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結婚

 

 私の頭の中には「殿がご乱心じゃ!」という誰だかわからない人の声が響いてる。

 だけどこの場にいる神殿側の人たちはこれ以上の喜びはないってくらいに顔を輝かせている。

 いやいやいや、たった今が初対面なんですけど!

 ディアナまでよかったねって言いそうな笑顔で、太郎だけが興味ないのか今度は反対側の耳の後ろを搔いてた。

 うん、婚姻とかどうでもいいよね。

 って、よくない!


「あの! 婚姻って、私と王――殿下がですか!?」

「これ、許しなく声を出すでない」

「かまわぬ。あの者は明後日には私の妻となるのだから」

「いえ、ですから、そんなこと聞いてません! そもそも初めて会ったばかりなのに、結婚とかできません!」


 許可されるまで話しちゃダメなのを忘れてた。

 だって、それどころじゃないよね!?

 なのにちっとも話が通じない。

 私が結婚できないって言った途端にざわざわし始めたけど当然の主張だよ。


「娘よ、恐れる必要はない。確かに私とそなたには大きな隔たりがあるが、強い魔力を有するという共通点がある。皆も納得してくれるだろう」

「いえ、そうではなくて……」

「心配せずとも、私はそなたを大切に慈しもう。美しきそなたにはそれだけの価値がある」


 何言ってるんだろう、この人。

 私が結婚できないって言ってる理由は、隔たりとかそんなんじゃなくて、単純にこの人とはしたくないってことなんだけどな。

 そりゃ、しばらくして人となりを知って、好きになることはあるかもしれないけど……ないな。


「あの、やっぱり私は殿下とは結婚できません。だって、私は殿下のことが好きではないし――」

「ルナ、何言ってるの? 殿下にこれほど望まれるなんて、こんなにも栄誉なことはないのに! 羨ましいわ……」


 なんとか冷静に断ろうとしたら、ディアナが怒ったように責めてくる。

 ディアナにとっては素敵な王子様かもしれないけど、私にはそうじゃないんだから無理だよ。

 そう思って抗議しようとしたら、ディアナにきつく睨まれてしまった。

 って、ちょっと変じゃない?


「ディアナ?」

「さあ、ルナ。殿下にお礼を言わないと」

「……何の?」

「結婚してくださるお礼よ。それから明後日の式の準備をしましょう。やることはたくさんあるんだから」

「無理だよ」

「いいえ、やるのよ」


 そう言ってディアナは私に手を伸ばしてきた。

 王子様の前なのに誰もそれを注意しなくて、私は怖くなって立ち上がった。

 絶対にディアナはおかしい。


『ルナ様、もう終わりですか?』


 ひとまず退散しようと駆け出したら、太郎が嬉しそうについてくる。

 うん。そういう呑気なところ好きだよ。

 部屋に戻ってディアナとちゃんと話をしてって考えてたら、ドアを警備の人に塞がれた。


「殿下のお許しなく、この扉を通すことはできぬ!」


 すごい剣幕に押されて、思わず後ずさって振り返れば、ディアナ以外にもたくさんの人が追ってきていた。

 それなのに王子様は椅子に座ったままこちらを見てるだけ。

 どう考えても異様だよ。


『貴様ら、ルナ様に害を為す気か!』

「ダメ! 太郎、ディアナに攻撃しないで!」

『しかし……』

「誰にも攻撃しちゃダメ!」


 怒った太郎がディアナに牙を向けて、慌てて私は止めた。

 ディアナはまるで操られているみたいだから。

 それに他の人に攻撃して、太郎が狙われても大変。

 とにかくここから逃げないと。


 そう思ったのに。

 こういうの何て言うんだっけ? 袋の鼠?

 隅っこに追い詰められて、よくわからないおじさんに手を摑まれそうになった瞬間。

 太郎がおろおろしている姿が最後に見えて、私はまたエレベーターで急上昇したような感覚になった。

 太郎は私の言いつけをちゃんと守ってくれたんだね。


 ――って、ここどこ?

 気がつけば柔らかなベッドの上だったんだけど、室内は見慣れない。――ような懐かしいような?

 どうやら焦った私は自分で転移してしまったらしい。

 逃げたいって強く願ったからかな。

 でも、ディアナと太郎を置いてきてしまった。大丈夫かな?

 なんて考えているうちに、誰かがやって来た。

 不法侵入で怒られたらどうしようとドキドキしてたら、神殿の女官さんだった。


「まあ! やはりルナ様でしたわ!」

「皆に伝えなきゃ、ルナ様がお戻りになったと!」


 せっかく逃げたのに、戻ってくるなんて間抜けなことをした私を言い触らさないでほしい。

 そんな気持ちは当然伝わるわけもなく、一人の女官さんが走って出ていってしまった。

 もう一人の女官さんはベッドに座ったままの私のところまできて跪く。


「まあ、ずいぶん粗末なお召し物を……。それに御髪もこのように乱れて……いったい何をなさっておいでだったのですか?」

「えっと……」


 嘆くような叱るような女官さんの質問にちゃんと答えることができない。

 だって、何をしてたかなんて、逃げたんです。王子様から。

 照れ隠しでも遠慮でもないんです。


 女官さんは特に答えを求めていなかったのか、少し下がって立ち上がると、さっき入ってきたドアとは別のドアから出ていった。

 そこでまた一人になった私は気付いた。

 これは逃亡のチャンスだ!

 と考えたはいいけど、やっぱりディアナたちを置いていけない。


 まずはディアナを捜そうと、心の中で太郎を呼んだ。

 太郎は呼べばすぐに来てくれる。

 一緒にディアナを捜せたら早く見つかるし、心強いからね。


『ルナ様、こちらにお戻りでしたか!』

「太郎、さっきは置いていってごめんね。来てくれてありがとう」

『何をおっしゃいますか。ルナ様がお喚びくださっているのに、駆けつけぬわけがありません。ましてや、神界にお喚びくださっているのですから!』

「……ん?」


 今、神界って言った?

 そう疑問に思ったとき、誰かがやって来るものすごい気配がした。

 それからすぐに私が出て行こうと思っていたドアが開く。


「ルナ、ようやく戻ったか!」

「アーサー?」




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