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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第1部「1年生編」:第1章 なんちゃってDQNと日本文化研究部
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第6話 名前で呼んで

 部員も俺と天美を含めてようやく四人になった。とはいえ、することといえば部室でプラモデルを作ったりゲームをしたり特撮ヒーロー物のDVDを見たりと、ダラダラ過ごすだけなのだが。

 そもそもこの部は共通の趣味を持つ者たちで一緒にお話をしたいという天美の希望で作ったものだ。それが蓋をあけては各々の方法でだらだらと放課後を過ごすだけというのも味気ないのではないだろうか。

 まあ、放課後にこうしてダラダラと過ごすのも悪くない。

 珍しくそう思った俺はいそいそとお気に入りの萌え四コマ漫画雑誌を開こうとした瞬間。

「歓迎会やろーよ!」

 と、この場でもっとも歓迎されるべき新入部員という立場にある牧原が今日も元気いっぱいにいった。

「いきなりなんだよ牧原」

「だってせっかく皆で同じ部にいるんだからさ! 何かやろーよ!」

「それで歓迎会か」

「そうっ! あっ、でもこの場合は親睦会の方が正しいかな?」

「良い考えですね。なるほど、親睦会ですか」

「……私は賛成」

 そういって、天美は円卓にやすりを置き、楠木はゲームを中断画面にしてコントローラーを置いた。

 俺も前に牧原と同じような事を言った気がするのだが、今回の場合はなんか天美の対応が違うぞ。

 つーかこいつら、人の話を聞くときは一応、手は止めるんだな。

「かいくんはどうなの?」

「別に構わないけどよ、どこでやるんだよ」

 そんな公共の場所でおおっぴらにオタクトークを繰り広げるわけにはいかないだろうに。

 特に俺と天美。

「かいくんの家」

「却下」

 さてと、萌え四コマ漫画を読むとしますか。タノシミダナー。

「えー! なんでよかいくんのケチー!」

「ケチじゃねえよ! お前を部屋に上げたらなにされるかわからんわ! ……第一、他の二人が嫌がるだろう」

「そうなの?」

 という牧原の問いに。

「いえ。私は別に構いませんが。むしろ面白そうなものが沢山ありそうでワクワクしますよ?」

「……わくわく」

 こ、こいつら……!

「そうだ! 明日はちょうど休日だし、今日はみんなでかいくんの家にお泊りだー! いえ――――い!」

「ちょっとまて勝手に決めんな! こっちにも色々と予定がだな......」

 録画した萌えアニメの視聴とか。

 録画した萌えアニメのダビングとか。

 録画した萌えアニメの幼女キャラにハァハァするとか。

 ……とにかくいろいろと予定があるんだ!

「予定? どうせ録画した萌えアニメの視聴とか、録画した萌えアニメのダビングとか、録画した萌えアニメの幼女キャラにハァハァするとかそんなんでしょう?」

「俺のスケジュールが読まれているだと⁉」

 ええい! ロボオタのお嬢様は化物か!

「そうと決まれば準備開始だねっ! いってきま――――す!」

「ああ、おい待て!」

 俺は慌てて部室を出て行った牧原を追いかけるが、意外な事に姉ちゃんに鍛えられた俺でも追いつけないぐらいに速い。一瞬、陸上部にでも所属してたのかと思ったほどだ。

「わっはっはー! クロックアップした私は人間を遥かに超えるスピードで活動できるのだー!」

 どうやらクロックアップも出来ない俺には、あいつの暴走を止めることは出来ないらしい。

 俺は諦めて足を止め、がっくりと項垂れる事しかできなかった。


 ☆


 というわけで、不本意ながらその日は『日本文化研究部』の面々が俺の家に集合することとなってしまったのだ。

 俺はいちど正人に連絡をとり、この状況を打開するための策を求めたのだが「死ねばいいと思うよ♪」という返答をされてそれから連絡に応じてくれない。

 薄情な奴だ。

「では、お邪魔しますね」

「……お邪魔します」

「たっだいま――――!」

「いらっしゃ……ってお前は暴君か!」

 天美と楠木はともかくとして牧原は俺の家にまるで我が物顔で入ってきた。

 もう明日は休日という事もあってか全員が私服である。

「はあ。まあ、何もないけどあがってくれ」

 一人暮らしのDQNの部屋に美少女が三人。

 この一文だけ見ればかなり怪しい状況だ。まあ、このメンバーに限ってそんな妙な事も起こらないとは思うが。

 各自、自分たちの家にもどってからここにきたので時間的にもそろそろ夕食を作らなくてはいけなくなった。

「じゃあそろそろ飯作るけど、何かリクエストあるのか?」

「……海斗は料理できるの?」

「まあな。一人暮らしだし、そういうのは結構なれてる。大抵のものなら作れるぞ」

 姉ちゃんのわがままリクエストに答える為に色々と作らされたからなぁ。

「はいはーい! じゃあ私は、『雑巾の天ぷら』、『雑巾のうどん』、『雑巾のステーキ』がいいでーす!」

「仮に作れたとしても本当に食うのかお前は⁉」

 仮面ライダーカ○トを見ていなければ危なかった。

「それで、リクエストは?」

「なんでも」

「カ○リーメイト」

「雑巾の(略)」

 ないわー。

 ていうかサラリと天美が一番こたえてほしくない返答をねじ込みやがった。

「ちょっとまて。お前らは普段からそんなもんを食べてるのか⁉」

「そんなわけないじゃん。かいくん頭沸いてるんじゃないの?」

「ですよねぇ!」

 沸いてるのはお前の頭だけどな!

「とまあ、冗談はこれまでにして、私たちもそろそろ動きましょう」

「はーい!」

「……了解」

 言うと、女子部員三人が立ち上がり、スタスタとキッチンの方へと向かっていった。

「お、おい。何しようとしてるんだ?」

「決まってるじゃないですか。夕食を作るんですよ」

「一泊させてもらうんだからこれぐらいはしないとね!」

「……宿泊費代わり」

 さっそく女子部員は三人できゃっきゃっと盛り上がりながら料理を開始した。

 うん。この光景だけを見ればごくごく普通の美少女達が一緒に楽しく会話しながら料理しているだけに見える。

 ☆

「最近のライダーって必殺キックが不発に終わること多いですよね」

「……タ○バキックの不発率は異常」

「そうだよねぇ。激情態のデ○メンジョンキックみたいな鬼畜誘導がついていればそんなこともないのにねぇ」

 ☆

 だがそのトークそのものの内容は残念だ。とてつもなく残念だ。わざわざ料理しながらするものでもないだろうに。

 こうなったのも全てやつのせいだ。おのれデ○ケイド!

 料理そのものは不備もなく淡々と進み、俺は何となくすることもないのでただぼーっとしていても時間が勿体ないので部室で読み損ねた萌え四コマ漫画雑誌を読んで時間を潰していた。

「もうっ。美少女三人がエプロン姿でお料理しているのにかいくんは何も感じないの~?」

「何も感じないけど」

「即答だね」

 そもそも何を感じろと言うのだ。今の俺には萌え以外の感情はないからな!

「ひらひらだよ~? エプロン姿だよ~?」

「ソーデスネ」

「うわー。そこまで無関心だと逆に傷つくね」

 知るか。俺は幼女しか興味がないんだよ。

「……もしかしてかいくんってあっち系のひt」

「可愛いなぁ! 恵のエプロン姿は超絶可愛いなぁ! 油断してると惚れてしまいそうだぜ!」

 ふぅ。危ない危ない。油断していると変な人に間違われるところだった。

「へぇ……」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……

 はッ! 殺気ッ⁉

「そういうのが好きなんですか。惚 れ そ う に な る ぐらいに?」

 目の前に料理中なのか包丁を持って目の前に仁王立ちするお嬢様がいました。

「……変態」

「ちょっとまてよくわからんがとにかく誤解だ! と、とにかくその包丁をしまえ!」

「包丁無しでどうやって料理しろと?」

 そういうと、天美はにっこりと笑みを浮かべた。いや、目が笑ってない。瞳から光が消失してしまっている。

 これだけみると凄いヤンデレみたいだ。

 楠木はシラケた目で俺を見てくるし、天美は何故かかなり不機嫌そうな目で見下してくるし、一体なんなんだこの状況は⁉

 それからしばらくして、料理が完成した。食卓に様々な料理が並び、俺達はそれぞれの席に着いた。

 高校から一人暮らしだったので誰かと食事をとるのも久しぶりだ。

 その間はみんなで楽しく俺たちの趣味に関する話題で盛り上がった。

 こういう風に同じ趣味をもった友達と過ごすのも初めてで、だけど楽しくて。

 料理を完食し、後片付けをした後も時間を忘れて盛り上がった。

 その後も皆でゲーム大会だのトランプだので更にヒートアップした頃、風呂に入ったりしてついに就寝時間となった。

 こういったお泊りイベントでは考えられないぐらいのサクサク進行だが俺としては特に問題はない。

 布団は隣の天美の家から持ってくることで枚数の問題を解決した。

「よーしまくら投げ大会だー!」

「却下する」

 電源オフ。

 うん。こういう展開は簡単に予想できた。

「じゃあさっさと寝ろー」

「えーつまんなーい」

「こんなところでまくら投げ大会なんぞされたら俺の萌えロリ幼女アニメグッズの数々が無事ですまないだろ!」

「けちー」

「けちじゃねーよ!」

 というわけで、リビングに布団を敷いた三人をよそに俺は自分の部屋のベッドへと向かおうとしたところで、

「どこに行くのですか海斗くん」

「? どこって俺の部屋だけど?」

「こんなところに女の子三人置いて自分だけは優雅にベッドでの就寝ですか」

「とはいってもな……さすがにここで寝るわけには」

「えーいいじゃん。かいくんも一緒に寝よーよ!」

「はぁ⁉」

 それだけは是非とも勘弁してもらいたい。俺は就寝を共にするのは幼女と心に決めているんだ。

 流石にこの誘いに応じるわけにはいかないので無視してリビングから出ようとすると、暗闇の中で突然がしっと足を掴まれた。

 バランスを崩した俺はそのままリビングの床に盛大に倒れ込んだ。前のめりに倒れたせいか鼻の奥がつんとした。痛い。

 だがこれだけに留まらず、そのまま、ずるずるずるずるずるぅ! と足を引きずり込まれてしまった。

「ちょっ! なになになになになに⁉ なんだ⁉」

「……逃がさない」

「こえーよ!」

 どこぞの地縛霊かと思ったわ!

 ていうか楠木の握力も腕力も凄い。ゲーマーのくせしてなんだこのパワーは。

「おととい観念しやがれ!」

「海斗くんも幸せですね。こんな美少女三人と一緒に寝られるなんて」

 自分で美少女って言っちゃったよこいつ。

 まあ、確かに美少女だけどさ。

 結局、俺はここに布団を敷いて寝ることになってしまった。幸か不幸か布団が敷かれた位置は天美の隣である。

 暗闇に目が慣れてきたのか、天井がうっすらと見える。時計の秒針が時を刻む音がやけにハッキリと聞こえてきた。

「ねえ。みんなおきてる?」

 牧原がこの場にいる全員に問いかける。

「おきてますよ」

「……おきてる」

 よし、ここは寝たふりをしよう。

「…………」

「かいくんはおきてないのー? おーい?」

 無視だ無視。ここはさっさと寝てしまうに限る。

 おきているとわかったらどんな事に巻き込まれるかわからない。

「……よーし、おきてないならかいくんの大切な萌えロリ幼女コレクションを荒しちゃうぞ☆」

「おきてるおきてるおきてますからそれだけは勘弁してください!」

 なんて恐ろしいことを考えるやつなんだ……!

 もしそんなことが実行された日には発狂してしまうかもしれん。

「じゃあトークしようよトーク」

「それはさっき散々やっただろ」

「あら。私のロボットへの愛を語るにはまだあれしきの量じゃ足りないですけど」

「お願いします。もう真夜中なんでやめてください天美さん、いや天美様」

 こんな真夜中にガ○ェインがどうだのニ○ヴァーシュがどうだのアー○レストがどうだの言われるのは勘弁してもらいたい。

「んー。前から気になってたんだけどさー。かいくんってみんなのこと名前で呼んでないよね」

「普通、女子の下の名前をそう簡単に呼ばないだろ」

 しかし何故かこいつらは俺の名前を普通に呼んでるが。

「私たちだけ名前じゃ不公平だよー」

「意味が解らん。じゃあお前らも名字で呼べばいいだろ」

「えー。つまんなーい」

 俺もお前のことがよくわかんなーい。

「と、いうわけでかいくん。恵って呼んでね。はい、りぴーとあふたみー」

「…………」

「仕方がない。私も気持ちは解るからかいくんのコレクションには手を出したくなかったんだけど……」

「やめてください恵さん!」

 これだから三次元BBAを家にあげるのは嫌だったんだ!

「それで海斗くん。私たちのことは?」

「……発言を求める」

 楽しんでる。ぜったいこの状況を楽しんでるぞこいつら。

 今、こいつらの顔を覗き込んだら絶対にニヤニヤしてることだろう。

「か、加奈?」

「それでいいんです」

 電気を全て消しているから本当にわからなかったが――いつのまにか俺の方に視線を向けていた隣の天美……いや、加奈の顔に笑顔が微かに見えた。

「……一人忘れてる」

「えーっと、な、南帆?」

「ん。合格」

 いったい何に合格したというのだろうか。

 それから奇妙な沈黙が漂い……まるで時間が止まったかのような静寂が訪れた。静寂と言っても相変わらず秒針のチクタクチクタクという音は聞こえるし、寝息の音も僅かながらに聞こえる。

 どうやらみんな疲れていたらしくすぐに眠ってしまったが、さっきの会話を聞くにまるで無理して起きていたかのようにも思える。さっきの要件が終わって満足したかのように眠っている。

「……海斗くん、おきてます?」

 いや、違った。

「ああ、おきてるぞ」

 まだ一人、起きていた。

「少し、お話しませんか?」

 暗闇の中。俺の隣の布団にいる加奈はそう言った。



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