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相談

 

 私の質問に、隊長さんは困ったようだった。

 それってちょっとおかしくない?

 隊長さんほどの人が目的もわからずここまで来たってこと?


「ルナ、殿下がルナに迎えを寄こしてくれたんだ」

「うん。それで?」

「いや、だから……」


 アスラルがフォローしてくれたけど、意味がわからない。

 と思ってそこで気付いた。

 そうか。ここは王国で、王様王子様は偉くて、そんな人たちの希望は叶えられるべきなんだ。

 そこに理由とかなくても。

 いや、あるのかな?

 王子様はとってもすごい人らしいので、何か重大なことがあって、それをまだ言えないだけとか?

 それはそれで怖い。


「あの、それでは、私が王子…殿下にお会いするとして、どうやってそこまで行くんですか?」

「当然、我々がお連れいたします」

「どうやって?」

「馬車を用意しております」

「馬車!? え!? だって転――」


 転移で行くのかと思ったのに、言いかけた私の口をアスラルが手で押さえた。

 いやだって、馬車だよ?

 昔、どこかのテーマパークで園内一周とかしたけど、かなり乗り心地は悪かったよ?

 転移でぱぱっと行けばすぐなのに、どうしてわざわざ馬車なのかな?

 疑問はいっぱいだけど、言わないほうがいいみたいなので、あとでアスラルに訊こう。


「ご用件はわかりました。ですが今日はもう遅いですし、また明日いらしてくださいませんか?」

「……そうですな。我々も早くお会いしたいと気持ちが急いて、このような時間にお邪魔してしまいました。申し訳ありませんでした。また明日の朝、出直してまいります。それでは失礼いたします」


 アスラルの提案に隊長さんも納得してくれたらしい。

 頭を下げたので、私も慌てて立ち上がって頭を下げる。

 ディアナも立ち上がって頭を下げたけれど、私と違って優雅だ。


「それでは、さようなら」

「また明日」


 アスラルがドアまで見送って隊長さんが出ていくと、どっと力が抜けて椅子に座った。

 疲れた。


「隊長さんたち、今夜はどこに泊まるのかな……」

「村長の家だろ。王国魔法騎士団を泊めるなんて、かなりの名誉だからな」

「そうなの?」

「この国の花形職業だもの。魔導士は尊敬されても存在もやってることも地味だから」

「そうなんだ……」


 どうでもいいことを私が聞いているうちに、ディアナがお茶を魔法で温め直してくれる。

 魔法を使うということは、ディアナもきっと疲れているんだろうな。

 低姿勢で優しそうなおじさんだったけど、私が王都に行くのは決定事項って感じだったしね。


「ねえ、どうして転移で王都まで行かないのかな」

「行かないんじゃなくて、行けないんだよ」

「え? だって、魔法騎士ってことは魔法が使えるんでしょ? 魔力も村の人たちよりずっと強かったし」

「いや、彼らは転移にはついてこれるだろうが、自分では無理だ」


 改めて転移について説明を聞くと、どうやら簡単にできるものではないらしい。

 魔導士の中でもできるのは半々なんだって。

 でも初対面のときにあんなに簡単に私に言ったのは、私の魔力から当然できるものだと思ったとか。

 やっぱりアスラルもディアナもすごいんだね。


「じゃあ、馬車で王都に行くにはどれくらい時間かわかかるの?」

「おそらくひと月はかかるだろうな」

「ひと月!? それって私がここに来てから今までくらいってこと!?」

「そりゃそうだろう。おそらく殿下はルナの出現を察知されて、騎士団をここへ派遣されたんだろうからな」

「ってことは、殿下は私のことをすぐにわかってたってこと? それなら殿下が転移で来れば早いのに」


 殿下なら転移できるよね?

 そう思ったけど、アスラルやディアナには微妙な顔をされた。


「やっぱりルナって異世界から来たのねぇ」

「ああ。そういうことをさらっと言えるところがすごいよ。殿下を呼びつけようなんて」

「いや、呼びつけようとは思ってないよ! ただ殿下一人なら転移で簡単なんじゃないかなって思っただけだし!」


 このあたりは感覚の違いなのかな?

 王様の命令には疑問に思うことなく従っちゃう系?

 王子様には会いたいけど、やっぱり怖いよ。


「まあ、説明不足でもあったが、ハロウズ殿下はこの国全体に結界を張っていらっしゃるといっても完璧ではないんだ。それだけ国全体に力を配していらっしゃるために神殿から出ることはできないらしい。それに、こういった辺境の地まではお力も届かないので、俺たちが補っているんだよ」

「え? それじゃあ、アスラルやディアナもこの土地から離れられないの?」

「いや、俺たちはそこまで力を使っているわけじゃないから、ある程度は離れることもできる。だから王都までディアナがルナに付き添うよ」

「それはダメだよ! だって、アスラル一人で結界を張ることになるんでしょう!? 私は大丈夫だから!」

「今でもお兄ちゃんの力だけなんだよ。私はおまけ。だからルナと一緒にいくよ。王都にも行ってみたいし」

「むしろルナを一人で行かすほうが心配だよ。それに何かあったら俺を呼んでくれ。王都までなら転移で移動することもできるし、少しくらいならここを離れても大丈夫だから」


 確かに隊長さんたちと一緒に王都に行くにも一人では不安だったけど、ディアナやアスラルに迷惑をかけたくはない。

 そもそも王都に行くのも決定事項になっているからで、断ったら二人に迷惑をかけるからなんだけど。

 これじゃあ本末転倒というか、どうしたらいいんだろう?


「あれ? じゃあ、ディアナが私を転移で王都まで連れて行ってくれたら、殿下に会ってすぐに帰ってこれるよね?」

「残念ながら、転移は未知の場所には行けない。行ったことのある場所か、よく知った人物がいる場所に限られる」

「そうなんだ」

「それにすぐに帰してもらえるとは限らないだろ」

「え!? 何それ、怖い!」


 拉致監禁!?

 ひょっとして魔力が尽き果てるまで働かされる!?

 戦々恐々とする私に、アスラルは呆れたようにため息を吐いた。


「ルナが何を考えているのか正確にはわからないが、おそらく大丈夫だと思うぞ。殿下は人格者だと評判だし、すごい美男子らしい」

「美男子……」


 って、イケメンってこと?

 いやいや、別に惹かれないし。


「ルナはすごい美人で魔力もすごいから、殿下に求婚されるかもしれないよね!」

「え? それはちょっと……」


 王子様からプロポーズとか乙女の夢だけど、今の私には無理がある。

 この体は私のものじゃないし、顔と力だけを求められても嬉しくない。

 って、まだ求婚されてもないどころか、会ってもいないのに、悩むことじゃない。


「あのね、ルナ。私はルナを王都に転移で連れていくことはできないけど、旅の途中で忘れ物してたりしたら、ここに取りに帰ってくることはできるよ」

「あ、そうか!」

「おい、そこは兄ちゃんに会いたくなったらって言うところだろ」

「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「うん!」

「おい、兄ちゃんは無視か?」


 一人で王都に行くのは怖かったけど、ディアナがついて来てくれるならすごく心強い。

 アスラルを一人で残していくのは申し訳なかったけど、いつでも帰ってくることができるのならひと安心。

 私は立ち上がると、ぶつぶつ言うアスラルとにこにこしているディアナに深く頭を下げた。


「それでは、またまたご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします!」




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