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独白

作者: null

冬の海に横たわる。

意外と寒さは感じません。

さながら僕は自殺志願者にでも見えるでしょうか。


体の力を抜きふわふわと浮かびながら、星空に目を向ける。

そしてゆっくり目を閉じ、あの光景を思い出す。



――いつからか、寝る度にこの夢を見始めました。


手入れがきちんと施された黒いセミロングの髪がきらきらと冬の星空に照らされていて、まるで宝石のような輝きを放っています。

年端もいかぬ少女。髪を潮風に靡かせながら、僕と手を繋いでいます。


君は僕に語りかけます。

「どうしてこうなっちゃったのかな」

いつも僕はこの問いに対しての返答を困るのです。

困った顔の僕に対して、君はいつも笑顔でこちらをずっと見ています。

悩み悩んだ結果、僕が絞り出した答えはいつも同じ。

「君がそうなりたいと、願ったからじゃないかな」


在り来りな答え。それでも少女はそうだね、と答え満足します。


少しの時間、君は星空を、僕は君の顔を見て。

――君の決心の時間でしょうか。

そしてざぶざふと、僕と手を繋いだまま海へ入ります。


君の方が身長が低いですから、君の方が先にゴボゴボと海の中へ。

後を追うように僕もまた海の中にゴボゴボと入っていきます。


君はまるで下半身と引き換えに人間になった人魚のように、自由に海を楽しめなくなってしまった人間のように、ゴボゴボと苦しそうに溺れています。


僕は不思議と苦しくありません。夢だからなのでしょうか。

繋いだ手をひっぱり君を僕の方へ引き寄せ抱きしめます。

そして君は僕の腕の中で息を絶やすのです。



――君の名前も素性も知らない。夢だから起きたら忘れているのかもしれない。

君を追うようにいつの間にか冬の海へ行き、気が済むまで浮かぶようになってしまった。

愛しいという感情が芽生えてしまった僕は、ただ夢の中の君に近付きたくて仕方がないのです。




「今日は※※ちゃんの※回忌やねぇ」

「随分経ったわ。でもやっぱり娘やから忘れられんしこの季節になると悲しいなあ」

「あん時※※ちゃん唆して海連れてった男まだのうのうと生きとるん?」

「死んだらしいで。それも海で。二度と来るな言うたのに親が謝罪と一緒にこん前来たわ。自業自得やわ。」

「そりゃ塩撒くしかないなあ。※※ちゃん浮かばれへんわぁ」




どれがどの星か分からないけれど、僕は祈ります。

君が僕を見ていてくれますように、死んだ先でまたあの笑顔を見せてくれますように、と。

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