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孤独な悪魔の葬歌  作者: なつき
13/13

epilogue 孤独な悪魔

     epilogue

 寺院の巨大な扉が重く閉まり、月が早々に隠れようとしていた。儀式の終わった平原では、白い花が揺れる。その中でファジルは、一人佇んでいた。平原を賑わした光は失われ、今は空に本物の星々が煌めくのみだ。フィルルセナとスニルの二人も異界へ続く扉に呑まれ、今はない。

「月が沈んだよ、ファジル」

 ファジルは杖を握りしめた。指が白くなるほど、固く。

「いつまでそうしてるつもり? 休まないの?」

「エコーは、この結末がわかっていたのか?」

 低い問いかけに金色の妖精はきょとんとし、つんと顎をそらした。気色ばんだ少年の手が、妖精をつかもうとする。それをエコーは難なく突破し、

「八つ当たりはやめてちょうだいな。最初に言ったはずよ」

「何を!」

「あの子も、いつもの自殺志願者たちと変わらないってね。森の人(オラティア)じゃなければ、ここへ来るのは死に魅せられた者たちなの。死は、抗いがたい魅力なのよ。いい加減学習なさい」

 小さな指で、エコーがファジルの額を弾いた。

 放っておきなさい、深入りは止しなさい、と制止した彼女を振り切って助けたが、こんな終わりは望んでいなかった。二人の望みを叶え、幸せにしてやりたかったのだ。

 額を押さえ、少年は拗ねたように膝を抱え込んだ。額が痛いから、涙が出てきた。

「死の魅力など知らない! なぜそんなものに惹かれる? なぜ自ら死を選ぶ? 残酷だと言ったな。私は残酷なのか。どうすればよかったのだ。私は、二人の望みを叶えたかっただけなのだぞ。私は!」

 私は、と呟いた声が、震える。

 ごめんね、と抱きしめられた感触がまだ残っている。

「……祝福を授けると約束、したのに。なぜ?」

 まだ森の精ほど達観できないファジルは、顔を歪める。

「彼女にとってセナは、命をなげうつ価値のある存在だったのよ。ファジルは幼いからわからないかもしれないけど」

 宥めるように、エコーは柔らかく話しかけた。

「選ぶのは彼らよ。道を示すのがあなたの役目だけど、与えられた選択肢を決めることも、そこへ進むことも彼らの意志だわ。真暗たちもそうでしょう?」

 スニルを無理に留めたってそう遠からず還っていたはず、と森の精は淡々と口にする。彼女は死に囚われていた。今回は人として旅立てたが、無理強いして止めた場合、もっと悲惨な末路を辿ったかもしれないのだ。

「あの二人はあれで……よかったのか」

 しゃくり上げる少年の頭を、妖精は撫でてやる。

「そうね。幸せとは言えなかったかもしれないけど、あの子たちは人として逝けたわ。正体をなくした化け物としてではなくね。それはあなたが力を貸したからだわ、ファジル。あなたが道を示したのよ」

 悲しんでくれるだれかがいるなら救われたはずだと、エコーが言う。二人は遺恨なく次の生へも旅立てた。その幸福を受け止めてやるべきだと。

「これからも思う通りにすればいいの。正しいと思うことをね。たくさん間違って、たくさん傷つきなさい」

 その傷があなたを強くしてくれるわ、と妖精は囁く。導き手を持たない故に、未熟なファジルは経験を重ね学ぶしかないのだ。

「私がいるわ、ファジル。あなたは一人じゃない」

 甘い言葉は呪いのように少年へ注がれる。

 ファジルの頬に流れた涙を妖精はすくい取って、そこへキスをした。

「大好きよ。やさしいやさしい、私の悪魔」

 膝を抱えたファジルは、やがて杖を鳴らして立ち上がる。いつまでも泣いてはいられない。悲しみに暮れてもこの夜は明ける。しゃくり上げながら手渡された髪飾りを空に掲げた。持ち主の無事を祈るお守りは、白み始めた世界で鈍く輝きを放った。


 願わくば、二人の来世が幸せでありますよう。

最後まで読んでくださってありがとうございました。

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