第52話 文化祭②
雨宮小春が部室を去ったあとに、加奈たちがやってきた。行き違いになったらしく、俺たちが正人たちが連れてきたアイドルのことを話すと羨ましいといわれてしばらくの間、ギャーギャーと騒いでいた。うるさいだまれ。
そして、休み時間が終わり、再び修羅場がやってきた。だが、今度はクラスの出し物の方に加奈と渚姉妹が駆り出されなくてもよくなっているので、まだほんの僅かに楽だった。途中、写真を撮ろうとしているやつらがいたので『撮影お断り』という張り紙をしなければならなかった。写真撮影をしようとした輩を止めようとしたが、その時にたまたま正人と葉山が店にいてくれたので、そいつらを注意してくれて何とか助かった。
なまじ人気のあるBBA共がコスプレまがいのことをして、大盤振る舞いするもんだから(しかも午前の時よりも人数が増えてる)、客の数は更に増した。午前はメイド服(しかも肩丸出しタイプの)、午後はチャイナドレスときたもんだ。店の雰囲気とかもはや関係ないよな。
頑張りまくったBBA共のおかげで無駄にコスプレ衣装が増えてしまっている。その結果が修羅場だよ!
そんなこんなで一日目は終了した。俺は一日目の片付けが終わると、用意していた寝袋にくるまって泥のように眠った。BBA共はわざわざ学園のシャワールームでシャワーを浴びてから寝たようだ。
二日目も開店直後から大盛況だった。俺はまたもや厨房を一人でまわすような苦行を強いられるようになった。死ねる。
「いらっしゃいませ」
「ご注文は?」
「少々お待ちください」
「かいくん! 注文はいったよ!」
「お待たせしました」
「……ありがとうございました」
再び、メイド服に身を包んだBBA共がせわしなく働いている。手の空いたやつから厨房に入って俺を手伝っているが、交代でまた接客に戻っていく。
信じられるか? この注文とやら、ほぼ俺一人でまわしてるんだぜ? もう自分が何をしているのか分からなくなってきたよ。落とし神モードの如く、複数のギャルゲーを一気に消化しているみたいだ。
時間の流る感覚すら麻痺してきたところで、外が更に騒がしくなってきた。そう思っていると、厨房の方に正人が入ってきた。手には大きな段ボール箱を抱えている。
「悪いな。忙しい時に」
「まったくだ。で、どうした」
「いや、加奈さんたちに頼まれたものを運んできたんだが……ちょうどいいかもしれないな」
「何がだよ」
「あのさ、今店の外にテレビの取材が来てるんだよ」
それは大体、予想がついたことだ。むしろ遅いぐらいだったと思う。
この文化祭では毎年、テレビの取材に来るということは知っている。特に文化祭で割と盛況だったりするところや、ステージなどはよく取り上げられていた。
こうやってこの店は大繁盛してしまったし、その上、あのBBA五人はさぞかしテレビウケがいいことだろう。むしろ初日に来ても当然だったと思う。
「それで? それとお前がここにくることの何の関係があるんだ?」
「それがさ、この店の料理を作っているやつにも是非ともインタビューしたいんだと」
「はぁ!?」
テレビの取材がくることも読んでいた。予測済みだった。だがそれはBBA共が相手をしてくれるものだと思っていた。まさか俺にまで飛び火してくるとは……。
嫌だ。中学の頃のやつらに見られるのだけは絶対に嫌だ。また粛清しなければならなくなる。しかも、中学時代の奴が俺が元いじめられっ子なのだと、どこからこの高校の奴にバレるか分からない。
「断る!」
「んなことしたら学園のメンツが丸つぶれだから無理だ。今まで毎年毎年、取材はちゃんと受けて、学園の宣伝をしてきたのに、今年だけ大人気店のインタビューだけバックレましたー、なんてんなことはできん」
「そんな事情は知らん。生徒会がなんとかしろ。じゃあな!」
「大丈夫だって。そのためにこれがあるんだ。まあ、加奈さんたちは最初は別の目的で使う予定だったんだが……」
そういって、段ボール箱を床に置いてごそごそと中身から何かを取り出そうとする正人。中から出てきたのは着ぐるみだった。可愛らしくデフォルメされたクマの着ぐるみだ。どこかで見たことがある気がする。
「こいつは、この学園のマスコットキャラクター、<るかわくん>だ。因みに特技はクイズで、答えをこたえる時には決め台詞の『分かるかわ!』を言う」
あ、そういえばそんなマスコットキャラクターがいたような気がする。
「このアホ面でも、なかなか小さな子供に人気があるんだ」
「容赦ないなお前……まて。お前今、『小さな子供に人気がある』と言ったか?」
「ああ。特に、小学生ぐらいの女の子に大人気だ。たまに学園の地域交流イベントでこいつの出番がある時があってな。そりゃあもう幼稚園児から小学生にまで、幼女にはモテモテだ」
「なん……だと……!? そ、そんな完全聖遺物が何故ここに!?」
「このアホ面したクマの着ぐるみはどこぞのデュランダルと同等の物なのかよ。お前の価値観には相変わらず驚かされるな」
「ま、まさか……それを俺に譲ってくれるというのか?」
「ああ」
ニヤリとニヒルな笑みを浮かべて、正人が呟いた。
「だが一つ条件がある」
「!?」
「こいつを来て、インタビューに答えるんだ。学園のマスコットキャラクター<るかわくん>としてなぁ……!」
「な、なんだって――――――――!?」
くっ! ど、どうする! 確かにこれを譲り受ければ俺は幼女にモテモテ! だが、だが……! その代償としてインタビューなんてもんを受けなくならなきゃならん! 下手をすればバレる可能性がある。
「ああ、因みにな。リポーターの人は、この番組で晴れてデビューすることになった新人幼女リポーターだ。身長が小学校低学年ぐらいしかない合法ロリでな。その愛くるしさと可愛らしさで俺としてはデビューと同時に大人気リポーターになることは間違いないと思う」
「さあ、はやくその完全聖遺物をよこしてもらうか。インタビューなら何日だろうと何時間だろうと受けよう。むしろそうしてくれ。出来れば幼女リポーターと二人っきりでオナシャス! やるぜ。俺は……幼女のためなら火の中、水の中だってなぁ!」
「やべぇなこいつ。こいつには、やると言ったらやる………『スゴ味』があるッ!」
というわけで。
「と、というわけで、こちら流川学園文化祭の<日本文化研究部>の喫茶店前ですっ! こちらのお店は初日から大人気で、二日目の今日もちょーだの列ができてますっ!」
厨房にいる俺にも、幼女リポーターの声がクリアで聞こえてくる。集中すれば、壁に阻まれた幼女の声のみを拾うことなど俺には容易だ。この新人らしい、ちょっとたどたどしく、尚且つ初々しさを感じるこの声。あぁ、素晴らしい。
これだよ。俺がお茶の間に求めていたのはこれだ。こういう存在だ。これからはこの人が出てくる番組は全部録画してBDに保存しよう。まったく、合法ロリは最高だな。どうやら、幼女リポーターの周囲の人(スタッフも含めて)は、全員微笑ましい表情を浮かべているっぽいな。うん。
因みに、店は取材のために一部席を空けてある。当然だ。野郎やBBAなんぞのために幼女が待たされるのは我慢できん。俺はいつでも飛び出せるように、着ぐるみを装着したまま調理をしている。
「そ、それではっ! このおみせのおりょうりをたべてみたいとおもいますっ! すみません。このお店のおすすめはなんですか?」
「当店のオススメはオムライスとなっております」
「では、それをください!」
「はい。かしこましました。少々お待ちください」
加奈がそつなく注文をこなす。加奈が来る前に俺は既に幼女リポーターの注文を拾っていたのですぐさま調理を開始した。
「海斗くん。オムライスを『出来たぞ!』はやっ!」
ここで、料理を作った人も一緒に幼女リポーターのもとに向かうことになっているので、俺は加奈と共にテーブル席へと向かう。そういえば、客が来ているときに店に出るのは初めてだ。しかも、今は着ぐるみをきているから余計に目立つ。視線が集まっているのがわかる。バレてないバレてない……。
幼女リポーターの名前は確か、雨宮小夏だったはずだ。こなつちゃんは、はじめてのおしゅざいで緊張しているのか、ちょっと緊張したような、硬い表情をしていた。ワンサイドアップの髪に華奢で小さな体。桜色の柔らかそうな唇に未成熟なつるぺたまな板ボディ。これで二十五か……やべえな。オラワクワクしてきたぞ。
こなつちゃんマジ天使。手元にカメラがないのが悔やまれる。俺はもうこの子のファンになる。
「ふわぁ~。くまさんだぁ~」
俺を視界にとらえたこなつちゃんがキラキラとした目で俺を見ていた。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 生きててよかったあああああああああああああああああああああああああああああああ!
「ハァハァ……ハァハァ……」
「? くまさん、体調がわるいのですか?」
「ハァハァ……こなt、おうふっ」
おっといかん。興奮のあまり、つい声が漏れてしまった。加奈が俺の足をこっそり踏みつけなかったら欲望に正直になってついカメラマンのカメラを強奪してこなつちゃんの魅力をあますところなく撮影してしまうところだった。
「当店のメニューの殆どはこのるかわくんが作ってるんですよ?」
「そうなんですか? くまさん、凄いですっ!」
ひゃっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい! 幼女に褒められたっしゃあああああああああああああああああ! これからはもっと料理の腕を磨こう! 絶対になァ!
「では、実際に私もたべてみようとおもいますっ。あむ。もぐもぐ……」
こなつちゃん……否、こなつたんが手にスプーンを持って、小さな口にオムライスを運んだ。かわいい。……ふむ。こなつたんが使ったあの食器は洗わずにとっておこう。我が家の家宝にするんだ。
「発想がゲスくてもう犯罪者のそれですよ海斗くん」
隣の加奈にジトッとした目で見られた。
つーかなんでBBAという生き物は人の心が読めるのか。
「わぁっ。と――――ってもおいしいですっ!」
っしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
はい幼女の「おいしい」いただきました! これでもう死んでもいい。この世に未練なんかない。
え? リポーターらしい感想? 味を詳しく? おいおい。幼女にそんなこと求めるなよ。小学生らしい、単純な感想がいいんじゃないか。いや、幼女ががんばっておとなぶって、懸命に味を伝えようとするもたどたどしい、というのもアリだな。
「え、えっと、そのっ、このおむらいすはおいしくて、えーっと、たまごがふわふわで……おいしくて……あうぅ……」
キタああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 俺はこの時を! この瞬間を待っていたんだあああああああああ!
「? くまさんは、どうしてガッツポーズを?」
「気にしないでください。特技のガッツポーズです」
「クイズだったんじゃ……」
「たった今、新しい特技も習得しました。ええ。この犯罪者……じゃなかった。このくまさんのことは気にしないでくださいね?」
「は、はあ……」
加奈が何かを言っていたが、よくきこえない。きこえなーい。俺の耳には幼女の声しか聞こえていない。それからしばらくして、取材は終盤に入った。
「このお店の人気の秘密は、可愛いウェイトレスさんと、美味しい料理にあったんですねっ。以上、現場の雨宮でしたっ」
やりきった、とでも言いたそうな自信満々 (かわいい)のドヤ顔 (かわいい)をしたこはるたん(かわいい)が最後に締めくくり(かわいい)取材は(かわいい)終了した(かわいい)。
見てみると、店内がほんわかしたような雰囲気に包まれている。うんうん。わかる。わかるぞ。つい見守りたくなるよな。俺もこの店内の雰囲気に見習って、まずはこはるたんの住所を特定するところからはじめよう。
人生最大の数分間だった。
もう死んでもいい。
我が生涯に一片の悔いなし。
「あ、あの……」
俺が昇天しようとしていたところで、幼女の声で現実世界に舞い戻ってきた。そこには、もじもじとしたこはるたんが目の前にいた。幸せすぎて死にそう。だがどうする。俺はさっき、つい声が漏れてしまった時に加奈から「とりあえず、喋らないでください。喋らせると何を言ってしまうかわかりませんから」と言われている。だが、目の前の幼女を無視するなんて……! そうだ!
コンマ一秒の間にぴきーんとひらめいた俺はどこからかプラカードを取り出した。俺もしかすると呼び寄せ呪文使えるのかもしれない。アクシオできそう。
そして俺はら〇ま1/2のパンダ状態の玄〇の如く取り出したプラカードに文字を書いて会話することにした。
『ん?』
「き、きねんに、抱っこしてくれませんか?」
『っしゃァ!』
「!?」
いかん。つい本音がプラカードにも出てしまった。
『いいよ』
「いいんですか? わーい!」
ばんざーいをしてぴょんぴょんと飛び跳ねるこなつたん。可愛い。可愛いなぁ。
フッ。いけねぇや。あまりの出来事に冷静でいられるが、体がガタガタと震えているぜええええええええええええええ。
「じゃあ、だっこおねがいしますっ!」
「あ、生徒会のもんですが、記念に写真もどうですかー?」
すっと正人も出てきた。こやつ。やりおる。
「記念に写真も欲しいだろ?」
こっそりと正人が話しかけてきた。親友の気遣いに涙が出そうだ。こいつにはこれからはもっと優しくしよう。
俺は震える手でこなつたんの小さく、そして未成熟な魅力的つるぺたボディを抱っこした瞬間。
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あまりの幸せのためか、意識が飛んだ。
次に俺が目を開けた時には、既に文化祭の二日目が終わっていた。
主人公と幼女キャラを絡ませると想像以上に主人公が暴走してしまいました。




