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別離

 

 そうすれば、みんなお互いの気持ちがわかると思うんだよね。

 生き残った人間は協力し合って新しくやり直せばいいんだよ。

 アーサーも「それが一番だな」って同意してくれてるし、神罰にもなるし、万事解決――。


「お待ちください!」


 これで決着がつくと思っていたところで、アスラルの声が響いた。

 それは私の――月奈の意識をはっきりと呼び覚ます。


「アスラル……?」

「ルナ様、どうかお慈悲をお与えください。私たちは多くの過ちを犯しました。ですが、やり直す機会をくだされば、きっとこの世界を私たちの力で元のような世界にしてみせます」

「……でも死んでしまった人たちは戻らないよ?」

「はい。それは重々承知しております。それでも私たちは私たちの力で魔物と戦い、畑を耕し、今を精一杯生きたいのです」

「今を……」


 永遠にも等しい時間を生きる神には〝今〟なんてどうでもいいこと。

 だけど人間だった月奈にとってはとても大切なものだった。

 病気が発覚してからずっと、未来なんて見えなくて、今を生きるしかなかった。

 〝私〟の記憶が甦ったのは、そのことを思い出すためだったのかな。


「アスラル、私――」

「お、お願いします! 我らは多くの過ちを犯しました。ですが、そちらにいるスマテアの王子や皆と力を合わせ、新しくやり直したいと思います!」


 国王は人がいいだけでそこまでリーダーシップがあるようには思えない。

 それでもここで発言しないとって頑張ってるみたいだけど、王子に対してはまだまだ甘い考えを持っている。

 どうしようかな……。


「ルナ、人間は甘やかすとすぐに堕落するぞ」

「でも私も人間だったんだよ、アーサー」

「記憶をなくしていただけだろう?」


 違うよ。記憶が甦ったんだよ。

 だけどその言葉を飲み込んで、この世界に意識を向けた。

 今は神気でおとなしくなってる魔物も私たちがいなくなったらまた暴れ出すよね。

 それを退治するのはアスラルとディアナにすごく負担がかかることになる。


「……では、この世界で今人間たちを脅かしている魔物は消し去ってあげましょう。とはいえ、また魔物は生まれてくるでしょう。そのときは今度こそ、自分たちの力で魔物に立ち向かいなさい」

「ありがとうございます!」


 私がそう告げると、国王たちは喜んだ。

 アーサーは呆れたようだったけど、アスラルとディアナは複雑な表情になってる。

 そうだよね。もう国はないんだもんね。


「魔物が蔓延っていたスマテア王国の土地は、荒らされはしても生きています。あの村で育てた麦を持ち帰り、来年までの糧として、王国の復興に尽力してください。時間はかかってもきっと成し遂げることができるでしょう」

「……ありがとうございます」


 よかった。アスラルもディアナもこれは受け入れてくれた。

 だからこっそり土地力を上げておこう。少しだけ、知られないように。

 って、アーサーにはわかったみたいで、咎めるような目を向けられてしまった。

 ほっといてほしい。アスラルとディアナにはいっぱいお世話になったんだから、せめてこれくらいはしたいの。

 本当はもっとしたいけど、断られちゃったからな。


 それから残った問題。

 私はむぐむぐ王子の塞いでいた口を自由にしてあげた。

 すると王子ははあはあと浅い呼吸を繰り返している。

 やっぱり苦しかったみたい。自業自得だけど。


「私たちはこれで去ります」


 正直に言うなら帰りたくない。

 アスラルやディアナと一緒に国づくりを頑張りたい。

 神様の力なんてなくて、試行錯誤しながら魔法を駆使して――私はコンロトールができなくて怒られたり呆れられたりしながら、みんなで力を合わせる。

 そうして夜には家でゆっくり一日の疲れをとりながら、お茶を飲んでおしゃべりして寝るんだ。

 神様になっても叶わない夢があることを思い知ってため息を吐いたとき、あの王子が声を上げた。


「畏れながら申し上げます」

「何かしら?」

「確かに私は皆から一番に慕われたいと欲を出し、力を使ったことは否定できません。ですが、国を想い民を想う気持ちに偽りはなく――っ!?」


 王子は何か言いかけていたけど、途中で鼠に変身してしまった。

 まあ、私が一種の呪いをかけておいたんだけどね。


「ルナ、何をしかけたんだ?」

「あの王子は信用できないから、嘘を吐くと鼠に変わるようにしておいたの。まさかこんなに早く変身してしまうとは思ってもいなかったけど」


 チュウチュウ泣きながら行ったり来たりしてうろたえる王子を見ながら、アーサーの質問に答えた。

 人間たちは蛇じゃなくて鼠になったからか驚いて、国王と王妃、そして兄王子が悲愴な表情で私を見る。

 優しい家族なのに、どうして鼠王子だけひねくれちゃったのかな。


「一日経てばまた元の姿に戻ります。そして嘘をつかなければ、ちゃんと人間の姿でいることはできます」

「あ、ありがとうございます!」

「甘いな、ルナは」


 国王たちにお礼を言われて微妙な気分。

 優しさというよりは、たぶんアーサーのいうように甘いんだと思う。

 神様としてはもっと厳しくあるべきなのかもしれないけど、やっぱり人間だった月奈の気持ちは忘れられない。

 だからアスラルへの恋心もディアナへの友情も忘れられない。

 それでも諦めないといけないのもわかってる。


「……アスラル、ディアナ、親切にしてくれてありがとう」

「――恐縮でございます」

「こちらこそ、楽しい時間をちょうだいただき、感謝しております」


 やっぱり最後まで二人はよそよそしくて、寂しいけれど仕方ない。

 今、私にできることは笑うこと。

 神様が怒った顔を見せると、心配させてしまうからね。


「さよなら」


 せっかく笑顔を作ったのに、頭を下げられてたら見てもらえないよ。

 残念だな。本当に。

 さようなら。




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