第六話
「これ、どうやってやるんですか?」
茶髪でピアスを付けた若者に突然、声をかけられて白岡 茂は驚いた。
「ああ、ここにメダルを入れるだけだよ。見てな」
急に声をかけられたから驚いただけで声をかけられたこと自体はむしろ嬉しかった。白岡は慣れた手つきでメダルを入れる。メダルが押し出されて二段目の鉄板から一段目の鉄板に落ちる際、スタートチェッカーを通過して画面のスロットが回り、「5」が3つ揃って停止した。
「うおっ、スッゲェ!」
若者が払い出されるメダルを見てわざとらしく驚く。
「たまたま。たまたま」
そう言いながらも白岡は嬉しそうに返事をした。
「しばらく隣でやっていても良いですか?」
「いいよ」
とは言いながらも白岡は身構えていた。そうやって注意を惹き付けて気がつけば財布の中身が盗まれている事件をゲーセン仲間から聞いていたからだ。実際にこの若者が話しかけて来た際に白岡の鞄をどかして自分の体で白岡から見えない位置に置いている。
間違いない。
白岡は思った。実際に被害にあった仲間の為にもコイツらは警察に突き出してやろうと。元々職人をしていた白岡の仲間意識は強い。だからここは騙されたふりをして奴等が盗った瞬間、大声を出して騒ぎを大きくして店員に警察を呼んでもらう。白岡のメダルを握る手が汗で湿る。
「もっとメダルを一気に入れた方がたくさん落ちてくるよ」
「あっ、本当だ」
気づいていないふりをして若者にアドバイスを送る白岡。声が震えていないか心配だが、白岡にはコイツらを捕まえる覚悟があった。メダルも入れるし、アドバイスもする。もちろん、周りへの警戒も怠らない。70過ぎたじじいがどこまで出来るか分からないが、騙された仲間の仇は自分の手で取りたかった。
しばらく若者と一緒に遊んでいると別の若者が近づいてくるのが分かった。被害にあった仲間は全く気が付かなかったと言っていたが、近づいてくる姿が白岡の目の前の筐体のガラスに反射して映っている。コイツらよくバレずに今までやってこれたな。と白岡は笑いを堪えた。後ろを振り向きたいのを我慢して、盗む直前を待った。ガラスに反射して映る歪んだ姿がはっきりしていく。万が一、逃がした時の為にも顔を覚えておこうと思い、白岡は目線をガラスに映る若者の顔の方に移して目を丸くした。明らかに見覚えのある顔に白岡は卒倒しそうになった。声をかけるべきか迷った。涙が溢れそうになった。心を鬼にするべきか迷った。自分さえ良ければ良いのかとも思った。様々な想いが頭の中を駆け巡るが答えが出ない。どうするべきか分からない。その間にも、鞄との距離を縮める若者。向こうは自分のことを分かった上でやっているのだろうか? 若者の手が白岡の鞄に伸びた。