第4話:Get Ready
本物の魔女に近づくために・・・・・・
3週間、彼女はあらゆる努力をした。
4.Get Ready ―君は頑張った―
アシュリーはまず、キラキラの食事をやめた。
「毒の大鍋を作るの」と、その日、朝からアシュリーは大いに張り切っていた。
どこから見つけてきたのか黒や茶色、紫や深緑色のあやしい食材をまとめて鍋に放り込んで火にかけた。
次に、ペットショップに出かけていきクモやトカゲ、カエルにコウモリをもらってきた。もちろん、魔法を使って勝手に取って来たんだけど。これもまとめて鍋に放り込んだ。
その次はなんだかよく分からないもの。不自然な黄緑色のドロドロのスライムのようなものだったり、赤黒い塊だったり。
それはなに?と聞く僕にアシュリーは「知らないほうがいいと思う」と返した。
それから香辛料や薬草。香辛料はインド料理屋と韓国料理屋から。薬草は中国系の漢方のお店。
僕はここまでが限界だった。
漢方を鍋に投入した瞬間になんだか分からないけどすごい煙と鼻がもげそうな強烈な匂いが部屋に充満―――慌てるアシュリーをそのままに、僕は部屋から避難した。
夜、恐る恐る部屋に帰るとリビングはいつも通り。
幸運な事に爆発は起きなかったようだった。
匂いは全部消えて変わりにカウンターの白いクチナシの花がいい匂いを放っていた。
次に、かわいい物のコレクションをやめた。
その代わりに「気持ち悪いもの、醜いものを集めるの」といろんなところに出かけてはせっせと部屋に持ち帰った。
それは例えば、アフリカのイボ族って民族の仮面だったり、すごく古いくるみ割り人形だったりしたんだけど・・・・・・。
はっきり言って、どれもいまいち“微妙”だった。
それを告げるとアシュリーは「これがあたしの精一杯なの」とうなだれた。
最後に、最も心が醜くて見た目が恐ろしい男を探しに出かけた。
アシュリーはニューヨークの街をうろうろ歩き回り、目をつけた男の後を追跡した。
要するにストーキングした。でもこの言葉は使いたくない。
だって、ここでは僕も大いに貢献したんだ。
初めての『リサーチ』の時、濃い紫色のワンピースに黒いローブ、黒のトンガリ帽子という典型的な魔女ルックスで出かけた彼女は途中お巡りさんの質問に会い、男を見失ってしまったのだ。僕は、普通の女の子に見える服装のアドバイスをしてあげた。
三週間のリサーチで、アシュリーはキスの相手を5人に定めた。
それはもう、見るからに悪そうな男たちばかりだった。
僕は反対したけどアシュリーは胸を張って言った。
「この5人だったら、誰とでも問題はないわ。とびっきり心の汚い人たちですもの」
魔女には人間の心がよく見えるそうだ。どの人がいいかピンと来るんだって。
そして、ついに実行の時が来た。
僕のアドバイスどおり、ジーンズのスカートにタンクトップ、いつかアシュリーが取ってきたシルバーの靴。
うん・・・・・・なかなか可愛い。
一人目の男に声をかける。
男は相手にしてくれない様子だったけど、アシュリーは諦めずに声をかけ続けた。
「うざってぇんだよ!!さっさと失せろ、このガキが!」
でも、しつこく声をかけるアシュリーについに男がキレた。
この怒鳴り声にアシュリーはほんとにびっくりしたみたいで、ビルの陰から見守る僕のところに一目散に駆け寄ってきた。
「うざってぇって言われたの。・・・・・・うざってぇって、何?」
アシュリーは涙ぐみながら僕に聞いた。
言葉の意味は知らないみたいだったけど、その言葉の持つ強烈なインパクトは十分に伝わったようだった。
他の3人も同じような感じだった。
けれど、アシュリーは見ている僕が心を痛めるほどひどい言葉で罵倒されても、最後まで諦めようとはしなかった。
努力が叶って、最後の男は誘いに乗ってきた。
でも、にやにやしながら近づいてくる大男に恐れをなして彼女は逆に逃げ出してしまったんだ。
ほら、だから言ったじゃないか、アシュリー。
君にはどれも手強すぎる相手だったんだ。
その夜、豆電球の光が輝くリビングのすみっこで、彼女は膝を抱えて小さくなって泣いていた。
泣かないで、アシュリー。
君には笑顔が似合うんだから。
僕は見てた。君は十分にがんばったよ。