ifストーリー 恵ルート①
俺のクラスには、美少女がいる。
見た目は可愛らしくて、ぴょんぴょんと飛び跳ねるたびにセミロングの髪が揺れ、小柄の割に大きな胸が弾む。更にスカートもふわりと絶妙に揺れるわけで、そのたびにクラスの男子たちの視線は釘付けだ。
まあ、俺は別にそんな事には興味ない。何しろ俺は幼女と二次元美少女に愛を捧げている身なわけで。
別にはずむおっぱいだとか揺れるミニスカート何かには全く興味ない。断じてない。隣では友人である篠原正人が眼福じゃー眼福じゃーとかいって有難がっているが、俺にはそれが理解できない。
「お前もクラスの男子共も、どうしてそうBBAに興味がわくのかねェ」
「ばっか、お前みたいなロリコンにはわかんねーかもしれねーけどなぁ、牧原恵っていったらこの学園屈指の美少女だろうが。そんな女の子が無邪気にぴょんぴょん飛び跳ねてたらそりゃ色々と釘付けになるだろう! はずむおっぱいとか、ミニスカートだとか!」
「あっそ」
我が一年四組の名物と言えば、この牧原恵だ。学園屈指の美少女がいるのだから、休み時間には毎回毎回、男女問わず物凄い人が訪れている。どいつもこいつも、貴重な休み時間を使ってまで来るのなら、話しかければいいのに。たかがBBAだろ。貴重な休み時間、それも昼休みが小うるさい幼女の価値も分からないバカ共に蹂躙されるのは我慢ならない。
しばらくして、牧原恵が席を立ってどこかに行った。その際に生徒たちの塊が牧原恵を避ける為に動いた。その隙を突くように、俺は席を立って、屋上に向かうことにした。
「正人、鍵借りるわ」
「おう、後でちゃんと返せよー。こういうの、本当はやっちゃいけないことなんだからな」
「わかってるよ」
我が流川学園では、基本的に屋上は解放されていない。しかし、生徒会と風紀委員が持つマスターキー、そして職員室にある鍵ならば屋上の扉の鍵を開けることが出来る。俺は生徒会役員の悪友様からそのありがたいマスターキーを借りて、たまに屋上に足を運ぶことがある。いくら生徒会と風紀委員がマスターキーを持っているといっても、屋上を使うことは滅多にない。
なので、屋上は良い休憩場所だった。正人に迷惑はかけたくないので、周囲の人目を忍びながらマスターキーを持って屋上に向かう。扉の前に立ち、鍵を差し込む。回す。
屋上に入ると、心地いい風が全身を包み込んだ。空気が美味い。日向も良好。俺は屋上の隅っこに隠しておいたブルーシートを広げて、その上に寝転がった。この前、ここで昼寝をして授業に遅れたことがあったので、携帯で授業に間に合う時間帯に起きれるようにアラームを仕掛けておく。
そのまま、俺は夢の世界に身を任せた。
目が覚めたのはすぐだった。アラームが鳴る前だ。いつも……というよりここ最近はアラームが鳴るまで起きないし、アラームが鳴ったらすぐに起きる。
が、何故か人の気配を感じてすぐに起きてしまった。ぱちっ、と目を開けてみると、目の前にいたのは美少女の顔。物珍しそうな表情をしている。そう、その人物はまるで――――、
「……BBAだ」
――――天使だ、なんて言うと思ったか? バカめ。確かにこいつは美少女だが、ただのBBAであることは変わりはない。そして、目の前のBBAは一瞬だけきょとんとした顔をしたあと、くすっ、と面白そうに笑った。
「ふふっ。なにそれ」
「言った通りだよ。どいてくれ」
「はぁーい」
BBA……こと、牧原恵だ。なんでこいつがこんなところに。
「いやぁ、起きた人に『BBA』なんて言われたの、はじめてだよ」
「そりゃよかったな。貴重な体験ができて」
「あはは、そうだね~」
にぱっ、と笑う牧原恵。そろそろ、俺からは質問をぶつけさせてもらうことにした。
「えっと……なんでこんなところにいるの?」
「君が屋上に上がっていくのを見てたんだー。そんで、閉まっているはずの屋上に何しに行くんだろ?と思ってついて行ってみると、普通に屋上の扉を開けてたからさ。びっくりしちゃって。しばらく様子を伺ってみると、勝手知ったる様子でシートを広げて昼寝しちゃうでしょ? だからちょっと興味出てきちゃって、君の寝顔を見てたのっ」
……まずい。迂闊だった。人目を忍んでたつもりが、普通に見られてたとは。
このままだと、このマスターキーを生徒会でも風紀委員でもない俺に預けた正人に迷惑がかかる。それだけは何としても阻止しなければ。
「……あのさぁ、ここに俺が入ってたこと、他の奴には……その、秘密にしててくれるか?」
「ああ、なるほどね。君にそれを預けた生徒会か風紀委員の子に迷惑かかっちゃうもんね。いいよ。約束する」
「理解が早くて助かるよ。そんじゃ、そういうことだから」
そういって、そそくさと俺はその場を離れて屋上からとんずら……しようとしたかったが、ちゃんと鍵は閉めておかなければならないので、牧原恵も一緒に出ることになった。しっかり鍵を閉めたことを確認すると、牧原恵は階段をすっ飛ばして、降りていた。
「じゃ、今日の事は私と君の秘密だねっ! だいじょーぶ! 他の人は言わないから!」
じゃーねー、と言い残し、そのまま牧原恵は走り去っていった。
一人とりのこされた俺は、なぜ牧原恵があまり人の寄り付かないこんなところをうろついていたのかを聞きそびれてしまっていたことに気がついた。
「……まあいいか。BBAだし」
☆
次の日。
俺は例の如く、クラスが騒がしくなってきたので屋上へと足を運んでいた。正人は生徒会の仕事があるらしいので、生徒会室に向かった。生徒会も大変だな。昼休みまで活動しなくちゃならないなんて。
屋上の扉を開けて、青空の下へと身を躍らせる。その後、さっそくシートを広げて寝ころんだ。そして、アラームがセットされていることを確認し、昼休みを昼寝して過ごす体勢に入る。眠気はすぐにやってきて、夢の世界へと身を預け――――、
「お、開いてる開いてるっ」
――――ようとしたところで、BBAの声がきこえてきた。うんざりした表情をしながら上半身を起こして、振り向く。すると、その視線の先には嬉々として屋上に乗り込んできた牧原恵の姿があった。
「なんで来てるんだよ……」
「んー。何ていうか、静かな場所を求めているのは君だけじゃないってこと、かな?」
「なんだそれ。お友達の方は良いのか? 付き合い悪いとぼっちになるぞ」
「あはは。だいじょーぶだいじょーぶ。あの四人はそれぞれ用事があるからね」
「え? 幼児?」
「うーん。『え? なんだって?』はきいたことあるけどその返しはさすがに予想外だよ」
とかなんとかいいつつ、勝手にシートに上がって俺の隣に腰を下ろす牧原恵。その顔はぼーっと目の前に広がる青空を見ている。
「なんかさー。君って不思議だよね」
「ああ。よく言われるよ」
ロリコンだってな。光栄なことだ。幼女を守る騎士と称されているのだから。
「少なくとも君が思っていることじゃなくてね? んと……ほら、自分で言うのもなんだけど、普通、この学園の男の子って、私が隣に座ると明らかにテンション上がるでしょ?」
「だろうな」
「もうこういうことには慣れっこだし、流石にこの期に及んで私が可愛くないって認めないけどさ。それが原因で教室で騒ぎになっているっていうのもわかってる。嫌味に聞こえるかもしれないけど、さすがにもう小学校の頃からこうだしさぁ。正直、疲れるっていうか……」
「贅沢な悩みだな」
「そうかもしれないけどさ……私だって、もう少し静かに学園生活を送ってみたいんだよね。きゃーきゃー騒がれずに」
まあ確かに、部外者の俺から見ても正直あのファン(?)共は騒がしい。
「だからさ、君みたいな生徒って、私からすれば珍しいんだよね。一緒にいても騒がしくないし」
「……なんだか無性に騒がしくしたくなってきた」
「えー、なんでー?」
「なんで昼休みの貴重なお昼寝タイムをBBAに邪魔されなくちゃならんのだ」
「じゃあ、お昼休みじゃなかったらいいわけだ」
「……どういう意味だ?」
「さあね~」
牧原恵は意味ありげな笑みを浮かべていた。なんだか嫌な予感がするぞ……。
「そういえば君、名前は?」
「おいこら。同じクラスだろうが」
「え? あ、そ、そーだね。あ、あはは。ごめんごめん。自己紹介の時とか、えーっと、そうっ! ぼーっとしてたから、私!」
「?」
なんでそんなにも慌ててるんだ? 別にいいけどさ。というか、なんだかこっちだけ向こうの名前を知ってて向こうはこっちの名前を知らないというのはむかつく。けど、意地を張って教えなかったところで、こいつが知ろうと思えばいつだって知れるのだ。意味のないことに労力を使う必要もないだろう。
「……黒野海斗」
「黒野海斗……海斗くん。じゃあ、かいくんね。わかった」
「なに勝手に人に安直なあだ名をつけてるんだ」
「えー。私、友達になった人にはあだ名つけるのが習慣なのにぃ」
「俺がいつ、お前と友達になった」
「今この瞬間から」
けろっとした顔をして喋るもんだから、俺はついガクッと肩を落としてしまった。
そして気が付けば、もうすぐ昼休みが終わってしまう時間帯だった。
「あ、もうこんな時間だー。かいくん、はやく教室にもどろ?」
「お前に言われなくてもわかってるよ。先に行ってろ」
「えー? どうしてどうして? 一緒にいこうよ」
「お前と一緒に行ったらきゃーきゃー騒がれるだろうが! しかも俺まで余計なことに巻き込まれる!」
「酷いよかいくん! 私たち、一蓮托生じゃない!」
「托生した覚えはねーよ!」
「かいくんが私と一蓮托生したのも、すべて乾〇ってやつのせいなんだ」
「おのれ〇巧! 絶対に許さな……じゃねーよ! なんでもかんでもたっくんのせいにすんなよ! たっくんはもう十分に戦っただろ! 最終回とかもうかなり体がボロボロになってただろうが! 小説版なんて体ボロボロ過ぎて思わず泣いたわ!」
つーかこいつ、なんでこんなネタを使えるんだ。意外と仮面ラ〇ダーとかが好きなのだろうか。だとしたら意外な趣味だ。
「ふふっ。そういうことなら仕方がない。じゃあね、かいくん。また今度っ」
「出来ればもう二度と会いたくねーな」
だけど冷静に考えて、俺とこいつは同じクラスなわけだから、そういうわけにもいかないのであった。
そしてこの日からだ。
俺とこいつの、奇妙な関係が始まったのは。
強化フォームになるだけで寿命が減っていくとか555は地味に鬼畜仕様のライダー。テレビ版も小説版もたっくんの体がボロボロ過ぎて泣いた。最近発売された小説版のラストなんてもうあの後確実に死んだでしょ……と思わずにはいられない。
テレビ版最終回の最後の、たっくんの視界がわずかにぼやけた描写を見て、子供ながらに悲しい気持ちになったのも覚えてます。
555はかっこいいけど、絶対に変身したくはないライダーの一人ですね。そもそも一度死んでオルフェノクになれるかなれないかの運ゲーからですし……




