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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第1部「1年生編」:第1章 なんちゃってDQNと日本文化研究部
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第7話 ありがとう

「お話?」

「ええ。ほら、修学旅行の夜とかのテンションですよ」

「言いたいことはわかるけど」

 まあ、どうせさっきのゴタゴタで目はすっかり覚めてしまった。眠れるまで話し相手がいるというのも悪くない。

「それで? 何を話すんだよ」

 加奈にきいてみるが何も答えが返ってこない。代わりにごそごそと布団が動くような音だけだ。

 なんだ? もう寝てしまったのか?

 そう思ったのだが、何故か俺の布団がめくれあがって、温かい何かがもぞもぞと布団の中に入ってくるような感覚がした。不思議と、とても良い香りもする。

 ん? なんだこの腕に当たる柔らかい感触は……。

 あれ? なんだかこの感触にも覚えがあるような無いような……あれ?

「よいしょ。やはり二人で入ると狭いですね」

「なにしてんだお前⁉」

「あんまり大きな声を出さないでくださいよ。他の二人が起きてしまいます」

「お、おお。悪いわる……じゃねぇ⁉」

 今度は少し声のボリュームを落とす。確かにこんな状況で他の二人が起きてしまえばどうなるかもわかったもんじゃない。

 というか、さっきからシャンプーの香りがしたり腕に二つのメロンが当たってえらいことになってるんですけども⁉

「お、おおおおおお、おまっ、お前っ! 何してるんだ⁉」

「お話しようと思いまして」

「そうじゃなくて! なんでわざわざ同じ布団に入ってくるんだよ⁉」

「良いじゃないですか。こうした方がお話がしやすいでしょう?」

 そうだけど……いやいやいやそうじゃないそうじゃない。

「いや、ちょっと、待ってくれ。そのっ、さっきから当たってるんですけど⁉」

「当ててるんですよ」

「ああ、そうか。当ててるんだ。それならそうと早く言ってくれれば……じゃねえ――――!」

 あ、あてっ、当ててる⁉ なんっ何で⁉

「ふふっ。冗談ですよ」

「……だよな。ああ、焦った」

 ん? じゃあ何でわざわざ布団の中に入ってこんなことをしているんだ?

「まあいいじゃないですかそんなの」

「そうか? そうなの……って本当になんで心が読めんの⁉」

 やだ。この子ちょっと怖い。

「ではお話、しましょう?」

「……ああ」

 どうせ言ってもきかないだろう。仕方がないのでせめてもの抵抗と仰向けの状態から加奈に背を向けた。

 今度は背中にむにゅりと何か柔らかいものが当たったような気がするけどきっときのせいだ。うん。そうに違いない。

「それで? 話って?」

「ではさっそく、ロボットについて私と熱く語り合いまし」

「おやすみ」

 さーて、寝るとするか。うん。そーしよう。いくら明日から休日だからってあんまり夜更かしするのもよくないしな。

「待ってください」

「なに?」

「冗談ですよ。冗談」

 こいつの冗談は冗談に聞こえない分、かなりタチが悪い。

 というよりも紛らわしい。

「じゃあ話題転換しろよ」

「んー。そうですね。うん、じゃあさっさと本題に入りましょうか」

 本題? 本題があったのか?

 俺が疑問を抱いていると、背後の加奈がどこか緊張したような様子で、言った。

「……ありがとう」

「?」

 今こいつ、ありがとうって言ったか?

 でも、だとしたら、一体なんのことに対して?

「……私、今までこうやって友達と一緒に部活でお喋りしたり、お泊り会をしたりしたことがなかったので、今日はとても楽しかったです」

 ぽつりと加奈は一人、暗闇の中で言葉を紡いだ。

「ほら、私ってなんていうか……他の人からちょっと距離を取られているようなところがあるじゃないですか?」

 それには一応、心当たりがないでもない。

 なまじ学園のアイドルなんていうよくあるギャルゲーヒロインポジションにいることから周囲に崇められているというか、加奈は学園内においてはいつでもどこでも興味の対象、噂の的というようなものだった。

 例えばそこに信仰の対象、神がいたとして、それを崇めている者は神と友達になろうなどとは思うだろうか?

 答えはNOであり、つまりはそういうことなのだ。

「まあな」

「昔からそうでした。私に笑顔を振りまいてくれるような人はたくさんいたけれど、友達になってくれるような人はいませんでした」

 そういう加奈の声は少しばかり、寂しさを帯びているような気がした。

「だから、海斗くんにはとても感謝しているんです。あの日、あの場所で海斗くんがいなかったら、今こうして友達と楽しい時間を過ごしている私はいなかったと思うから」

 加奈は周囲から尊敬されようとも、どれだけ綺麗だなんだと言われようとも、友達になろうというような者は加奈の目の前には現れない。

 だって、あまりにも凄すぎるから。

 綺麗で、頭もよくて、運動もできてしまうから。

 完璧すぎるから。

 だが、俺にはそんな周囲の評価が今ではまったく信じられない。

 俺の背中にいる一人の少女は確かに綺麗で頭もよくて、運動もできる。

 だけど、決して完璧なんかではない。

 少し……いや、かなりロボットに情熱的な、ただの寂しがり屋な女の子だ。

「だから……その、ありがとう」

「そうか」

 こういう時、なんて言えばいいんだ。

 幼女もしくは二次元女子にしか興味のなかった俺にとって今の状況は黒野海斗史上初の出来事である。

 俺は内心あたふたとしていると加奈はどこかむっとしたような声を出して、

「なんだか少し雑な返答じゃありません? わ、私がこうして精一杯の勇気を振り絞っているというのに」

 こっちだって色々と大変な状態なんだよ。主に理性とか理性とか理性とか。

「い、いっただろ? 俺は幼女か二次元女子にしか興味がないんだよ」

「へ、へぇ? じゃあ私には微塵も興味がないと?」

「ないな」

 だってBBAじゃん。十二歳過ぎてるし。

 そんな俺の言葉が放たれたと同時に、加奈の方からビシィッ! という何かに亀裂が入る音が聞こえてきた。

 ゆらり、と加奈が立ち上がる。

「ほほう? それは私も女の子として傷つきましたよ。ええ、傷つきましたとも」

 なんだ。こいつはいったい何をする気だ。

「ではこうしてみましょう」

 言うと。

 ぼすっ、と加奈はあろうことか不意に仰向けになってしまった俺の上に馬乗りをしてきたのだ。

「⁉」

「な、何を焦っているんですか? 興味がないのでしょう?」

「あ、ああ。ないな。全然ないな。微塵も興味がわかないな」

 それでも理性は別なんだよ!

 叫びたいが今の状況では上手く頭は回らない。

 頭に浮かぶのは女の子の体って結構柔らかいんだなーとか、良い香りがするなーとか、けっこう軽いんだなーとか、そんなどうでもいいことばかりだ。

 なす術もないままの俺に対して加奈が動く。その挙動の一つ一つからは不思議な魅力が感じられるし、その度に何故かドキドキする。

 加奈の両手が俺の頭の下敷きになっている枕の両サイドについた。加奈の顔が間近にある。吐息がかかりそうなぐらいに。文字通り、目と鼻の先の距離である。

 ふいに、加奈の桜色の唇が動いた。


「……ホントに、私には興味がないんですか?」


「…………」

 声が出ない。いや、出しちゃだめだ。

 そもそもどうしてこんなことをしているんだこいつは。

 紳士である俺だから良いようなものの、これがもし邪なことを考えている男だったらもう加奈がどうなっているのかが想像もつかない。

 でもどうしてだろう。

 体がいう事をきいてくれない。

 目の前の少女に釘付けだ。

 桜色のパジャマからチラリと除く白い肌と二つの大きな双丘。カーテンの隙間から差し込んでくる月明かりが加奈の綺麗な金色の髪に幻想的な光を与えていた。

 普段は幼女のみを欲している俺の理性がぐらりと大きく揺れる。

「……っ!」

 俺は思わず、彼女の体をとって隣の加奈の布団の位置へと戻す。きゃっ、という加奈の可愛らしい声が漏れた。いや、これは状態だけ見れば俺が加奈を押し倒したようにも見えるだろう。

 暗闇の中でもはっきりとわかる。

 今、加奈の顔は真っ赤だ。

 私は何をしているんでしょう――――そうとでも言いたげな顔だった。自分でも何をしているのか解らなかったに違いない。俺だってどうしてこんなことになっているのか解らない。

 多分、引っ込みがつかなかったんだろう。

「お、お前っ、何がしたかったんだ?」

「ふぇ? え、えっと……あの、そのっ」

 ため息をつく。何かに落胆したわけではない。ただ自分を落ち着かせたくて。

「あのな、加奈。今のは俺だったからよかったようなものの、もしも俺じゃなくてもっと、えっと悪いヤツだったら今頃はお前、とんでもないことになってたぞ」

「ご、ごめんなさい……」

「いくら引っ込みがつかなくなったからってな、好きでもないような男にこんな真似はするな。後悔するぞ」

 決まった。

 やはりラノベというものは読んでおくものだ。こういったテンプレセリフが役に立つとは思わなかったぜ。

 ……あれ? そういえばこういうセリフの後にヒロインが言うセリフって……。

「……好きでもない男?」

 とかいうんだよな。うん。

 そして大抵、次のシーンで主人公が……あれ?

「それ、本気で言ってるんですか?」

 ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド、と。

 殺気ッ!

「じゃあ海斗くんは、私が好きでもない相手にあんなことをするような女の子だと思ってたんですね」

「あの……加奈? 加奈さん? 落ち着こうぜ? な?」

 もうこの阿修羅が何を言っているのかも分からない。

 とにかく俺の心の中には恐怖という言葉で塗りつぶされていた。

「ま、待て! 暴力ヒロインはもう時代遅れだぞ!」

「ご安心ください。暴力ヒロインになる気はありませんよ」

 にっこりと、加奈は笑った。

 客観的に見ればとても美しい笑顔、なのだろう。

 だが俺にとってはただ悪魔が笑っているようにしか見えなかった。

「夜は長いです。たっぷりと、私のロボトークに付き合ってもらいますからね?」

 どうやら今夜は、寝かせてはくれないようだ。



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