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第三話

「このゲームどうやってやるんですか?」

 コングと呼んでいる囮役が帽子を被ったじいさんに話しかける。この日の為に俺たちは髪の毛を金や茶色から黒に染めてワックスでガチガチに固めている髪も降ろした。さらに普段、全くかけないメガネもかけている。どこからどう見ても普通の高校生だ。

「簡単だよ。ここにメダルを入れるだろ? そしたらさ・・・・」

 じいさんは寂しいのかゴングに向かって熱心に教えている。このじいさんがいつも一人で何時間もメダルゲームをしているのは調査済み。ゴングもじいさんの期待に応える様に熱心に聞くふりをしている。ここで俺の出番。俺はじいさんのそばまでそっと近づき、じいさんの脇に置いている鞄を音もなく持っていくとすぐに離れてじいさんの鞄に入っている財布の中から現金だけを抜き盗った。すぐにばれないようにお札をバランス良く入れた計三万円を残しておいた。それでも俺が抜き出した金額は三万円を遥かに超える金額で俺は感情の高鳴りを抑えるのに必死だった。ゲームセンターではクレジットカードは使えないので、ゲーセンに来る年寄りはみんな現金を多めに持ってくるのも知っている。そして俺の仕事はまだ終わりではない。すぐに財布を鞄の中に戻してまたじいさんの脇に戻した。これで俺の役割、ハンターは終了。あとはゴングが程よきところでじいさんにお礼を言って戻ってくるだけ。それまで俺は近くの居酒屋で待ってるとしよう。


「峰岡さん! お待たせしました! あのじいさんチョロかったですね。あいつだったらもう一回、出来ますよ」

 一時間程でゴング役の後輩が帰ってきた。俺のことを峰岡さんと呼ぶ後輩は他にも何人もいて、ハンターは俺で固定して狩りの日ごとにゴング役の後輩を変えている。日替わりのゴング役にすることで罪の意識を少しでも軽くするのと、毎回、ハンターとゴングで分け合う報酬を得る機会を多くする為だ。

「いや、駄目だ。あのじいさんにばれたりするよりも店に顔を覚えられるとまずい」

 俺はシャンディーガフを飲み干すと後輩に釘を刺した。さすがに後輩たちが自分達の犯行を誰かにばらすことなど無いとは思うが、気をつけた方が良さそうだ。

「お姉ちゃん! この人にシャンディーガフ。あと生ビールね!」

 見事に狩りを成功させた達成感からかかなり上機嫌なのか、まだ未成年のくせに生ビールを頼んだ。まあ、俺もだが・・・・。


「おつかれー」

「うぃーす!!」

 頼んだシャンディーガフと生ビールが来るとお互いのグラスをぶつけ合い、出来るだけ多くグラスの中の酒を口に流し込んだ。毎回のことだが、誰とであっても狩りを終えてからの打ち上げはテンションが上がる。


 この狩りの方法を思い付くまでの俺は毎日を単調に過ごしていた。あの時は二階建てのゲーセンで二階にあるレースゲームをしていた。あまりに没頭してしまい、気がつけば財布の中には小銭も入っていなかった。そろそろ帰ろうと思った頃、何やら一階が騒がしい。どうやらメダルゲームでジャックポットを引いたやつがいるみたいだ。そろそろ帰ろうと思っていた俺にこれを見過ごす理由はない。俺も小学生の頃、よくメダルゲームをやっていた。ただメダルを一枚入れてボタンを押して当たれば少量のメダルが出る本当に子供騙しのやつだった。当然、小学生ながら虚しさを感じていて、いつか大人になったらお金のことを気にすることなく、あのデカイ筐体のメダルゲームをやるんだと心に誓ったことがある。今となってはそんなことが夢だったなんて口が裂けても言えないが、メダルゲームのジャックポットはそうそうお目にかかるものではないと思い、興味のないふりをしつつも俺は一階に降りた。

 その人が座っている席の周りには既に人だかりが出来ていた。とは言っても椅子を一周囲むように座っていて人数も少ない。すぐに俺もその人だかりの一部になった。筐体から見たことも聴いたこともない光と音が出ていた。壊れたのかと思うぐらいコインが止めどなく出ていて、それを見た目がちょっとあれな男が恍惚の表情で見ている。周りの人はその光景を見ているか、メダルを入れる為のバケツを代わりに取りに行ったりしている。俺自身もこんな光景を始めてみた。そして俺もこんな風にみんなから注目を浴びたいとも思った。小学生の時に夢見た頃よりも具体的に。それほどまでにメダルゲームに対して刺激的な魅力を感じたのだ。でもその為には金がいる。メダルを地道に増やすと言う手もないことはないが、そんな悠長なことはしてられない。出来るだけ早くみんなからの注目が欲しかった。ゲームセンターの中心にいてみたかった。かといってまだ学生の身でジャックポットを引けるぐらいの軍資金を持ってるはずもなく、出来るとしても学校を卒業してからだろうと思って諦めて、未練が出る前に帰ろうと思った時だった。鞄が俺の足下に置かれていて、中から財布が顔を出している。まるで俺に盗ってくれと言わんばかりに。ジャックポットを夢中で見ている目の前のばあさんのものみたいだ。周りの人間も同じところを見ている。俺だけがばあさんの鞄から出ている財布に気がついている。迷っている暇はない。俺はばあさんの財布を手に取り、そのまま札だけを抜き取った。とは言っても額面が少なかったので、少しだけ残して鞄に戻した。


 俺は走って家に帰った。すぐにメダルゲームをやりたかったが、盗んだ額面ではジャックポットが当たるはずもないし、罪の意識でそれどころではなかった。でもばれていない自信はあった。誰も見ていないし、少し残して鞄に戻しているので被害額も少ない。なんだったら被害にあったことなど気がついていないのかも知れない。ただ、問題は精神力。少額を盗んだだけで走って帰り、罪の意識でメダルゲームは出来ない。家に帰った今でも心臓がバクバク言っている。なら、罪の意識を少なくすれば良い。ゲーム感覚にして、なるべく多くの人間で罪の意識を分けられる様にして今日の盗みの状況を作れる様にすれば良い。頭の中で考えに考えてそして、盗みを狩りと名称を変えて後輩たちを誘った。


 思いの外、話が長くなってしまった。後輩から狩りを思い付いたきっかけを聞かれたから少しぐらいならと思い話したが、罪の意識もあったからか、いつになく饒舌に話してしまった。後輩を見ると慣れない生ビールを飲んで疲れてしまったのか寝ている。普段なら殴っているところだが、この話を全て聞かれなかったことだけ良しとしよう。「お勘定」と言って席を立ち、後輩に渡す今日の取り分をテーブルの上に置いて店に会計を支払って店を後にした。今から今日の取り分をメダルゲームに注ぎ込むとしよう。


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