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恋をした森  作者: 山城木緑
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2.フササとルカ

 静かで騒がしい夜が明けました。

森のみんながフササの元に集まりました。


「ううん、あなたはキツネと言うのよ。あなたはガーベラ。きれいな色ね。それからあなたは……」

 少女の学校が開かれていました。


 森のみんなは色々なことを学びました。

 自分の名前、人間という生き物のこと。

 世界は、この森だけではなくて、とんでもなく広いということ。


「あなただけは図鑑でも見たことがないわ。こんなに大きな木は他にないもの」

 少女はフササを見上げて言いました。


「じゃあ、僕には名前が無いんだね……」

 フササがふさぎこむように言うと、少女はにっこりと笑って言いました。

「心配ないわ。わたしが名前をつけてあげる。おっきくていっぱい葉がふさふさしてるから、あなたはフサフサ! いや、うーん、フササが良いわ! 気に入った?」


「うん。気に入った」

 フササは頭をかきました。


「私の名前はルカ。よろしくね、フササ。よろしく、みんな」


 森のみんなが笑いました。花たちが揺れて踊りました。


 ルカはずっとフササの足元にいました。


 昼はルカに森のことをたくさん教えてあげました。ルカは陽気な猿のダンスを見て笑い、フササが髪の毛にアイリスを飾ってやると、とても喜びました。


 フササは身体を揺すりはじめました。

「どうしたの、フササ?」

「まあ、見てなって」

 ぽとり実が落ちてきました。まん丸の固い実が落ちてきました。金色に輝くルカが見たことのない実でした。


「すごく綺麗。見たことないわ。これはフササの実ね。世界中で私しか持っていない世界で一番綺麗な実だわ」

 ルカは実を大事に握ってフササに微笑みました。


 夜は葉っぱをかけて毛布がわりにしました。むにゃむにゃとルカが眠るのをフササは幸せそうに毎晩見守りました。


 そんな日々が続きました。



 いっぱいに太陽が降り注いだ日、フササはルカを枝で持ち上げ抱っこしてあげました。


「今日はどこに行きたいんだい?」

「今日は南の川の方へ行ってみたいわ」

「わかった。おーい」

 フササはチーターを呼びました。

「この森で一番足の速いチーターなら南の川へもすぐに着くさ」

 クールなチーターは任せとけというようにコクッと頷き、ルカを乗せて南へ走っていきました。

「フササ、行ってきまーす」

「いってらっしゃーい」


 フササはこのごろ胸のあたりが熱くなるのを感じていました。

 これはいったい何だろう?

 今度、ルカに聞いてみよう。


 ルカが森に来て十日ほどが経っていました。


 今日は久しぶりの雨で、フササの大きな葉っぱに包まれながらルカは雨宿りをしました。フササとずっとお話をしました。


 ふと、フササがルカに訊ねました。

「ルカはさ、この胸のあたりが熱くなったりすることってあるのかい?」

 ルカは首を傾げます。

「わたしは……まだないわ。でも、お母さんが言ってた。誰かに対して胸が熱くなったら、その人に幸せにしてもらえるようになりなさいって」


 フササはまた胸が熱くなるのを感じました。

 ルカをまともに見ることができません。

 でも……。フササは思いました。

 僕は動けないからルカをどこにも連れていってあげられない。

 僕はルカを幸せにしてあげられない。


 フササは胸が締まるのを感じました。

とても苦しくなりました。笑顔でお話するルカを見ながら……。

 胸が締まる理由をフササはルカに訊ねませんでした。

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