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正体

 

「ねえ、太郎」

『はい、何でしょうか?』

「あのね、せっかく太郎の飼い主さん? が見つかったのはよかったと思うんだけど、実は私は太郎の本当の飼い主さんじゃないんだ。ごめんね」

『何をおっしゃっているのですか? ルナ様はルナ様ですぞ。またそうやって吾輩をからかって遊ぼうとなさる。意地悪です』


 あれから隊長さんたちにお願いして、太郎と一緒に旅を続けさせてもらうことになったんだよね。

 小型のままなら馬車にも乗れるってことで、こうして車内でおしゃべりもできる。

 ただ誤解はちゃんと解いておかないといけないんだけど、上手く説明できない。


「あのね、この体は太郎の飼い主さんのルナさんだと思うの。だけど私は――中身は別人のルナだから。一生懸命捜してくれたのに、別人でごめん」

『不思議なことをおっしゃりますな。いつものご冗談でもないようですが、ルナ様はルナ様ですぞ』

「うん、だから……」

『ルナ様、吾輩の目はよく見えます。ですが、耳はさらによく聞こえ、鼻はさらにもっとよく利きます。それは人間のような上っ面なだけのものとは違いますぞ。吾輩は感じるのです。ルナ様の全てを』

「そ、そうなの?」


 ちょっと怖いと思ったのは内緒。

 要するに中身もわかるってことだよね?

 そして中身を感じて、私がこの体の持ち主だって思ってるんだ。

 うーん。まあ確かに、ハスキーな太郎の思い出とか考えると偶然の一致にしてはできすぎな気もするよねえ。

 ということは私がこの体の持ち主で、何かがあって、今現在の記憶を失くしていると考えるほうが妥当?

 この絶世の美女が?

 うーん。慣れない。


「じゃあ、上手く力をコントロールできないのは、まだ記憶が戻っていないからなのかな……」


 前世の(これはどうやら確定らしい)記憶しかないから、魔法に慣れなくて力を抑えられないんだ。

 そう考えるとなんだか納得。

 色々な謎がちょっとだけ解けたようで満足していたら、太郎が不思議そうに首を傾げた。

 ああ、可愛い。この仕草。


『記憶がない?』

「う、うん。あの、今の私として生まれた時からの記憶がないの。前世の記憶――太郎を飼っていた頃の記憶はあるんだけど」

『やはりからかっていらっしゃるのですか?』

「違うよ! 本当だよ!」

『ふむ。それはひょっとして真実かもしれませんな。ルナ様は意地悪ですが、嘘をつくような方ではいらっしゃいません。むしろ正直すぎるお方ですから』


 太郎が信じてくれた。嬉しい!

 アスラルはなかなか信じてくれなかったからね。

 今の私を知る相手がいるってすごく心強い。


「あのね、私はすごい力を持ってるみたいで、魔法がなかなかコントロールできないんだけど、それって記憶が戻ったらできるようになるかな?」


 生まれつきコントロールがないんだったらショックだよ。

 せっかくある力を使えないんだから。

 そう思って太郎に質問したら、またこてんと首を傾げた。


『コントロール? 力の制御のことですか?』

「うん、そうよ」

『十分にお力は抑えられていると思いますぞ。そもそも吾輩がルナ様を見つけ出すのにこれほどの時間がかかったのは、ルナ様ご自身がお力を最小限に抑えていらっしゃるのと同時に、何者かの結界内にいらっしゃったからです。ふむ。その者がルナ様を隠しておったのですな。吾輩が成敗――』

「待って、待って! それはいいの。じ、自分で隠れていたから!」

『さようでしたか。ならばやはり、制御できているのではありませんか』

「え? そうなのかな……」


 アスラルのところに太郎が向かうのは回避できたけど、これでコントロールできているというのは疑問。

 木を一本切るつもりで森に道ができちゃうくらいなんだから。

 そういえばあのカンデの森は大丈夫かな?

 棲んでる魔物が怒ってアスラルが困ってないかな?


 そのことに気付いてディアナを見る。

 ディアナは私が太郎から色々と話を聞けるようにって、ずっと黙っていてくれたんだよね。

 だけどディアナは太郎に目を向けた。

 あ、太郎がまだ何か話してたんだ。


『――であるゆえに、この地においてルナ様は無意識のうちに力を抑えていらっしゃるのでしょう。でなければ、ルナ様の存在そのものが、この地を無へと帰してしまいますからな』

「……え?」

『ですから、普段のルナ様は神界におられます。それゆえ、力を制御する必要がないのです。慣れていらっしゃらないのは当然のこと。人間の扱う〝まほう〟などといった低レベルの力をルナ様が行おうとなさるのなら、それこそ神レベルの制御能力が必要とされますぞ』


 ちょっと何言ってるかわかんない。

 情報を整理したほうがいいよね。


「えっと、神界って何?」

『それはもちろん神々がお暮しになっていらっしゃる世界ですとも。吾輩もルナ様の眷属とさせていただいてから、立ち入ることを許されまして、なんと名誉なことなのかと――』

「え? それじゃあ、私って何なの?」


 この変な質問に太郎はぴょんとした眉を寄せたけど、すぐに分かったっていう顔になった。

 すごいな、表情豊かだ。


『そうでした、そうでした。ルナ様は物忘れの病に罹られているのでしたな』

「まあ、うん」

『なんとお気の毒な。ご自分が何者でいらっしゃるかもお忘れになるなど、兄君がお知りになったら、さぞかし嘆かれるでしょうな……』

「お兄ちゃんがいるの?」

『はい。それはもうご立派な、ルナ様に並び立たれるのにふさわしいお方でいらっしゃいます』

「へー」


 お兄ちゃんがいるっていうのは嬉しい驚きだけど、並び立つって表現は微妙だな。

 だけど今は言葉選びにどうこう言っている場合じゃない。

 いったい私が何者なのか、どきどきしながら太郎の言葉を待つ。

 太郎はほろほろと泣いて――はないけど、前足で目頭を押さえてわふわふと続けた。


『ルナ様は神々の中でも最上位に御座すお方。月と狩猟、そして闇の女神様でいらっしゃいます』




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