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真相

 

「ルナ、お前が人間に謝る必要などない」

「でも私は、あの山の上の神殿にアスラルが祈願に来たとき、助けてあげるつもりだったのよ。それなのに私が愚かだったばかりに神石を水鏡の中に落として、それを拾おうとして私まで落ちてしまったの」

「……だからあれほど神石をそのまま持つなと注意したのに、聞かなかったお前が悪い」

「そうなの。私が悪いの」


 突然謝罪した私に人間たちみんな驚いたけど、アーサーは高飛車なまま。

 それで謝罪の理由を説明したら、叱られてしまった。

 だけど私はそれを甘んじて受けようと頷いたら、アーサーは驚いたように目を見開いた。

 まあ、今までの私の態度を思い出せば仕方ない。


「アスラル、あの……」

「なるほど。あなた様は月の女神――ルナ様だったのですね。今までの非礼をどうお詫びすればよいのかわかりません。どうぞお好きなように罰をお与えください」

「な、何を言ってるの……?」


 たった数日前までお兄ちゃんみたいに偉ぶってたのに、急にそこまで変わらなくてもいいのに。

 そう考えて、ずいぶん自分勝手なことに気付いた。

 アスラルたちの国を滅ぼしておいて、今まで通り友達でいてほしいなんてずうずうしすぎる。


「ディアナ、ごめ――」

「昨日はおぼろげな記憶しかございませんが、大層な無礼を働いたのは事実でございます。私にも同様に罰をお与えくださいませ」


 二人の言葉に悲しくなってくる。

 するとアーサーが私を慰めるように抱き寄せた。


「皆、面を上げよ」


 何だろう、このデジャヴ。

 ああ、そうか。ちょっと前に王子と対面したときと似てるんだ。

 っていうか、みんな自分の意志で顔を上げたっていうより、無理やりぐいってなったよね?

 これも神様の力?

 蛇王子も神官その1も人間の姿に戻ってる。


「人間たちよ、我が妹が言いたいことがあるらしい。心して聞け」


 って、えええええ!? はあああああ!?

 言いたいことは確かにあったけど、それはアスラルとディアナに対してだし!


 いきなり無茶ぶりしてきたアーサーに腹が立つ。

 だけど、この際全部言ってしまえばいいのかもしれない。

 この世界の現状とあの王子の嘘を。

 よし。


「私は…月の女神ルナ。狩猟を愛し、闇を統べる者。私に届いた願いの主はアスラル。本来、私はアスラルの願いを叶えるはずでした。それが不慮の事故で神器となる神石を失い、我が身も危うく深き眠りにつくことになりました」


 本当は私のうっかりミスで神石をなくしちゃったんだけど。

 しかも水鏡を通ったことで時間に誤差が出てしまったらしい。

 それをもっともらしく、神の体面を傷つけないように言うのは難しい。


「そしてその間、偶然にも私の神石を手にしたそこの王子は神石の力を知り、己が欲望のために利用しましたね?」

「ち、違う! 私は皆のために己の力を使ったのだ! 必然によって手にした宝珠で! 皆も知っておろう!」

「ハロウズ、お前……」

「父上!?」


 私の言葉に焦って反論する王子はお父さんである国王が来ていることに気付かなかったんだね。

 お父さんだけじゃなくてお母さんもお兄さんもいるし、大臣なんかのその他大勢もいる。

 こんなに大勢いたら普通は気付きそうなものだけど、こっそり転移させて連れてきたのはアーサーだ。

 こういうところ、性格悪いと思うよ。

 それに無駄に広かった部屋がちょっと狭くなった気がする。


「父上、これは何かの間違いです! そう、そうだ! あの者たちは私の宝珠を奪わんとして神の名をかた――っ!?」

「それ以上は言わないほうがいいです。アーサーは何よりも神への冒涜を嫌悪しているのですから」


 また蛇を見るのは嫌だから先手を打っておいた。

 王子はお口チャックの刑でむぐむぐ言ってる。

 まさか鼻が詰まってたりはしないよね?


「私の神石が王子の手に渡ってしまったことによって、アスラルが受けるはずだった恩恵は王子のものになってしまいました。それでも、王子が純粋に他者を想い力を使ったならば問題はなかったでしょう。ですが王子は民のためだと言いながら、己の人気のために力を使い、己の国だけを守るために結界を張りました。その邪な力に魔物は惹かれて集まり、新たに生まれたのです。それでも結界に阻まれ力の主のもとに近づくことはできず、結果――周辺国は魔物の被害が増え、スマテア王国は壊滅状態に陥りました。そして生き延びた人たちはカンデの森を必死に越え、このガーナント王国の片隅に土地を借り、暮らしているのですよね?」


 私があのとき神石を落とさなければ、王子が神石を手にすることはなくて、魔物がスマテア王国に溢れることはなかったんだよ。

 そうしたら、アスラルとディアナにこんなにつらそうな顔をさせることもなかったのに。


「ごめんなさい、アスラル。あなたがあの山の神殿に祈願に来てくれたとき、私はあなたの願いを叶えるつもりだったの。だけど……」


 何を言っても言い訳にしかならなくて、女神としての建前も気にしていられない。

 アーサーは舌打ちしてるけど、ほっといてほしい。

 そしてアスラルはとても悲しそうに首を横に振った。


「ルナ様がお気になさることではございません。そもそも己の力での解決でなく、ルナ様に頼ろうとした私が愚かだったのです」


 そんなにはっきり私に頼ろうとした自分が馬鹿だったって言われるとつらい。

 もちろんその通りなんだけど。


「でも、アスラルの願いは魔物に怯えて暮らす人々へ少しでも安心できる生活を与えることだったでしょう? 魔物を滅ぼすことでもなく、せめて魔物の発生地を特定できれば被害は減らせるからと」


 あのとき願いを聞いて、たったそれだけかと思ったんだよね。

 そして傲慢にももっと願いの範囲を大きなものにしてあげようとして、神石を落としてしまった。

 アスラルの纏うオーラがとても美しかったから。

 今も改めて見て綺麗だと思う。

 ここにいる誰よりも強い力を持った、スマテア王国の王子様。




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