女神
わー、なんかいっぱい聞こえた。
想像を遥かに超えた答えが返ってきた。うん。
でも何だろう? 不思議と拒絶反応はない。
ただ「そっかー」って感じ。
だからといって、記憶が戻ったりはしていないけど、何となくこの自分に納得。
そっか。女神様ならこの力もこの美貌も当然だよね。
「――って、私が!?」
いやいやいやいや。女神様とかって柄じゃないし!
どうして? 本当にどうして私!?
やっぱり私はこの体に憑りついているだけじゃないのかな!?
「ルナ、大丈夫なの?」
「あ、ああ、うん。大丈夫は大丈夫なんだけど、私って本物かどうかが謎っていうか、これってやっぱり乗っ取りなんじゃないかな!?」
「大丈夫じゃなさそうね」
あわあわしてる私を心配してディアナが声をかけてくれたけど、ちゃんと答えられなかった。
すると、ディアナは励ますように手を握ってくれる。
うう。何だか落ち着いてきたよ。
ディアナがまだ十三歳だって思えないくらい大人な対応だけど。
『ルナ様、何度も申しますが、ルナ様はルナ様ですぞ。中身が違うなどとおっしゃられても、そもそもそのようなことは不可能なのです。只人がルナ様の御体に入り込めるわけがない。もし仮にそのような愚かなことをしても、ルナ様の神気に耐えられずすぐに霧散してしまうでしょう』
「そ、そうなの?」
『はい』
太郎はとっても満足そうに頷いてくれて、受け入れがたいけど受け入れることにした。
それにしたって、生まれ変わったら女神様になってたなんて、すごすぎだよ。
まだ勇者として召喚されて世界を救うために戦うことになったってほうが信じられる。
でも記憶がないんじゃ、何すればいいのかわからないしなあ。
「……ねえ、太郎」
『何でしょう?』
「私はどうしてこの世界にいるの?」
普通なら神界ってところにいるんだよね?
それがなぜここにいるのかわかれば、記憶を失くしたヒントが見つかるかもしれない。
何か使命があったとか、やらなければならないことがあったとか?
期待して太郎を見ると、またぴょんとした眉をキュッと寄せた。
『それは……』
「それは?」
『まったく見当もつきません』
「ええ?」
すごく期待したのに。
えええ。
『ルナ様は常日頃から気まぐれな方でしたから。兄君も皆様方もまたどこかに遊びにいらっしゃったのだろうと思われております』
「そうなんだ……」
じゃあ、誰かが捜して心配してるってことはないんだ。
それはよかった。
だけど結局は私がここにいる理由がわからない。
「何か目的があったのかな……」
『正直に申しまして、何もなかったかと思います』
「どうして?」
『ルナ様ですから』
「えええ……」
女神様なルナ様は何をやってるんだ。
気まぐれって言われてたけど大丈夫かな。
「それじゃ、みんなに迷惑をかけたりとかはしていないよね?」
『……はい』
微妙な間があった!
本当に大丈夫なの? 謝罪行脚とか必要かな?
「あの……その神界? に帰ったほうがいいのかな?」
「ええ!? ルナはお家に帰ってしまうの!?」
「い、いや、まだ決まったわけじゃないよ?」
ディアナとアスラルにはたくさん恩返しをしたいし、このまま帰るなんてことはしないつもり。
とはいえ、記憶が戻ってほしいし、お兄さん神様に会えば記憶が戻るかもだし、迷惑をかけてるなら謝りたい。
だけどディアナがとっても寂しそうで、帰らなくてもいいかななんて……思ったらだめだよね。
記憶を取り戻してからまた会いに戻ってくればいいし。
そう考えたんだけど、太郎は困った顔をしたまま黙り込んでた。
「太郎?」
『その……ルナ様は神界へのご帰還方法を思い出されたのですか?』
「ううん。まだ思い出せないけど……」
『それでは申し訳ないのですが、神界へご帰還なさることはできません』
「そうなの?」
『それがその……吾輩は常にルナ様に喚び入れていただいておりましたゆえ、自らは入れぬのでございます。お役に、立てず…申し訳ありません~!』
最後は声を震わせ、太郎はまたおいおい泣き出した。
太郎が自分を責める必要なんてないのに。
「ルナ、お家がわかったの? やっぱりお家に帰ることになったの?」
「う、ううん。家は……わからなくてまだ帰れないの。それで太郎が気にして泣いちゃって……」
「そっか……」
やっぱり自分が女神様だとは言えなくて誤魔化した。
するとディアナはほっとしたように笑って……ああ、もう可愛いなあ。
そうだよね。
今現在、王子様に会いに行っているのに途中で抜けることもできないし、とにかく王都を目指さないと。
そもそも王子様が私に何の用事かわからないし。
まさか不思議な力の持ち主に会いたかっただけなんてことはないよね?
理由を知るためにも王都に行って、それからのことはそれから考えよう。




