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歓迎

 

 修復魔法を使ってから二日目。

 お昼休憩――というより、今日泊まる宿がある街へとやって来た私は驚いた。

 どれくらい驚いたかというと、ぽかんと口を開けたままの状態を十分くらい続けてしまったくらい。


 だって高い城壁みたいなところを馬車がくぐろうとしたら上から花びらがいっぱい降ってきて、中に入ったら沿道にたくさんの人が詰めかけてたから。

 今までも魔法騎士さんたち目当てに多くの人が集まってきてたけど、今回は街の人たちが「女神様万歳!」とか「ルナ様万歳!」とか叫んでいる。

 何かの宗教みたいでちょっと怖いよ。

 間抜け顔と一緒に怯えた顔もしてたと思うから、フードを被っててよかった。


「どうやらあの村でのことがもう伝わっているみたいね」

「いくらなんでも早くない? 私たちはあの村から真っ直ぐきたのに」

「風の噂は早いもの」

「でも、私たちを追い越して先に伝わったりするのかな?」

「あら、風魔法を使えばすぐよ。風魔法の上級者同士なら伝達ができるから。通称〝風の噂〟ね」

「そうなんだ……」


 考えてた風の噂と違った……。

 って、突っ込みどころがあってすごいけど、今はこの歓迎ムードがすごすぎて、何をどう反応すればいいのかわからない。

 花びらで歓迎とか、マハラジャですか? 

 でも何よりびっくりなのは、騎士さんたちが普通に受け入れていることだよね。

 やっぱり慣れているのかな?


 なんて考えているうちに今日の宿泊場所に到着。

 そこにも大勢の人がいて、馬車から私たちが降りるのを待ってる。

 プレッシャーを感じてさらに深くローブを被ったら、ディアナが励ますように私の手を軽く叩いた。


「ルナ、私が先に降りるわ。だからルナは自分のタイミングで降りてきて」

「……わかった」


 私が緊張しているのがわかったみたいで、ディアナが気遣ってくれる。

 美少女なディアナは馬車から降りると満面の笑みを浮かべて周囲に手を振った。

 途端に歓声が上がる。

 そこに爽やかな風が吹いてディアナの亜麻色の髪を華麗に舞い上げた。

 するともっと歓声が上がる。

 ディアナは自分を綺麗に見せる方法を知ってるらしい。

 今のは風魔法だよね。恐ろしい十三歳だ。

 魔法騎士さんたちもやっぱりディアナに見惚れてる。

 あれだけ多くの人の注目を浴びても笑っていられるディアナを尊敬しながら、今のうちに脱出せねばと私はこそこそ馬車から降りた。


「ありがとう、ディアナ。さっきのは風魔法だよね?」

「実は風魔法にちょっと魅了魔法を混ぜたの」

「魅了魔法!? って、自分のことを好きになってもらうやつ?」

「そこまでは無理よ。人の心に干渉する魔法はかなり難しいの。先ほどのは魅了魔法の対象者が――今回は私が最大限に魅力的に見えるようにしただけ。だから私の容姿が好みじゃない人はそれほど惹かれなかったと思うわ」

「へー!」


 要するに自分に魔法をかけて魅力度アップしたってことだね。

 それも、ないものをあるように見せたんじゃなくて、あるものを磨いて見せたって感じかな?

 ちなみに、ディアナに惹かれなかった人はいなかったみたいだけど。

 お陰さまで私は目立つことなく、ここに入れたからよかった。


 今日は食事は部屋でとってくださいって言われてるんだよね。

 むしろ部屋から出るなってことらしい。

 宿といってもここは続き部屋が三部屋もあるような場所だから、窮屈には感じないし平気。

 部屋から出るにはローブを被らないとだし、そうなると見習い魔導士ってわかるしで目立ってしまう。

 しかもローブを取るとさらに目立つという容姿。

 こういうとき、普通ならローブを脱いで素顔でお忍びお出かけとかできるのにな。

 美人も楽じゃないんだよね。……って、一度言ってみたかっただけ。


『ルナ様、先ほどから何をぶつぶつおっしゃっているのですか?』

「え? 声に出てた?」

『声には出ておりませんが、私はルナ様の眷属ですから。これほど近くでお仕えしていれば聞こえるのです』

「そうなんだ」


 便利だな。「ちょっとリモコン取って」とか、口で言わなくてもいいんだ。

 そもそも神様がリモコン取っては言わないか。

 でも全て聞かれるのもプライバシーの問題な気がする。


「それって、聞こえないようにすることはできないの?」

『聞くなと望まれるだけで、我らには聞こえぬようになります』

「便利すぎる……」


 当たり前だけど神様ってすごいな。

 その一員だと思うと信じられないけど、鏡を見ると信じられる。

 中身別人説を捨てたわけじゃないけど、鏡さえ見なければ今までの――前世の自分だと思えるから。


「それで、ルナはどうするつもり?」

「え? 何が?」


 実際に使うことがあるとは思ってなかった言葉の「白魚のような手」を見つめながら考えていたら、いきなりディアナに尋ねられた。

 でも何のことかわからない。

 私が聞き逃してた?


「ごめん、ディアナ。聞いてなかった。何か問題があるの?」

「あら、謝る必要はないわ。私は何も言っていないから。ただ、街の人たちの希望を叶えてあげるつもりがあるのか訊いたのよ」

「街の人たちの希望?」


 それこそ何のことかわからない。

 何か誰か言ってたっけ?

 でも街に着いてからディアナと太郎以外には隊長さんとしか話してないしな。


「馬車から降りたときに、街の代表者らしき人がそれらしいことを隊長に言ってたの。ルナに話を聞いてもらいたいって。何か希望があるってことでしょう?」

「そうなんだ。全然気付かなかった」

「ルナは通り過ぎるのに必死だったものね」

「あんなにいっぱいの人から注目されたら緊張するから」

「そうかなあ? 一人も大勢も変わらないと思うけど、まあ感じ方は人それぞれだものね」


 一人と大勢じゃ全然違うと思うけど、それこそ人それぞれだもんね。

 ディアナは度胸があって何事にも大胆なんだと思う。

 いくら魔導士が二人いるからって、魔力の強い怪しい人間を家につれて帰って泊めてくれたんだから。

 ディアナは困ってた私を助けてくれて、今までずっと助けてくれてる。

 だから私も困っている人は助けたい。

 街の人たちが何を希望しているのかわからないけど、私にできることは力になりたいと思うんだ。




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