第64話 歓迎会
「新入部員歓迎会をやりましょう」
夏休みを控えたある日の部室で。
唐突に、加奈が言い出した。
新入部員たちは既に学年行事である親睦会を控えている。それが終わればすぐに夏休みに入るので、その前にやってしまおうということだろう。
「今更な話だなぁ。それ」
「だって仕方がないじゃないですか。最近は、色々とバタバタしてたんですから」
主に風紀委員関連で。結局、話は断ったものの、あれから俺は風紀委員のメンバーからは何とも言いにくい微妙な視線を向けられている。
「いいですね。やりましょう」
美羽をはじめとして、他の二年生勢ものってきた。一年生の二人に確認をとってみると、
「あ、私も大丈夫ですよ。その日は仕事が入っていないので」
「私も大丈夫です」
どうやら一年生も揃ってOKらしい。突然決まった事だったのだが、どうやら遅いぐらいの歓迎会は行われるらしい。まず、さしあたっての問題は、
「それで、場所は?」
「海斗くんの家です」
「うん。予想はしてたけど、とりあえず理由をきこうかこのBBA」
「え? だってもうそういう流れが出来上がっているじゃないですか」
「理由になってないよな!?」
「諦めなよかいくん。それが宿命なんだよ」
「そんな厄介な宿命の鎖なら、解き放ってくれませんかねぇ!」
「……もう諦めてゴールデンフィーバーするしかない」
「嫌だよ! そもそも何をフィーバーするんだよ!」
「もういっそのこと、心を無にすればいいんじゃないですか。クリアマインドの境地に達せばいいんですよ」
「いや、俺はアクセルシンクロする気はねぇからな!? いや、ゴールデンという意味ならオーバートップクリアマインド……じゃない!」
いかん。つい余計なことを考えてしまった。こんなんじゃ満足できねぇよ。
そもそも、BBAを家に招くのにどこに行こうというのか。あれか。修正テープみたいな形のDホイールに乗れってか。
「あ、あの。無理してしなくてもいいんですよ?」
「そ、そうですよ。先輩がご迷惑なら私は別に……」
ぐっ。一年生の二人にそんな顔をされると……。ああ、もう。どうせ何回もこのBBA共を招いているしなぁ。もういいか。
「……いいよ別に。遠慮すんな」
まあ、せっかくの歓迎会だ。一年生たちに控えている親睦会に比べればしょぼいけど、まあ部活動レベルならこんなもんだろう。
次の休みの日に、一年生の歓迎会をすることになった。しかも泊り。ざけんなよBBA。泊りとかきいてねーぞ。うん? 雨宮小春についてるマスコミ? なんかは姉ちゃんに冗談交じりに相談したら「うん。任せといて」って言ってけど、どういうことだろう。まあ、何人かのBBAが一緒についてるから大丈夫だろ。
「あ、あの。なんかすみません。海斗先輩、嫌なのに無理やり押しかけるような形になってしまって」
歓迎会当日。
朝の内に材料調達をするために、俺と一年生二人は近所のスーパーにやってきていた。雨宮小春にしても、楠木南央にしても、この歓迎会の主役なのだから朝はゆっくりして昼から来てほしかったが、迷惑をかけたようなので手伝いたいとのことで、ついてきた。断ろうとしたが、二人があまりにも必死なのでしぶしぶ了承したという次第だ。
「あー、気にすんな。もう一年の頃からこうだから」
「そうなんですか?」
「そーだよ。つーか、お前は大丈夫なのか? こんなところ歩いていて。マスコミとかは」
「大丈夫ですよ。変装はちゃんとしてますから」
変装、といってもメガネをかけて帽子をかぶっているだけなのだが。
そんな俺の考えが表情に出たのだろう。楠木南央が捕捉する。
「えっと、変装はほどほどにしておいた方が逆にバレないそうですよ? ね、小春ちゃん」
「はい。これは今までの経験からの根拠ですので安心してください」
「マスコミとかは」
「んーと。マネージャーさんから聞いたんですけど……どうにもマスコミさんの動きが大人しくなったらしくて。今は私のことを探るような動きはピタリと止んだって」
そうなんだ。偶然も重なるもんだな。姉ちゃんに相談した直後にこんなことになるなんて。世の中って不思議だ。とりあえず、さっさと食材を買うべくスーパーの中を散策する。
「先輩はどんな食べ物が好きなんですか?」
楠木南央の問に、俺は自信を持って答える。
「姉ちゃんの作る手料理ならなんでも」
「そ、その中で好きなのは?」
「えー。一番なんて決められねーよ」
何を言ってるんだ楠木南央は。姉ちゃんの手料理はどれも最高だろうが。
「でもまあ、強いて言うならハンバーグとかカレーとか……」
「ふふっ。海斗先輩の好みって、意外と子供っぽいんですね」
「悪かったな……好きなもんは好きなんだよ。ていうか、子供って最高だろうが。働かなくても親の保護下にあり、それに勉強さえしていれば遊んでいられるんだぜ。家事もしなくてもいいし、仕事に出なくてもいい。幼女とだって合法的に遊べる。大人になったらそんな生活、なかなかできねーよ。自宅警備員に就職でもしない限りは」
「あはは……そ、そうですね……ってあれ、途中、何かおかしいのが混じっていたような気が……」
「つーか、今は俺の好みの話じゃないだろ。お前らが好きなもんいえよ。お前らの歓迎会なんだから」
とはいえ、二人も好き嫌いなくなんでもよく食べるそうだ。良いことだ。そして、一年生二人で話しあった結果、カレーになった。さっきの話の流れからの発想だろう。まあこれなら大人数でもあまり手間はかからないし、大丈夫だろう。
何を作るか決まったところで、しっかりと目的を持ってスーパーの中を歩いていると、珍しい三人組を見つけた。
「あれ、正人に葉山、恋歌先輩まで?」
「おや、偶然だね海斗くん」
何故にこの三人でこんな朝のスーパーで行動しているんだ? そんな俺の疑問を感じ取ったのか、正人が事情を説明した。
「あー、俺と葉山はこれからお前ん家に差し入れを持っていこうとして、その途中で個人的な買い物でスーパーに寄ってたんだよ。そこで、恋歌先輩に会ったってわけだ」
「私はこの近くに家があってね。散歩がてら、昼食の食材を買いに行こうとしていたところなんだ」
「偶然も重なるもんですね」
「そういう海斗くんは? 可愛い美少女一年生を二人を引き連れて、朝から良いご身分じゃないか」
「今日は、うちで新入生歓迎会をやるんで、朝の内に夕飯の買い物も済ませておこうと思ったんですよ」
この三人の紹介は、雨宮小春には不要だろう。文化祭の時に会っているはずだ。が、楠木南央はそうはいかない。恋歌先輩はともかくとして、正人と葉山の紹介はまだだ。
「楠木南央には紹介がまだだったな。こっちが篠原正人。生徒会に所属してる。そんで、こっちが葉山爽太。文化祭実行委員だ」
「は、はじめまして、です」
「篠原正人だ。よろしくな。なんかあったら生徒会に来てくれ」
「葉山爽太です。よろしくね、南央さん」
おおっ、流石コミュ力高いなこの二人。俺には出来ない事を平然とやってのける! そこに痺れる憧れるぅ!
「そういえば、この前のイベントではすまなかったね。うちの二年生がそちらに迷惑をかけて」
「いえ別に。ていうか主に恋歌先輩がのってきたからでしょうが」
「それについても謝罪しよう。すまなかったね。海斗くん」
「そういえば、どうして荒島先輩は海斗先輩につっかかってきたんでしょう?」
雨宮小春の純粋な疑問ではあるが、それは俺にとっても謎だ。実力不足と言っていたが、これでも姉ちゃんに鍛えられた身。そこらのバカよりは強いと自負しているのだが。
「ふむ……そこは私も気になっていたところだ。普段の彼は真面目でね。いきなりあんなことを言うような人じゃないと思っていたのだが……まあ、不快な思いをしただろうが、許してやってくれないか。彼も優しい所のある、良い生徒なんだ」
と、恋歌先輩が弁解していたら、正人が苦笑を浮かべていた。
「まあ、なんだ。あいつもちょっとお前に嫉妬したっていうか……許してやってくれ。俺からも頼む」
「正人がそういうならいいけど……って、嫉妬? なにに?」
「それは本人の許可なしには言えないな。しかも、これはあくまでも俺の予測でしかない」
それなら別にいいけど……ていうか、廊下であいつとすれ違うたびに憎々しげな視線を送られるんですけど。それは。
「あ、そうだ。よかったら恋歌先輩も一緒にどうですか、歓迎会。もちろん、正人と葉山も」
「む? いいのか?」
「そうだぜ。別に俺たちに気を遣わなくっても」
「いや、大勢の方が楽しいし、それに今更三人ぐらい増えたってどうってことないさ」
それに、こんなところに生徒会役員、文化祭実行委員、風紀委員長と揃っているんだ。いざとなったらこの一年生たちを守ってもらえるように、一年生にはこのメンツと顔なじみになってもらおう。それと、俺みたいなぼっちにならないように先輩との交流をしておくのもこいつらのためになる……はず?
「この三人、歓迎会に呼んでもいいか?」
一応、一年生に確認を取っておく。よくよく考えれば先輩三人を前にして拒否なんて出来るはずもないのでちょっと脅しになってしまったかな、と思ったのだが、一年生二人は快く了承してくれた。
買い物が済み、六人で俺の家までの道を歩く。あのマンションはそれなりに良いところで、スペースもある。全部で十一人ぐらいになってしまうが、なんとかスペースはあるだろう。
その後、俺以外の五人を引きつれて、俺は自宅に戻った。正人と葉山はよく来ているのでもう慣れたものだろうが、殆ど初めてになっている一年生二人と恋歌先輩は珍しそうにきょろきょろと辺りを見渡していた。
「ふむ。意外と綺麗にしているようだね。お姉さんの教育が行き届いているようだ」
「え? 恋歌先輩って姉ちゃんと知り合いなんですか?」
「ん……まあ、昔ちょっとあの人に助けてもらったことがあってね。私にとっての恩人さ」
「へぇ。知らなかったなぁ」
人間、どんなところで繋がっているか分からないものだ。その後、ぞろぞろと文研部のBBAたちがやってきた。事前にLineで五人ほど歓迎会に追加したと送っておいたので、既に事情は知っているはずだ。
「こんにちは、恋歌先輩」
「やあ、加奈さん。それに文研部のみなさんも。先日は風紀委員の生徒が失礼した。謝罪させてもらうよ」
「いえ。こちらは気にしていませんので、大丈夫ですよ?」
風紀委員長と部長同士の挨拶も済んだろことで、さっそく歓迎会を始めるための準備を行った。ケーキやジュース、お菓子を出したりして、テーブルの上に並べる。
「それでは、文研部一年生の歓迎会を始めたいと思います」
加奈の言葉を皮切りに、歓迎会が始まった。まずは渚姉妹が買ってきたケーキをみんなで食べて、適当に雑談をする流れになった。
「なおっちなおっち~」
「な、なんですか、先輩」
「なおっちは普段はどんなアニメ見たりするの~?」
「えーっと、私は主に……」
「小春ちゃんは、女の子に興味はありますか?」
「突然どうしたんですか美羽先輩!?」
「お姉ちゃん、いきなりそれは飛ばし過ぎだよ。ねえ小春ちゃん、男の子同士の恋愛に興味はあるかな?」
「美紗先輩まで!?」
楽しそうで何よりだ。うん。どうやらさっそく、うちに汚染……じゃない、馴染んでくれようとしているらしい。結構なことだ。
「いやあ、美少女がいっぱい! 最高だなぁ」
「あはは。僕は海斗くんや正人くんと一緒にいるだけで満足だけどね」
「そうか。葉山がそう思ってくれるなんて、俺も嬉しいよ」
俺なんかと一緒にいてくれるだけで満足なんて……こいつはなんて良いヤツなんだ。
「おい海斗……お前……いやなんでもない」
「どうしたんだよ正人」
「違うからな!? 俺はそういうのじゃないからな!? 普通に美少女が大好きだからな!?」
何を言ってるんだこいつは。俺だって普通に幼女が大好きだよ。ぺろぺろしたい。しかしそれはYESロリータ、NOタッチに反する禁じられた行為。俺ってば修羅の道をいきすぎだろ。
その後も、楽しく歓迎会は続き、やがて夕方になった。




