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第3話:Mom’s Appearance

本物の魔女。

成人の儀式と彼女の決意。



3.Mom’s Appearance  ―ママの登場―



「アーシュリー!!!」

「ひゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」


その日はものすごい怒鳴り声と甲高い悲鳴から始まった。

慌ててベッドから這い出てリビングに向かうと、そこにはアシュリーと一人の女性が立っていた。


僕はその姿に軽い感動すら覚えた。

それはまさしく『魔女』だった。

黒いローブに深い緑のワンピース、トンガリ帽子をかぶってほうきを持ったその女の人は妖艶な笑みを浮かべて言った。

「あら、初めまして。あなたがジェフリー?」

そして、黒い爪を長く伸ばした手を差し出した。

僕はその手を握っていいものか、隣りの泣き出しそうなアシュリーを無言で見る。


「大丈夫よ。その人、あたしのママだから」


僕は手を差し出して握手をした。

「はじめまして。ジェフリー・オブライエンです」

心の中で、なんでこんなに似てないんだ、と思いながら。


アシュリーのママは、それはそれは力の強い魔女だそうだ。

好きな色は黒。醜いもの、気持ち悪いものを愛する典型的な魔女。アシュリーとは正反対だ。

見た目だってそう。豪華な黒のウェーブヘアーにセクシーな深緑の目、ナイスなプロポーション―――本当にアシュリーと血が繋がっているのか疑ってしまうほどゴージャスなのだ。

そんなゴージャスな自分から生まれた一人娘が落ちこぼれの魔女だったから、ママは大いに困惑した。成人の儀式の終了期限が近づいているのにいっこうに動き出そうとしないアシュリーに痺れを切らし、わざわざ魔女の国から出てきたらしかった。


そう、アシュリーは成人の儀式のために人間の世界にいる。

魔女の成人の儀式とは、『人間世界に好きな男をつくってキス』する事。

そのために魔法を使ってはならない。だからわざわざ6ヶ月もの期間が与えられるのだ。

アシュリーもうすでに5ヶ月と1週間を人間世界でエンジョイしてしまっていたらしかった。


「えっと、キスをされた男はどうなるの?」

僕は気になった点を投げかける。

「人間の男がキスをされたら、その人の一番大事なものが魔女に奪われちゃうの」

アシュリーの答えにママはにやっとした。

「つまり、魂ね」

魔女とキスしてしまった男は10日以内に死んでしまうらしい。


「素敵だと思わない?」ママは言った。「男は死んで、私だけのものになるのよ!」

わぉ、これぞ本物の魔女。

「ママ、怖いでしょ」

アシュリーが声を潜めて言う。

おいおい、君だって魔女だろう。

「アシュリー!あなた、ぼやぼやしてる時間なんてないのよ!あと、3週間ちょっとしか残ってないの。いい男を見つけてさっさとキスしてしまいなさい。儀式を終えられなかった魔女がどうなるか知ってるでしょう?」

ママは早口でそういうと、アシュリーを脅すように睨み付けた。

「どうなるの?」

僕は聞いた。

「怖いこと、大変なこと、痛いこと―――詳しくは教えてもらえないの」

アシュリーはそう答えてぶるっと震えた。ママはなんだか複雑な顔をした。

なんとなく、恐ろしそうな雰囲気だ。


「あと、この坊やはだめよ。」ママは僕を見た。

「初めてのキスは一番醜くて悪くて愛すべき男でなくちゃ。この坊やじゃみんなに馬鹿にされるわよ・・・・・・まあ、私はちょっとかわいいとは思うけど」

完璧な微笑み。

「いえ、遠慮しておきます」

僕はこわばった顔で笑い返した。

「そう。良かったらいつでも言って?」

そう言うと、ママは「立派な魔女らしく、しっかりやりなさい。いいこと、ほかの魔女たちを見返してやるのよ」と再びアシュリーに渇を入れ、僕に流し目をくれると窓からほうきに乗って颯爽と去って行った。




「あたし、一生懸命がんばってみるわ。立派な魔女になって夢を叶えるために」

その夜、アシュリーは笑顔で力強く宣言した。

「出来る範囲で協力するよ」

僕たちはキラキラの泡が次々に生まれるスプライトで乾杯した。



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