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第五話

 慣れた手つきでそれも目にも見えない早さでメダルが投入されていく。当然、メダルが入っているバケツを何個も用意しているにも関わらず、みるみる内に空になる。この日の吉江の調子は稀にみる絶不調。メダルゲームは運の要素がほとんどなので当然そんな日もあるのだが、メダルを入れれば入れるほどチャンスが回って来るのにそのチャンスをことごとく逃している。吉江にとってそれは気持ちが悪くて仕方がなかった。毎日やっていれば損をする日は当然あるのだが、こんなにもメダルを大量獲得出来ない日は10年以上やっていて今回が初めてだった。こんな状態で帰れるはずもなく、今日は仕事を休むと職場にはぎっくり腰になったと言って連絡を入れた。今夜はもう戻れない。吉江がメダルゲームを喰うか喰われるかの真剣勝負この大勝負勝ってやろうじゃないか。吉江は勝手にテンションが上がっていたが、蓋を開けてみれば大負けも大負け。気がつけば1万枚ものメダルが飲まれていた。とは言ってもお金に換算すれば6000円ぐらい。それに10万枚以上メダルを貯めている吉江にとって痛くも痒くもないのだが、当たるまでやらなければ吉江のプライドが許さない。だからメダルを入れ続ける。もうメダルゲームをやっていると言うよりもメダルを入れる作業となっている。無心でメダルを投入し続ける。メダルを投入する度になる無機質な電子音が耳に心地良い。こういうメダルを入れても入れてもどうにもならなくて、無心になるときふと頭によぎることが吉江にある。メダルゲームはまるで自分のようだと。吉江がやっているメダルゲームはプッシャー型と呼ばれるもので二段にずらしている鉄板の上にメダルが敷き詰められていて、一番上の鉄板はメダルを押し出すように奥へ手前へ往復運動を一定の感覚で繰り返している。メダルは押し出されて上から下へと落ちていく。一番下の鉄板から落ちたメダルがプレイヤーのものになるのだが、これだと入れたら入れた分だけ同じ枚数のメダルが返ってきてしまうため、横穴と言うプレイヤーからは見えにくい様にメダルが入るぐらいの薄くて細い穴が空いていて、そこから落ちたメダルは店側の取り分となる。かと言って店が横穴から落ちたメダルを集めてメダルゲームに興じている訳ではなくてそのまま使われることのないメダルとして次に使われるのを待つのみである。吉江はこの横穴に落ちたメダルと自分を重ね合わせていた。社会と呼ばれる場に敷き詰められたメダル一枚、一枚は人間。それが時間の経過と共にドンドン押し出されて、晴れて一番下の鉄板から落ちればあがり。それに比べて自分は中学一年生の頃、初めての中間テストで緊張して糞を漏らして以来、周りからは蔑まれて卑屈に生きた結果、30歳を目前として未だに実家に寄生し、アルバイトで得た収入のほとんどをメダルゲームに注ぎ込む生活を10年以上続けている。メダルに余裕があれば今回の様に仕事も休むし、メダルが減ってくれば補填する様に働き、現金をメダルに変える。当然、貯金ゼロ。同年代の友達、恋人なし。人との交流も特定の人物とでしかゲーセンでしか合わない。まさに横穴に落ちそうな自分を吉江は悲観していた。観る人によっては既に落ちているのかも知れない。そんな自分の将来を何とかしたいと思うが今まで逃げてきた結果、こうなってしまっているので、今さら大きく動く勇気も根性もない。実家の両親と死別するまでおそらくこのままだろう。それでも吉江は30歳で未だ引きこもりの人よりかはマシと実際に見たこともないネットで見た情報を支えにメダルを投入し続けた。その結果が花咲いたのか、ジャックポットを当てるチャンスを得て吉江のテンションは最高潮に達して年甲斐もなく喜びを声に出してガッツポーズを取っていた。ベビーカーを押しているヤンママから白い目で見られていたが、このヤンママもベビーカーに乗るような子供を夜遅くのゲーセンに連れてきたことで白い目で見られている。白い目で見られることなど吉江にとっては慣れっこで目の前のジャックポットチャンスに集中した。視界の端で白岡が見慣れない不良とゲームをしているがそんなことは全く気にもならなかった。

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