第1話 さよなら、平凡
学生時代、動物と話せたらなーなんて思ってました。仕事を始めた今、動物と話せたらどんなに楽な仕事になるかわかったもんじゃありません。
「(おきて)ヴー!!」
青年は起きない
「(おきなさい)ワンッ!ワンッ!」
青年は起きない
「(刺すね)...」
青年は起き...
「った.........」
頬に棘が刺さったような痛みを感じ青年は起きる
同時に周りを見渡し、いつもの光景に溜息。安堵の溜息。
「お前達か...起こしてくれてありがとう...」
気だるい体を1分かけてゆっくり起こす。
「おはよう」
「(おはよー!!)ヴーー!」
「(おはようございます)ワンワンッッ!」
「(おやすみ)......」
「いやお前が寝てどうすんだよ。まぁ仕方ないけど...準備できたら起こすから寝てていいよ、ありがと」
少年は目をこすりながらベッドから起き上がる。
強烈な目覚ましは代わるように眠りにつく。
「今日は遅刻しちゃいけないもんな...大事な卒業式だし...」
「(みんな待ってるよ!!)ヴーー!」
「だよな...この時間に起きられたのは感謝しかないよ」
「(いつまで経っても私たちがいなきゃダメね)クゥーン...ワンッ!」
「いやはやお恥ずかしい」
今日は卒業式。いつもの制服ではなくちょっとだけしっかりしなきゃいけない、心底堅苦しい。
「あいつらともこれで最後かもしれないと考えると...足取りは重いなぁ...」
「(仕方ないわよ、いつしかくるものだもの。)ワンッ!」
わかってはいても、この3年間は簡単に割り切れるような時間を過ごしてこなかったことをほんの少しだけ反省する、だが後悔はしていない。
「......よし、準備出来た。マリー、寝てるやつ起こしてくれるか?準備でき次第もう行くぞー」
「(わかったわ)ワンッッッ!」
勢いよく、吠えると同時に他の動物たちを起こし始める
...胸ポケットにいつもの感覚。
「(この特等席も今日で最後かもしれないんだね!!)キッキーー!キキッ!」
「だなぁ...だがやはり。この日がくるのは仕方のないことだ」
「(おはよ...)...」
のっそのっそとフードの中にトゲトゲした生き物が入り込む
「おはよ、さ、寝てていいぞ」
「(そのつもり...)...」
青年と動物たちは、扉を開ける。
〜3年前〜
ピピッ.........ピピッ.........ピピッ.........
目覚ましの音、1度目の警告音。
ピピピッ......ピピピッ......ピピピッ......
目覚ましの音、2度目の警告音。
ピピピピッ...ピピピピッ...ピピピピッ...
目覚ましの音、3度目の警k...
ポチッ
「うるさい......んーー......起きなきゃ...」
青年は、眠い目をこすりながら体を起こし、部屋から出て一階のリビングにフラフラと向かう。
「おはよう!さ、ご飯出来てるわよ。早く食べて準備して学校行きなさい」
立花叶、母である。
「へぇーい...」
まだ覚醒していない立花良平は朝食に出されたベーコンエッグを頬張る。
たとえば、これがもしアニメや漫画であったなら
ここで登場するのはきっと妹なのだろうが、
あいにくこの家は母と俺の2人暮らし、いわゆる母子家庭って奴だ。珍しくもない。
「...ごちそうさま」
「はい、お粗末様!」
食事を済ませると、歯を磨いて寝癖を直し、玄関に向かう
「いってきまーす...」
「いってらっしゃいっ!」
母の見送りの声が台所から聞こえる
扉を開け、学校に向かう。
通学路の途中、溌剌とした元気な女の子がポニーテールを揺らし、こちらに向かってくる。
「おはよーりょうくん!!相変わらず眠そうだねー!」
「遅刻はまだしたことないんだからいいだろ」
「そだね!えらいえらい!」
幼馴染、妹はいないが、幼馴染はいる。
真鍋梨沙。
「今日は部活じゃないの?」
「んーん!!今日は休みだよ!」
「そうか、...陸上部だっけ?」
「そーそー!」
相変わらずいい笑顔、可愛い。こいつに彼氏ができたとき、わたしは笑顔で見送れるだろうか、無理だ。君のお父さんが許しても、良平パパは怒るぞ。きっと怒るぞ。
「さ、ついたぞ、まためんどくさい退屈ないつも通りの学校生活の始まりだ」
「もー、またそういうこと言うー...そーだなー...確かにいつも通りかもしれないけど、まだ入学して半年だよ?」
「そうだけどさー...つまんないっつーか...」
「部活はしないの?あ!!!!!!!陸j...」
「いやしないよ?絶対にしないよ?」
「即答!!もーちょっと考えてよ!!」
「いや体動かすのはちょっと...かといって...他にやりたいのもないんだ...ごめんな」
「まぁいいけどさー、気が変わったら言ってね!歓g
「そこだけは絶対ないから大丈夫だよ」
「食い気味で否定しないでよー」
夫婦漫才を繰り広げつつ、教室に向かう
私立英堂学園の変哲も無い普通の学校。異能者がいるわけでも、異世界から何かが転校してきた学校でもない。普通、普通が一番平和で安全なのだから、いいことなのだ。デメリットは、退屈ということ。それすなわち...
「ねぇねぇりょうくん...あの人......」
「今カッコいいナレーション挟んでたのに...んでなに?」
「あの...ほら、なんかすごい...なに...?犬?...と、鳥?猫...?え?
「...????????」
フレーメンの音楽隊。第一印象はそんな感じ
もしくはDr.ドリトル。
「ドリトルの親戚か何か?」
口に出てた
「???ドリル?よくわかんないけどなんかすごいね、あんな人初めて見たよ、制服も着てないしもしかして転校生?」
「あんな転校生ありなのか?なんだ?愉快だぞあれ」
まだ理解できない。先輩なのか、それとも同級生なのか、そんなことを考える前になんで周りに動物の群れがあるのかが気になった。
「こっちこない...?りょうくん」
まじ?くんの?こっち?俺16年生きてきてあんな奇妙な人との接し方なんてわからないよ?様々なことが脳裏によぎる。
「そこのきみ!職員室というのは!どこかね!!」
ワンワンッッ!!!!!ヴーーー!!...ニャア...!ピー!!カァーア!!!
情報量。これは数の暴力。情報量のいじめである。
犬?...ちっちゃい...サルみたいな...?猫...!?鳥...?インコ...!!!??カラスッ!?!?
攻撃を仕掛けられた、情報量で。...泣きそう。
「...ん?聞いているか?大丈夫か???」
「あ...え...あっ...1階の...あの...奥曲がってすぐ...だよ」
しまった、唐突すぎてコミュ障のような反応をしてしまった。
「ありがとう!!」
群れが通り過ぎてゆく。去り際に彼のフードから鋭い目がキラリと光ったのを見逃さなかった。怖かった。
放心、しばらく放心状態を解いたのは梨沙だった。
「りょうくん!?りょうくん!!りょうくん!!」
「ハッ!!」
「戻ってきた!」
「すまん......あまりの...情報量に驚きを隠せなかった...」
「すごかったね、大移動だったね」
「ああ...」
多種多様な動物の群れを見ると人間は恐怖を覚える。一つ賢くなりました。
「...とりあえず、教室いこっか?」
「...そうだな」
そこから教室につき、それぞれの席についた。
席は窓際の一番奥という完璧な席を手に入れた。
が、そのおかげで、そのせいで、
立花良平という男に友達はあまりいない。
...あまりいない。半年経ったのにね。不思議だね。
こっちからアプローチかけずにハチ公の如く待ちの姿勢だったからいけないんだね。そうだね。俺が悪いね。
「ねーねーさっきの人転校生だよねきっと。うちのクラスにくるのかな?」
「ないないそんなありきたりな展開。俺モブだもん」
「もー卑屈だなぁ。世界中の人が主人公なんだよー?」
まぶしいセリフを貰ったところで担任が入ってくる。
「はーい...席についてー。...ホームルームはじめっぞー............先生とうとう親に孫が見たいってせがまれましたーみなさんはこうならないようにー.........はぁ」
担任の丹生田郁夫のはじめの会話で生徒をブルーにしていく、梨沙を少し見習ってくれ。...最後の溜息に全てを察する良平。
「あー...それと、暗い話したお詫びだが、転校生を紹介するぞー」
きた!まじか!これが美少女ならハーレム展開の始まりだけどおそらくあいつだ。名も知らぬ美少女よりあの動物まみれの彼の方が気になって仕方ない。...美少女でもよかった。
...あと転校生をお詫びイベントに組み込むな。
「はーい...。入ってきてー」
寸前まで騒いでいた同級生も静まる。そりゃそうだ。
最初に見えたのが犬の顔だったからだ。
「あーー...うん...みんな、言いたいことはあるだろうが、とりあえず待ってから、質問コーナー設けるから」
先生もこの異常な現象と実態には理解しているらしい。よかった。
「みんな!はじめましてだ!!私の名前は...」
名前を黒板に書いていく。動物たちも大人しくしているのを見ると躾がしっかりしているらしい。
...こい...早くこい...質問コーナー...!!
「艮巽だ!!えらく仰々しい名前だが、この通りいたって人畜無害だ。よろしく頼む!」
これからの3年間、平凡、普通とはかけ離れた時間を黒板の前に立つ男と過ごすことになるとは、知るよしもない。
その男はニヤリと笑う
暇つぶしになったのなら幸いです