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プロローグ




「――――"プレゼント"は、嬉しいんだけど。正直こうゆうゲーム(・・・・・・・)って、一度も、やった事ないんだよねぇ……。」



 …ようやく終わったバイトから帰り、家に着いた際。すっかり頭から抜け落ちていた、自身の"誕生日"を祝し待ち構えていた家族に出迎えられ。控えめな大きさの、たっぷりな純白のクリームに赤い苺がお決まりの。ワンホールのショートケーキが食後に(きょう)され。もう既に、誕生日プレゼントを毎回強請(ねだ)る様な年齢ではないが…。人並に、今時のゲームに興味がある事を知っていた母から。ささやかな贈り物として。「今、若い女性の間で人気。」だと言う、母の謎基準で買ってきてくれたゲームのタイトルを見た時……。


 思わず引き攣りそうになった顔を引き締め。「…わぁ、ありがとうお母さん。コレ、ちょうど欲しかったんだー。」っと、嬉し気に返せた自分は。まさに、親に恥を掻かせない"親孝行"な娘であろう…。



「…やった事ないけど。まぁ、最近、あんま興味をそそるゲームも無かったし…。新ジャンル開拓ってことで、やってみるかぁ……。」



 基本的に、緩いアクション系の中古ゲームを一世代前の機器でたまに遊んだり。今では、ほぼスマホの放置ゲーやパズルゲームを中心遊ぶ"彼女"は。それ故、余り、ゲームというものに滅法強い訳ではなく…。一応、スマホで簡単にそのプレゼントされたゲームを検索し。サクサクと、そのゲームの公式ホームページを開き。黙読してゆく……。



 某、有名(?)恋愛シュミュレーションゲーム制作会社「キュアーピット」新タイトル――――『七華繚乱~薔薇乙女(レディー・ローズ)の軌跡~』と題されたその"乙女ゲーム"は。今では累計約1万本のヒットタイトルであるらしく…。


 美麗なグラフィックと作画背景、シチュエーションから。主要登場キャラクターやその他登場人物の、細かな仕草や個性豊かな言動が高評価で。薔薇に例えられた七人の美男子――――「七色の薔薇(セブンス・ローズ)」という攻略対象の多彩さと。乙女ゲームとして、王道を行きながらも…。要所要所にシビアな好感度判定システムが組まれ、少なからず「バットエンド」まで用意されたルートの多岐さも人気の要因となっている。



「…基本的に、主人公の女の子が。学院一の淑女である?『薔薇乙女レディー・ローズ』の称号を目指し?その過程で、攻略対象と色々恋愛して結ばれるって感じかな?……んー、どうなんだろうなぁ…。」



 ホームページに乗った説明と、ゲームケースに入った説明書へ印刷された。紅色(くれないいろ)に染まった真っ赤な髪を流し、同じくルビーの様に輝く瞳で微笑む。ゲーム設定上では、「幼い頃から平民として生まれ育つが。実は、許されない"出会い"の末生まれた。エストモーラ上級伯爵家の一人娘。」という。…中々ドロドロとした、若干重い出生設定が成された……。


 紅髪朱眼の可憐な"美少女"であり、何時かは淑女の中の淑女こと『薔薇乙女レディー・ローズ』――――"ロゼル・ヴァイン"の。平民時と貴族時の服装パターンで描かれた、固定操作プレイキャラクターである主人公のイラストを見つめた彼女は。「…自分は。これから、こんな美少女に成りきるのかっ。」っと、小さく息を吐きつつ…。


 しかし、偶には良いかと開き直り。早速、説明文を改めて読み込むと…。後は適当に、チュートリアル等のゲーム内アドバイスに従ってゲームを進めれば良いと考え。丁度持っていた対応のゲーム機器へカセットをセットし。ゲーム機の電源を入れ、ゲームを起動させていく…。



「お?おおーっ。結構作り込んでるっていうか、キラッキラっていうか…乙女チックだなぁ~。」



 真っ暗なゲーム画面へ製作会社ロゴが浮き上がり、直ぐ暗転すると…。ウィンドチャイムの様な軽やかな音色が、キラキラと輝くエフェクトに合わせ室内へ響き渡り。徐々に画面が白く明るくなり、鮮やかな配色が顔を見せたかと思うと。乙女ゲームらしい少女趣味なデザインのタイトル画面が映し出され。タイトルにもある「七華繚乱」の、七人の攻略対象を顕す七色が美しくタイトルの背景を彩り。主人公を現した紅色のタイトルロゴが鮮やかなその出来栄えに。


 僅かに呆れを含みながらも、思わず感嘆の言葉を漏らし。今までとは毛色の違うゲームジャンルの為、低かった"やる気"に火を付けながら。タッチパネルである画面のスタートコマンドをタップし、ゲームを開始させた彼女は。説明分通り、プロローグ前に提示される『運命の選択(チョイス・フォーチュン)』という…。七つの問いと四つの選択肢の質問の答えによって。ゲーム進行に於ける"難易度"が決まる、このゲーム独自のシステムが起動し。


 三度、暗転した画面へ。一つ目の問いと、選択肢が提示されてゆく――――…。




《 Q1.貴方はどんなモノが好きですか? 》


 〚A.美しいモノ〛 〚B.可愛いモノ〛 〚C.小さなモノ〛 〚D.光るモノ〛



「えー?好きなモノって…なんか大雑把だし…。う~ん、ここは正直に…〚D〛…かな?」



《 Q2.貴方はどんなモノが嫌いですか? 》


〚A.醜いモノ〛 〚B.怖いモノ〛 〚C.難しいモノ〛 〚D.冷たいモノ〛



「んー…まぁ、強いて言えば〚C〛だよね……。」



《 Q3.貴方の趣味は何ですか? 》

〚A.美術〛 〚B.手芸〛 〚C.散歩〛 〚D.読書〛


「……んんっ。〚D〛…って、ネット小説は入れていいのかな?」



《 Q4.貴方の好きな形はどれですか? 》

〚A.ダイヤ型〛 〚B.ハート型〛 〚C.丸型〛 〚D.星型〛


「…〚D〛だけど。回答、偏り過ぎかなー。」



《 Q5.貴方が好きな花はどちらですか? 》

〚A.薔薇〛 〚B.パンジー〛 〚C.マリーゴールド〛 〚D.椿〛

 

「うわぁ…コレ、何かスゴイ狙ってる感じするけど…。正直〚D〛です、はい。」



《 Q6.貴方の性格はどっち? 》

〚A.賢い〛 〚B.甘い〛 〚C.優しい〛 〚D.厳しい〛


「うん、〚B〛だね。自分には甘くしたいよ。」



《 Q7.貴方の好きな色はどれ? 》

〚A.紅〛 〚B.真紅〛 〚C.紅蓮〛 〚D.緋色〛


「赤系統しか無いっていうか、もろだよねコレは。…最後の問いだし、ここは〚A〛にしときますか……。」




 ……たった七つの問いに、そこそこの時間を割き。ようやく始まったプロローグを流し見、俄かに期待感が高まる中。15歳の主人公ロゼルが、母を亡くし途方に暮れている処へ。実の父親であるエストモーラ伯がせめてもの罪滅ぼしにと…正式に、ロゼルをエストモーラ上級伯爵家に迎え入れ。それから1年が経ち、晴れて上流貴族の仲間入りとして。


 ゲーム舞台となる、ローゼリオン真王国の王立魔導学院高等科へ編入する際の。満開の桜ならぬ、満開の薔薇のアーチを抜けて豪奢な学院の正門前へ一人降り立ち。…噂のエストモーラ上級伯爵の珠玉の一人娘を、一目見ようと。正門前へ屯する多くの子息子女の視線が集まる中。初めて目にした学院の正門の荘厳さに驚き、これから始まる学院生活に胸を馳せる…。


 真紅の薔薇の花弁が舞う中、純真無垢な希望に満ち満ちた朗らかな笑みを浮かべたロゼルが正門を潜る。思わず見惚れ、息をつく程の。アニメーションまでもが組み合わさった、壮麗なスチルが映し出されたのを最後に。



 ……彼女の意識は、突如その身を襲った激しい揺れによって断絶され。暗い微睡に、独り墜ちてゆく――――…。


 





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