終 章 転生王子と憂いの大国
その日はグレイシス王国第七王子が五歳なったことを祝う宴だった。
(本当に七五三だよね……)
挨拶にきた客人達に、王である父と共に出迎える。
ちなみについさきほど王族の挨拶が終わり、二年前よりさらに美貌に磨きをかけ進化を遂げた王妃や王子、王女達との対面は二年前と同様自分に会心の一撃を放ち、ハーシェリクの自尊心はすでに砂と化している。
(二年経てば勝てずとも、同じステージに上れると思ったけどやっぱり無理だったぜ!)
内心ヤケクソ気味になるは、人間として仕方がないだろう。
やはり自分は、父や兄たちと比べて地味だ。華がない。ついでに魔力も運動神経もない。比べる対象が悪いのかもしれないが、きっと他人からみても残念な王子認定なのだろう。
ちなみに他の兄弟達の宴も参加はしているが、幼児の自分は挨拶が終わると早々と部屋に戻されてしまうのが常だ。
「ハーシェ様。」
物思いにふけっているとクロが背後から声をかけた。クロが視線だけで導く先には今回一番会いたかった人がいた。
「父様、少し席を外します。」
父の許可をもらい向かう。もちろん背後にはクロが控えている。
「グリム伯爵、昨年はありがとうございました。」
会場のすみっこで、周りの視線を気にしつつおどおどしていた伯爵に王子は屈託なく笑いかけた。
後光が射しそうなくらいの微笑みを向けた王子に伯爵はビクリと肩を震わし数歩後ずさる。そしてまるで悪魔に会ったかのような絶望的な顔をされた。
「伯爵、お加減悪いんですか? シュヴァルツになにか持ってこさせましょうか?」
ハーシェリクがクロを仰ぎみる。クロの存在に気が付いたグリム伯爵はさらにビクリとし、顔色は真っ青を通り越し真っ白になった。
「伯爵、本当にお加減悪いんですね。領民のみなさんからお話は伺っております。大変良くして頂いているとメリアからの手紙にも書いてありました。これからも領地については大変でしょうが頑張って下さい。」
にこり微笑むハーシェリクに、伯爵はかくかくと首振り人形のように頷き、手短く挨拶をするとそそくさと会場を後にした。
「……私の言葉を聞くまで、気が気じゃなかったみたいだね。」
「とても素晴らしい笑顔でしたハーシェ様。グリム伯爵は地の底の門番と出会ったような顔でしたネ。」
「クロ、それって絶対褒め言葉じゃないよね。」
(人の事も言えないだろ。伯爵、クロの顔みた時真っ白になっていたし、前回より禿げていたし、痩せていたのは気のせいじゃないと思うんだけど。)
ハーシェリクは二重の意味でグリム伯爵を救った。罪と、そしてメタボから。これは褒められていいものだと彼は思う。
そう思ったが口には出さなかったのは、父に呼ばれ上座に戻ったからだ。
そして目の前には二年前にあった同様、存在感のあるバルバッセ大臣だ。前回あった時同様壮年のバルバッセは、グリム伯爵とちがってメタボではない。
「お久しゅうございます。ハーシェリク殿下。お元気そうでなによりです。」
「大臣様もお変わりなく。」
(メタボになれ、そしてハゲになれクソジジィ。)
心情を一片も出さず、ハーシェリクは笑顔で応じる。前世で培った営業スマイルはまだまだ現役である。
「さきほど話されていたグリム伯爵の領に、昨年はお出かけになられたとか……なにかありましたかな?」
大臣からまるで猛禽類のような獲物を狙う瞳を向けられたが、ハーシェリクはあえて気が付かない風に装った。
「はい、私用で領地にお邪魔させてもらったんです。ですがその時に夜盗に襲われまして……幸いにも近衛騎士のみなさんとグリム伯爵のおかげで一命を取り留めました。ただ、僕を守る代わりに犠牲になった騎士の方もいて申し訳ないです。」
大臣の探る光の宿った瞳を、ハーシェリクは憂いた王子の表情でかわす。
実際、申し訳ないと思っているものの、彼らを利用しているようでさらに罪悪感が募った。
「そうですか、しかし我が国に夜盗がでるとは嘆かわしい。すぐに対策を考えないと。」
「はい、是非お願いします!」
ハーシェリクは憂いた表情からほっとした表情になる。
ただ心の中は、文字にすれば規制されるような罵詈雑言の嵐だったのは言うまでもない。
「……ハーシェ、疲れてないかい?」
大臣が去った後、心配げに父が話しかけた。
疲れというよりは別のことを心配しているようだ。だからハーシェリクは本当の笑顔を浮かべる。
「僕は大丈夫です!……父様も疲れたら僕に言ってくださいね?」
父を安心させる為に、冷たくなってしまった父の手を握りながらハーシェリクは言葉を続ける。
「僕はまだ幼いですし頼りないかもですけど、父様の隣にいることくらいはできますから。」
その言葉に、後ろに控えていた王と王子の筆頭執事達はお互い目を見合わせる。
ルークは感心したといった風に頷き、クロは自慢げに微笑んでいたが、二人の声の無い会話はハーシェリクの位置からは確認できなかった。
末の王子の言葉に王は一瞬目を見開いたが、すぐに微笑んで頷き、空いている手で愛しそうにさらさらな彼の金髪を撫でる。
もしこれが乙女ゲームで前世の涼子だったら、王は私の嫁と主張していたに違いない。絶対にフィギュアからイラスト集まで買いあさるだろう、それくらいとろけそうな微笑みだった。
ハーシェリクは父の手を離し会場を見渡す。
三歳の時、ここが分岐点だった。
ポケットにいれた銀古美の懐中時計を服の上から握りしめる。
あれから二年少しは成長できていると思いたかった。
(ルゼリア伯爵……私は守るよ。貴方が守りたかったもの全てを。)
近隣諸国から忍びやかに「憂いの大国」と称されるグレイシス大国
前世、早川涼子は享年三十四歳。
グレイシス王国の末の第七王子に転生したハーシェリク・グレイシスは今年五歳となった。
これから彼を待ち受けるのは決して楽な道ではない。
だがグレイシス王国にとって彼の存在はその淡い金髪のように、暗雲たちこめる空から降る一筋の微かな、だが確かな希望の光だったと、後世の歴史学者達は書き記すのである。
転生王子と憂いの大国 完
ここまでお付き合いありがとうございました。
本当でしたら小説のアップは倍の時間をかけてあげる予定でしたが、多くの方が訪問・お気に入り登録・評価・感想を頂き、単純ですが嬉しくて、最後までがんがんいこうぜ!なノリで上げさせて頂きました。
『憂いの王国』編はとりあえず完結ですが、誤字や修正、加筆は随時行っていく予定です。
また続編もただいま一生懸命執筆中です。
時間はかかりますが、頑張る主人公とその執事等登場人物たちが、再度皆様と出会えるよう頑張る所存です。
いろんな伏線を回収したり、まだでてきてこない王子だしたり、他国とのあんなことや、悪者をぎゃふんって言わせたいですからね!
それではまた続編にてお会いできますことを願いつつ、
ここまで応援してくださった皆様、楽しんでくださった皆様、本当にありがとうございました。
追記:完結作品のみ感想を受付することにしました。感想を書いて頂ける方は、まずマイページのお願いを一読お願いします。
2014/1/26 楠 のびる
2014/9/01 追記




