修復
『お見事ですぞ! さすがはルナ様!』
「また、やりすぎた……」
「結界を破るなんて、今まで以上に強力だったわね」
「ごめん、ディアナ」
「ルナのせいじゃないわ。それよりも――」
「ルナ様、お見事です!」
言いかけたディアナの声は、イアニスさんの声で消えてしまった。
最初は呆気に取られていた騎士さんや村の人たちも、イアニスさんの声で我に返ったらしい。
みんなすごい喜んで、飛び跳ねている人や吠えている人もいて、ロバが別の意味で驚いてる。
その中で、隊長さんがいきなり私の前に膝をついたかと思ったら、騎士さんたち全員が膝をついた。
イアニスさんは当然とばかりに顔を輝かせて……どちらかというとぼうっと私を見てる。
そこで私のフードが取れていたことに気付いて、慌てて被り直した。
ディアナはこのことを言いたかったみたいで、私のほうに向いて頷く。
「あの――」
「ルナ様、素晴らしい魔法でございました。殿下がルナ様にお会いしたいと望まれるのも当然のこと。これからも我々がご一緒させていただくことをどうかお許しください」
「それはもちろんなんですが――」
「ありがとうございます!」
「これで村に安心して住めます!」
隊長さんの態度ががらりと変わったことは、まあ気にしない。
それよりも村の人たちに感謝されるのが申し訳ないです。
だって、せっかく育てていた野菜? 麦? を魔物に荒らされていたとはいえ、私がたった今トドメをさしてしまったから。
「あの、すみません。畑を……灰にしてしまいました!」
きっと収穫前だったよね。
もっとしっかりコントロールできてれば、魔物に荒らされていたところ以外は収穫できたと思う。
これからこの村の人たちは冬を越せるのかな?
色々心配して頭を下げたけど、みんなは驚いたのか口をぽかんと開けてる。
「ルナ、確かに畑は焼けてしまったけど、あれだけの魔物を一瞬で倒したんだもの。誇るべきよ」
「でも、この村の人たちが頑張って育てたのに……」
「な、なんてお優しい……」
「魔物を倒してくださったばかりか、俺たちの畑まで心配してくださるなんて!」
「ルナ様、そのような些細なことにまでお心をかけてくださるとは、なんと寛大なお方なのですか!」
「え、いや……」
ディアナが励ましてくれたけど、それでも申し訳なくて不甲斐ない。
だけど、村の人たちは怒ってなくて、それどころか感動してる?
イアニスさんは涙ぐんでて、他の騎士さんたちもうんうん頷いてる。
すると太郎が不思議そうな表情で首をこてんと傾けた。
可愛いぞ。
『ルナ様、そのようにお気になさるのなら、元に戻せばよいではないですか』
「え?」
『修復のお力をお使いになれば、元に戻せまずぞ』
「修復の力……って、私にできるの?」
『もちろんですとも。ルナ様は神々の中でも最上位にお座すお方。できぬわけがございません』
よくわからないけど、元に戻せるなら戻したい。
だって、畑だけじゃなくて山まで焼いちゃったから。
きっと山の――森の恵みとかあったはずなんだよ。
他の魔法と同じようにイメージを大切にして……とそこまで考えて気付いた。
「もしかしてだけど、魔物まで蘇ったりしない? 元に戻すってそういうこと?」
『それはさすがにルナ様でもお一柱では不可能ですぞ。意志ある生物の体には全て魂が宿っております。そして冥府の神であるスデウ様のお力がなければ、魂を戻すことはできませぬ。魂がなければ体を作ることは不可能。あのような魔物でも魂を持っておるのです』
「そうなんだ……」
ほっとしたのは当たり前なんだけど、もしさっきので他の動物まで巻き込んでたらと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
やっぱり必要なのはコントロールだ。
でも今は修復しないと。
「ルナ、何を話しているの?」
「あのね……修復の魔法があるんだって。それで畑を元に戻したらいいって言われたからやってみるよ」
「修復の魔法? 聞いたことがないけど、魔物だから――使い魔だから知っているのかしら」
「そうかも」
まさか女神だから使えるとは言えなくて、ちょっと誤魔化してみた。
太郎は魔物と言われて不服そうになり、ディアナは慌てて言い直してくれる。
言葉が伝わらなくても、太郎の豊かな表情でだいたい通じてるよ。
さてと。できるかどうかはわからないけど、やってみよう。
まずは他の魔法のようにイメージ。
魔物に荒らされた後しか見ていないけど、本当ならもっとたくさんの緑があって、畑も土がむき出しになってなかったはず。
次に前世の映画で見たような修復のイメージを頭に思い浮かべる。
すると他の魔法のときみたいに、体から魔力が流れ出ているのがわかった。
どうかどうか、村の人たちが困らないように、元通りに直りますように!
「すごいわ、ルナ!」
「まさかそんな……」
「夢を見ているのか……?」
ディアナや騎士さん、村の人たちの驚いた声が聞こえる。
どうやら上手くいっているらしいけど、もう少しだけ。
『さすがはルナ様ですぞ! 吾輩の想像以上のお力!』
太郎の嬉しそうな声が聞こえて、そこで魔力を遮断して目を開ける。
それから驚きのあまり、目を大きく見開いた。
確かに、修復するのにコントロールもそこまで必要ないかと思ってたんだけど。
山は新緑の季節なのかってくらいに青々としていて、畑は魔物が荒らした跡はすっかり消えて黄金色の麦畑が広がって季節感ゼロ。
あ、春小麦と冬小麦とあるんだっけ?
いやいや、それにしたってさっきは青かったから違う。
麦畑ってこっちをイメージしちゃったからか。
それに何より、村の人たちの歓声が後ろに聞こえて振り返れば、壊れていたはずのお家までもが修復されてた。
こっちはイメージしてなかったけど、結果オーライ?
「すごいわ、ルナ! これが修復魔法なのね!?」
「あ、……うん。そうみたい」
「ルナ様、なんというお力! このような魔法があるなど知りませんでした!」
「……奇跡だ。奇跡だ!」
『ま、当然ですな』
ディアナや騎士さんたちも喜んでくれて、村の人たちはもっともっと喜んでくれてよかった。
やりすぎたかと思ったけど、頑張った甲斐があったよ。
だけど村の人たちの中の一人が「奇跡だ」と言い出して、それがみんなに伝わっていく。
うん、普通に奇跡だよね。自分でもびっくりだもん。
太郎はさっきまで驚いていたのに、今は当然だとばかりに胸を張ってて可愛い。
「こんな奇跡を起こせるなんて……まるで神様だ……」
「いや、あの方は女神様だ!」
「そうだ! 女神様だ!」
興奮した村の人たちが私にむかって膝をついて頭を下げる。
え? ちょっと怖い。
それに女神様だってばれた?




