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神殿

 

「――というわけで、ルナはもうすごい有名人なの」

「ああ、この村にまで噂が流れてきたくらいだからな。みんなルナがここにしばらく滞在していたことを喜んでいるくらいだ」

「そうなんだ……」

「ちょっと村に行ってみんなに手を振ってやれば、もっと喜ぶぞ?」

「からかわないでよ。それに今は私もディアナも宿で寝ているはずなんだから」

『吾輩も忘れないでくだされ!』

「あ、うん。太郎も」


 もちろん忘れてたわけじゃなくて言わなかっただけだけど、太郎の必死さが可愛い。

 あれからも色々な場所で色々な魔物を退治して、修復しての繰り返しで旅の予定は大幅に遅れてしまってた。

 だけど明日はいよいよ王都に到着らしい。

 それで王都に入ったらなかなか転移もできないかもしれないからって、アスラルに会いに来たんだよね。

 王都は特に結界が強力らしいから。


 というのは建前で、本当は私もディアナも王子様の面会を前にして緊張している。

 わざわざ魔法騎士さんたちを迎えに来させてまでいったい何の用事なんだろうっていうのと、騎士さんたちが王子様のことをすごく褒め称えるから。

 そんな人格者に会うのかと思うとねえ。


 王子様は私たちが魔物退治をあちこちでしてるのは風の噂で知ってるみたい。

 ただ隊長さんが予定より到着が遅れますと伝えたら、「かまわない」って返ってきたんだって。

 正直に言えば、「え? それだけ?」と思った。

 そりゃ、私が勝手に判断したことではあるけど、普通は「ご苦労様」とか「ありがとう」とかあるよね。

 別に感謝してほしいわけじゃないんだよ、うん。

 でも気付いた。

 そうだ。普通じゃなかった。王子様だったよ。


「まあ、心配するな。嫌になったらいつでも帰ってくればいいんだ。殿下の結界だってルナなら簡単に破れるだろうからな」

「コントロールできないから、どこに行くかわからないけどね」

「お前、まだできないのかよ……」


 やっぱりアスラルには私たちの不安はわかってたみたいで、励ましてくれる。

 それが嬉しくて正直に話したのに呆れられてしまったよ。

 仕方ないよね。力が――魔力が有り余ってるんだから。


「コントロールはディアナと使い魔に任せたらどうだ? 毎回修復するのも大変だろう?」

「え? そんなことができるの?」

「ディアナには今まで通り結界を張らせて、使い魔にコントロールを頼むんだ。魔力の波長も合うから上手くいくんじゃないか?」

「太郎が私の魔法のコントロールを手伝えるの?」

『ご命令くださればいつでもお手伝いいたしますぞ』

「そうなんだ……」


 それならそうと早く教えてほしかった。

 毎回修復するのが大変というより、申し訳ないんだよね。

 いくら修復できるといっても、壊すことになるわけで。

 脱力しつつ、今度からはお願いしようと決めた。


「じゃあ、あまり無理するなよ」

「うん。ありがとう」

「ディアナも体に気をつけてな」

「お兄ちゃんこそ、ちゃんとご飯食べるんだよ」

「わかってるよ。――使い魔さん、ルナをよろしくな」

『ルナ様のことは吾輩に任せるのだ!』


 アスラルとの別れはいつも寂しいけど、また会えるから。

 そろそろ宿に帰って寝ないと、明日はいよいよ王都だもんね。


「アスラル、行ってきます!」

「おう、行ってこい」


 アスラルに元気よく挨拶して、宿に連れて帰ってもらう。

 よし。抜け出したことはバレてない。

 寝る準備を急いですると、ディアナと一緒にベッドに入る。

 この世界に来てからずっとディアナと一緒だから、今さらベッドが二つあっても一つは使わないんだよね。


「おやすみ。ディアナ、太郎」

「おやすみ、ルナ」

『おやすみなさいませ、ルナ様』


 おやすみの挨拶をして、目を閉じる。

 すると、あら不思議。

 あっという間に朝でした。

 疲れてたんだね、きっと。


 さあ、今日はついに目的地に到着だ!

 ひと月の予定がふた月近くかかったけど、みんな無事で人助けもできたしよかったと思う。

 花びらのお出迎えも今ではすっかり慣れた。

 ただこの歓声は未だに慣れないけどね。

 それでも期待に応えて窓から手を振る。

 これができるのもフードを被ったままだから。


「すっかり人気者ね」

「ディアナもね」


 私がフードを被っていることが広まってるのと同時に、ディアナが強力な魔道士で美少女なのも広まってて大人気なんだよね。

 それも当然。だってディアナはこんなにも綺麗なんだから。

 しかもしっかり者で優しくて、性格もとってもいいなんて女神様だよ。

 でも本物の女神は私で、何か申し訳ないような詐欺師になった気分。


 手を振りすぎて腕が疲れてきた頃、馬車のスピードが落ちてきて、沿道にいた多くの人の姿も見えなくなった。

 どうやら神殿の敷地に入ったらしい。

 それは私でもわかるくらいの強い結界の中に入ったから気付いたこと。

 王都に入ったときもわかったけど、ここはさらにすごい。


「って、なかなか着かないねえ」

「そうねえ。この国の王都の神殿は世界で一番の規模だから、一般の立入りは禁止されているし、貴族たちでさえ簡単に入れないのよ」

「へえ~」


 そういうの日本にもあったような気がする。

 あの頃は興味なかったし、神頼みって好きじゃなかったからあまり覚えてないけど。

 そしてついに馬車は止まって、私はどきどきしながらお行儀よくドアが開けられるのを待った。


「ルナ、準備はいい?」

「うん」


 励ますようにディアナに訊かれて、大丈夫だと頷いて応える。

 すごく緊張するけど、ディアナと太郎がいてくれるから大丈夫なんだよ。

 それからディアナが先に馬車を降りて、私も続く。

 足を踏み外さないように下を向いていたから、急に顔を上げてくらくらしたのかもしれない。

 目の前には荘厳な造りの神殿。

 私はこれを覚えてる。




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