第63話 至高にして崇高な学問
風紀委員側一年生の自信とプライドを完膚なきまでに叩き潰してもぎとった一勝。そして、勝負は最後の一戦、大将戦にもつれこんでいた。体育館の中央には、頭に風船をつけた、なんともマヌケな格好をした俺と荒島が突っ立っていた。
「かーいくーん、頑張れー」
「気をつけろ海斗ー。荒島って、去年は全国大会までいったやつだぞー」
応援にちゃっかりと正人も加わっていた。つーかこんな危険なバカ騒ぎをもう止めろよ生徒会。お前、まだ今年の一年生を生徒会役員として捕まえられてないんだろ。こんなところで油売ってていいのか。
荒島の方は、すっかり戦闘態勢だ。ヘッドギアにグローブ、ジムワーク用のトレーニングウェアと、完全なボクシングモードである。ねえ、狙いは頭の上の風船だよね? 顔じゃないよね?
「おい、ヘッドギアとグローブをつけろ。大怪我しても知らんぞ」
「あー。あれね。別にいらねーわ。何か動きにくそうだし」
荒島は風船つきヘッドギアを被っている。対する俺は、カチューシャみたいなのを頭につけており、そこに風船が取り付けられているものを使用している。だってヘッドギアとか使ったことないし、ぱっとみ苦しそうだし。いらん。
「ふふっ。面白くなってきたじゃないか。一昨年はこんな感じで、結構盛り上がったんだけどなぁ」
クスクスと面白そうに笑っている華城先輩。おい、元凶。何一人だけ楽しそうにしてるんだ。
「それじゃ、そろそろはじめようか。ギャラリーも待ちくたびれたみたいだしね」
華城先輩が去り、体育館の中央には俺たちが取り残された。あの鬼とまで称されたDQNの黒野海斗と、イケメンボクシング部のスーパーエース様との試合だ。そりゃさぞかしギャラリーも盛り上がるだろうな。主に俺がボコボコにぶちのめされることを期待するという意味で。
「ヘッドギアをつけなかったことを後悔させてやる」
「ああ、そりゃありがたいや。その気遣いに涙が出そうだぜ」
――――試合、はじめ!
華城先輩の凛とした声が体育館に響き渡った。それと同時に、ギャラリーたちの歓声があがり、そしてそれよりもはやくに荒島が飛び出していた。
「海斗くーん、頑張ってくださいねー」
「……頑張れ」
「えっと、まあ、頑張ってください」
「が、頑張ってね……」
文研部二年生勢からの声援がきこえてきた。お前らやけに楽しそうだな。
「せ、先輩っ、頑張ってくださいっ!」
今度は一年生……というより今は楠木南央だけか。つーか、本当に我が部の欠点は幼女後輩か幼女先輩がいないことだよな。あ、幼女先輩ってア〇カツの幼女先輩みたいだ。アイ〇ツと言えば、今度の休みの日にでもまたパトロールにでもいってみるか。幼女先輩を押しのけてア〇カツやってるアイ〇ツおじさんを駆逐しなくちゃ。
「おいてめえ、何ぼけっとしてやがる!」
ああ、やだやだ。まずは適当に流すか。ていうか、こういうバトル展開とか誰得なんだよ。とはいえ、今まではボクシング経験者とやりあったことはあったっけ。どいつもこいつも速攻でぶちのめしてきたからわからん。とりあえず、最初はちゃんと相手を見てみるか。
「……シッ!」
綺麗な、それでいて鋭い右ストレート。迷わず顔を狙ってきた。おお、やっぱり今まで喧嘩してきたただのDQNとは違うな。
俺は荒島の右ストレートを、首を軽く傾けて避ける。が、その後も次々とラッシュが降り注ぐ。俺はそれらを紙一重でかわしていく。
あー。やっぱあれだな。姉ちゃんに比べればめちゃくちゃ遅い。
例えるなら、クロ〇クアップとハイパーク〇ックアップぐらいの差だ。……いや、あれって速度じゃなかった気がするけど。なんだっけ? タ〇オン粒子で時間流を操ってるんだっけ? しかも、ク〇ックアップって科学で計測できない速度なんだっけ。
うーん。じゃあ、荒島のが原作版ア〇セルフォームたっくんだとして、姉ちゃんは原作版ハイパークロッ〇アップ。これぐらいの差がある。言ってしまえばもう速さとかそういう次元じゃないぐらいの。
「くっ……!」
段々と、荒島のラッシュが早くなってきた。でもまだまだ遅い。俺は適当にひらひらと、最小限の動きで、更に紙一重でそれをかわし続ける。……それにしても暇だな。まだ体感だと一分も経ってないぞ。あれだよな。後のことを考えると、ここで荒島を瞬殺して風紀委員のメンツ(笑)を潰すのは厄介なことになりそうだ。できるだけ委員会側とは敵対したくないし。ここは時間を稼いで、試合の体裁でも繕っておくか。決める時も、できるだけ互角を装って、ギリギリの勝利を偽装しよう。それなら負けても向こう側としてはあまりダメージはないだろう。
「あ、ちょっとタンマ」
「!?」
俺は、ラッシュをしかけてくる荒島を軽くいなして、するりとラッシュから抜け出した。つんのめった荒島はそのままバランスを崩す。その隙に、俺はポケットから携帯音楽プレーヤーをとりだして、イヤホンをつける。そのまま音楽再生。うむ。やはり幼女キャラのアニソンは良い。暇つぶしには最適だ。これを聴いているとあっという間に時間が流れていく。
「どうぞ、続けてくれ」
「くっ……ざけんなぁ!」
何故か荒島がキレた。幼女キャラのアニソンは良い。日ごろ、BBAに囲まれている俺の荒んだ心が癒されていく。この、幼女キャラの曲を聞いている時だけは、心地よい気分になれる。
……にしても、さっきから荒島が邪魔だな。音楽ぐらいゆっくり聴かせろよ。嗚呼、こうしているとギャラリーの声もきこえなくなるからいいもんだ。
俺は適当に荒島の攻撃を次々とかわし、幼女キャラのアニソンを堪能していた。あ、そうだ。この間に艦これをしよっと。そろそろラブリーマイエンジェル第六駆逐隊が遠征から帰ってくるし、もうすぐ五人目の響ちゃんがヴェールヌイなるから、一気にレべリングしてしまおう。
そんなわけで、俺はまた荒島を簡単にいなして、今度は転ばせて、加奈たちの元までダッシュで移動。
「海斗くん。どうしたんですか?」
「え? なんだって?」
「……イヤホン外せば?」
「言いながら外すなよ。っと、あったあった。俺のノートパソコン」
「かいくん、何でこんな時にノートパソコンなんて持ち出してるの」
「いや、そろそろラブリーマイエンジェル第六駆逐隊が遠征から帰ってくるんだよ」
「まったく、あなたという人は……本当にどうしようもない変態のロリコンですね。時と場所を考えてください」
「はっ。笑わせるな。幼女を愛でるのに、時も場所も関係ないだろ? じゃ、いってくるわ」
「が、頑張ってね……」
今度はイヤホンをノートパソコンに刺して、駆逐艦の美声を楽しむことにしよう。
あぁ~……癒される。まったく、駆逐艦は最高だぜ!
……ギャラリーの生徒には見られてないよな。一応、画面に保護シールはってるし。別な角度からは見えないはず。
それにしても、やはり第六駆逐隊は天使だな。まあ、駆逐艦は彼女らだけじゃないが。個人的にはぜかましも可愛いし、不知火も良い……。文月ちゃんも素晴らしい。いや、そもそも一番は決められない。しかし駄目男製造機の雷ちゃんもなぁ……雷ちゃんには是非ともお母さんになってほしい。いや、嫁にして雷ちゃんにお世話されながら、雷ちゃんのヒモとして暮らすのも……まさにこれこそが理想のヒモ生活。雷ちゃんになら駄目男にされてもいい。だがしかし、男として、そして紳士として雷ちゃんだけに働かせてもいいのだろうか。否、断じて否である!
「おいこらてめぇッ! 試合中にふざけてんじゃねぇぞ!」
「え? なんだって?」
「……ぶっ殺す!」
イヤホンつけて、ラブリーマイエンジェルのろりっこボイスをきいてるからきこえない。
が、何やら荒島くんを怒らせてしまったらしい。なんだか知らないけどごめんね。でもあんまりはりきらないでくれると嬉しいな。だってよけるばっかになって暇で暇ではじめた艦これに集中できないもの。
めんどくさいから、俺はとりあえず荒島に足を引っ掛けて軽く転ばせた。これで少しは時間が稼げるな。立ち上がった荒島がやけに怒り狂ってたけど。カルシウムが足りないんじゃないの。
そんなことを考えている間にも荒島のラッシュが続く。ああ、もう。なんでこんなにもへなちょこのパンチしかうてないんだ。ああ、あとフック? とかアッパーとか、ジャブだっけ? なんかあれだなぁ。姉ちゃんの動きを見てるからどうにも弱々しく見えるというか……。
ていうか、どのタイミングで勝てばいいんだろうな。あんまり遊び過ぎるのもアレだしこの辺で……うひょー! 響ちゃんのカットインキタコレ! あと少し……あと少しだけこうしていよう。あ、でもちょっと荒島がうざいからなぁ。
そう思った俺は適当に、今度は足で荒島のラッシュをいなしたり、途中で弾き飛ばしてみたりすることにした。うん。これならまださっきよりは快適にプレイしやすい。
イクちゃん、ハァハァ。まったく、どの提督だイクちゃんの卑猥なコラをつくったのか。ありがたく保存させていただいております。
それにしてもイクちゃんおっぱいでけぇな。素晴らしい。やはりロリ巨乳もいいですなぁ。まあ、BBAのはただの駄肉だけど。「ふざけんなぁあああああああ!」なんだようるさいな。まだそんなに時間も経ってないだろ。おちつけ荒島。
それにしても、たまに合法ロリは駄目だとか、ロリ巨乳は受け入れられないとか、そんなことをぬかすやつがいるが、何を言っているのか俺には理解しがたない。「くそっくそっくそっ!」それがロリであるならば、紳士はみな等しくロリを愛するべきだ。まあ、俺もつるぺたまな板ぼでぃを愛しているが、ロリ巨乳だって全然愛せる。「なんで当たらねぇんだよ! こんな素人に!」さて、今度は暁ちゃんを育てるか……いちにんまえのれでぃーとして扱ってやらなきゃな! なでなでしたい……ああ、その頭をなでなでしたい!
まったくもってこういう「おとなとしてあつかってよね」系幼女はいいですなぁ。背伸びしておとなっぽく振舞おうとする姿が美しいし愛おしい。可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いよぉおおおおお!
「ぐっ、てめぇ……いったい、さっきから何をふざけて……ッ!」
「ふざけて? ざけんじゃねぇ! 俺はいたって真剣だッッッ!」
真剣にさまざまな幼女のタイプについて考察しているとも! 何を見ているんだこいつは! もはや幼女について考えることは一種の学問なのだよ!
荒島がしつこくラッシュを仕掛けてくる。つーか、そろそろイライラしてきた。こっちは至高にして崇高な学問について考えふけっているというのに。人の勉強を邪魔するとか最低なやつだな。ああ、もう考えれば考えるほど本格的にイライラしてきた。もういい。邪魔だ。蹴飛ばしてしまえ。何か忘れている気がするけど知るか。
「邪魔すんじゃねー! 今、とてつもなく大事なことを考えてるんだよ!」
「ぐはっ!?」
イラッとしたので、相手のラッシュを片手で弾くと同時に踵落としを相手の脳天に風船ごと叩き込んでやった。風船が破裂する音には驚いたが、まあ荒島が何やら変なうめき声を出して倒れたので、これで静かになっただろう。そうそう。周りのギャラリー……も……。
「………………………………………………………………あっ」
試合中だってこと、忘れてた。
第三戦 チーム文研部:完封勝利 チーム風紀委員:敗北
チーム文研部:二勝一敗 チーム風紀委員:一勝二敗
☆
結局のところ。
「みんな。今日は私がスカウトした黒野海斗くんが、風紀委員の仕事を見学する。よろしく頼むぞ」
『…………うぃーっす……』
ふりだしに戻っただけなのだ。
今、俺は四方を機嫌の悪い風紀委員たちに囲まれている。先日のイベントでこいつらの文研部に対する憎悪というか、ヘイトというか、そういうのは日に日に募っていくばかりのようだ。とはいえ、あくまでも恨んでいるのは俺だけで、加奈たちには手を出さないだろう。そうなれば、既に報酬を貰ってる俺としては、特に文句を言うべき点はない。
……まあ。
「…………」
その分、俺はかなり肩身の狭い思いをしているのだが。
ていうか、そうだよな。結局は俺が何をしたか知らないが、荒島は俺が気に食わないだけで、そして華城先輩は自分の意見を押し通すためにあのイベントを起こしたに過ぎないのだから。
いや、でもちょっと待て。本当にそうだろうか。華城先輩は、本当にそんなことのためにあのイベントを起こしたのだろうか。
「では、海斗くん。さっそく私と一緒にパトロールと行こうじゃないか」
ふふっ、と笑う華城先輩は、楽しそうに俺の手を引っ張っていった。背中には、風紀委員たちの視線が突き刺さっていた。
俺は、華城先輩に手を引っ張られながら、どこに連れて行かれているのかも分からないままぼんやりと考えていた。やっぱり、いくら安定で重傷なデュエル脳であったとしても、やはり不自然過ぎないだろうか。しかも、これは正人が言っていたことだが、どうやらあのイベントはそれなりに一年生には好評だったようだ。何しろ、途中退場とはいってもあの大人気アイドルである雨宮小春まで出てきたし、あの場に二年生が誇る文研部の美少女たちを一気に呼び出すことも出来た。そのおかげでそれなりに盛り上がったし、それに何より最後の俺と荒島の一戦で俺が荒島を派手に叩きのめしてしまった。
そのせいかどうかは知らないが、昨日から一年生たちの俺を見る目がどこかキラキラしているし……なんだろう。まるで、尊敬というか、一目おかれているみたいな(風紀委員の一年生は別として)。
恵曰く。
「そりゃーもう、あんだけ派手に一撃どかーん! ってやっちゃったからねぇ。一年生、凄い盛り上がってたよー?」
らしい。
「華城先輩」
気が付けば、俺は思ったことをそのまま言葉に出していた。
華城先輩はどこかの部屋の前で、ピタリと動きを止めた。
「なんだ?」
「あのイベントって、本当は何の目的があって開いたんですか?」
華城先輩は、その美しい後姿を俺に見せたまま。ただ一言、呟くように問いかけてきた。
「時に、海斗くん」
「はい?」
「君は今のところ、二年生、三年生に対してはマイナスからのスタートではあるが……せめて今年、一年生たちからはそんな風に見られないでくれよ? その方が、私も精神的にも物理的にも楽だ」
「……それって、どういう、」
俺の次の言葉は、振り向いた華城先輩が伸ばした人差し指にそっと止められた。ぴったりと、華城先輩の柔らかくて温かい人差し指が俺の唇にくっついている。
「それは秘密ってやつだ。あんまり乙女の秘密を探るような真似はしないでくれ。デリカシーに欠けるぞ?」
唇から、温もりと共に華城先輩の指がそっと離れた。
「そりゃ悪かったですね。生憎、幼女への配慮は持ち合わせていても、BBAへの配慮は欠けてるんですよ」
「そうか。なら、これからはもう少し努力したらどうかな?」
「そうしたいのは山々なんですけど、生憎、自分と幼女の為になること以外の努力は苦手なんですよ。落ちこぼれですから」
華城先輩は「そうか」と言うと、また振り返って歩き始めた。振り返る際に、俺は華城先輩の顔がどこか――――微笑んでいるように思えた。その微笑みは何というか、俺とのこの会話を楽しんでいる、ような。そんな、笑みだった。
執筆前
よーし、たまにはバトル展開っぽいの入れて俺TUEEEしちゃうぞー!
↓
執筆後
なぜか幼女キャラについて語ってたでござる。どうしてこうなった。
世の中には不思議なことがあるんですね!




