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ゴソゴソ×6

 授業を終え、放課後。

聖と共に僕のバイト先へ向かおうと、共に駐輪場へ行くと美衣の姿が。


「ぁ、悠馬君……」


美衣はどこか申し訳なさそうに聖から目を逸らしていた。

まあ告白を断ったわけだし……


「えっと……その……どっか行くの?」


美衣は僕へと、放課後はどうするんだ、と聞いてくる。

どうするもこうするも……


「聖と僕のバイト先に行こうと思って。聖、先に行っててくんない?」


そのまま聖を先に行かせ、美衣と二人きりに。

美衣へと、聖に何を吹き込んだ、と聞いてみる。


「え? えっ? 吹き込んだって……私は別に……」


「美衣……断るならちゃんと断ってやれ、じゃないと聖……ワイルドになれば、美衣と付き合ってもらえると思ってるから」


「え、えぇ……わ、私はそんな事一言も……っていうか、なんで悠馬君知ってるの?!」


いや、むしろ何故分からない。

聖と僕は親友同士だ! チミは僕の親友をフったのだよ!


「す、すみませんでした……」


「わかればよろしい。というわけで聖とバイトに行ってくるわ」


そのまま去ろうとする僕の制服をつまんでくる美衣。

むむ、どうした。言っておくが、美衣も来たいとか言っても無理だからなっ、聖の心を抉るような真似は……


「悠馬君……気づいてる……よね?」


「……ん? 何が?」


「だ、だから……っ」


美衣はモジモジしながら太ももをこすりあわせて……ん?


「美衣、トイレいきたいなら行けば……」


「違うぅっ! 私は……っ、悠馬君の事好きだからっ!」


ビシ……と世界のどこかに亀裂が入ったような音がした……ような気がする。


え? えっ? なんて?


「……つまり、美衣は僕の事が好きだから……聖をフったと……」


コクコク頷く美衣。

どうしよう。どうしようっ……いや、ぶっちゃけ嬉しい。

人から好きだと言われるのは、こんなにいい物なのか。


なんだか……心の底が温かくなってくる……。


「……美衣、ホントに……?」


「ほ、ホントに……」


どうしよう。

いきなりここに来て……むむ、でも待てよ。


僕が美衣と付き合う事になったら……聖は間違いなくグレる……。

なにせ女に「ワイルドが好き」と言われただけでカラコンを入れてピアスを開けようとしたくらいだ。

今度は金髪にして改造制服を着てくるかもしれない。


「美衣……その……」


どうしよう、どうしよう……っ


僕は……どうしたら……


「美衣っ、ま、またこの話は……」


「悠馬君……人には言っといて……自分はちゃんとしないんだ……」


ん? なんのこと……って、あ、そうか。

さっき、美衣に言ったばかりじゃないか。断るならちゃんと断れって……。


つまり、僕は答えをここで美衣に告げなければならない。

考えさせて、と言うのも可能だが……


でも、ここは……


「ご、ごめん……美衣」


僕は頭を下げて、美衣の気持ちを断った。

美衣は震えながら、理由を聞いてくる。


理由……理由はなんだ。


美衣は好みじゃないから?

いや、好みといえば好みだ。可愛いし大人しいし優しい。


でも……それは友達としてだ。


「美衣は……友達としてしか……見れない……」


確かに聖が美衣に告白すると言ったとき、少し寂しかった。

もうこれから美衣と一緒に帰ったり出来ないかもと。


でも……ダメだ。


たぶん、僕は美衣の事を好きになれても、それは”友達として好き”で止まってしまうだろう。


「……そんなの……納得できない」


いつにもまして食いついてくる美衣。

なんだ、どうして……? 納得できないって言われても……


「隣の……お姉さん……? その人の事が好きなの?」


「はえ?」


隣のお姉さんて……紗弥さんの事か?


いや、まさかまさか。あんな自称超能力者のちょっとおかしな女性は好みではない。

まあ綺麗だけども。それ以上にあの人からは、関わってはならぬ……という負のオーラが滲み出ている。


「私、あきらめないから……!」


そのまま去ってしまう美衣。


え、えー! あんな強気な子だったっけ?! 

おかしい、おかしいぞ。僕の知っている美衣はもっと大人しくてポワポワしてるような子なのに……。


「っく……仕方ない、ごめんよ……美衣」


とりあえず今はバイトに向かおう。

いろいろと考えたい所だが、週三日のバイトすら遅れたら、更に日数を増やしてもらうなんて事は出来ない。



 ※


 

 僕のバイト先である執事喫茶は、岐阜駅前の大通りに面している。

木造の落ち着いた雰囲気の店は女性客に好評とのことだが、最近になって少し客層が変わり始めているとの事だ。まだ一か月前にバイトに入ったばかりの僕には、その変化がいまいち分からないが。


「聖、ごめん待たせて……中に入ってればよかったのに」


「いや……そうは言ってもですね……いや、言っても……」


そんな無理やりにタメ口に戻さなくても……。

まあ、同級生なんだ。タメで話すのが普通なんだろうが。


「じゃあ僕は裏口から入るから。普通にお客として入っても問題ないよ。執事喫茶って言っても男性客も普通にいるし」


そう、執事喫茶という名前からして、男性客は入りにくい店だろう。

だが、変わり始めた客層というのはまさに男性客の事なのだ。昔は女性客ばかりだったらしいが、最近になって男性客も増えているという。


(まあ、僕が入った頃は普通に男性客も居たんだけど……)


 裏口に回り関係者専用の入り口から入ると、ちょうどバイトの先輩である女子大生がメイド服を着て更衣室から出てきた。最初は執事喫茶にメイド? と思ったが。


「ぁ、真田先輩、こんにちはッス」


「ん? おぉう、悠馬君。こんにちは。今日も頑張ろうね」


真田 昌(さなだ あきら)。バイトの先輩であるこの人は、少し前までは普通に執事服を着て接客していたらしい。だが、最近になって近くにメイド喫茶が出来てしまったのだ。最初は完全に客層も分かれている為、問題なかったらしいが……。


「ぁ、真田先輩、今日高校の友達を客として連れてきました。サービスしてあげてください」


「んぉ。そうなんだ。じゃあ頑張るね~」


真田先輩は気合を入れるように背伸びしつつ、フロアへと向かう。

僕も更衣室へと入り、執事服へと着替える。


(まだ慣れないなぁ……この服。高校では普通に学ランだし……ネクタイとかもあんまり上手く……)


鏡を見つつネクタイを締め、髪型も諸先輩型のアドバイス通りワックスを付けて整える。

最初は全く上手く出来なかったヘアースタイルのセットも、一か月たてば中々出来るようになってきた。

普段は全くやらないからな……ワックスでセットなんて……。


(さて……聖はちゃんと新しい恋を探せるんだろうか)


なんなら、先ほどの真田先輩にでも恋してくれれば手っ取り早いのだが。

まだ確かフリーだった筈だ。真田先輩は。


 着替えを終え更衣室から出ると、オーナーである央昌(かねまさ)さんとかち合った。


「おや、こんにちは、悠馬君。今日もよろしくお願いしますね」


「はい、オーナー……じゃない、執事長」


「よろしい。男性客にも丁寧な対応をお願いしますよ」


はい、と返事をしつつ僕もフロアへと。

さてさて、さっきの話の続きだが……何故に執事喫茶で男性客を引き込もうとしているのか。

その理由は簡単だ。女性客も男性客も、メイド喫茶に取られてしまったからだ。

 

 噂のメイド喫茶は執事喫茶の向かいに、まるで喧嘩を売っているかのように開店した。

最初は執事喫茶に女性客、メイド喫茶に男性客と、役割分断がしっかりしていたのだが……


途中でメイド喫茶が女性客をも獲得し始めたのだ。

その原因は……メイドによる男装デー。


「すみませーん」


「はい、何でしょう、お嬢様」


一人のお嬢様に呼ばれ、駆け寄る僕。

お嬢様はメニューを見つつ、僕へと注文を……


「お兄さん……高校生? 可愛いね~ よかったらLUNEのID教えてくれない?」


って、逆ナンだった!

な、なんて肉食系のお嬢様なんだ! し、しかし当然IDを教える等はルール違反だ。

度が過ぎると、このお嬢様も出禁になってしまうのだが……。


「す、すみません、お嬢様……そういった事にはお答えできません……」


「……ぁーそう……じゃあいいわ。帰る」


えぇ!?

なんてワガママな! ここは執事をナンパする店では無くてよ!


ぅっ、なんか口調が乙女に……。いかん、周りが女だからつい……。


「またのお越しを……お嬢様」


「二度とこないわ、こんな店」


そう捨てセリフを吐いて出ていくお嬢様。

うぅ、なんだあの客……。


「気にする必要ないよ。たまに居るんだから。ああいうの」


真田先輩は慣れている、と言いたげに耳打ちしてくる。

まあ、確かに僕がバイトを始めてからというもの、今みたいに突然意味不に怒り出して帰ってしまうヒステリックなお嬢様は居た。


例:『すみませーん、注文いいですか?』


  「はい、どうぞ、お嬢様」


  『……帰る……』



等々……。意味が分からん。何故に! 何が気に食わんかったのだ!

ちなみに、真田先輩によると……


『たぶんだけど……悠馬君、あまりの忙しさにお嬢様の目見てなかったんじゃない? こう……ソッポを向きながら対応したとか無い?』


いや、まあ……確かにあの時は忙しかった。

でも……それだけで?!


『まあ、中には雰囲気を楽しむ為に来ている人も……っていうか大半のお嬢様がそうだからなぁ。肝心の執事さんが中途半端な対応だと、冷めちゃうっていうのはあるかも。今度からは気を付けてみて。ちゃんと目を見て……執事長風に言えば、その瞬間だけ……そのお嬢様だけの執事になるんだよ』



うん、難しい!

今までバイト経験皆無の僕が! そんないきなり……しかも、この執事喫茶にくるお嬢様って、本当にレベル高くて直視出来ないっていうか……ほとんどが大人のお姉さま系じゃないですか!



 まあ、僕のバイト事情に関してはこの辺りで止めて起こう。

さて、本来の目的である聖の新しい恋はどうだろう。まあ、そうもいきなり新しい恋が芽生えるなんて無いだろうが。というか、失恋した直後なんだ。やっぱり無理かなぁ……。


「す、すみません」


お、なんだかんだ言ってると噂の聖からお呼びがかかった。

だが僕が行っても意味が無い。ここは真田先輩にお願いしよう。


「はい、お呼びですか? ご主人様っ」


真田先輩は女性客と男性客で声色を微妙に使い分けている。

なんでそんな高度なテクニックが使えるんだ。っていうか、前は執事の恰好してやってたんだっけ……。


「え、えっと……コーヒー……ください」


「はい、畏まりましたっ。軽食はよろしかったですか?」


「え? えっと……じゃあサンドイッチを……」


接客する真田先輩を見ながら、僕もさりげなくお嬢様方へサービスする。

この店のサービスとは、執事っぽい事をすることだ。さて、どんな事が執事っぽいのかというと……


「おい、お前……口元にクリーム付いてるぞ……仕方ないな……ほら、こっち向け……」


と、お嬢様の口元を拭う”執事長”

先ほどと人格が違うように見えるが、あの人のキャラ設定は”クール眼鏡”らしい。

ちなみに僕のキャラ設定は……


「悠馬ちゃーん、お願いー」


「は、はい、お嬢様……」


一人のお嬢様に呼ばれ、そばに寄ると「あーん」とケーキを一口スプーンで差し出してくる。


「あ、あーん」


「美味しい? 悠馬ちゃん」


お嬢様に美味しい? と聞かれ、僕は全力で口元を隠しつつ……顔を赤面させて……


「……ぅん」


と小声で言う。


さて問題です。僕のキャラ設定はなんでしょうか。


答えは次話で……って、分かる人居るのか?!



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