第48話 クレープ
ペアスタンプラリーの練習、兼、文化祭の時に使う諸々を買いに、ということで俺たちは遠出してショッピングモールへとやってきたのだが……なんということだ。何故、俺はBBAと一緒に歩いているんだ?
某ツンツン頭の不幸体質主人公のように不幸だ……と呟きたくなる。どうして俺の両サイドは渚姉妹なのだろう? どうして合法ロリではないのだろう? そんな疑問が浮かんでは消える。俺は思わず、俺の両サイドに陣取って、トコトコ歩いている渚姉妹の顔を交互に見る。
「う……な、なんですか」
「え、えと……なに、かな」
だめだ。確かにこの二人は可愛い。だが、幼女じゃない。それが更に俺の思考をどん底に突き落とす。
そもそも、今日はさっさと買うもん買って帰るだけかと思っていた。それなのに、こうやって順番にBBAと店を回らなければならないのか。
「いや……はやく家に帰って艦これやりたいって考えてただけ」
「こんな時にそんなことを考えるのはどうかと思いますが。それも人の顔を見て」
「だって仕方がないだろ? 今日はさっさと買い物を終わらせて買えることが出来ると思ってたらBBAと一緒にショッピングモール巡りだぜ? 提督として情けないぜまったく」
「ああ、もう。相変わらずあなたのロリコンという名の紳士っぷりはどうにかならないのでしょうかね」
「残念だったな。不治の病だ」
「ロリコンという名の紳士っていうのは認めちゃうんだね。海斗くん……」
当然だ。それを否定してしまうということは、俺の存在そのものを否定してしまうということに繋がるのだから。
いや、でもこの際、BBAと一緒にショッピングモールをまわらなければならないというのは我慢しよう。部活動で必要な物を買うためだと思えばいい。だが、それはそれとして、だ。
「なあ、一つ聞いていいか?」
「なんでしょう」
「な、なにかな」
「今、こうして俺たちは歩いているわけだろう?」
「ええ。その通りです」
「で、今日は文化祭に使う道具やら材料やらを買いに来たわけだ」
「うん」
「それなのに今、向かっているのはアニメグッズ専門店であることには目を瞑ろう」
「助かりますね」
「だが、それを差し置いてでも問いただしたい疑問があるんだ」
「え、えっと……疑問?」
どうやら、あくまでもシラを切り通すつもりらしい。このBBA共は。よし、そろそろ問いただしてみよう。
「ところでだ。どうしてお前ら二人とも、こう、俺の両腕を組んでいるような状態なんですかね?」
傍から見れば両手に花というやつなのだろうが、俺にとっては腕に当たる駄肉の感触がきつい。誰か、変わってくれ。
「ち、違います!」
「何が違うの? ねぇ」
「こ、ここここ、これは、これも! 予行演習ですっ!」
顔を真っ赤にして意味不明なことを言われてもわからん。俺には意味不明な言語を解析する能力など持ち合わせてはいないのだ。
俺に指摘されたせいなのか、顔を真っ赤にして慌てている美羽。それとは反対に恥ずかしそうに俯いている美紗は、途切れ途切れながらも説明をしてくれた。
「え、えっと、ペアスタンプラリーに参加するペアは、その、こうやって腕を組んでまわらなくちゃいけないんだって……」
「そ、それが伝統らしいのです。ほ、ほほほほ本当ですよ?」
ああ、だからクラスの女子どもは必至こいて国沼が参加するようにしたかったのか。伝統(笑)という大義名分のもと、堂々と腕を組めるというわけだ。
女というのもなかなか大変だなぁ。ちなみに国沼は、結局のところペアスタンプラリーにエントリーすることはなかった。どうやら生徒会の仕事で忙しいという切り札を使ったらしい。
女も大変だけどリア充も大変だな。
あー、なんちゃってDQNでよかったなー(棒)
とりあえず、現状の確認として渚姉妹は可愛い。これは間違いないだろう。クラスはおろか、割と美少女ぞろいの我が学園の中でも上位に喰いこむだろうし、紳士である俺の目から見ても可愛い。
だからこそ、今のような両サイドから腕を組まれている状態になると、両手に花ってレベルじゃねーぞうらやましいんだよ死ね、みたいな視線が俺に突き刺さってくるのだろう。
当の本人たちはよほど恥ずかしいのか顔を真っ赤にしてさっきからもくもくと歩いているが。
とりあえず、俺たちが最初にむかったのは、文化祭も何も関係のないアニメグッズ専門店だ。まあ、せっかくこんなところまで遠出してきたのだからたまにはこういうところにある、地元よりも種類豊富そうな店に行ってみたい気持ちも分かる。俺もちょっと興味あるし。
だが、店に入ってから問題が発生した。
今、俺たちはは腕を組んでいる。故に、三人一緒に行動しなければならないのだ。俺が紳士向けグッズコーナーへと足を運ぼうとすると美羽が百合系アニメのグッズのコーナーへと引っ張ろうとし、かと思えば普段は引っ込み思案な美紗がなぜかここでは積極的にホモホモしいアニメのグッズのコーナーへと引っ張ろうとする。
とりあえず、このままギャーギャー言い合っても仕方がないのでとりあえず、来たばかりのグッズ店を出ることにした。もう少し見ていたかったが、あのまま言い合っても仕方がないし、何より周りの妬みの視線が痛かった。
ちくしょう。俺だって好きでBBAに囲まれているわけじゃねぇよ。
ぶらぶらと歩きながらあたりを散策する。もう、腕に当たってる駄肉の感触には慣れた。
あれ? ここに何しに来たんだっけ? ああ、そうだ。文化祭に使う材料を買いに来たんだった忘れてた。ていうか、一時間ずつって言ったってなぁ。
そんなにすることもないような気がする。
「じゃあ、さっさと買うもん買って戻るか」
『だ、だめっ!』
「は?」
俺がごくごく自然にして当然のことを提案したところ、姉妹の息の合ったコンビネーションで却下された。お前らさっきの店でそのコンビネーションを発揮しろよとは思う。というか、まず最初に向かったところがアニメグッズ専門店だった時点で俺の発言もちょっとおかしいのだけれども。
「か、買うものを買うのはいいのですけど……」
「まだ一時間も経っていないのに戻るのは……」
まあ、確かにまだ十分ぐらいしか経っていないけどさ。でも買うものを買ったら特に用はない気がする。
「戻るかはまた別にして。で、そもそも何を買えばいいんだ?」
「ゆるゆr……じゃなくてええっと」
「なあ、お前今、絶対にゆ○ゆりって言おうとしたよな?」
「違うよお姉ちゃん。Fr○e! のBDを……」
「今回はちょっと美紗の行動がフリー過ぎやしませんかねぇ!」
俺は何かとそれぞれの欲望を抑えることなく突き進もうとする姉妹に悪戦苦闘しながら、当初の目的を進めていくことにした。この調子だと、一日かけてもいっこうに買い物が進みそうにない。もしこの姉妹がオー○になると速攻で暴走しそうだ。
「それで……何を買えばいいんだっけか」
「ええっと、確か私たちは部室の装飾に使うやつを探してきてと恵から言われましたが」
「部室の装飾ね……そういえばそこらへんはまだ細かく決めてなかったな」
文化祭も、もうすぐだというのに割とのんきな話だ。まあ、少人数の、それもまともな活動をしていない部活動なんてこんなもんかな。
「部室の装飾って何がいいんだろうな」
「うーんと……私、中学の頃は部活動に入ってなかったからよくわからないけど、その部の個性を出せばいいんじゃないかな」
「個性ね……うちの部の個性かー」
「……むしろありすぎて困る気がするんですけど」
「だね……」
「なら、満場一致でロリに決まりだな。さっそく街中の幼女を撮影……」
「どうしても犯罪者になりたいのですかあなたは」
「馬鹿を言うな。俺は手を出したりはしない。ただ愛でるだけだ」
「愛で方に問題があるんじゃないかな……」
「なんだと!? 俺はただ、幼女の後をつけて、なおかつ行動ルートを予測したうえで先回りし、ベストポジションでの撮影を行ったのちに、すぐさま動画による記録を行うだけだぜ?」
「おまわりさん。こいつです」
「ちっ。仕方がない。これでもダメだというのなら、ちょっと女子小学生のバスケコーチになってくるしかない」
「あなたなら間違いなく逮捕ENDでしょうね!」
「そうなんだよなぁ。あのゲーム、俺がやると何度やっても逮捕ENDなんだよ……どうしてだろうな」
「海斗くん、欲望に忠実だから……」
「欲望に従って何が悪い!」
「世間的に悪いです」
「世間の目がなんだ! 俺はそんなものに負けはしない!」
「負けた方が海斗くんのためだよ?」
「おまわりさんのお世話にならないで済むという意味でもね」
「くっ。どうして問題なんだ……俺のこの、溢れんばかりの幼女への愛が!」
「むしろ溢れているどころかダダ漏れだから問題なんじゃないですかね!」
欲望に忠実に生きることは悪いことには思えないんだけどな。だが世間ってやつはどうにも厳しい。
結局、装飾はテーブルクロスなど、割と無難なものを購入した。危うく、部室が百合とホモとロリで満たされるというカオスな展開は回避することができたというわけだ。
「まだ少し時間が残ってるね」
「どうします?」
「俺は別にどうしようとも構わないんだけどな」
三人で適当に歩きながら、残りの時間の使い方に悩んでいると、不意に近くの移動販売車で客引きをやっていた店員さんから声をかけられた。
「そこのお兄さんお姉さんの三人組、美味しいクレープはいかがですか?」
呼ばれてそのまま無視するのも悪いので、俺たちはクレープの移動販売車へと近づいて行った。
俺はチョコバナナ、姉妹は揃っていちごクリームを頼んだので、俺は懐から財布を取り出して、三人分の金額を支払う。
「あっ、自分の分は自分で払いますけど」
「いくらBBAとはいえ、俺がいるのにこんなところで女子に金を支払わせるつもりはねーよ」
っていうか、姉ちゃんにそう教え込まれた。女の子にお財布を出させちゃだめだよーって。まあ、BBAを女の子にカウントするのは俺としてはやや不本意ではあるが、BBAでも一応、女の子であることに変わりはない。
幼女? そりゃもちのロンで女の子ですよ。提督として立派なれでぃーとして扱わなきゃな! いやいや駄目男製造機ちゃんも捨てがたい。
「ありがとうございます……」
「あ、ありがとう。海斗くん」
姉妹揃ってちょっと驚いたような顔をされた。失敬な。
まあ、流石に何か食べながら腕を組むわけにはいかないので、近くにあった広場のようなところにあったベンチに座って、三人でクレープを食べることにした。
クレープは好きな食べ物ではあるが、家の近くにクレープを売っている店がない。久しぶりに食べるクレープをしっかりと味わう。
しばらくは、三人そろってもそもそとクレープを食べていた。美羽も美紗も、揃って俯いてクレープを食べていた。
さっきまであんなに喋っていたのに、急に俯かれるとそれはそれでなかなかに気まずい。
周りに幼女もいないし、いるのは元気なクソガキだけだ。小学生男子ってどうしてあんなに殴りたくなるんだろうね。あれか。合法的に幼女の傍にいられるからか。死ねばいいのに。
俺がもきゅもきゅとクレープを食べている間、姉妹揃って俯いて、更に言うならクレープを食べる手も止まっていた。代わりにブツブツ独り言のようなことを言っている。ギリギリ、俺の耳にはきこえないが。
「がんばらなきゃがんばらなきゃがんばらなきゃ…………ううっ、やっぱり……でも……がんばろうって決めたし……」
「これはチャンス……ああ、でもそんなことっ……ひ、人も周りにたくさんいますし……でもこんな状況は滅多に……」
姉妹揃って何を言っているんだろう。つーか毎回毎回、ちゃんと人に聞こえる音量で言ってくれなきゃどうしようもないじゃないか。
ていうか、はやく食べ終わってくれないかなー。だって、
「見ろよあの二人の女の子。めちゃくちゃ可愛いんだけど」
「姉妹かな? どっちも捨てがたいよなぁ」
「モデルじゃね? ほんと、すげー可愛いよな」
「つーか誰だよ真ん中のは」
「どけよ」
「邪魔なんだよ……姉妹揃ったところを見たいんだよ」
……だって、俺に刺さる視線が痛いんですもの。
こんなことならノートパソコン持ってくるんだった。艦これやりたい。提督としてのお仕事をこなしたい。
俺が周囲の痛々しい視線をやりすごそうとする中、どうやら周りの状況がよく見えていないであろう姉妹がほぼ同時にぱっと顔を上げた。顔がよく見えるようになった周囲の男たちが渚姉妹の美貌に眩しそうな表情を見せる。
「あ、あの、海斗くん」
「なんだよ」
先に口を開けたのは、美紗の方だった。意外だ。今までのパターンからすると、美羽の方が先に何か言い出しそうなものなのだが。
「えっと、わ、私のクレープも一口、食べる?」
頬を桜色に染めた美紗が、上目使いで申し込んできたのは、そんなことだった。手には小さな両手で可愛らしく持ったクレープがある。美紗が何口か食べた後だった。
「え、いいのか?」
俺としては、クレープは好きだし、自分の分は食べてしまったのにまたクレープを食べられるなんて嬉しいといえば嬉しいのだが、このままでは関節キスになってしまう。俺は別にそんなこと気にはしないのだが(ちなみに、幼女との関節キスをしようものなら俺の魂は浄化されるであろう)、逆に美紗の方はいいのかなとは思う。
「う、うん。いいよ」
「じゃあ、遠慮なく」
美紗が食べかけのクレープを差し出してくるので、遠慮なく一口いただく。いわゆる「あーん」というやつだ。出来れば幼女にしてもらいたかった。うむ。チョコバナナもいいけどいちごクリームもいいものだ。いちごパフェがとまらないな。パフェじゃなくてクレープだけど。
「ん。ありがとう。やっぱクレープは美味しいなぁ」
「う、うんっ。そうだね」
美紗は見た感じからしてドキドキと心臓の鼓動を感じながら、相変わらず頬を桜色に染めながら、今度はじーっとクレープを見ていた。そして小さく「えいっ」と言いながら、これまた小さくクレープを一口かじる。かぁーっと更に頬を染めながら、その後はもくもくと残りのクレープを食べ始めた。
「え、えっと、か、海斗くん」
美紗の謎の行動が終わったと思ったら、今度は美羽の方が呼びかけてきたので、振り向く。美羽は恥ずかしそうに俺から視線をそらし、もじもじとしながら美紗と同じように、自分のクレープを差し出していた。
「わ、私の分も一口、食べてみますか?」
「いいのか?」
「は、はい。構いません」
やったぜ! 本日三度目のクレープだ!
今日はついてるな。うん。
「ど、どうぞ」
「じゃ、遠慮なく」
美羽が上目使いでチラチラこちらを見ながら、ゆっくりとクレープを差し出してくる。またまた「あーん」のような状態になり、そして美羽から差し出されるクレープを遠慮なく、美紗のクレープの時と同じようにいただく。
俺がもきゅもきゅといただいた一口をゆっくりと咀嚼している間に美羽の顔はみるみる赤くなっていき、また、クレープをじーっと見つめると、美紗と同じように「えいっ」と小さく呟くと、ぱくっと残りのクレープを食べた。
ああ、幸せだ。まさかクレープをこんなにも食べられるとは。子供の頃は、一つしか食べさせてもらえなかったもんなぁ。
「くそっ。見せつけてくれやがって」
「爆発しろよ」
「ちくしょう……! ちくしょう……!」
「どうして俺の周りには女っ気がないんだ!」
「爆ぜろ……! とにかく派手に爆ぜろ!」
……まあ、周囲からの妬みの視線がなかったらもっと幸せだったんだけどな。
そして、この辺りで一時間が経とうとした為に、俺たち三人は集合場所に戻った。姉妹は揃いもそろって顔を真っ赤にして、俺の腕に顔を埋めるように腕を組んでいた。もはや抱きついている状態に近かった。
恥ずかしいならしなければよかったのに。




