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魔力

 

「お兄ちゃん!」

「だって、そうだろ? こいつは魔法を知らないと言いながら、あのカンデの森から切り傷だけの裸足で出てきたと言う。その上、この国の名も知らず、地図を――世界地図を見せろと普通に言うんだ。おかしいだろ?」

「だけどほら、何か事情があるのかもしれないよ? 記憶喪失とか?」

「だったら何で名前を言えるんだよ」


 アスラルさんの言葉をきっかけに、兄妹喧嘩が始まってしまった。

 どうしよう。

 私も兄妹喧嘩はよくしたけど、私が原因ではすごく申し訳ない。


「それに、こいつは魔法を知らないと言いながら、尋常じゃない魔力がある。絶対におかしいだろ」

「……え?」

「だから記憶喪失じゃないかって言ってるんじゃない。もっとちゃんと事情を聴かないと」

「そんな呑気なことをしていて、何か変なことに巻き込まれたらどうするんだよ!」

「だーかーらー、そうならないように事情を聴くんでしょ。このわからず屋!」

「ああ!? ディアナ、お前は兄ちゃんに向かって何ていう口を利くんだよ!」

「あの……」

「わからず屋はわからず屋でいいんです!」

「いいことあるか! 最近ちょっと――」

「あの! すみませんが、お邪魔していいですか!?」


 このままではヒートアップするから強引に割って入る。

 それに二人の喧嘩も気まずいけど、まだまだわからないことが多すぎるよ。

 もし警察――警吏に引き渡されることになっても、この世界の事情くらいは把握しておきたい。


 しかも、ちょっとだけ希望が膨らむ。

 入院中は小説から実用書までたくさんの本を読んでいたから。

 その中のいくつかの小説に、異世界トリップなんていう話があったんだよね。

 海外の小説でもあって、映画化もされていたはず。


(あの話はたいてい最後には元の世界に帰れてたよね?)


 自分に世界の命運がかかっているとは思わないけど、魔力があるというアスラルさんの言葉はかなり気になる。

 色々なことが起こりすぎて感覚が麻痺していたけど、さっきは転移――瞬間移動までしたんだよね。

 この世界で大冒険をした後、気がついたら手術後の麻酔から覚めた後なんてこともあったりして。

 そう思うと不謹慎かもしれないけど、わくわくしてきた。


「あの……私が何者かは私もよくわかってませんし、ひとまずお互いの疑問を解消していきませんか? その、ここがどこかはよくわかりませんが、それは諦めました。次に魔法について知りたいのですが、ここの人たちはみんな使えるのですか?」

「みんな……と言えばみんなだけど、能力に差はあるの」

「能力ですか?」


 私の質問に答えてくれたのはディアナで、アスラルさんは黙り込んでしまった。

 アスラルさんの年齢は二十歳半ばに見えるけど、態度を見るにもっと若いのかもしれない。


「魔法には色々と種類があって、細かい説明は省くけど、簡単に言えば火、水、風、などの属性に分かれていて、それぞれに色々な魔法があるわ。例えば火魔法で簡単なのはこれ」

「わっ!」


 ディアナが暖炉に人差し指を向けた次の瞬間、ぼっと暖炉の火種が炎に包まれた。

 そして火種から薪へと炎は移っていく。

 映画でも何でもない目の前の現実に呆気に取られていると、その様子を見てディアナはくすくす笑った。

 それは馬鹿にした笑いではなく、安堵したものだというのが後からわかった。

 私がびっくりしすぎてて、やっぱり嘘は言っていないと思ったみたい。


 そこからはディアナが魔法の概要を説明してくれた。

 アスラルさんはまだ疑っているみたいだったけど、ディアナの説明を時々補足してくれる。

 どうやらこの世界の魔法の大方は本で得た知識によく似ていた。

 その人の持つ魔力の大きさで扱える魔法も違うらしい。

 また人それぞれ得意な属性というものがあって、魔力が強くても属性が違うと扱えないこともあるとか。

 だけど中にはオールラウンダーな人もいて重宝されるらしい。


「それじゃあ、ディアナもアスラルさんも何でも扱えるの?」

「ええ、まあ……。もちろん得手不得手があって、私は風と水が得意でお兄ちゃんは火と…風が得意なの」

「すごいんだねぇ」


 二人は魔力が抜きん出て強く、畑や村に風で結界を張って守っているらしい。

 それで私が現れたときに気付いて駆けつけたとか。

 すごすぎて感心していると、ディアナは照れたように首を振ったけど、アスラルさんは苦虫を噛みつぶしたような顔になった。


「魔法が使えても世界が救えるわけじゃなし、すごくなんてない」

「世界を……救う必要があるんですか?」

「世界というか、魔物の被害を減らすことが目標なの」

「魔物?」


 魔物と聞いて、わくわくしていた気持ちも途端にしぼむ。

 ここは今の私にとって現実世界で、実際に魔物の被害に遭っている人がいるってことだから。

 そもそも本当に私に魔法が使えるかどうかもわからない。


「夜になると魔物は動きが活発になって森から出てくるの。それで作物を荒らしたり、人を襲ったり……。酷いときには民家にまでやって来て、村が全滅したことも過去にはあるわ」

「全滅……。って、あの、森ってことは、まさか……?」

「そのまさかだよ。カンデの森も魔物の住処になってる。だから、いくら昼間だったとはいえ、森からその傷だけで出て来ることができたってのが怪しいんだよ」

「確かに……」

「お前がそこで納得するなよ」


 魔物の被害は日本でもある害獣被害のようなものかと思って聞いていたけど、村が全滅するほどなんて規模が違う。

 しかも森が住処だってことは……。

 アスラルさんが怪しむのも当然で、私が同意すれば突っ込まれた。


「でも、森では全然生き物の気配はなくて、だからこそここから出ないとって必死で……」


 知らぬが仏とはよく言ったもんだよね。

 今頃震えてきて、そんな私を見たアスラルさんは少しだけ口調を柔らかくしてくれる。


「まず魔法を知らないだけでも怪しいが、カンデの森から無事に出てきただけでも怪しい。だがそもそもお前の格好が怪しすぎるだろ。それじゃあまるで神殿の人間みたいだ」

「神殿……」


 神殿と聞いて何かが頭をかすめた。

 やっぱり大切なことを忘れている気がする。

 そして改めて自分を見下ろした。

 この格好って神殿にぴったり? 今は汚れて破れてるところもあるけど。

 ディアナやアスラルさんは洋風のアニメに出てくる人たちみたいなのに。


「これは……変だね」

「服だけじゃねえよ。お前のその顔だよ」

「顔? 私の顔が変なの?」


 アスラルさんたちから見ると日本人の私の顔は平べったく変なのかもしれない。

 そう自分を慰めつつも傷つきはするよね。


「ルナはとても綺麗だから。こんな辺境にはあまりに不釣り合いで、おかしいなって思ったの。あっ、そうだ……」


 落ち込む私を慰めようとしてか、ディアナが再び褒めてくれた。

 だけど急に何かを思いついたように立ち上がると、台所のような場所へと行って、布を濡らして戻ってくる。


「ごめんね、顔が草の汁か何かで汚れているんだけど、後回しにしちゃってた。自分で拭いたほうがいいよね?」

「ありがとう、ディアナ」


 顔が汚れていることに気付かなかったのは恥ずかしい。

 ディアナはわかりやすいようにと、手鏡まで貸してくれる。

 私は再びお礼を言いながら受け取った鏡を覗き、自分の顔を映して驚いた。


「なんじゃこりゃー!?」


 思いっきり素の叫び声が口から飛び出したのも仕方ないと思う。

 鏡に映った顔は今まで見たこともないほどに神々しくて美しかったんだから!




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