凄いだろうという顔をして神様を答えた。ふさふさのしっぽもぶんぶんとふっていた。

 「へっ、犬みたいじゃないですか?」

 「なんだと~、われを犬と一緒にするではない。われは狐の顕現した姿じゃぞ。ありがたいんじゃぞ、崇め、奉られる存在よ。」

狐耳がピコピコと動いた姿はとてもかわいらしかったけどかわいいとかいったら馬鹿者がって言われそうなので丁重にあやまった。

 「清狐様すいません、失言をお許しください。」

 「うむ分かればよい。ではゆくぞ。」

 すんすんすん、清狐様はあちこちの匂いを嗅いで回っているが、姿が見えていないからいいものの見えていたらただの変態だよ。清狐様が和子さんの匂いを追って15分ほど歩くと、

 「ここみたいじゃな、和子の家は。さあいくぞい、流清がインターフォンを鳴らさぬか。」

 「いやいや、清狐様は姿が見えませんよね。」

 「当り前じゃ、神様がそうそう皆に姿を見せると思うなよ。」

 「神様~、僕下手したら犯罪者になっちゃいますよ~どこの世界に神社に来なくなったかた心配で教えられてもいない家を訪問する高校生がいますか?」

 「おぬしが何をいっているのか分からんぞ。困っている信者がいたら助けるのが当たり前じゃぞ。ほれ押すがよい。」

 「いや~だ~、僕の穏やかな高校生活が~」

 「ええ~い、世話がやけるわ。」

 清狐様はす~っと、自然に僕の体の中に入っていく。

 (えっえっ、どうなっているの?)

 「おぬしの身体に入らせてもらったぞ。くっくっくっ。任せておれよ。」

 (ものすごく不安な気持ちになってくる。)

 ピンポーン。

 (ああ、鳴らしちゃったよ。神様お願いします。変なことをしゃべらないでください。僕の穏やかな高校生活を壊さないでください。)

 「何をいうておるのじゃ。神様はおまえの一番ちかくにいるじゃろうが。しっかりせいこれからが本番なのじゃぞ。」

 「はーい。」

 扉を開けて家から僕と同じ年頃の若い女性がでてきた。

 「鷹峯たかみね神社から来たものじゃが~和子はいるかね?」

 (おーい、いきなりやっちゃったよ。出鼻からやらかさないでくださいよ、神様。どこの高校生が年配の女性を呼び捨てで呼ぶんだよ、しかも名前の方を。)

 「和子ってあなたとお母さんに何か関係があるんですか?」

 「関係は大ありじゃ。和子はわれが住みかとしている鷹峯神社に毎日参拝に来てくれるとても素晴らしい信徒なのじゃ。その和子が最近参拝にこないから心配できてみたのじゃ。」

 (そんなしゃべり方する高校生どこにもいないから。僕の平和な高校生活が終わってしまうよ。助けてどこかの偉い神様。)

 「ええい、いちいちうるさいやつじゃな、じゃあお前が話をしてみるか。」

 「えええっ、急に変わらないでよ。」

 「あなた誰なんですか?すごく怪しいんですけど。」

 「あ、突然すいません。鷹峯神社の者ですが、最近和子さんが神社に来られないものですから、様子をお伺いに来たのですが。」

 「あ、そうですか。ふ~ん。何か急に話し方変わるしすごく怪しいんですけど・・・、確かに母は鷹峯神社によく行っていましたが・・・。」

 う~ん、かなり怪しんでいてこれ以上話をしようか考えている。

 「最近来られなくなった原因って何かあるのでしょうか?」

 「ああっ、まあ・・・猫の正宗まさむねが家出してしまい、探しているので。」

 (そんなことか、われが探してやるっていうてみい。)

 「もしよろしければ僕たちの方でも探してみます。」

 「ああ、そうですか。よろしくお願いします。もういいですか?」

 「本当にすいませんでした。本当に怪しいものじゃないのでそれだけは信じてください。」

 僕が言い終わらないうちにドアは閉まってしまった。

 (なんじゃせっかく神様が来てやったというのにつれない態度じゃのう。まあいいか、われは寛大な神様ゆえこのくらいのことで腹を立てたりしないわ。)

 シャキシャキ君が無かっただけでも怒り出す癖に良くいうよ。

 「あの~清狐様、あの会話はだめですよ。完全な不審者ですよ、通報されてもおかしくないくらいの。」 

 (なんじゃあのくらい普通じゃ、われが勝利と出かけていた時はあんな感じじゃったぞ。なにもおかしくないわい。)

 「時代が違うと思いますよ。父親が公園に子供を連れてきて遊んでいたら誘拐の疑いで通報されちゃう時代ですから。」

 (はあっ、なんで自分の子供と遊んでいたら訴えられるのじゃ。おかしいぞ、おかしいぞ。この国はおかしくなっているぞ。われが顕現したからには世直しをしないといけないぞ。われと流清で世直しぞ。)

 「神様こんな事繰り返していたら、僕はいつか警察に捕まる予感しかしませんよ。」

 (何を言うておる流清よ、世直しというのはな気づいていない国民どもに正しいことを教える崇高な行為ぞ。今はひとまず置いておいてまずは猫を探すとするか。)

 世直しから比べるとだいぶやることがちっちゃくなっちゃったけど、猫探しをすることになった。

 「猫の写真貰ってないんですが探せますかね?」

 (馬鹿者、われを誰だと思っている。鷹峯神社に奉られている天狐の清狐なるぞ。猫の言葉くらい分かるからな、その辺の猫に聞き込みしてくるわ。)

 清狐様は憑依をやっと解いてくれ、猫に聞き込みを開始した。何匹目の猫に聞き込みをすると思わぬことが分かった。

 「神様居場所は分かったのですか?」

 「うむ、場所は分かったのじゃが・・・。」

 「行かないんですか?」

 「・・・・・・行くしかあるまいの。ではついてまいれ。」

 少し考えこんでから、清狐様は歩き始めた。

 神様の後をついていくと見慣れた場所へと入って行った。ていうか鷹峯神社に戻ってきた。300段ある階段の中腹を脇にそれると笹の茂っている獣道がある。

 「おぬしはここで待っておれ。」

 「はい。」

 清狐様はその先へと進んでいった。10分ほどすると清狐様は戻ってきた。

 「いましたか?」

 「いるにはいたのじゃがのぅ・・・。」 

 「じゃあ和子さんに早く教えてあげないと。また逃げちゃうと探すのが大変ですし。」

 「う~ん。正宗じゃがの、もうすぐ死ぬのじゃ。」

 「えっ、死ぬんですか?」

 「老衰じゃ。老衰ではわれが何かをすることもできないからのう。14年も生きておれば猫としては大往生の部類じゃろう。」

 「じゃあ早く和子さんに知らせないと・・。」

 「馬鹿者が、おぬしは猫のこと分かっておらんのう、本当におぬしは分かっておらん。それでも鷹峯神社の跡取りか?」

 僕はまだ鷹峯神社を継ぐかどうかは考えていないんですけど。

 「猫はのぅ、体調不良になると行方を知られずに隠れるものじゃぞ。まあ猫の本能というやつじゃ。正宗のやつは自分が生まれたこの神社に身をひそめることを決めたのじゃな。」

 「そうなんですか、じゃあどうすればいいのですか?」

 「馬鹿者、すぐにわれに聞くでないわ。勝利は自分で考えて行動しておったぞ。まあしかしおぬしもまだ15歳だからのぅ、われが考えるとするかのぅ。」

 「正宗が亡くなるまではわれが様子を見ていようぞ。看取りが終わったら和子に知らせて亡骸を渡そうぞ。それでよいな。」

 「はい。」

 「では一旦神社に戻ろうぞ。」

 僕と清狐様は神社へと戻りシャキシャキ君を食べていた。

 「清狐様、ネットで調べたんですけど、猫は体が弱ると野生の本能で誰にも見られないところに身を隠すって書いてありましたけど、老衰なら家族と過ごしてもよくないですか?」

 「うむ、われもそれは考えてはいたんだがな、猫は最後はひっそりと最後を過ごすことが一番落ち着くのじゃ。家族が入れ代わり立ち代わり見にきおったら、落ち着かんしのう。それについては正宗に聞いたのじゃ。和子のところで看取ってもらうかどうかとな。」

 「それでどういわれたんですか?」

 「生まれたこの場所の空気を感じてなくなりたいというておったわ。」

 「なんか詩人みたいですね。」

 「詩人か、どちらかというと猫は風来坊とわれは思うぞ。寝たいときに寝て、食べたいときに食べる。」

 「清狐様は動物の心が分かるんですね?」

 「分かるか馬鹿者が。お前はあれか、学校の同級生と会話ができるから相手のことが全部わかるのか?いうてみい。」

 「それは分からないですけど、清狐様には憑依の力があるじゃないですか。」

 「あれは誰にでも憑依できるわけではないからの。限られたものだけじゃ。さてシャキシャキ君も食べ終わったことだし正宗の様子を見に行ってくるわ。」

 「お願いします。」

 「すべて終わったらシャキシャキ君たっくさんごちそうしろよ。お前は1本しかくれんからのう。」

 「普通は一本しかたべませんよ。」

 清狐様はすうっと天井から外へと飛んでいった。




 「これっ、起きろ。」

 「あ、おはようございます、清狐様。」

 「正宗が亡くなったぞ。」

 「そうですか。残念ですけど和子さんに知らせに行かないといけないですね。」

 「お前は今日学校じゃなかったか?」

 「和子さんにお知らせしてから学校行きますよ。そのままだとかわいそうですからね。」

 「ふむいい心がけじゃな。」

 「皆勤賞狙うような真面目な性格じゃないものですから。」

 「ふむ、いつ出かけるかの?」

 「朝食食べてからにします。あまり朝早くに伺っても疑われそうですし。」

 「ふむ、そうじゃの。おぬしが不審者で死刑になってもつまらんしの。」

 「不審者扱いされたくらいで死刑になっていたら命がいくつあっても足りないですよ。特に清狐様と行動しているといつ不審者扱いされるかわかりまませんから。」

 「かっかっかっ、そうじゃろうなあ。普段の行いしだいじゃぞ、まあおぬしではまだまだじゃからの。おぬしは早くご飯を食べてこい。われは正宗のそばにいてやろうとおもう。」

 「分かりました。お願いしします。」

 

 「おはよう、柚葉ゆずは。」

 台所で弁当を作っている柚葉は、中学1年生で、身長162センチで学校では大きいほうだという。体重は知らないがすらっとしていてスタイルはいいほうだと思う。髪は肩まであるロングの黒髪で、胸はスリムとぼやかしておく。吹奏楽部に入っていて高校は軽音楽部に入りたいようだ。

 「お兄ちゃんおはよう。おかずはできているからご飯は自分でよそってね。」

 「ありがとう。」

 ご飯を柚葉の分もよそいテーブルに置いた。

 「ではいただきます。」

 「お兄ちゃんはお弁当いらないんだよね。」

 「いらないよ、購買があるからね。」

 「いいよね~高校生は、中学は弁当しかだめって面倒なことこの上ないよ。」

 「そうだよな~、少し前までは柚葉に弁当もつくってもらっていたんだもんなあ。感謝しかないよ。」

 「ふふ~ん、誕生日は期待しておくからね。」

 「そんなに期待はするなよ。小遣い決まっているんだからさ。」

 「私に感謝を込めてバイトをしていいもの買ってくれることを期待しているよ。」

 「あまり大きな期待をしないように。」

 夏休みはバイトでもしようと思っていたけど、清狐様がなんやかんやいってきそうな気がしてならない。

 「ごちそう様、今日は少し早く出るね。」

 「お兄ちゃん部活でも始めたの?」

 「いやそういう訳じゃないんだけど、ちょっと寄り道していくところがあってね。」

 「分かった、気を付けてね。」

 「行ってきます。」

 玄関で靴を履いていると、清狐様がにゅっとドアからすり抜けてきた。

 「うわっ、いまだ慣れないですよ、清狐様が突然現れるのは。」

 「失礼な奴じゃの。こんなに愛らしい神様が現れるんだぞ、笑顔の一つでもこぼれてくるだろうに。」

 「え~自分でいっちゃうんですか。」

 「自他ともに認めるキューティ神様じゃからの。」

 「ふふふっ、かわいいのは認めますよ。じゃあ行きましょうか。」

 「うむ。」

 玄関を開けて和子さんの家へと向かう。

 「お兄ちゃん大丈夫かな。仮想の彼女と会話でもしているのかな。外でもあんな会話していたら警察に捕まっちゃうよ。」

 一度行っている家なので家まではすんなりいくことができたけど。昨日の今日だけにインターフォンを鳴らすのに躊躇してしまう。

 「ええい何をやっておる。まどろっこしいやつじゃ、押さぬのなら憑依してわれが押してやろうかの。」

 「それはやめてください。押しますから勘弁してください。」

 インターフォンを鳴らす前に、カチャとドアが開き昨日の女性がでてきた。僕と一瞬目が合うと素早くドアを閉め、ガチャっと鍵をかけた。

 「おかあさ~ん。」

 大きな声で和子さんを呼ぶ声が聞こえた。もう完全に変質者だと思われているよ。しかもうちの制服着ているじゃないか。もしかして詰んだ。始まったばかりの高校生活が夏休みに入る前に。

 ドアにチェーンを掛けた状態で少しだけドアが開くと、

 「あ~、本当に鷹峯神社の息子さん?」

 「はい、鷹峯神社に住んでいる小鳥遊清流です。猫の正宗さんが見つかりましたのでご報告に来ました。」

 「今開けますからちょっと待ってくださいね。」

 ドアが開き和子さんが顔を出す。

 「昨日娘が変な人が来たと言っていたから警戒していたけど、鷹峯神社の坊ちゃんだったのね。心配して損しちゃった。夕里ゆうり心配ないから学校行ってきなさい。」

 「分かった~。行ってきまーす。」

 夕里さんは怪訝な顔で僕を見てから出かけて行った。

 「ごめんなさいね。いま変質者とかこの辺でも出ているじゃない。だから警戒しているの。ほら夕里かわいいでしょう?」

 「そうですね。かわいいですね。へへへっ。」

 「それで正宗はどこにいるのかしら?」

 僕は一呼吸してから、

 「正宗さんは鷹峯神社で亡くなっています。」

 「えっ、亡くなっているの、なんで。」

 結構なボリュームで聞き返してきた。

 「老衰みたいです。神社の敷地で朝見つけましたのでもしよろしければ来ていただけませんか?」

 「すぐ行くわ、でもあなた学校は。」

 「これは公務ですから問題ありません。」

 「そう、ちょっと待ってね。」

 (くっくっくっ。おぬしもなかなかに嘘をつくのがうまいのう。)

 和子さんは猫を入れるキャリーバッグを片手に家から出てきた。

 「最近あの子調子が悪いんじゃないかなとは思っていたのよ。でも猫って病気を隠すのよね。前にもね風邪ひいたときにね、ご飯は普通に食べていたんだけど、他の場所で戻しちゃっていたの。普通に食べられますよ~ってアピールして、縁側の下で震えていたことがあったのね。だから今回いなくなったときにね、悪い予感はしていたの。当たって欲しくない予感は当たるものね。」

 ぽたぽたと和子さんの涙が落ちていった。

 (死は誰も逃れられぬ宿命じゃからのぅ。正宗の死をすぐには受け入れられないだろうが、いずれ刻が解決するじゃろう。)

 階段の中腹に着くと、獣道を通って正宗のいるところを案内した。この時初めて正宗を見たが、とても安らかに寝ているような死に顔だった。

 (まあわれが痛みがあるところは緩和してやったからのう。苦しまずに亡くなったと思うぞ。神が看取ってやることなぞ普通はないからのう。ぜいたくな猫じゃぞ、うん。)

 「ははっ、そうですね。本当に安らかに亡くなっていますね。神様看取りありがとうございました。」

 (うむっ、鷹峯神社で亡くなりたいという正宗に特別サービスじゃ。)

 「小鳥遊君、もう少しここで見守っていてもいいかしら?それがすんだら正宗を家に連れて帰りますから。学校あるでしょう?」

 「そうですね。神社はいつまででもいてもらって構わないですから。それではまた。」

 ぺこりと頭を下げてその場を離れた。

 「清狐様また放課後。」

 「シャキシャキ君忘れるでないぞ。」

 「分かっていますよ~。ちゃんと買ってきます。」

 神社の入り口まで清狐様に送ってもらい僕は学校へと登校した。




 放課後、和子さんが鷹峯神社へ来てくれた。

「正宗のことありがとうございました。生きているときに会えなかったのは残念でしたけど、正宗を見つけることができたのは本当に、本当に良かった。あのまま正宗を見つけることが出来なかったら、ずっといなくなったことを引きずっていたと思うの。これは感謝の品なので受け取ってね。」

 和子さんはマトヤのサブレの一番大きい箱缶に入っているものを差し出してきた。

 「何にしようか迷ったんだけど、妹さんと二人で暮らしているって聞いていたから、お菓子にしたの。どうぞ受け取ってね。」

 「ありがとうございます。遠慮しないでもらいます。」

 「それでいいにくいことなんだけど、正宗の亡くなった場所にお墓を建てることはできないかしら。もちろん場所代は払うから。厚かましいお願いなのはわかっているんだけど・・・。」

 「すいません。その件に関しては僕の一存で決めることができません。相談をしてからでいいですか?神社は死を忌み嫌う場所なのでお墓は厳しいかもですが。」

 もともと神道はいざなぎのみことといざなみの命の神話が元になっていて、死者を忌み嫌う宗教であるため、神社にお墓は建立されない。そのためいくら人ではない猫のお墓だからといって気軽に立てることはできない。まあじいちゃんに聞いていた話をしただけど。この件に関しては清狐様と父親に相談する必要がある。

 「そうよね、わがままなことをいってごめんなさい。でもあの子が最後に過ごしたかった場所にお墓を立てることが出来たらいいなと思って。」

 「いえ、こちらこそすいません。」

 和子さんが何度もお辞儀をして帰って行った。

 「厄介な案件になったのう。おぬしがいっていたように駿清に電話をしてみろ。その時に神社の資金について聞いてみよ。」

 「神社の資金て何のことですか?」

 「駿清に聞いてみよ。その方が早いからのう。」

 父と母はベトナムに転勤でいっている。支社長というにはこじんまりとしているが、そこのトップとしていっているのでこちらからの連絡には割とすぐに出てくれる。

 「もしもし忙しい時にごめん。今ちょっといい?」

 「急ぎの件か?」

 「うん、神社で飼い猫が亡くなったんだけど、亡くなった場所に猫のお墓を立てていいか?って聞かれたんだけどどうしたらいい?一応断ろうと思っているんだけど。あと神社の資金てなんなのか父さんに聞いてみようと思って。」

 「お前神様と会ったのか?」

 「まあ、高校に入学してから清狐様が現れて色々話をしているんだけど・・・。」

 「そうかまず墓の件は神様と相談して決めなさい。私は神社を継ぐ意志がないからその件に口出しをする権利はないよ。ただ土地を売るとか大きな話の時は相談しなさい、一応私が神社の権利を相続しているからね。ただ今回の墓を建てるとか土地の永続使用みたいなものは神様と決めなさい。あと法的文書を作る必要があるからなじみの司法書士の連絡先をメールで知らせるから、墓を建立する場合は聞いてみなさい。それと神社の資金というのは親父が神社を継ぐ者に残した神社のための資金のことだよ。神社の補修とかでお金が掛かるようならここから出せと貯めたお金のことだ。金庫に鷹峯神社名義の通帳があるから何かあるときはここから出しなさい。10万以上の支出があるときは相談しなさい。成人するまでは親に責任あるからね。諸々細かい話はまだあるので後でメールしておくから分からないことがあったら聞いてくれ。あと神様に流清をよろしくお願いしますと伝えてくれ。」

 「色々ありがとう。分からないことあったらまた聞くからよろしくね。」

 「ああっ、無駄遣いするなよ。じいちゃんが頑張ってためたお金だからね。そのことは心にとどめて使いなさい。」

 「うん、ありがとう。」

 「どうじゃった?」

 「清狐様と相談して決めなさいって。あと神社用の通帳があるから神社についての費用はそこから出しなさいって。」

 「われはお金のことは勝利から聞いておったからの。」

 「正宗のお墓の件なんですけどどうしたらいいですか?」

 (流清はどうしたいのじゃ?)

 「正直なところやってあげたい気はありますけど、神社にお墓はちょっとだめですよね。」

 「まあな、今はかわいいオブジェタイプのがあるじゃろ。アニメのキャラクターとかな、ああいう感じで作ってもらうならいいかもしれんぞ。」

 「そもそも神社の敷地にお墓を立てるって駄目じゃないですか?」

 「ふむ、この境内でも虫の死骸は幾らでもあるからの。その辺はどう考えておるのじゃ。」

 「自然に死骸としてそこにある者とお墓は違う気がします。」

 「なるほどのう、最終的に決めるのはおぬしじゃ、われはここに奉られしものじゃがこの神社の持ち主ではないからのう。」

 「少し考えて清狐様に相談しますね。」

 「うむ、待っておるぞ。」


 数日後僕が考えた案をプリントし清狐様に見せた。

 「ふむなかなかいいあんじゃな。われはこの案に賛成じゃぞ。」

 「そうですか良かった。では父さんに話をして実行しましょう。」











 後日譚

 「流清君お陰様でいい供養が出来ました。」

 「それは良かったです。」

 正宗のお墓は正宗が倒れていたところに近い場所に50センチほどの犬の石像が建立された。神社の石段からここに来るまでの獣道は拡張して、地面は石畳を敷き詰めて雨でぬかるむことのないようにした。この辺の作業は土日をかけて僕がやったので腕がパンパンになってしまい、学校の授業のノートをとるのが一週間ほど大変だった。

「うまくいったのう。最初にしては上出来だったぞ。」

 清狐様はいたく満足げにうなづいていた。

 「清狐様、土地の代金より諸々のお金の方がかかってしまったのはどうしたものでしょうか?」

 「くっくっ、最初にしては上出来じゃ。司法書士も次からは頼まなくてもできるだろし、芝刈り機等も次からは金掛からないじゃろう。しかしのう、神社の敷地に坊さん呼ぶのはどうかと思うがのう。われもびっくりしたわい。」

「そこのところは今度から神主に限るとかの文言を入れないといけないですね。」

「そうじゃのう。ところでのう、本殿にも冷蔵庫が必要だと思うんじゃ。シャキシャキ君たくさんしまえるしのう。」

 「う~ん、今回赤字だったし、儲かってからじゃダメですか?」

 「最初は必要経費でお金が出ていくもんじゃ、駿清に聞いてみよ。われのやる気が引き出せる方が何かといいと思うんじゃがのぅ。いいか神社のお金の使用の権利はわれにもあるんだからのう。これ聞いておるのか?」


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