3.お迎えのとき
ボーーーーーー
ある日、森の東の方に船が近づき、大きく汽笛を鳴らしました。
汽笛は森の奥にも届きました。
「なんの音だろう」
フササが言うと、ルカは目をつむり、耳を澄ませました。
「船だわ」
ルカはいつもの元気な声ではなく、少し小さな声で言いました。
「ここに来る前に乗っていたっていう乗り物かい?」
いつもフササの問いにすぐに答えるルカが返事をしません。
「……そうなんだね。ルカ。ルカ、その乗り物には乗らなきゃいけない。僕はそう思うよ」
「…………うん。フササ。フササ、わたしは帰らないといけないわ」
ルカはうつむいてフササの実をぎゅっと握りしめました。
「うん、お父さんとお母さんが待っているよ」
フササは身体を揺すりました。
フササの実が三粒落ちてきました。
ルカは落ちてきた実を拾ってフササを見上げました。
「ルカのお父さんとお母さんにもあげてよ。そしてもうひとつは……ルカを幸せにしてくれる人にこの実をあげるんだよ」
ルカは全部で四つの実を大切に握って胸にあてました。
「フササ、抱っこしてもらってもいい?」
「いいよ、おいで」
フササは枝を差し伸べ、頭のほうにルカを運びました。
「うわあ、やっぱりフササは背が高いなぁ。いっぱい海が見えるよ。船も、来てる。フササにも見てほしいなぁ。フササの目がもっと高いところについていたら良かったのに」
「そんなに綺麗なのかい、海ってのは?」
「うん、綺麗よ。海はね、空に合わせて色を変えるの。青だったり緑だったり赤だったり。不思議でしょ?」
「うん、不思議だね」
ルカはつつぅっとフササの枝を滑り降りてきました。
「ちょっと、ルカ危ないよ」
すとんと着地して「はい、だいじょうぶ!」ルカはにっこりとフササを見上げて笑いました。
「お別れだね」
「うん。さようなら、フササ」
ルカは大きな大きなフササの幹に抱きつきました。
フササは涙が出るのを堪えていました。
ボーーーーーーーーー
「行かなきゃ」
「うん」
ルカは見えなくなるまで手を振っていました。
フササも枝を振って応えました。
森のみんなはフササがずっとルカを見送れるように身体を傾けて道を開けていました。
小さくなるルカをフササはずっと見送ることができました。
ルカが見えなくなってしばらくすると、また汽笛の音が聞こえてきました。
ボーーーーーーーーーーーー
汽笛の音はだんだん小さくなって、やがて聞こえなくなりました。
ルカはフササが行けない国へと帰っていきました。