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美人

 

「おまっ、いきなり大声を出すな。びっくりするだろうが」

「い、いいい、いや、だって!」

「そんなに顔が汚れているのがショックだった?」

「ちがっ、これ、だ、誰?」


 驚き慌てる私に、アスラルさんも驚いて、ディアナは不思議そうに首を傾げた。

 私は鏡を指さして問いかけつつ、今のは気のせいではないかと再び鏡を見る。

 だけど映っているのはやっぱり絶世の美女で、何度瞬きしても消えない。

 そこで気付いた。

 ここは魔法の世界なのだ。


「これって魔法の鏡なのね? 映す人を何倍も綺麗に見せるっていう?」

「は? お前、大丈夫か?」

「まさかルナは自分の顔まで忘れちゃったの?」

「違うよ。だってこれ、私の顔じゃないもの!」


 必死に訴えても二人は顔を見合わせただけで通じない。

 鏡を見ながら頬をつねったり、髪の毛を引っ張ったりしたけど、痛みが自分のものという感覚を伝えるだけ。

 そこで今度は自分の手から指先、足を見て胸を摑んだ。


「な、何やってんだよ!?」

「違う……」

「は?」

「これ、私じゃない!」


 森の中で気がついたときからあった違和感。

 その正体がようやくわかった。

 これは私の体じゃない。

 それでいくら走っても心臓は痛くならなくて、魔力というものがあって、この世界に存在するんだ。

 それが意味することは、私の体はやっぱりもう死んでしまったということ。

 そして魂だけが彷徨って、この体に入り込んだのかもしれない。


 そう思うと今までずっと堪えていたものが一気にあふれ出て、私は泣き出してしまった。――大声で。

 そんな私をアスラルさんは呆気に取られて、ディアナは同情的に黙って見ていた。

 やがて涙も涸れ果てた頃、ディアナに促されて私は事の経緯を途切れ途切れではあったけど話した。


「だがなあ、今一つ信じられない」

「お兄ちゃん、酷い」

「酷くない。今まで聞いたこともない話を、すぐ信じられるか。こいつが嘘を吐いていないって保証はどこにもないんだ」

「ルナがいったい何のために嘘を吐くの? それにたとえ嘘だったとしても、私たちに何か困ったことがあるの?」

「それは――」

「それは?」

「この美人を匿ったとか何とかって、変な奴らが現れるかもしれないだろ?」


 黙って二人のやり取りを聞いていた私は、アスラルさんに指さされて後ろを振り向いた。

 だけど誰もいない。

 そこでアスラルさんの言う〝美人〟が自分のことだと気付いた。


「私か!」

「お前以外に誰がいるんだよ! 怖いぞ!」

「いや、美人がいるのかなって思って」

「……」


 失敗したと私が照れ笑いすると、ディアナは文句あるのかと言わんばかりにアスラルさんを睨んだ。

 ディアナは意外と怖い。

 アスラルさんは頭をがしがしと搔いた後に、大きくため息を吐く。


「わかったよ。とりあえずはここに置いてやる。だがこの世界にお前が慣れたと思ったら、出ていってもらうからな」

「は、はい! ありがとうございます!」


 ようやくオーケーが出て私が喜ぶと、アスラルさんはふいっと横を向いた。

 どうやら照れているらしい。


「それと、敬語はいらない。俺とお前とそんなに年は変わらないんだから」

「え?」

「ん?」


 続いたアスラルさんの言葉を思わず訊き返す。

 いや、だって。同じ年とか。

 この体の実際の年齢はわからないけど、アスラルさんは意外に若い?

 私の疑問が顔に出ていたのか、アスラルさんも疑問に思ったみたい。


「お前、何歳なんだ?」

「えっと、体はわからないですが、精神年齢は十九歳です」

「じゃあ、やっぱりそんなに変わらないな。俺は二十一だから」

「え?」

「ん?」


 てっきり二十代半ばから後半だと思ってたよ。

 それでディアナのお兄さんにしては年が離れているなと思ったんだけど、失礼な勘違いだったらしい。


「お兄ちゃんは小さい頃から苦労ばっかりだったから」

「ああ、それで……」

「それで何なんだ?」


 私の心中を察してか、ディアナがフォローしてくれたので納得する。

 だけどアスラルさんは納得できなかったみたい。

 にっこり笑ってるけど、目が笑っていないよ。


「いや、あの、アスラルさんはしっかりして見えるなって思って……」

「だから、敬語はいらないんだって。さんもな」

「は、はい」

「それと!」

「はい!」

「俺が老けて見えるのは今に始まったことじゃないから、気にするな。俺は気にするけど」

「気にしてしまうじゃないですか!」


 アスラルさん――アスラルは厳しいけど優しい。

 私はアスラルの言葉に真面目に突っ込みつつ、アスラルの優しさを実感していた。


「ルナ、今のはお兄ちゃん流の冗談だから笑ってあげて」

「ディアナ、お前は兄ちゃんのことが嫌いなのか?」

「大好きだよ」

「よし」


 ディアナも私がリラックスできるように気を使ってくれる。

 仲のいい兄妹のやり取りを見ていると、嬉しくなってくるよね。


「それで、ディアナは何歳なの?」

「私は十三歳よ」

「そっか。ディアナもすごくしっかりしてるよね」

「それって、私も老けて見えるってこと?」

「違う違う。そうじゃなくて……」


 見た目は相応だけど、今までのやり取りからもう少し年上かと思ったから、そのままの気持ちを口にしたんだけど。

 ディアナを傷つけてしまった。

 そう思って私が慌てて否定すると、ディアナはぷっと噴き出した。

 どうやらからかわれてたみたい。


「ルナ、注意しろよ。ディアナは見かけと違ってかなり意地悪だからな」

「そんなことないもーん」


 アスラルに〝ルナ〟と呼ばれ、受け入れられたことが嬉しい。

 それだけで私もお兄ちゃんを思い出して寂しい気持ちになってたけど、不安を消して笑うことができた。




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