表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
SS④ なんちゃってDQNと元気っ娘
82/165

ifストーリー 恵ルート②

 放課後。

 俺はBBAの介入によってあまり寝ることの出来なかった昼休みが関係しているのかはわからないが、あくびをしながら下校していた。正人は相変わらず生徒会である。大変だな。

 さっさと家に帰って幼女ものアニメでも見ようと思い、歩を進めていると……、


「ファァイナル、ウェィィィブ!」


 とかなんとか、どこぞの海賊戦隊が撃ちそうな必殺技の掛け声と共に、誰かが背後からばしーんと背中を叩いてきた。が、それほど痛くはない。誰かと思って振り向いてみたら、


「……牧原恵?」

「かいくん、偶然だね!」

「なんでお前がここに」

「何でもなにも、私も下校してるんだよ」


 まあ、そうだろうな。それしかないけど。


「ていうか、牧原恵、なんてフルネームで呼ばずに、普通に恵って呼んでよ。めぐみんでも可!」

「やだよ」

「えー。言ってよ言ってよ言ってよ言ってよ言ってよぉー!」


 ぐわんぐわんと肩を揺さぶられて頭が前後にぐらぐら揺れる。いい加減鬱陶しくなってきたので、無理やり離れる。あ、やべ。なんか酔ってきたかも気持ち悪い。


「お前をそんな風に呼んだら誰に何をきかれるかわかったもんじゃねーんだよ。察しろ」

「んー。じゃあ、二人っきりだけの時は名前で呼んで? 他の人がいる時は、フルネームでいいから」


 それなら別に断る必要はないか。ここで拒否っても同じことの繰り返しだし、次あんなことされたら普通に吐くかも。


「わかったよ……恵。これでいいんだろ」

「うん。それでいーよ」


 えへへ、と恵は幸せそうに笑う。……変な奴だな。


「二人だけの秘密、ってやつだね」

「そうなるな」


 どうでもいい秘密だけど。

 その後、なりゆきで恵と一緒に下校することになってしまった。教室を早めに出たおかげか、周囲に同じ学園の生徒の姿はない。よかった。


「お前もこっちの道なのか」

「うん。そうだよ。かいくんも?」

「じゃなかったらこんなところ歩いてないだろ。そもそも最初に話しかけてきたのはお前だろ」

「そっかぁ。そうだよねぇ」


 ニコニコとしながら歩く恵ではあったが……なんでこいつこんなにも嬉しそうなんだ。わけがわからん。


「そういえばさ」

「ん? なーに、かいくん」

「お前、最初にあの屋上で俺と会った時……なんであんな場所にいたんだ?」


 屋上付近の階段は、あまり生徒は近寄らない。別に何か曰くがあるとかそんなんじゃなくて、近くには物置代わりに使われている教室が離れたところにあるぐらいで、それ以外にはとりたてて何もないようなところなのだ。立ち寄らない、というより立ち寄る必要がない場所といえる。

 そのことを疑問に思った俺が質問をしてみると、恵は困ったように苦笑した。


「えーっと……こんなこというのもアレなんだけど」

「一応言っておくけど、お前がアレなのは既にわかってるからな」

「失敬な。……まあ、なんていうか。告白、されててさ。誰からとは言わないけどね。フッちゃったし」

「誰からと言わないのは懸命だな」


 フラれた本人だってそんなこと、言いふらされたくないだろう。


「だから、人けのない場所として呼び出されたのが、あそこってわけ。そんで……その、その人をフッて、ちょっと屋上前の階段で休んでいこうとしてたら、屋上に向かって歩くかいくんを見かけたってわけ」

「なるほどな。それで謎が解けたよ」


 そういう理由であんな場所にいたのか。知らなかった。

 ていうか、やっぱりモテるんだなぁ。こいつ。そういえば、そんなにもモテるこいつと一緒に歩いている今の状況……不思議な日もあるもんだ。今更だけど。


「ていうか、なんでそいつをフッたんだよ。顔か?」

「違うよ。そんなので人を選んだりしないもん。ただ……」

「なんだ、好きなやつでもいるのか?」

「えぇっ!? な、なんで!?」

「いや、なんとなく」

「……んーと……えっと、あの……」


 チラッと恵が俺の顔を見て、そして俯いた。どうしたんだこいつ。さっきまであんなにも元気だったのに、いきなり静かになって。


「……ひ、ひみつ」

「はぁ? ここまで話しておいてか?」

「だ、だってかいくんには言えないよ」

「さいですか」


 まあ、そりゃ知り合ってそんなにも経ってない相手にわざわざそんなことをいうわけないか。と、俺は『いつもの場所』についたことを確認すると、歩みを止める。


「っと、悪い。ちょっと俺はここで」

「……どこいくの?」

「別に。どこだっていいだろ」

「かいくんの家ってこっちの方向じゃないよね?」


 恵は、俺が方向転換した方角を見て言う。ていうか、


「なんでお前がそんなことを知ってるんだ?」

「え?」


 俺は、家がどこにあるかまでは言ってないのに。恵は明らかにわたわたと慌てて、あー、えー、うー、ともにょもにょと唸ったあと、


「そ、そんなことよりも」


 あ、ごまかした。


「かいくんはどうしてこっちの道に?」

「……あー、もう。誰にも言わないなら、ついてこい」

「うん。そーする」


 にこっ、と微笑んで、恵は俺の後ろをトコトコとついてきた。しばらく歩いて、道端にある段ボール箱の前で俺は止まる。その段ボール箱は、上が空いていて、その中に子猫が入っていた。白い子猫だ。本来は白い毛並みを持っていたのだろう。だが、それがところどころ汚れているのはこんなところで捨てられているからだろう。子猫は俺の姿を見つけると小さく泣いた。……か、かわいい。幼女も最高だが、やはりこういった動物もこれはこれでなかなか……。


「うーん。捨てられた子猫と不良……ベッタベタな光景だね」

「ほっとけ」


 俺も少し気にしてるんだよ。「いや、これはベタ過ぎるだろう」と。でも何ていうか……こんなにも可愛い小動物(俺の中では小動物なのだ)を放っては置けないのだ。かといって、俺の家はペット禁止のマンションだからこいつを飼ってやることは出来ないし。


「ほら、食えよ」


 パン屋でもらったパンを与えてやると、ぱくぱくと子猫はそれを食べだした。あとコンビニで買っておいた牛乳を用意した小皿に入れる。


「か、かわいい……こんなにもかわいい存在を捨てるとかこいつを捨てたやつはゴミ以外の何物でもないな」

「概ね同意したいけど、やっぱり飼い主さんにも色々と事情があるんだと思うよ?」

「知るかよそんなもん。顔も知らん奴のことをいちいち気にしてられるか。ふりまわされる子猫たんの身にもなってみろ」

「まあ、人間の都合で振り回される生き物からすれば確かにそうなんだけどね」


 にゃーんと可愛らしく鳴く子猫たんは、恵のもとにぴょん、とジャンプすると、すりすりと恵の足に頬擦りをはじめた。羨ましい。恵が。俺も子猫たんに頬擦りされたいよぉ。


「なんだ、随分と懐かれてるな」

「え? そ、そーかなー……」


 みゃーんみゃーんとかわゆくなく子猫たん。ふぅ。癒される。恵はそんな子猫たんをひょいっと手慣れた様子で抱えて、何やらボソボソとつぶやいている。ていうか、なぜ俺の傍からわざわざ離れる。子猫たんだけ置いていけ。三次元における幼女以外の唯一の癒し。


「……ごめんね。今日は……またあとで来るから……」

「? おい、何を言ってるんだ。俺にもきこえるように話せよ」

「な、なんでもないっ」


 恵は慌てたようにしてさっと子猫たんを段ボール箱に戻した。俺は餌をやれてとりあえず日課は済ませることが出来たので、その場を離れることにした。


「誰か拾ってやってくれないかな……マジで子猫たんがかわいそうだ。ああ、くそっ。俺の家のマンションがペット禁止じゃなかったらなぁ。あ、そうだ。恵の家はどうなんだよ」

「私の家は……どうだろ。わかんない。ママが良いっていうなら飼ってもいいかもしれないけど、連絡とれないから」

「そんなにも忙しいのか。お前の母親」

「うん。メールとかしても、あんまり帰ってこないし、電話だって繋がることの方が稀だし。子猫ちゃんのこともきいてるんだけど、返信が……」

「ん? お前、前からあの子猫たんの事を知っていたのか?」


 俺が首を捻って疑問をなげかけてみると、恵はまたもや慌てたように取り乱した。なんだなんだ。こいつは情緒不安定なのか。


「いや、えっと、そ、その……じ、じゃあねっ!」


 恵はそのまま俺と別れて家に帰った。送っていこうかと申し出たが、恵は顔を真っ赤にして拒否ったのでそのまま帰った。

 そして次の日。

 学校で互いの姿を見かけても、恵は視線をチラッと合わせて俺の方を見ただけで、その他には特に何もなかった。これが普通。これが当たり前。これが日常。……と思っていたのは俺だけだったようで。


「……なにしてるんだ?」


 昼休み。

 俺は、再び屋上での眠りを恵によって妨げられた。昨日と同じように、目の前に俺の顔を覗き込む恵の顔がある。その顔は心なしか赤い。


「え?」

「だから、なにしてるんだってきいてるんだよ」

「膝枕」

「今すぐやめろこのBBA」


 そう。俺は現在、恵に膝枕なるものをされていた。むちむちの白い太ももが頭の下から感触という形でその存在をアピールしてくる。流石の紳士である俺といえども、こんなことをされては緊張せざるを得ない。


「えー、なんでー?」

「なんでって……それは、ほら、あれだ。俺の頭を預けるのは幼女の膝だけだからだ」


 ……言えないだろ。緊張するとか。


「と、とにかくやめろ」


 ばっ、と上半身を無理やり起こして恵から離脱する。……膝枕されて下から見えるんだよ。制服の上からでもわかるぐらいの、その、意外と大きい胸が。


「むー。かいくんのいけず」

「いけずで結構。つーか、お前だってもう二度とこんなことするな」

「なんで?」

「好きな人がいるんだろうが。不用意に好きでもない男にこんなことすんじゃねぇ。俺だからこそよかったものの、普通はこんなことされると勘違いされるぞ。気をつけろ」

「……勘違いすればよかったのに」


 ぼそっ、と恵が小さな声で呟いた。だが、上半身を起こしたと同時に慌てて飛び退き、距離を取った俺にはきこえなかった。


「何か言ったのか? 悪い、もう一回言ってくれ」

「な、なんでもないよ!」


 そ、それよりも、と恵は明らかに話題を変えようとしていた。まあいいか。ここは大人しくのってやるよ。


「かいくん、放課後って暇?」

「残念ながら俺の放課後は常に幼女の為に空けてある。公園で遊ぶ小学生たちを眺めたり、幼稚園にいったりな」

「うん。暇みたいだね」


 暇じゃないっつってるだろうが。日本語も理解できないのか。やれやれだぜ。これだからBBAは。


「じゃあさじゃあさ。放課後にちょっと付き合ってほしいんだけど」


 ☆


「で、ちょっと付き合ってほしいというのがこれか」

「うん。そうだよっ」


 その日の放課後。

 俺と恵は、またあの子猫たんのところに寄ってから電車を乗り継いで、近所からはかけ離れたところにあるゲームセンターにやってきていた。周りには様々なゲームが稼働している。俺たちがいたのは、UFOキャッチャーのコーナーだ。


「『ちょっと』どころじゃないよな? 電車で三十分ぐらいかかってるぞ?」

「交通費が気になるなら払うよ?」

「アホか。んなことを気にしてるんじゃなくてだな……つーか、そんなことでわざわざ女に金なんか出させるかよ」


 女に金は出させるなって姉ちゃんが言ってたし。


「俺の貴重な幼女と戯れるための放課後を犠牲にしてやってきたのがゲームセンターって……納得できると思うか?」

「だからこそかいくん御用達の幼稚園から遠ざけたんだけどね。むしろ私に感謝してほしいぐらいだよ。逮捕されずに済むんだから」

「失敬な。逮捕される? 俺がそんなヘマをすると思うか?」

「うわお。これはもうプロの犯行だね」

「まあ、この前はちょっと夢中になりすぎて通報されていたのに気がつかなかったけどな」

「本格的にバカだよね。かいくんって」


 とりあえず、来てしまったものは仕方がない。ここは素直にゲームセンターを楽しむしかない。そんな俺の気持ちを恵は感じ取ったのか、ふふっと笑ってUFOキャッチャーをやり始めた。だが、そう簡単に上手くいかないようにできているのがUFOキャッチャーというものなのである。子猫のぬいぐるみをとろうとした恵はアッサリと失敗した。


「むー。失敗……」

「下手くそめ。これだからBBAは。ちょっとどけ」


 恵の代わりに今度は俺がやってみる。もちろん自腹である。

 こうみえて、姉ちゃんによくデートと称してゲーセンに連れられてUFOキャッチャーは散々やったから自信はあるのだ。

 ラッキーなことに、配置的にも比較的とりやすくなっていたので、持ち前の経験と技術を活かして見事に目的のブツをゲットした。子猫たんに似た、白い子猫のぬいぐるみである。


「やる」

「いいの?」

「欲しかったんだろ。やるよ」


 この手のものは姉ちゃんの部屋にたくさんあるし。

 恵は俺の手からそれを受け取ると、


「ありがとう、かいくん。大事にするね」


 と言って微笑んでみせた。俺は、その恵の女の子らしい笑みに僅かだが魅了されたのか……不意に、ドキッと心臓の鼓動が跳ねたような気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ