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なかよしだけど、友だちじゃない

 それから、きっちり一週間後の水曜日のことだ。笑い声がにぎやかにさざめき、給食のにおいのこもった廊下をあるき、サカナはぼくらの教室へと戻ってきた。

 人気者じゃなかったし、クラスでも浮いた子だったけど、けっして嫌われている子ではなかった。だからサカナが登校してくると女の子たちに取り囲まれ、矢継ぎ早に質問を浴びせかけられていた。

 やっと人波がひくと、ぼくは落ち着いてサカナと対面することができた。


 にこやかにあいさつしてくるサカナ。こんなにキラキラ輝く笑顔のサカナを見るのははじめてのことだ。


「えーと」


 なかなか言葉がでてこない。口ごもっているぼくなんか無視して、にこにこ顔のサカナは一方的に話をはじめた。


「お父さんといっしょに旅をしてきたの。わたしの名前のこともあったし、ほかにもいろいろと話したいこと、いっぱいあったから」


「それでお父さんとはどうなったの?」


「ないしょだよ。いわない」


 いや、きくまでもなかった。きっとサカナなりに納得したことがあったのだろう。その顔をみるだけでじゅうぶんだ。


 ぼくは少しづつだけど、サカナと話をするようになった。たいていはサカナが一方的にしゃべる。だから、ぼくはふんふんとうなずいているだけでよかったので楽だったけどね。


 それからのことだけど、サカナはずいぶんお節介になった。

 たとえばのはなし、ぼくが困っていることが瞬時にわかるようだった。まるで心がすけてみえているかのように。

 消しゴムを忘れてきて、「あれっ」とぼくが思う「あ」の半分のところでサカナはもう気づいて、


「はい。消しゴム」


 といいながらぼくのノートの上、まっさら四角い消しゴムを置いてくれる。

 教科書だってそう。

 ぼくがカバンを開けて教科書を忘れたことに気づき、「あれっ」の半分のところで机を寄せ、すばやく教科書をひろげてくれるのだ。

 お節介にプラスおそろしく第六感がさえているみたいなんだ。なんでもお見通しの瞳だ。しかも、ぼくに関してだけ。そしてサカナのカンがさえわたるたび、草の色が混じった風が押しよせてきて、彼女のなかの宇宙でおびただしい数の星がうまれていることがわかった。


 ともあれ、胸をはって、「サカナはね、ぼくのクラスメイトなんだよ」といえるようになった反面、友だち未満といった関係がつづいていた。

 あいかわらず席は隣どうしで、ぼくとサカナは楽しくやっていた。

 このままずっとサカナと楽しく、うまくやってゆけると思っていたんだ。


 でも、ふいにそんな生活が、ぐしゃり、音をたてて踏みつぶされてしまった。


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