第75話 二度目の合宿
この作品と、僕の別作品である「異世界でお嬢様の使用人兼パイロットをやってます」の二作品がなろうコンの一次選考を突破しました!
正人たちを誘ってみたところ、なんとか時間を作ると言ってきた。生徒会はこの夏も忙しそうにしており、手伝わなくても大丈夫なのだろうかと聞いてみたのだが、「今年の夏ぐらいはお前らだけで気楽に楽しめよ」と言われた。
別に迷惑とは思っていなかったのにな。ちなみに国沼も葉山も来れるそうだ。よかった。俺の数少ない男友達が来るのと来ないのとでは違うし。
移動手段は去年と同じように車移動となった。姉ちゃんが出してくれるらしい。この頃ぜんぜん家に来ないからちょっと心配していたのだが、連絡は思いのほかアッサリととれた。
なにやらサークルの活動が忙しかったらしい。徹さんも同じような事を言っていた。
サークルって確か、『愛する弟・妹を見守る会』だったっけ。
活動内容からしてストーキングという単語をどうしても連想してしまう。
あの二人がいるサークルなだけに。
そして、割と早めにやってきた当日の朝。
いつの間にか購入したのか分からないが、ワンボックスカーを引っさげて久しぶりに姉ちゃんと徹さんが姿を現した。
「かいちゃん、久しぶりぃ!」
車から出てくるや否や、姉ちゃんがいきなり抱きついてきた。心なしか、前に会った時よりも髪が伸びている気がする。
「むぎゅっ……って姉ちゃん、久しぶりも何もどこ行ってたんだよ」
「大学には行ってたよ?」
きょとんとした顔で首を傾げられる。やはり身内のひいき目なしに見ても、姉ちゃんはかわいいと思う。この歳でこんなにもあどげない表情はなかなか素で出来るもんじゃない。
「そうじゃなくて……家にもあんまり帰ってこなかったじゃん」
「私だって帰りたかったけどさぁ。色々と忙しくてねぇ」
「そういえば、就活とかあるんだっけ」
「うん。この三年の前期で必要な単位は全部とっちゃったからねー。そろそろ就活かな」
「ああ、だから忙しかったのか」
「うーん。それだけじゃないんだけどね。まあ、サークル関連のジジョーってやつだよ」
……ストーカーサークルはそんなにも活発しているのだろうか。
それはそれで喜ばしくない事なような気がする。
「あ、そうだ。紹介するよ。うちの部の後輩。楠木南央と雨宮小春」
「く、楠木南央です」
「雨宮小春、です」
二人ともちょっと緊張気味だ。まあ、初めて会う相手に緊張するのは仕方がないことなのかもしれないけれど……でも、テレビ慣れしているはずの小春まで緊張しているのは珍しいな。
ガッチガチになっている。
どうしてここまで緊張しているのだろう。
「あはは。緊張しなくてもいいよ。別にかいちゃんの事に関しては口出ししないからね」
「?」
姉ちゃんは何のことを言っているんだろう。
が、どうやら二人には意味が伝わったようだ。
ちょっと緊張が解けたかのような雰囲気になっている。
なんだったんだろう。
そんなことを考えつつ、俺は葉山と正人の元へと向かった。
「よっ。大丈夫なのか、生徒会と文化祭実行委員会は」
「おう。ちょっとした骨休みってとこだな」
「帰ってきたら忙しくなりそうだけどね」
「悪い。忙しい時に遊びなんかに誘っちゃって」
今更ながら罪悪感が……無理に呼び出す必要はなかったのかも。
「なーに言ってんだ。遊ぶのも学生の仕事の内ってね。それに、なんだかんだ今年も期待してたんだからよ」
「僕も楽しみにしてたんだ。去年も楽しかったもん」
ニカッと笑う正人に、爽やかスマイルを浮かべる葉山。
こいつらには本当に頭が上がらない。
忙しい合間を縫ってわざわざ来てくれる友達なんてそうそういない。
「……帰ったら生徒会と文化祭実行委員の仕事、手伝うからな。遠慮なく使ってくれ」
「……ん。覚悟しとけよ」
「……じゃあ僕もお言葉に甘えようかな」
多少強引だったが、労働の手伝いの約束を取り付けた。
こうでもしないと遠慮しまくるだろうし、うちの部の遊びに付き合わせちゃうのも悪いし、仕事ぐらい手伝わないと罰が当たるというものだ。
「先輩、お久しぶりです」
と、気が付けば国沼が徹さんに挨拶していた。そういえばこの二人はテニス教室の先輩後輩関係だったっけ。テニスと言えば……、
「国沼、お前テニス部はいいのか?」
「大丈夫。毎日練習があるわけじゃないしね。今日と明日は休みなんだ。それに、練習しすぎて逆に怪我したら元も子もないし」
二年生の大会ってけっこう大事だと思うんだけどな。確かこいつ、レギュラーってきてたし。
大丈夫かな。こんな日本文化研究とは名ばかりで遊んでばかりの部の合宿に参加して。
「……あれが徹さん、ですよね?」
「ああ」
『あれが、噂の……』
一年生二人が俺の背中に隠れるようにして徹さんを遠巻きにして見ている。
……加奈の徹さんの過去エピソードを暴露してくれたおかげで、一年生二人の徹さんに対する警戒心がうなぎ上りである。
「あ、そーそー。今回はちょっと私からも一人、この合宿に誘いたい子がいるんだけどさ。良いかな、飛び入りでも」
姉ちゃんが唐突にそんなことを言い出してきた。が、だからといって断る理由はない。姉ちゃんには別荘まで運んでもらうわけだし、これぐらいのことは認めるべきだろう。
加奈にも確認をとってみたところ、すぐにOKをくれた。
「あ、来た来た。おーい、恋歌ちゃーん」
姉ちゃんがぶんぶんと手を振っている。そういった子供っぽい仕草もかわいいなぁ。
しかし、だからこそちょっと心配だな。
大学で変な男に絡まれそうだ。機会があったらそれとなく尋ねてみるか。
『って、恋歌先輩!?』
姉ちゃんと徹さんを除く全員が驚いた。
確かに、そこにいたのは華城恋歌先輩だった。
手にはボストンバッグを持っているし、偶然通りかかったとか、そんなことは無いであろう荷物である。
「やあ。私もお邪魔させてもらうよ」
と、恋歌先輩は気楽に手を挙げる。
確かにびっくりした……が、ちょっとしたサプライズみたいなものだと俺は考えている。
「びっくりしたぁ。ていうか、なんですかこのサプライズ」
「ふふっ。ちょっと驚かせたくてね。迷惑だったかな?」
「いえ、そんなこと」
「むしろ大歓迎ですよっと。つーか、恋歌先輩は海音さんとはお知り合いだったんですか?」
正人が、密かに俺の気になっていたことを尋ねる。恋歌先輩と姉ちゃんに面識があったのは知っているけど、それがいったいいつからなのかが気になる。
だが恋歌先輩ははぐらかすように「それは乙女の秘密というものだ」と言って笑うだけだった。
『…………』
「どうしたんだ、お前ら」
我が文研部の女子部員たちは恋歌先輩を見て固まっている。
というかこいつら、俺が恋歌先輩とデート(恋歌先輩が勝手にそういっただけだが)をしているところを連れ戻してから恋歌先輩のことをやけに気にかけてたような気もするし。
それにしてもあの日のことは……俺にとっても忘れられないデート(?)になった。
俺の心の内を、一気に言葉にし、見抜いてきた恋歌先輩。
でも不思議と、嫌な感じはしなかった。
それに恋歌先輩とのあの会話は、なんていうか……かなりのヒントをくれた気がする。
頭の中のモヤモヤを払うためのヒント。
そのモヤモヤの正体はもう、すぐそこまで来ているような気がする。
「ナ、ナンデモナイヨー」と、恵。
「さ、さあ、はやく車に乗りましょう」と、美羽。
明らかになんでもありそう。
だが、文研部の女子達はそれをごまかすようにしてそそくさと車に乗り出して、別荘へと車を走らせた。
姉ちゃんの車には女子たちが。徹さんの車には男子が入り込む。まだスペースに余裕のある男子たちの方に荷物を纏めて乗せておく。
姉ちゃんの運転する車は乗車定員が十名らしいので、ギリギリだ。どうしてそんな車を持っているのかときくと、「サークル活動で必要なんだよ」と言われた。
いったい、どんな活動をしているのか非常に気になるところだ。
☆
私、雨宮小春はこれでもアイドルだ。
今までが働き過ぎで、私の素晴らしい両親は私の体のことを気にかけてアイドル活動を控えてはいるものの、アイドルだ。
番組収録中や、撮影現場などでは思ってもみないハプニングが私たちを襲う時がある。
そんな時は出演者たちの間の空気がちょっと微妙な感じになると気があるのだけれど、でもこのバスの中に流れるような微妙な空気を、私は今まで感じたことがなかった。
『………………』
車内はさっきから沈黙しかない。
誰かが動き出すのを待っているかのような状況。
助手席に乗ってる華城恋歌先輩。この人が原因だろう。
別に恋歌先輩が悪いというわけじゃないし、私たちは恋歌先輩の事を嫌っているわけでもない。
でも……この人は、この前に海斗先輩と二人っきりでデート、したことがある。
その時に確実に海斗先輩と恋歌先輩の間で何らかの話し合いが行われた。
私たちがあのアミューズメント施設で海斗先輩を見つけた時には既に何らかの話し合いは終わっていて、その時にはもう海斗先輩の様子がちょっと変わっていた。
なんというか……上手く言語化することが出来ないけど、何かが変わっていた。
でも彼女はきっと、私たちが出来なかったこと。海斗先輩の中にある何かをアッサリと見ぬき、海斗先輩にそれを自覚させ、彼を変えた。
私たちが出来なかったことを、いとも簡単に恋歌先輩は成し遂げた。
だからなんていうか……たぶん、私たち文研部の女子部員たちは、悔しいのだ。
それと、この沈黙はきっと、恋歌先輩のことを警戒しているということ。
彼女の口から何が飛び出してきて、私たちにどんな影響を与えるか分からない。
その影響によっては、私たち文研部の関係性が壊れてしまう。
私たちは……特に先輩たちは、それがとても怖い。
だから誰も何も喋ろうとしない。
今、言葉を口にすれば、何かが動き出してしまうかもしれないから。
――――けど。
恋歌先輩は、動いた。
「君たちは、何をそんなに恐れているのかな?」
それはとても直球で、ストレートで、何の捻りもない、私たちに対する問いかけ。
直球だからこそ、ストレートだからこそ、その言葉はとても強く響く。
「私はこの前、海斗くんに問いかけてみたよ。君にとって文研部の少女たちはどう映る? とね。そして彼は答えた。『大切な人たち』、と。彼は決して、『友達』とは言わなかった。それは意識してなのか無意識なのかは分からない。けど、彼は確実に変わり始めている。自分の過去を踏まえた上で、君たちを大切な人なのだと言い切った」
そんなことを言ってたんだ、海斗先輩。
私はふとそんなことを考えた。
やっぱり海斗先輩は、変わり始めていたんだ。
それなのに。
「それなのに、君たちは変わろうとしない。踏み込んでも、更に深くまで踏み込もうとはしない。まるで変わることを恐れているかのようだ」
そう。
私たちは変わることを恐れている。
だって私たちの関係性が変わっちゃったら、もうこんな風に一緒に合宿なんて行けないかもしれないのだから。
私たちの関係性が変わっちゃったら、いつものように部室に集まってみんなで楽しくお喋りなんて、出来ないのかもしれないのだから。
「君たちの中心は海斗くんだ。だが中心が変われば、当然その周辺にも変化が現れる。そのとき君たちは、こうやって変わらないままを望むのかな?」
海斗先輩は変わり始めている。
前に進んでいる。
だけど私たちは歩こうとしない。
歩くのが怖い。
その先に何が待っているのかが分からないから。
だからその場に踏みとどまることを選ぶ。
「君たちは……変わることを恐れている。だけどそれは、『変われば今のような関係ではいられない』と決めつけているからだ。まだそうなったと決まったわけではないのに。まだ彼が、どのような選択をするのか分からないのに」
「それは……どういう?」
思わず、といった感じで、加奈先輩が沈黙を破った。
それを見た恋歌先輩は満足そうな笑みを浮かべながら、優しく語りかける。
「彼が変わっても、君たちを大切にするという気持ちは変わらない。そして彼の目の前に広がる選択肢は一つじゃない。数ある選択肢の中から、みんなを幸せにする選択肢を選ぶことだって考えられるんだ」
「みんなを幸せにする選択肢……? でも、それは……」
加奈先輩が呟く。
私たちの幸せ。
それは今の私たちの生活と――――海斗先輩と……恋人になること。
だけどその二つの幸せは相反する物。
片方を叶えれば、片方は叶わない。
矛盾している幸せ。
「君たちは彼の傍にいるのに、彼を買い被りすぎているよ。もしそれが彼の傍にいるからこその事ならば、ずっと見ていることしか出来なかった私からすれば羨ましい限りだよ」
恋歌先輩の意味深な言葉に首を捻る私たち。
そんな私たちをよそに、恋歌先輩は「まあ、あくまでも可能性の一つだけどね」と言い残し、それっきり黙ってしまった。
そして気が付けば、海音さんの運転する車は別荘の場所にまでたどり着いており、私たち文研部の合宿が始まろうとしていた。
とりあえず、前話から改行を増やしたりしたのですが、見やすいでしょうか。
見やすくしたつもりなんですけど、見づらければ教えてください。
2-2で弥生をついにドロップすることが出来ました!
それと開発資材1の大鳳レシピで矢矧建造成功。
やはり物欲センサーを切れば出るんですね。




