魔法
あれからひと月ちょっと。
私はアスラルやディアナにこの世界のことを教えてもらいながら、魔法の扱い方を練習していた。
二人が言うには、私はけた違いの魔力を持っているらしいけど、けた違いのコントロールのなさでもあるらしい。
残念仕様だ。
このままだと色々とトラブルの元なので、きちんとコントロールできるまでは人前で魔法を使ってはいけないと言われている。
それで村の人たちが近づかない森の中で練習をしているんだけど、またやりすぎてしまった。
アスラルは私の肩を軽く叩いて大きなため息を吐く。
「お前さ、限度ってものがあるだろう」
「とは言いましても、限度がわからないのでどうにもならないのでございます」
「じゃあ、もう少し頑張れ。あと、その変な話し方はやめろ」
頑張ってはいるよ。
でも薪が必要だから風魔法で木を切り倒すように言われて頑張ったらこの有様なんだよ。
目の前には巨人が現れて踏み倒していったのかというように、一直線に森の木々が倒れてしまっていた。
「あれだ、巨人が刃物を持って振り回しながら通ったようだな」
「え? この世界は巨人もいるの?」
「さあ、見たことはないが伝説にはあるな」
「へ~」
「って、感心してる場合じゃないだろ。これらを全部運んで薪にしないとダメなんだから」
「そうだった」
切り倒した木を薪にするには、熱風で乾かしてから割らないといけない。
だから今度こそと思い、魔法を使うことよりコントロールすることに集中する。
「ああ、早くきちんと扱えるようになりたい……」
大きくため息を吐いて、空を見上げる。
もうすぐ日が暮れるなあ。
そうなると魔物が活発に行動を始めるらしい。
この森に出没する魔物はアスラルやディアナなら倒せるらしくて二人と一緒にいれば安全なんだけど、実はまだ一度も魔物とは遭遇していない。
それにアスラル曰く「今のルナが魔物を相手にすれば、魔物は一瞬で塵になるし、森は一瞬で灰になる」って。
でも失敗するかもだし、お会いしたい存在ではないよねえ。
「おい、現実逃避するなよ」
アスラルの声に、仕方なく目の前の薪――ではなく、炭になってしまった木材のなれはてを見た。
おかしい。どうしてこうなった。
「ルナ、お前なあ……」
「ごめんなさい」
「いや、まあ、努力はしてるからな。ただ、ちゃんとコントロールできるようになるまでは、絶対に人前で使うなよ。死人が出る」
「……はい」
「まあ、木炭も必要だからな。みんな喜ぶよ」
「うん……」
あまりに落ち込んでしまったからか、アスラルが慰めてくれる。
やっぱりアスラルは態度は悪いけど優しい。
これ以上はせっかく切った木を無駄にしないためにも、大量の木炭を運ぶのはアスラルに任せて私は村に戻るためにフードを被った。
今の私の容姿では村の人たちの口から街まで広がると判断されて、顔をフードで隠しているのだ。
幸いこの世界の見習い魔導士はフード付きローブを着るのが決まりらしく、私は見習い魔導士ということにしていた。
どうやら魔導士というのは尊敬される立場で修業が大変らしいけど、アスラルとディアナはもうすでに正式な魔導士らしい。
若いのにさすがだよね。
「アスラル、ごめんね」
「そこはありがとうだろ」
「うん。ありがとう」
私とは違って、アスラルは器用に木炭を魔法で運んでいく。
普段はアスラルもディアナも魔法をあまり使わず生活しているけど、皆のためにはしっかり使う。
私にとっては魔法は電化製品のようなもので、便利なものをなぜもっと使わないのだろうと不思議だけど、考えは人それぞれだもんね。
ちなみに魔法を使えば魔力は消費されるらしいけど、生活の補助くらいならそれほどの消費はないらしい。
最近は私も体内の魔力を感じられるようになったから、それは実証済み。――やりすぎてアスラルたちに何度も助けられたけど。
「お帰りなさい、ルナ、アスラル」
「……ただいま」
「ただいま、ディアナ」
村の外れにある二人の家に戻ると、ディアナが外まで出て迎えてくれた。
だけどディアナはアスラルが薪置き場の片隅に木炭を並べているのを見て首を傾げる。
「薪じゃなくて木炭にしたの?」
「木炭になったんだよ」
「ああ……」
アスラルの返事で全てを察したらしいディアナは、気まずくて元気がなかった私に微笑んでくれる。
ああ、天使。
「気にしなくていいのよ、ルナ。木炭は調理にはもってこいなんだから。みんな喜ぶわ」
「うん。ありがとう、ディアナ。私、頑張って早くコントロールできるようになるね!」
「ルナにコントロールが備わったら、きっとすごい魔導士になるわね。王子殿下に匹敵するかも」
「王子殿下?」
明るく慰めてくれるディアナの言葉はいつも前向きになれる。
元気になった私の意気込みをディアナが応援してくれたけど、気になる単語が出てきた。
王子様と聞いて私の乙女心が反応しないわけがない。
ここは王国だもんね。王様や王子様がいて当然なんだ。
「そうよ。この国の第二王子のハロウズ殿下はとても魔力が強くていらっしゃるの。そしてこの国全体に結界を張ってくださっているの」
「この国全体に!?」
「おい、ディアナ。ハロウズ殿下とルナを比べるなんて無礼だぞ」
「いいじゃない。こんな辺境の土地じゃ、殿下だってさすがにわからないわよ」
どうやらこの国の王子様はすごいらしい。
アスラルとディアナの話をわくわくしながら聞いていた私はちょっと引っかかった。
「辺境じゃなければ王子様にわかるの?」
私の質問に、ディアナが頷いて答えてくれる。
「詳しくはわからないんだけど、ハロウズ殿下はとても強い魔力を有されていて、遠い地域の問題も見通され、解決されるそうよ」
「千里眼だ!」
「え?」
「セ、セン……何だって?」
「私の前の世界では、そういう能力を千里眼っていうの。すっごく遠くまで見通せる力」
「へ~」
「なんかルナの前の世界って、何でもあるな」
「いや、実際にあったかどうかはわかんないけど……あったのかな?」
「なんだそりゃ」
このひと月でアスラルとディアナには私の記憶――前の世界のことは打ち明けていた。
たぶん死んでしまった私の魂がこの体に乗り移ったって。
この体の魂がどこにいったのかはわからないけど、そのうち戻ってくるかもしれない、などなど。
この話についてアスラルとディアナは、さすが魔法世界の住人というべきか、素直に信じてくれた。
それも私が話す前の世界はすごく突拍子もなくて現実離れしているのに、話し方に迷いがないからだとか。
「さてと、ご飯にしようか」
「うん」
「この匂いはシチューだな?」
「正解」
「やった! ディアナの作ってくれたシチュー大好き!」
この世界の食べ物が地球とあまり変わらないのはラッキーだったと思う。
お米がないのは残念だけど、パンも大好きだし、お芋も大好き。
入院中の一番の楽しみもご飯だったけど、この世界でもご飯は一番の楽しみなんだよね。
もちろんディアナやアスラルと話をするのも楽しいし、魔法の練習も……あれは実は苦手だった。
早くコントロールできるようになれたら、二人に迷惑かけずにすむのにな。
料理も前世ではしたことがなかったから只今練習中で、やっぱり二人に迷惑かけてるし、いつになったら独り立ちできるんだろう。
考えると落ち込んでしまうから、今はできる限りのことはしようと、お皿を並べていく。
十九歳にもなってできるのがこれくらいって情けないけど。
それからアスラルが作ってくれた椅子に座って、三人で手を合わせる。
これは私が持ち込んだ文化――っといっていいのかはわからないけど、二人とも私がしてたら一緒にしてくれるようになった。
「いただきます」
「――おいしー!」
「おい、ルナ。お前、もう少し落ち着いて食べろよ」
手を合わせてすぐに食べた私にアスラルが注意する。
でも匂いが私を誘ってたんだもん。家に帰ったときから。
三人で食べるご飯は美味しくて、あっという間に完食。
食後の片付けは私でもできるので全部任せてもらってる。
その間にディアナはお茶の用意をしてくれて、アスラルはお風呂の準備。
と、急に二人は動きを止めて顔を見合わせた。
何? 何かまた私が失敗した?
そう思ったけど、お皿は割っていない。
「誰か結界内に入ってきた」
「魔力がかなり強いわね」
「ああ、それも五人もいる」
二人の緊張が伝わってきて、私も緊張する。
魔物じゃないんだよね?
でも悪い人なら過大ながら助太刀します!