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「ルナさん、これはいったい……本当にこの魔物と知り合いなのですか?」

「あー、その、知り合いっていうか……ペット? みたいな感じのようです」

「ペット?」


 隊長さんが伏せをした太郎(仮)から目を離さないまま、私に問いかけてきた。

 それで答えたんだけど、どうやら〝ペット〟が通じなかったらしい。

 でも私だって色々とわからなくて、何をどう説明したらいいのか……というか、誰か説明してほしい。


「えっと、この子は太郎という名前で……」

「魔物に名前をつけたのですか!?」

「それを魔物が受け入れたということですよね!? だとすれば、使い魔なのですね!?」

「そうなんですか?」


 使い魔というのは私だって知っている。

 魔女に黒猫、安倍晴明に一条戻橋(違う)。

 でもこの太郎さんは魔物ではないと言っていたし、神の眷族になったとか言ってたような……神?

 神って、神様?

 あー、何だかもやもやする。


「ルナ、あれがルナの使い魔なら、他にも命令に従うはずよ。たとえば、体を小さくするように、とか」

「え? そんなことができるの?」

「おそらくね。他に使い魔を従えている魔導士はそうして傍に置いているわ」

「そうなんだ……」


 他の魔導士ということは、やっぱり私は魔導士だったのかな?

 ディアナの声を聞いているともやもやも消えて、目の前のことに集中できる。

 ちゃんと伏せをしつつも騎士さんたちを睨みつけている太郎(仮)に視線を戻すと、太郎(仮)はぶんぶんと大きなしっぽを振った。

 可愛いなあ、もう。


「太郎」

『はい!』

「体の大きさって変えられるの? これくらいに」

『もちろん!』


 私が太郎と呼べば嬉しそうに返事をしてくれて、両手でハスキーな太郎くらいの大きさを示せば、太郎は伏せからぴょんと飛び跳ねた。

 瞬間、太郎の輪郭がぼやけ、身構えていた騎士さんたちからもどよめき声が上がる。


『ルナ様のお好みの大きさになりましたぞ!』

「あ、ありがとう……」


 ハスキー犬の太郎よりは一回り小さいけど、抱きしめるともふっとして気持ちよさそう。

 でもそれよりも何よりも、太郎にそっくりだよ。


「太郎、おいで!」

『承知!』


 懐かしさのあまり私は両手を広げて昔のように太郎を呼んだ。

 すると太郎も嬉しそうに答えて駆けてきてくれる。

 ああ、可愛い。懐かしい。


 騎士さんたちが小さくなった太郎に警戒を緩めているのがわかる。

 傍ではディアナが警戒しつつも微笑んでくれているのも。

 でもごめん。記憶はまだ戻っていないんだ。

 って、ちょっと待って! その勢いダメなやつ!

 昔もよくやった、勢いよすぎて後ろに倒れるパターン!


「たろっ――!」

『ルナ様~!』


 久しぶりのタックルに倒れてしまったけど、頭を打たないように受け身をとった私を誰か褒めてほしい。

 偉いよ、私。お尻を打っただけですんだよ。……痛いけど。


「ルナ!?」

「だ、大丈夫だから……心配しないで……」

『ルナ様~! ルナ様~!』


 ああ、この感じ、本当に懐かしい。

 私への被害なんて知ったこっちゃなくて、喜ぶ太郎。

 ふりふり揺れる太郎のしっぽの向こうで、心配してくれるディアナの顔が見える。

 その後ろで騎士さんは放心状態になっていた。

 そうだよね。大きな化け狼が普通の犬になったんだから。


「ルナ、フード!」

「え? ――あっ!」


 倒れた拍子にフードが外れてたみたいで、慌てて被り直す。

 顔を見られちゃったかな? と騎士さんを見たらばっちり目が合ってしまった。

 途端に騎士さんははっとして、私に手を差し出してくれる。


「ルナ様、どうぞお手を」

「……ありがとうございます」


 なんていうか、すごく……扱いが変わってない?

 まあ、気持ちはわかるけどね。

 だって、すごく私は綺麗だから。

 自分で言うのは恥ずかしいけど、真実だから。

 真っ赤になって緊張した様子の騎士さんの手を借りて起き上がりながら、容姿のことを思い出したら落ち込んできた。

 やっぱりこの体は私のじゃないよ。


『ルナ様、ルナ様! 申し訳ございません! 嬉しさのあまりはしゃいでしまいました! お怪我はございませんか!?』


 立ち上がった私の周りを太郎がうろうろと心配そうに回る。

 ああ、こんなところもハスキー太郎にそっくりだよ。


「ルナ、本当に大丈夫? どこも怪我していない?」

「うん、ありがとう。大丈夫」


 改めて心配してくれるディアナに答えて、ローブについた土を払う。

 それなのに助け起こしてくれた騎士さんはまだ私を心配そうに見ていた。

 どうやら太郎のことを危ぶんでいるみたい。


「太郎、おすわり!」

『承知!』


 太郎はとってもいい子だとアピールすると、騎士さんはほっとしたみたいだった。

 それは他の騎士さんたちも同じで、剣を鞘に収めて私たちのほうへと戻ってくる。

 すると、ディアナがずっと傍にいてくれた騎士さんに怖い顔を向けた。


「あなた……イアニスだったかしら?」

「はい、ディアナ様」

「今見たことは内緒だからね?」

「――というと?」

「ルナの容姿よ」

「なぜです? かように美しいお顔をなぜお隠しになられるのですか?」

「あなたみたいな……人ばかりじゃなくて、馬鹿な行動に出る人がいるかもしれないからよ」

「なるほど。確かにそうですね。では、私はルナ様の御身とともにその秘密もお守りいたします」

「ええ、お願いね」


 私に対する態度がかなり変わってしまった騎士さんに、ディアナが厳しく忠告してくれた。

 でも「あなたみたいな馬鹿」と言いかけたのを修正したよね?

 騎士さん――イアニスさんはそのことには気付かなかったようで、すごく得意げに答えてた。

 何て言うか、美人も色々と大変だなあ。




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